第六話 「夜の街へ」
PC:しふみ (ルフト ベアトリーチェ)
場所:ゾミン
NPC:ハロルド 夜警の人
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
夜警の詰め所、というものがある。
仮眠を取る部屋と、話し合いをするためのテーブルが置かれた部屋がある程度のもの
で、たいした規模ではない。
そのうえ、夜警するのが男ばかりだからなのか、室内は床といわずテーブルといわ
ず、雑然と物が積まれた有り様である。
掃除当番が組まれるのも、そう遠い日のことではなかろう。
ベアトリーチェをボーガンに任せたハロルドは、詰め所に戻る道を歩いていた。
夜回りを交代する時間が来ていたためである。
これから詰め所に戻り、交代の人間に報告をして引き継がせたら、あとは家に戻るだ
け。
早いところ柔らかいベッドに潜りこみてぇな、と思いつつ、彼は詰め所のドアを開け
た。
ドアを開けたところで、ハロルドは固まった。
夜警の人数は、さほど多くない。
そのため、全員が全員に面識がある。
いつもなら、知っている顔がいるだけの詰め所に、今日は見知らぬ人間がいた。
赤い髪に、妙な衣服を着た若い女である。
妙な衣服、というのは白い着物に赤い袴のことなのだが……そんな衣服を見たことが
ない彼にとっては、やはり『妙な衣服』である。
――まさか、新入りだろうか? しかし、そんな話は聞いていない。
「何だ、新入りか?」
ハロルドは、疑問を口にした。
その声に、女がくるりとこちらを向いた。
しふみである。
「ああ、この女性ですか。今夜、泊まるところが見つからないそうなんで、連れてき
ました」
夜警の連中の中で一番年若い、のほほんとした男が答える。
この男ののほほんぶりは相当なもので、夜警としての適性を疑うこともあるが、やる
時にはきっちりとやるタイプなので、それなりに信用のおける人間である。
こいつが、これからハロルドと交代して夜回りに行くことになっていた。
「泊まるところが見つからないって……まさか、全部の宿屋が満室だったのか?」
「あいにく、路銀が底をついてしもうたのじゃ。野宿でもと思ぅておったが、危険だ
からと諭されての。おかげさまで、今夜は屋根のあるところで寝かせていただける。
ありがたいことじゃ」
そう言うと、しふみはまた元の方向に向き直った。
パチン、と固いものを置く音がする。
「あっ、そんなっ」
若い男が小さく声を上げる。
「ほほほ、詰めが甘いのぉ」
しふみはコロコロと笑っている。
何事か、と思ってよく見れば、二人はオセロに興じていた。
お前らな……とハロルドは呆れた視線を向けるが、まったく気にする素振りはない。
ちなみに、若い男の方が黒い石、しふみの方が白い石を使っている。
今のところ、白い石の方が若干多く並べられている。
「ほら、交代の時間だぞ。いつまでも遊んでいるんじゃない」
放っておくといつまでもオセロで遊んでいそうなので、ハロルドは背中を叩いて行動
を促した。
若い男は不満そうに顔を上げた。
「まだ勝負ついてないんですよぉ」
「後でやれ、後で!」
「はーい……」
しぶしぶ、若い男は立ちあがり、ランプの用意を始めた。
一方のしふみは、オセロの片づけを始める。
相手がいなくなるとわかれば、並べていても意味がない。
「今のところは特に異常はないんだが……ああ、ついさっき、赤い髪の女の子が一人
で歩いていたな」
ハロルドの報告に、若い男は思わず眉をひそめる。
「ええっ、もしかして、ほったらかして帰ってきたんじゃないでしょうね?」
「阿呆っ、ちゃんと別の夜警の奴に任せてきたんだ。心配ない」
「別の奴って?」
「ボーガン先生だよ」
「ああ」
若い男は、納得したようにうなづき、用意の終わったランプを手に取った。
「聞きそびれておったが、何故ここはそれほど夜が危険なのじゃ? 他の街でも大概
は夜は出歩かぬ方が安全じゃが、ここは特別ではないかぇ?」
しふみの投げかけた質問に、若い男とハロルドは少し渋い顔をして顔を見合わせた。
「……どうします?」
「……うぅむ……教えておいた方が良いかもしれんな。知らずにうろついて、やっか
いなことに巻きこまれでもしたら、ことだぞ」
ハロルドの言葉に頷き、若い男はしふみの方に向き直ると、口を開いた。
「今ね、少女ばかりを狙った殺人事件が多発してるんです」
先ほどまでののほほんとした様子とは違い、真剣な目つきである。
「おやおや。犯人はまだ捕まらぬのかぇ?」
聞いているしふみは、箱に入れた白い石と黒い石の数を数えていた。
人の話を聞く態度として、あんまりな態度である。
「……あんまり大きな声で言えないんですけどね、まだです。危険だからって呼びか
け
て、夜は出歩かないようにしてもらってるんですけどね、なかなかそうもいかなく
て」
「急用で、どうしても夜に外を歩かねばならぬこともあるからの」
数を確認し、しふみはフタをしてオセロ盤の上に石の入った箱を置いた。
「そういうことなので、今夜はここから出ないでください」
それじゃ、と顔をひきしめ、若い男は詰め所から出ていった。
しふみは返事をしない。
顎に手をかけたまま、じっと何かを考えている様子である。
(赤い髪の小娘、とな……)
カタン、と椅子を揺らし、しふみが立ちあがる。
そのままスタスタと外へと向かうのだから、これにはハロルドが慌てた。
「おいっ、話を聞いていなかったのか?」
腕を捕まれ、しふみはゆらりとハロルドを見た。
「ご不浄に行くのじゃ。あとは休ませていただくゆえ、放っておいてもかまわぬぞ」
「……ご不浄……?」
聞きなれない言葉に、ハロルドは目を白黒させる。
「こちらでは、トイレ、というのであったな」
途端、ハロルドは顔を赤くし、黙って手を離した。
ふふん、と含み笑いを残し、しふみは外へ出る。
……その足は、トイレなどではなく通りの方へと向いていた。
PC:しふみ (ルフト ベアトリーチェ)
場所:ゾミン
NPC:ハロルド 夜警の人
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夜警の詰め所、というものがある。
仮眠を取る部屋と、話し合いをするためのテーブルが置かれた部屋がある程度のもの
で、たいした規模ではない。
そのうえ、夜警するのが男ばかりだからなのか、室内は床といわずテーブルといわ
ず、雑然と物が積まれた有り様である。
掃除当番が組まれるのも、そう遠い日のことではなかろう。
ベアトリーチェをボーガンに任せたハロルドは、詰め所に戻る道を歩いていた。
夜回りを交代する時間が来ていたためである。
これから詰め所に戻り、交代の人間に報告をして引き継がせたら、あとは家に戻るだ
け。
早いところ柔らかいベッドに潜りこみてぇな、と思いつつ、彼は詰め所のドアを開け
た。
ドアを開けたところで、ハロルドは固まった。
夜警の人数は、さほど多くない。
そのため、全員が全員に面識がある。
いつもなら、知っている顔がいるだけの詰め所に、今日は見知らぬ人間がいた。
赤い髪に、妙な衣服を着た若い女である。
妙な衣服、というのは白い着物に赤い袴のことなのだが……そんな衣服を見たことが
ない彼にとっては、やはり『妙な衣服』である。
――まさか、新入りだろうか? しかし、そんな話は聞いていない。
「何だ、新入りか?」
ハロルドは、疑問を口にした。
その声に、女がくるりとこちらを向いた。
しふみである。
「ああ、この女性ですか。今夜、泊まるところが見つからないそうなんで、連れてき
ました」
夜警の連中の中で一番年若い、のほほんとした男が答える。
この男ののほほんぶりは相当なもので、夜警としての適性を疑うこともあるが、やる
時にはきっちりとやるタイプなので、それなりに信用のおける人間である。
こいつが、これからハロルドと交代して夜回りに行くことになっていた。
「泊まるところが見つからないって……まさか、全部の宿屋が満室だったのか?」
「あいにく、路銀が底をついてしもうたのじゃ。野宿でもと思ぅておったが、危険だ
からと諭されての。おかげさまで、今夜は屋根のあるところで寝かせていただける。
ありがたいことじゃ」
そう言うと、しふみはまた元の方向に向き直った。
パチン、と固いものを置く音がする。
「あっ、そんなっ」
若い男が小さく声を上げる。
「ほほほ、詰めが甘いのぉ」
しふみはコロコロと笑っている。
何事か、と思ってよく見れば、二人はオセロに興じていた。
お前らな……とハロルドは呆れた視線を向けるが、まったく気にする素振りはない。
ちなみに、若い男の方が黒い石、しふみの方が白い石を使っている。
今のところ、白い石の方が若干多く並べられている。
「ほら、交代の時間だぞ。いつまでも遊んでいるんじゃない」
放っておくといつまでもオセロで遊んでいそうなので、ハロルドは背中を叩いて行動
を促した。
若い男は不満そうに顔を上げた。
「まだ勝負ついてないんですよぉ」
「後でやれ、後で!」
「はーい……」
しぶしぶ、若い男は立ちあがり、ランプの用意を始めた。
一方のしふみは、オセロの片づけを始める。
相手がいなくなるとわかれば、並べていても意味がない。
「今のところは特に異常はないんだが……ああ、ついさっき、赤い髪の女の子が一人
で歩いていたな」
ハロルドの報告に、若い男は思わず眉をひそめる。
「ええっ、もしかして、ほったらかして帰ってきたんじゃないでしょうね?」
「阿呆っ、ちゃんと別の夜警の奴に任せてきたんだ。心配ない」
「別の奴って?」
「ボーガン先生だよ」
「ああ」
若い男は、納得したようにうなづき、用意の終わったランプを手に取った。
「聞きそびれておったが、何故ここはそれほど夜が危険なのじゃ? 他の街でも大概
は夜は出歩かぬ方が安全じゃが、ここは特別ではないかぇ?」
しふみの投げかけた質問に、若い男とハロルドは少し渋い顔をして顔を見合わせた。
「……どうします?」
「……うぅむ……教えておいた方が良いかもしれんな。知らずにうろついて、やっか
いなことに巻きこまれでもしたら、ことだぞ」
ハロルドの言葉に頷き、若い男はしふみの方に向き直ると、口を開いた。
「今ね、少女ばかりを狙った殺人事件が多発してるんです」
先ほどまでののほほんとした様子とは違い、真剣な目つきである。
「おやおや。犯人はまだ捕まらぬのかぇ?」
聞いているしふみは、箱に入れた白い石と黒い石の数を数えていた。
人の話を聞く態度として、あんまりな態度である。
「……あんまり大きな声で言えないんですけどね、まだです。危険だからって呼びか
け
て、夜は出歩かないようにしてもらってるんですけどね、なかなかそうもいかなく
て」
「急用で、どうしても夜に外を歩かねばならぬこともあるからの」
数を確認し、しふみはフタをしてオセロ盤の上に石の入った箱を置いた。
「そういうことなので、今夜はここから出ないでください」
それじゃ、と顔をひきしめ、若い男は詰め所から出ていった。
しふみは返事をしない。
顎に手をかけたまま、じっと何かを考えている様子である。
(赤い髪の小娘、とな……)
カタン、と椅子を揺らし、しふみが立ちあがる。
そのままスタスタと外へと向かうのだから、これにはハロルドが慌てた。
「おいっ、話を聞いていなかったのか?」
腕を捕まれ、しふみはゆらりとハロルドを見た。
「ご不浄に行くのじゃ。あとは休ませていただくゆえ、放っておいてもかまわぬぞ」
「……ご不浄……?」
聞きなれない言葉に、ハロルドは目を白黒させる。
「こちらでは、トイレ、というのであったな」
途端、ハロルドは顔を赤くし、黙って手を離した。
ふふん、と含み笑いを残し、しふみは外へ出る。
……その足は、トイレなどではなく通りの方へと向いていた。
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