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2024/11/18 17:53 |
シベルファミト 09/しふみ(周防松)
第九話 『鳥さんお願い』

キャスト:ルフト ベアトリーチェ しふみ
 NPC :ブルフ ボーガン
 場所 :ゾミン市街地
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


――血の匂い。

しふみの鼻先が、小さくうごめく。
自然に、その歩みが止まった。

背後から、ばさばさ、という慌ただしい羽音が追いかけてきた。
羽音はそのまま、立ち止まったしふみの前に回りこんできた。

――羽音の主は、先ほど外灯の下で見つけた、人の言葉を操る妙な鷹だった。

「ストップストップ! あのな、おじょーさん。あいつ、ホントに危険なんだよ。逃
げた方が良いんだって!」

「鳥、近ぅ寄れ」

言葉の一切を無視して、しふみは片肘を曲げる。
ここに乗れという意味合いらしい。
「……なんだよ?」
人の言葉を操る鷹は、素直に腕にすとんと着地した。
結構な重量を感じたが、しふみは眉をぴくりと動かしただけで何も言わなかった。

「鳥、お前に名はあるかぇ?」
「おうっ、俺はウィンドブルフってんだ! ブルフって呼んでいいぜ」
言って鷹は、びし、と翼を人間の手のように見たて、親指を立てた形を作る。
「さよか。では鳥でよいな」
「ぅおい!」
思わずウィンドブルフ……本人(鷹?)の言葉に従えばブルフと呼ぶのが筋なのだろ
う……は片翼を広げ、抗議の声を上げたが、
「静かにせぬか」
しふみはブルフのくちばしをつまみ、それ以上の抗議を封じこめた。
くちばしをつままれたブルフは、バタバタと翼をばたつかせて抗議の意を現す。
しかし、ばたつかせた翼のうち片方をあっさりと掴まれ、おとなしくならざるを得な
かった。

「鳥や。お前の耳はどこについておる?」
しふみはこれまた唐突に尋ねた。
「え? あ、ああ……ここ」
ブルフは動かせる片翼の先で、器用に頭の一部分をちょいと指す。
ちょうど、目の後ろの辺りである。
しふみは、そこへと顔を近づけていく。
「って、のわぁもごぐっ!!」
ブルフは再び悲鳴を上げかけた……のだが、今度はくちばしを掴まれた。
ブルフが悲鳴を上げかけた理由。
それは、しふみが「ふっ」と息を吹きかけたからである。
息を吹きかけられた部分の羽毛がかき分けられ、小さな穴が現れる。

「ほぅ、これがお前の耳かぇ」

しふみの唇が、そっと動く。
何かを囁いているのだ。
ブルフ以外には聞こえない程度の声の大きさで。

「……へ?」
囁きを聞き終えたブルフは、やや間抜けな顔をした。
「なんじゃ。できぬのかぇ」
「違うって! ……ただ、変なこと言うなと思って」
「ま、あまり気にするでない」
やれるな、と視線を向けると、ブルフは首を傾げながらも、ふわさ、と翼を広げ、し
ふみの腕から飛び立った。
自由になった翼で空気を叩き、上昇してゆく。

――そして。


「火事だーーーーーっっっ!!」


でっかい声で、既に寝静まった頃の空気を震わせた。





その声は、対峙するベアトリーチェとボーガンの元にも届いた。

(……何やってんのよあのバカ鳥)

ベアトリーチェは、舌打ちしたい気分だった。
あまりにも自警団の人間を探し出せないせいで、ヤケにでもなっているのか。
火事が嘘っぱちなのは、すすけた匂いが一切しないから一目瞭然だというのに。


ボーガンは、サッと青ざめた。

街の空気が、ざわつき始めたからである。

まずい。
腕に突き刺さったナイフという物証に加え、目撃者までもが揃っていては、言い逃れ
はもはや効くまい。
素早く思考を巡らせる。
『目撃者』を消している暇は……おそらくないだろう。
今まで犯罪がばれずに済んだのは、徹底して目撃者を残さないようにしていたため
だ。
疑われないようにという努力も欠かさなかった。

それが、全て無駄に終わったのである。
『芸術品』が一度も完成していないというのに。

「クソッ!」

ボーガンはベアトリーチェに背を向け、逃亡を図った。
逃げたところで事態が好転するわけではない。
今回の目撃者の証言で、自分に疑いがかかるのは確実だ。
それに、逃げ切れるという保証などどこにもない。
それでも、彼は逃げ出さずにはいられなかった。


「逃がすと思ってんの!?」

ベアトリーチェは、折れかけた腕をかばうようにしながら、ボーガンの後を追い始め
た。



さて。
しふみが先ほどブルフに囁きかけたのは、「知らせに行っている暇はないから、上空
に舞い上がって、出せるだけの大きな声で『火事だ』と叫べ」というものだった。
ブルフは、それを自警団の者たちの注意をひくための叫びだと解釈し、実行に至った
というわけである。

就寝中の人々が目を覚まし始めたのだろう、暗がりの中に家の明かりがぽつりぽつり
と増えていく。
街の空気のざわつきは、徐々に広がりつつあった。

「あのさ、なんで火事だなんて言わせたんだよ?」
ブルフは疑問だった。
自警団の人間を呼ぶためなら、『人殺しだ』とか『殺人鬼だ』とか、そんな言葉の方
が良いだろうに、と思っていた。

「……やれやれ」

しふみはブルフの問いかけには答えず、ほんの僅かに眉根を寄せた。
「こちらに来るとは思わなんだ」
それは、正直な本音だった。
通りの向こうから、こちらに向かって駆けて来る人物――それは、ボーガンだった。
「ああっ、アイツだ! おじょーさん、危ないぜ! 逃げろ、隠れろっ!」
わあわあと大騒ぎするブルフの前で、しふみが取った行動は、意外なものだった。

「はぁい?」

にこりと微笑み、手を小さく振ったのである。
そう、食堂で初めて見かけた時と同じように。

ブルフは、頭の中が真っ白になった。
こんな時に何やってんだ、という感情でいっぱいだった。

ボーガンは、しふみの姿を見て、食堂にいたあの女だとすぐに理解した。
そして、血の上った頭で、一瞬にして悟った。
先ほどの「火事だ」という叫びに、彼女が関わっているということを。

なんていうことだ。
この女、一度ならず二度までも邪魔をするのか。
食堂でスプーンを投げつけられて、少女を見失った時の悔しさが甦る。

彼の思考は、ひどく短絡的な結論を打ち出した。
邪魔をしたその報いを与えねば気が済まぬ、と。

彼女に『芸術性』を感じないわけではない。
醜くはない。赤い髪も、青い瞳も、見なれない妙な衣服も、見る者によってはひどく
興味をそそられるものだろう。
しかし、それは自分の感性にはまったくそぐわないものだ。
意味のないものだ。

だから、ただひたすら――原型を留めないほどに切り刻んでやる。

わけのわからない怒声を上げながら、ボーガンはしふみに向かって突進していく。
対するしふみは、構えらしいものも作らず、ぼうっと突っ立っている。

怖いのだ。
きっと、恐れをなして動けないでいるのだ。
バカな女だ。

ボーガンはそう考えた。

しかし、得物を振り下ろしたその瞬間、彼が感じたのは手応えなどではなく、がき
ん、と金属板にでも思いきり振り下ろした時のような、跳ね返される感覚だった。
ボーガンはバランスを崩し、ついでに得物である包丁を取り落とした。
慌てて拾い上げようとするが、一瞬先に赤い袴を履いたしふみの足が包丁を踏みつけ
る。
ごり、と奥歯を噛み締めて、ボーガンはしふみをねめつけた。

「うつけが」

しふみは閉じた扇子を片手にボーガンをひたと見据える。


「誰よ、アンタ」

追いついたベアトリーチェが、初対面であるしふみに警戒の眼差しを向ける。
態度も口調も、ついでに目線も強気そのものだ。
この分なら、かばっている腕の方も心配ないだろう。

「ただの通りすがりの暇人じゃ」
しれっとした顔で答え、しふみは扇子をぱっと開き、口元を隠した。


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2007/02/12 20:50 | Comments(0) | TrackBack() | ○シベルファミト

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