第十一話 『強引な平和』
キャスト:ルフト・しふみ・ベアトリーチェ
NPC:ウィンドブルフ・ボーガン・ハロルド・自警団
場所:ゾミン市街地
――――――――――――――――
「なんていうかもう金輪際好きですからとりあえず好きです!」
「愛が動機ならしてはいけないことはない!うん、釈放!無罪!
というか好きなのであえてここに拘留!」
「僕を好きといわないと基本的に有罪です」
「ギャアーアアア―――――――!!」
――――――――――――――――――――――――――――――――
【薬剤名】
桃色キノコ
【効果】
服毒した者は、一番初めに視界に入った者に対して強烈な恋愛感情を抱く。
濃度が高ければ高いほどその効果は持続する。
個人差ではあるが、効果が現れている時の記憶喪失もみられる。
現在、解毒剤は未開発。
――――――――――――――――――――――――――――――――
「生ゴミ詰め所だわね」
夜も明けかけた頃、ベアトリーチェは半眼で椅子に座ったまま、組んだ両足を
硬い机の上に放り出した。置いてあるネームプレートには「所長」とある。
格好はまだクリーム色のワンピースだ。先ほどと違うのは、片腕を吊っている
事ぐらいである。
「これ、女子がそんな服でそんな格好をするでない」
「大丈夫よ。スパッツはいてるし」
「…しかしなかなかうまい事を言うのう、嬢」
ほほほ、と白と赤い異国風の服を見に纏った艶やかな女が、扇子で
口元を隠しながら笑う――「生ゴミ詰め所、とはな」。
あの後。
ボーガンが放った桃色キノコの粉末は、風下にいた自警団達に
まんべんなく吹きかかると、即座にその効果を発揮した。
彼らの視線は全てボーガン本人に注がれ、自らの失態の結果にまみれながら
殺人鬼『ナイトストール』はその犯罪者としての命を失っただけではなく、
絶叫と共に人としての大事な何かもなくしかけていた。
詰め所に泊まる事になっていたらしいこの女――しふみは元より、
報酬を期待してベアトリーチェも詰め所までついてきたのだが、
まだ尋問すら始まっていない。
むしろ尋問を通り越して拷問のような形になっている。
「というかあれ絶対に普通の調合じゃなかったわよ。なんか光ってたし」
「桃色キノコ恐るべし、というところか」
放られていた自警団の制帽を指にひっかけて、くるくる回す。
「どうせあたし達に仕掛けて自分はとっとと逃げるって算段だったんだろうけど、
視界から逃げることは計算に入れていなかったわけね。要するにバカ?」
「裏目とはこの事じゃな」
ベアトリーチェは制帽を目深に被り、返事の代わりに盛大なため息をついた。
「…それより報酬…ねぇ報酬は?ていうかなんでギルド通してないの?ねぇ」
「意地というやつじゃろうかのぅ。わからんが」
「なんで男ってそういう事すんの?あーもームカつくし!!」
と、いつの間にか間近に迫ってきていたしふみが、自分の口元と
ベアトリーチェの耳元を隠すように扇子を広げて、こっそりささやいてくる。
「しかしそんな珍しい薬物がこの男の元にあるならば、今からでもこやつの
潜伏地に行って押収すれば何かめぼしいものがあるかもしれんぞ」
「あ、それ名案」
ぱっと顔を輝かせて身体を起こす。制帽を机の上に放り出し、彼女にとっては
少し高い椅子から飛び降りる。
「…これは一体どういう事かね?」
と、入り口に一人の男が現れた。私服ではあったが、間違いなく
ベアトリーチェがさきほど会った男――ハロルドである。
「あ、おじ様ー♪」
「やぁお嬢さん。こんな時間にどうしたんだ?――その怪我は?」
「いいの、そんな事はどうでも!」
「?」
ハロルドは怪訝そうな顔をしたが、ベアトリーチェの猫かぶりは止まらない。
「ねぇおじ様、それよりあたし、殺人鬼捕まえたの!凄いでしょ」
「まさか…ボーガン!あれはボーガンか!?ていうかそもそも皆どうしたんだ」
「ねーえおじ様~この字難しくて読めないの、読んでくださる?」
改めて椅子の上に上り、ぴらり、と手配書をハロルドの目の前に突き出す。
「えと…『殺人鬼ナイトストールを捕縛した者には報奨金を…』」
「報奨金?それってなーに?おじ様!」
ハロルドは報奨金についての説明を丁寧にしてくれたが、無論のこと
彼女には結論しか聞く気はなかった。
・・・★・・・
しふみとベアトリーチェが詰め所を出たのは、すっかり夜が明けて周囲が
明るくなった頃だった。
「しかし報奨金、半分くらいはこちらにくれてもよかろう?」
「えーなんでよー」
「我侭言うでない。作業分担したなら報酬も分担じゃ。それがわからぬほど
嬢は子供ではあるまい?」
「我侭が通るなら子供のままでいい~」
「ふふ、小癪な」
しふみは別段怒ったふうでもなく、閉じた扇子でちょん、とベアトリーチェの
頭を小突く。
「ベア!」
朝の光に満ちたすがすがしい空気に、凛とした声が響く。
姿を現したのは、ルフトだった。
こちらの姿をみとめると同時に、それこそ犬のように走って――
「ベア、ごめんなさ――」
「ルフト!会いたかったわ!」
目をきらきらさせ、ベアトリーチェは少女然とした黄色い声で歓声をあげながら
ソウルシューターを片手で担ぎ、泣きそうな顔で走り寄ってきたルフトを
ウィンドブルフともども思い切り吹っ飛ばした。
かくして、ゾミンの市街地は轟音とともに平和を取り戻したのであった。
キャスト:ルフト・しふみ・ベアトリーチェ
NPC:ウィンドブルフ・ボーガン・ハロルド・自警団
場所:ゾミン市街地
――――――――――――――――
「なんていうかもう金輪際好きですからとりあえず好きです!」
「愛が動機ならしてはいけないことはない!うん、釈放!無罪!
というか好きなのであえてここに拘留!」
「僕を好きといわないと基本的に有罪です」
「ギャアーアアア―――――――!!」
――――――――――――――――――――――――――――――――
【薬剤名】
桃色キノコ
【効果】
服毒した者は、一番初めに視界に入った者に対して強烈な恋愛感情を抱く。
濃度が高ければ高いほどその効果は持続する。
個人差ではあるが、効果が現れている時の記憶喪失もみられる。
現在、解毒剤は未開発。
――――――――――――――――――――――――――――――――
「生ゴミ詰め所だわね」
夜も明けかけた頃、ベアトリーチェは半眼で椅子に座ったまま、組んだ両足を
硬い机の上に放り出した。置いてあるネームプレートには「所長」とある。
格好はまだクリーム色のワンピースだ。先ほどと違うのは、片腕を吊っている
事ぐらいである。
「これ、女子がそんな服でそんな格好をするでない」
「大丈夫よ。スパッツはいてるし」
「…しかしなかなかうまい事を言うのう、嬢」
ほほほ、と白と赤い異国風の服を見に纏った艶やかな女が、扇子で
口元を隠しながら笑う――「生ゴミ詰め所、とはな」。
あの後。
ボーガンが放った桃色キノコの粉末は、風下にいた自警団達に
まんべんなく吹きかかると、即座にその効果を発揮した。
彼らの視線は全てボーガン本人に注がれ、自らの失態の結果にまみれながら
殺人鬼『ナイトストール』はその犯罪者としての命を失っただけではなく、
絶叫と共に人としての大事な何かもなくしかけていた。
詰め所に泊まる事になっていたらしいこの女――しふみは元より、
報酬を期待してベアトリーチェも詰め所までついてきたのだが、
まだ尋問すら始まっていない。
むしろ尋問を通り越して拷問のような形になっている。
「というかあれ絶対に普通の調合じゃなかったわよ。なんか光ってたし」
「桃色キノコ恐るべし、というところか」
放られていた自警団の制帽を指にひっかけて、くるくる回す。
「どうせあたし達に仕掛けて自分はとっとと逃げるって算段だったんだろうけど、
視界から逃げることは計算に入れていなかったわけね。要するにバカ?」
「裏目とはこの事じゃな」
ベアトリーチェは制帽を目深に被り、返事の代わりに盛大なため息をついた。
「…それより報酬…ねぇ報酬は?ていうかなんでギルド通してないの?ねぇ」
「意地というやつじゃろうかのぅ。わからんが」
「なんで男ってそういう事すんの?あーもームカつくし!!」
と、いつの間にか間近に迫ってきていたしふみが、自分の口元と
ベアトリーチェの耳元を隠すように扇子を広げて、こっそりささやいてくる。
「しかしそんな珍しい薬物がこの男の元にあるならば、今からでもこやつの
潜伏地に行って押収すれば何かめぼしいものがあるかもしれんぞ」
「あ、それ名案」
ぱっと顔を輝かせて身体を起こす。制帽を机の上に放り出し、彼女にとっては
少し高い椅子から飛び降りる。
「…これは一体どういう事かね?」
と、入り口に一人の男が現れた。私服ではあったが、間違いなく
ベアトリーチェがさきほど会った男――ハロルドである。
「あ、おじ様ー♪」
「やぁお嬢さん。こんな時間にどうしたんだ?――その怪我は?」
「いいの、そんな事はどうでも!」
「?」
ハロルドは怪訝そうな顔をしたが、ベアトリーチェの猫かぶりは止まらない。
「ねぇおじ様、それよりあたし、殺人鬼捕まえたの!凄いでしょ」
「まさか…ボーガン!あれはボーガンか!?ていうかそもそも皆どうしたんだ」
「ねーえおじ様~この字難しくて読めないの、読んでくださる?」
改めて椅子の上に上り、ぴらり、と手配書をハロルドの目の前に突き出す。
「えと…『殺人鬼ナイトストールを捕縛した者には報奨金を…』」
「報奨金?それってなーに?おじ様!」
ハロルドは報奨金についての説明を丁寧にしてくれたが、無論のこと
彼女には結論しか聞く気はなかった。
・・・★・・・
しふみとベアトリーチェが詰め所を出たのは、すっかり夜が明けて周囲が
明るくなった頃だった。
「しかし報奨金、半分くらいはこちらにくれてもよかろう?」
「えーなんでよー」
「我侭言うでない。作業分担したなら報酬も分担じゃ。それがわからぬほど
嬢は子供ではあるまい?」
「我侭が通るなら子供のままでいい~」
「ふふ、小癪な」
しふみは別段怒ったふうでもなく、閉じた扇子でちょん、とベアトリーチェの
頭を小突く。
「ベア!」
朝の光に満ちたすがすがしい空気に、凛とした声が響く。
姿を現したのは、ルフトだった。
こちらの姿をみとめると同時に、それこそ犬のように走って――
「ベア、ごめんなさ――」
「ルフト!会いたかったわ!」
目をきらきらさせ、ベアトリーチェは少女然とした黄色い声で歓声をあげながら
ソウルシューターを片手で担ぎ、泣きそうな顔で走り寄ってきたルフトを
ウィンドブルフともども思い切り吹っ飛ばした。
かくして、ゾミンの市街地は轟音とともに平和を取り戻したのであった。
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