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2025/03/10 07:44 |
シベルファミト 15/ベアトリーチェ(熊猫)
第十五話 『非忠義な従者』

キャスト:ルフト・しふみ・ベアトリーチェ
NPC:ウィンドブルフ・ウォーネル=スマン・従者(イン・ソムニア)
場所:ムーラン
――――――――――――――――

「金貨五枚以下のものは買うな。できるだけ地味なのを選べよ。
あんまり派手すぎると重みがないからな。いいか、一時間以内だ。
それ以上は待てんぞ」

ウォーネル=スマンの屋敷の一角にある、使用人の寮。
その中でも広い部類に入るその部屋に、三人の男がいた。

ぞんざいな口ぶりでせりふを言ったのは、褪せた茶色の髪の男。
黒い執事服に身を包んで、鶏を彷彿とさせる左手で細い顎を撫でながら、
メモ帳になにやら書き付けている。

あとの二人は、ムーランでは一般的な服装に身を包んでいた。
深い襟ぐりのシャツに、砂避けのフードつきマント。
猛暑に見舞われるムーランでは、濃い色の服を着る者はほとんどいない。
その例に漏れず、どちらもごく淡い色調の服だった。
そしてなぜか、大きい鞄を背負っている。ぱっと見では行商人に
見えなくもない。そのうち一人が感慨のない口調で執事姿の男に
問いかけた。

「商品はこちらに?」
「そうだな――いや、いつもの所にしよう。一時間後に、そこで」

メモに書きつける手を止めて、顔をあげる執事男。
吊りあがった目がどうしてもその表情を険のあるものに見せる。

「そこで俺が適当に見繕って、『商品』として向こうに持って行く。
 俺は今から工房の支配人だからな。設定書いておいたからこれ読んで
 暗記しとけ。箇条書きだぞわかりやすいだろ」

びっ、と今書きあがったばかりのメモを破りとって、相手に渡す。
渡されたほうは困惑した表情で、もう一人も怪訝そうに相棒の手元の
メモを見ている。

「でもなんで、アクセサリーなんです?」
「馬鹿、お前」

甚だ疑問だ、とでもいいたげなその相手に、執事男は大仰に驚いて
みせた。

「金のある女は服かアクセサリーにつぎ込むって相場は決まってんだ。
 学校で習わなかったのか?」
「…はぁ」

置いていかれたような生返事を返してくる出来の悪い後輩に内心
苛立ちを覚えながら、ジャケットとベストを脱いで用意していた
スーツに着替える。真新しいものではないが、ひと目で悪くないものと
思わせる上物である。

「で、俺――『支配人』が完璧なプレゼンをしている間、お前らが
 部屋に侵入して女をかっさらう。わかってるとは思うが怪我させたら
 ただじゃすまんぞ」
「でも、大男もいるとか」
「まかせろ。手は打った」

始終不安そうな相手に、自信たっぷり告げてやる。

「ホテルの奴を買収して、隣町のサロンを紹介させてやったよ。
 どうせ行って帰ってくる頃には夕方だ」
「妹とやらはどうします?」
「奴隷商人にでも売っぱらうさ。上玉だったら俺がもらうがね」

喉を震わせて軽く笑う。と、部屋の外に慌しい足音が響き、
ノックの音が数回響いた。

「開いてるよ」

がちゃ、とドアを開けたのは使用人の一人だった。軽く髪を乱して、
息を切らせている。

「だ、旦那様が『女はまだか』と」
「やれやれ」

疲れた表情で執事男は立ち上がると、三人に増えた後輩になげやりな
口調で毒づいた。

「俺が思うに、今年の聖夜祭にはあいつの丸焼きが出るね。そんでもって
食った奴らも全員死ぬんだ。なんらかの救いがたい病で」

そしてそれが俺のインデペンデンス・デイ(独立記念日)だよ、と
従者イン・ソムニアは締めくくった。

・・・★・・・

「ねぇねぇねぇねぇ、この髪飾り超キレー!ここんとこ孔雀石だって」
「ほぅ…なんだかんだいっても女子なのじゃなお主」
「こんなフェアレディ掴まえて何言ってんのよ、当たり前でしょ」

ぶー、と頬を膨らませて、ベアトリーチェは読んでいたカタログから
目を離し、のんべんだらりと寝そべって香油マッサージを受けている
しふみに抗議した。

ベアトリーチェ自身といえばマッサージを既に終え、美容師に髪の手入れを
されている。アクセサリーを見たいが一人では退屈だと駄々をこねた結果、
エステが終わってから二人でウィンドウショッピングするというプランを
しふみが提案したのだった。

「にしてもルフト遅いわねー。どこで道草くってんのかしら」
「荷物もちが居ないと面倒じゃのう」
「だよねー」

お互い勝手な事を喋りながら、それぞれ自由に過ごす。
そしてようやくしふみのマッサージが終わり、ベアトリーチェもようやく
行きたい店を絞ったところで、呼び鈴が鳴った。

二人が扉に注目すると、失礼します、と控えめな声と共に一人の男が
姿を現した。
それと入れ違いに、香油師や美容師やらが退出してゆく。残された男は、
折り目正しく一礼をすると、にこりと笑ってみせた。

「美しさをお届けするアクセサリー工房『ムーラン・ヴォナ』でございます。
 本日は誠に勝手ながら、わたくしどもの工房で制作している装飾品の
 ご紹介に参りました」
「頼んでないぞえ」

しふみが、こちらの顔を見てくる。「とりあえず聞こう」と、
ベアトリーチェは顔で答えてやった。

「ええ、ですが当工房はこちらのホテルと協定を結んでおりまして。
 宿泊されている中でも限られた方のみに、こちらの限定商品を販売させて
 頂いております」
「限定商品?」
「ええ。一般の方にはお売りしていない品で、滅多なことでは入手も難しい
 商品です。個数が限られているので、早い者勝ちですよ。ところで
 お嬢様方、綺麗な御髪ですねぇ…。こういったものは、お好きですか?」

静かな口調で、持っていた革張りの鞄を開く。内側は紫のベルベットの生地で
裏打ちされており、その中にはさまざまなアクセサリー類が所狭しと
並んでいた。

「わ。きれーい」
「こちらはヴァルカンのザナドガル山でしか採取されない竜輝石です」
「こっちはなんじゃ?」
「あぁ、お目が高い。ムーラン原産の銀細工です。これは当工房オリジナルで、
 10点しか販売しておりません」



二人の「とりあえず」は、結局三時間に及んだ。


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2007/02/12 20:54 | Comments(0) | TrackBack() | ○シベルファミト

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