第十二話 『新しい一歩』
キャスト:ルフト しふみ ベアトリーチェ
NPC:ウィンドブルフ
場所:ゾミン市街地
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
温厚な人物として知られていたボーガンが、実は街を恐怖のどん底に突き落とした連
続少女殺人事件の犯人だった。
それは、ゾミン市街地に住む者達の間で、大きな話題となった。
人は口をそろえて、こう言ったものである。
「ボーガン先生が、あんなことするなんてねぇ……人ってホントに見かけによらない
もんだ
ねぇ」
その件に関して、半信半疑だった者も、ごく少数ではあったが、いた。
しかし、最初は半信半疑だった者も、縄で後ろ手に縛られて連行されていくボーガン
の姿を見ると、即座に信じる側に回った。
連行されていく彼は、げそりと頬がこけ、目の下にはくっきりとクマが浮かび、虚ろ
な目を空に向けていた。
その上、時折頬を引きつらせて泣き笑いのような表情を浮かべては、見物人達を不気
味がらせた。
そんな有り様だったのだから、『そういうことをしそうな奴』という認識をされるの
は仕方のないことである。
実際のところ、ボーガンは男どもに寄ってたかって愛の告白をされるわ争奪戦を繰り
広げられるわという、かつてない修羅場を経験したことで精神的にまいっていただけ
なのだが。
ちなみに、この後しばらくゾミン市街地の自警団は活動を中断することになるのだ
が……それはまた別の話である。
――殺人鬼ボーガンの捕縛から数日後。
市街地と外との境目。
今日も今日とて人が出入りしている。
それは荷馬車であったり荷物を持った行商人風の人物であったり、はたまた旅人とお
ぼしき人物であったりと、多種多様である。
「これから主らはどうするつもりじゃ?」
しふみは、目の前の男女――ベアトリーチェと、それからウィンドブルフを肩に乗せ
た、布でぐるぐる巻きにした大男、ルフトに向かってそう尋ねた。
三人……ウィンドブルフも含めれば三人と一羽がいるのは、市街地と外との境目。
ベアトリーチェとルフトが外側、しふみが街側に立っている。
「今のところ特に決めてないわ。ただ、ここからはずらかるつもりよ」
そう言ってにやりと強気に微笑むベアトリーチェ。
相変わらず片腕は吊ったままだ。
どうやら彼女は医者嫌いであるとかで、何度も(主にルフトから)説得されお菓子で
釣られしたにも関わらず結局医者に行かないままである。
彼女の分の荷物はルフトが持っている。
「ふむ……」
しふみはその片腕を見つめ、何やらぼんやりと考え込む。
「……お世話になりました」
眠っていた間のことを聞かされていたルフトは礼を述べ、頭を下げた。
犯人の捕縛に協力してくれた人、という認識をしているらしい。
それに対して、気にするでない、といった言葉を返すかと思われたしふみだが……発
した言葉は大方の予想を大きく覆した。
「もうしばらく付き合うとするか」
「「「は?」」」
二人と一羽が声を上げる。
「最初に申したであろう? 通りすがりの暇人じゃ、と」
「退屈しのぎに付いて来るってわけ?」
「さよう」
いかんのかぇ? としふみは首を傾げる。
「……ま、いいけど。好きにしたら?」
ベアトリーチェは短く間を置いたが、軽く承諾の意を表した。
「ほっほっほ。ではそのように。安心いたせ、足手まといにはならぬでの」
袖口で口元を隠しつつ、しふみは笑う。
この会話にルフトが口を挟まないのは、ベアトリーチェの決断に委ねるという意味が
あるのだろう。
「……あの、荷物はないんですか?」
手荷物一つもないしふみを、さすがに不審がったのだろう。
ルフトがおずおずと声をかけてくる。
「重いものは持ち歩かぬ主義なのじゃ。ほれ」
言いつつ、しふみは懐の扇子を取り出す。
「これより重いものは、持ったことがないのでな」
くるり、と手の中で扇子をもてあそびながら、しふみはしれっと言ってのけた。
キャスト:ルフト しふみ ベアトリーチェ
NPC:ウィンドブルフ
場所:ゾミン市街地
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温厚な人物として知られていたボーガンが、実は街を恐怖のどん底に突き落とした連
続少女殺人事件の犯人だった。
それは、ゾミン市街地に住む者達の間で、大きな話題となった。
人は口をそろえて、こう言ったものである。
「ボーガン先生が、あんなことするなんてねぇ……人ってホントに見かけによらない
もんだ
ねぇ」
その件に関して、半信半疑だった者も、ごく少数ではあったが、いた。
しかし、最初は半信半疑だった者も、縄で後ろ手に縛られて連行されていくボーガン
の姿を見ると、即座に信じる側に回った。
連行されていく彼は、げそりと頬がこけ、目の下にはくっきりとクマが浮かび、虚ろ
な目を空に向けていた。
その上、時折頬を引きつらせて泣き笑いのような表情を浮かべては、見物人達を不気
味がらせた。
そんな有り様だったのだから、『そういうことをしそうな奴』という認識をされるの
は仕方のないことである。
実際のところ、ボーガンは男どもに寄ってたかって愛の告白をされるわ争奪戦を繰り
広げられるわという、かつてない修羅場を経験したことで精神的にまいっていただけ
なのだが。
ちなみに、この後しばらくゾミン市街地の自警団は活動を中断することになるのだ
が……それはまた別の話である。
――殺人鬼ボーガンの捕縛から数日後。
市街地と外との境目。
今日も今日とて人が出入りしている。
それは荷馬車であったり荷物を持った行商人風の人物であったり、はたまた旅人とお
ぼしき人物であったりと、多種多様である。
「これから主らはどうするつもりじゃ?」
しふみは、目の前の男女――ベアトリーチェと、それからウィンドブルフを肩に乗せ
た、布でぐるぐる巻きにした大男、ルフトに向かってそう尋ねた。
三人……ウィンドブルフも含めれば三人と一羽がいるのは、市街地と外との境目。
ベアトリーチェとルフトが外側、しふみが街側に立っている。
「今のところ特に決めてないわ。ただ、ここからはずらかるつもりよ」
そう言ってにやりと強気に微笑むベアトリーチェ。
相変わらず片腕は吊ったままだ。
どうやら彼女は医者嫌いであるとかで、何度も(主にルフトから)説得されお菓子で
釣られしたにも関わらず結局医者に行かないままである。
彼女の分の荷物はルフトが持っている。
「ふむ……」
しふみはその片腕を見つめ、何やらぼんやりと考え込む。
「……お世話になりました」
眠っていた間のことを聞かされていたルフトは礼を述べ、頭を下げた。
犯人の捕縛に協力してくれた人、という認識をしているらしい。
それに対して、気にするでない、といった言葉を返すかと思われたしふみだが……発
した言葉は大方の予想を大きく覆した。
「もうしばらく付き合うとするか」
「「「は?」」」
二人と一羽が声を上げる。
「最初に申したであろう? 通りすがりの暇人じゃ、と」
「退屈しのぎに付いて来るってわけ?」
「さよう」
いかんのかぇ? としふみは首を傾げる。
「……ま、いいけど。好きにしたら?」
ベアトリーチェは短く間を置いたが、軽く承諾の意を表した。
「ほっほっほ。ではそのように。安心いたせ、足手まといにはならぬでの」
袖口で口元を隠しつつ、しふみは笑う。
この会話にルフトが口を挟まないのは、ベアトリーチェの決断に委ねるという意味が
あるのだろう。
「……あの、荷物はないんですか?」
手荷物一つもないしふみを、さすがに不審がったのだろう。
ルフトがおずおずと声をかけてくる。
「重いものは持ち歩かぬ主義なのじゃ。ほれ」
言いつつ、しふみは懐の扇子を取り出す。
「これより重いものは、持ったことがないのでな」
くるり、と手の中で扇子をもてあそびながら、しふみはしれっと言ってのけた。
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