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2025/03/10 07:13 |
シベルファミト 17/ベアトリーチェ(熊猫)
第十七話 『嘘泣きと偽商人』

キャスト:ルフト・しふみ・ベアトリーチェ
NPC:ウィンドブルフ・ウォーネル=スマン・従者(イン・ソムニア)
場所:ムーラン→ウォーネル=スマン屋敷の裏門
――――――――――――――――

ウォーネル=スマンは確かに目が高い。だが馬鹿は馬鹿にすぎない。
ベアトリーチェは泣いてしゃくりあげる演技を続けながら、
目ざとく周囲に視線を走らせた。

馬車の調度は申し分ない。大富豪の馬車にしてはシンプルにも思えたが、
誘拐をするにおいては地味なほうがいいと、さすがの馬鹿でも
わかっているのだろう。
もっとも、白昼堂々こんなことをしでかした時点で、馬鹿であることにはかわりない。

目隠しでもされるのかと思っていたがそんな事もなく、偽商人ごしに見る窓の外には
ムーランの平和な町並みさえ伺えた。
よほどの自信があるのか、ベアトリーチェを子供と思って舐めているのか。

「いいかげん泣き止んだか?」

仕事がうまくいっているというのに、偽商人は非常に退屈そうに、そう言ってきた。
ベアトリーチェはとりあえず思い出したように鼻を軽くこすって、泣き止んだふりをした。

「うん」

演技が通じたのか、そもそも見てすらいなかったのか、偽商人は「そうか」とだけ言って、
窓の外へ目を転じた。

(なんなのよ)

ベアトリーチェもまた退屈して、ぼんやりと馬車の装飾を見る。
細やかな演技をこちらはしているというのに、客が醒めていては張り合いもない。

二人が『誘拐』されてからそう長い時間がたたないうちに、
馬車はがくんと音をたてて停まった。だがまだ馬車の歯車の音がする。
窓を見ると、並走していたしふみの乗った馬車が屋敷の奥へ入ってゆくところだった。
どうやら、着いた場所は屋敷の裏手らしい。

偽商人はやおら扉を開けると、あごをしゃくって「降りろ」と合図する。
ベアトリーチェが素直に従うと、拘束するそぶりも見せずさっさと歩きだしてしまう。
思わず後ろを振り返ると、やれやれとでも言わんばかりの顔の御者が、
空の馬車を操って去ってゆくところだった。無論その間、門は開け放ったままである。

ここに来るまでの扱いといい、ベアトリーチェが場数を踏んだハンターでなくても、
逃げようと思えばできるだろう――

はっとして、偽商人のほうに向き直る。
男は数メートル先で首だけで振り返ってこちらを見ていた。
探るような目とぶつかって、ベアトリーチェは内心舌打ちした。甘かった。
舐めていたのはこちらだったようだ。本当に誘拐されていたなら
少しでも抵抗するべきだった。

偽商人が静かに、問い掛けてくる。

「逃げないのか」
「だって…姉様が」
「用があんのはその姉様だけさ。おまえはもう用済みなんだよ。
いきたきゃ行けばいい」

偽商人は完全に体の向きをこちらに変え、胸ポケットから煙草の箱を取り出して、
慣れた手つきで火をつけた。
深いため息と共に、煙を吐き出す。

「ところで」

煙草を持った手で、軽く指差してくる。

「ナイトストールって知ってるか?幼女狙いの殺人鬼。
そいつがついこの間捕まったそうだな」
「…知らないわ、そんなの」

この流れはまずい。ベアトリーチェが落ち着いて答えると、相手は再度
煙草を口にしながらふーん、と納得したのかしてないのかわからない返事をしてくる。

「有名な話だぞ?犯人は自警団員だったそうだ。世も末だよな」

煙草の匂いが漂ってくる。

「そうね」

今からでも逃げる素振りを見せればいいのだろうか。

「捕まえたのは、ベアトリーチェとかいうたかだか10何才のガキ――
おまえさんぐらいだな、丁度」
「素敵な名前ね」

名前を呼ばれて内心どきりとするが、なんとか表情は保ち、半分皮肉、
半分本気で言ってやる。
とうとう偽商人がこちらに歩み寄ってきた。

「幼女狙いが幼女にパクられたなんざ、最高のジョークだと思わんか、なぁ?」
「ええ」

近づいてきて――その煙草の匂いが強くなり、一定の距離を保って立ち止まる。
ベアトリーチェはその男を短く観察した。武器らしいものは持っていない。
だが、絶対的な確信だけは持っている。
次に放ったそのセリフは、まさに確信に満ちていた。

「おまえさん、実家がどれだけ有名か一度でも考えたことあるか?」

お手上げだ。ベアトリーチェはいらいらと腕を組んだ。
こういう相手は好きじゃない。

「…しゃらくさいわね。はっきり言ったらどうなの?」
「やっと本性見せたな。じいさんも早死にするわけだ」
「死んでないわ」
「まだくたばってねーのか、あのジジィ。最後に会ったときは確か――」

男の瞳が軽い驚嘆の色を見せ、思い出すそぶりをするが、
それを待たずに刺々しく質問する。

「うちのグランパとどんな関係なのよ?」
「元婚約者ってことだけはないな。さすがに」

携帯灰皿に吸殻を押し込む。そしてさっとこちらの手を掴んで、
足早に屋敷へと向かい始める。ごく、自然な動作だった。

「ちょっと!」
「まぁ立ち話もなんだからイエスかノーで答えろ。標的はウォーネルか?」
「ノー」

抗議をさえぎり、前を向いて早口で囁いてくる。
ベアトリーチェもとりあえず前を向いて、答えた。まだ昼過ぎで野外は暑い。
それに、目の端に他の使用人の姿が見えたからだ。

「じゃああたしからも質問。あんたハンターなの?」
「ノー」

男の足は屋敷からややずれて、どうやら離れのようなところに向かっているらしい。
それでもかなりの豪華さだと遠目にもわかる。装飾一つもぎとって売りに出しても
それなりに儲かるだろう、とベアトリーチェは算段した。

そして、偽商人はまったく声音を変えず、明るい口調で付け足した。


「ただの暗殺者だよ」

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2007/02/12 20:57 | Comments(0) | TrackBack() | ○シベルファミト

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