第七話『へたれヒロイックサーガ』
PC:しふみ、ベアトリーチェ、ルフト
NPC:殺人鬼ナイトストール
場所:ゾミン市街地 夜
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――そろそろですかね。
風に乗って聞こえてくる会話が剣呑な色を帯びてくるのを確認して、ルフトは身を潜めていた場所から全力でジャンプした。邪魔になるターバンは脱いでしまっておいたおかげで、夜風が顔を撫でるのを感じる。青白い光を浴びる道の真ん中に、良く見知った少女の姿と、一人の男の姿があるのを視界に捉え、左手に持つ棒を振りかぶる。男がこちらに気づいた。
――かまうものですか。
心の内で呟いて、慌てて飛びのく男がいたところを棒が薙ぎ払った。
「いきなり、何をするんだね!」
「殺人鬼、ナイトストール。アンタを狩るわ」
ソウルシューターを受け取って前にでたベアが、宣告した。ドレスを着た少女が言うにはあまりにも不釣合いな事この上ないセリフだが、不思議と違和感は感じられない。それを言うのに相応しいだけの風格を、ベアトリーチェは間違いなく備えていた。
「くっ、ははははは」
殺人鬼が哄笑を上げる。
「そうか、ヤケに不自然だと思っていたらハンターだったのか。まったく、まさか賞金を懸けられた事がこんな風に作用するとはな」
その口調はピンチを招いた事による怨嗟というよりは、むしろ感謝を感じさせる。口調も態度も、余裕に満ちていた。
「抵抗しても無駄ですよ」
棒を構えながら降伏勧告を口にする。
しかし当然と言うべきだろうか、殺人鬼がそれを素直に聞き入れる様子はない。それどころか、不敵な笑みを浮かべ言葉を返しすらした。
「その顔、お前は獣人というやつだろう。さぞかし臭いには敏感なのだろうな?」
意図を察しかねたルフトが思わず動きを止める。対して、ボーガンの動きは俊敏だった。腰の袋から何かを一つまみ取り出し、投げる。黄色い粉塵がルフトの鼻先を舞った。
「ブルフ、風……を?」
とっさに風の術で吹き飛ばそうとするが、肝心のブルフの反応がない。致命的に手遅れになっているのを思考の隅で理解しながら何故ブルフの反応がないのかを考え、ぽんと手を打った。
――そういえば、さっき自警団員を探してどこかに行きましたね。……鳥目の癖に。
ばら撒かれた黄色い粉は呼吸に乗ってルフトの体内に侵入し、着実にその体と思考を蝕んで行く。
――どうでもいいですけど、嗅覚はあまり関係ないですよね……これ。
そこまで考えたところで抵抗も限界に達し、ルフトは体を蝕むそれ――つまり、いわゆる睡魔――に思考を明け渡した。
手足から力が抜け、ばったりと地面に倒れる。くーかーという幸せそうな寝息が聞こえてくるまで数秒も掛からない辺りに根性のなさが伺えた。
「何やってんのよ、この犬は……」
ベアの呆れを多分に含んだ呟きが、夜風に流れていく……
――同時刻、ヴィンドブルフ――
「あいたたたた」
勇んで飛び出したはいいが、自分が夜目がまったく効かない事をうっかり忘れていたブルフは、いきなり街灯に突撃して目を回していた。
起き上がって、あまりの痛さに思わず羽根で頭を押さえる。さすがにコブができるほど高性能ではないので、本当にただ意味もなく押さえただけなのだが。
「ほぅ、喋る上に動作も人間のような鳥じゃのぅ」
頭上から降ってきた声に驚いて、ブルフは空を見上げた。街灯からの光を背にして、こちらを覗きこんでいる人影がある。
「あ、あんた自警団の人か?」
「いいや、違うぞぇ」
聞いた事のない口調で喋るその人物は、どうやら声の感じからして女性だなとブルフはあたりをつけた。とりあえず、危険な事だけでも伝えておいた方がいいだろうか。
「今な、この街には殺人鬼がいるんだ。で、それが出たって事を俺は自警団に伝えに行きたいんだけどよ、とりあえずおじょーさんはどっか安全なトコに避難した方がいいと思うぜ?」
喋る鳥が言う事を信用するかなー、とか不安な要素は多々あったが、とりあえず動かない事には話が進まない。だからブルフは自分が持っている情報をさっさと教えてしまう事にした。そろそろ頭痛も治まってきたし、今度こそ自警団を見つけにいかなくては。
「ほうほう、それでその殺人鬼とやらはどっちの方にでたのかの?」
あぁ、確かにどちらにいるのか教えないと逃げようがないものな。そう思って、ブルフは自分が飛んできたと思われる方向(実はちょっと曖昧なのだが)を羽根で指した。が、それを見た女性の行動はブルフの予想とは180度違うものだった。
「お、おい!だからそっちには殺人鬼がいるんだって!」
あろうことか、その女性はまっすぐ指し示された方向へとすたすた歩き始めてしまったのだ。慌てて後を追いかけるが、いくら言っても女性が思いとどまる様子を見せる事はなかった。
ブルフはだま知らない。自分が、自警団なんかよりも遥かに頼りになる切り札を引き当てたという事を。
PC:しふみ、ベアトリーチェ、ルフト
NPC:殺人鬼ナイトストール
場所:ゾミン市街地 夜
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――そろそろですかね。
風に乗って聞こえてくる会話が剣呑な色を帯びてくるのを確認して、ルフトは身を潜めていた場所から全力でジャンプした。邪魔になるターバンは脱いでしまっておいたおかげで、夜風が顔を撫でるのを感じる。青白い光を浴びる道の真ん中に、良く見知った少女の姿と、一人の男の姿があるのを視界に捉え、左手に持つ棒を振りかぶる。男がこちらに気づいた。
――かまうものですか。
心の内で呟いて、慌てて飛びのく男がいたところを棒が薙ぎ払った。
「いきなり、何をするんだね!」
「殺人鬼、ナイトストール。アンタを狩るわ」
ソウルシューターを受け取って前にでたベアが、宣告した。ドレスを着た少女が言うにはあまりにも不釣合いな事この上ないセリフだが、不思議と違和感は感じられない。それを言うのに相応しいだけの風格を、ベアトリーチェは間違いなく備えていた。
「くっ、ははははは」
殺人鬼が哄笑を上げる。
「そうか、ヤケに不自然だと思っていたらハンターだったのか。まったく、まさか賞金を懸けられた事がこんな風に作用するとはな」
その口調はピンチを招いた事による怨嗟というよりは、むしろ感謝を感じさせる。口調も態度も、余裕に満ちていた。
「抵抗しても無駄ですよ」
棒を構えながら降伏勧告を口にする。
しかし当然と言うべきだろうか、殺人鬼がそれを素直に聞き入れる様子はない。それどころか、不敵な笑みを浮かべ言葉を返しすらした。
「その顔、お前は獣人というやつだろう。さぞかし臭いには敏感なのだろうな?」
意図を察しかねたルフトが思わず動きを止める。対して、ボーガンの動きは俊敏だった。腰の袋から何かを一つまみ取り出し、投げる。黄色い粉塵がルフトの鼻先を舞った。
「ブルフ、風……を?」
とっさに風の術で吹き飛ばそうとするが、肝心のブルフの反応がない。致命的に手遅れになっているのを思考の隅で理解しながら何故ブルフの反応がないのかを考え、ぽんと手を打った。
――そういえば、さっき自警団員を探してどこかに行きましたね。……鳥目の癖に。
ばら撒かれた黄色い粉は呼吸に乗ってルフトの体内に侵入し、着実にその体と思考を蝕んで行く。
――どうでもいいですけど、嗅覚はあまり関係ないですよね……これ。
そこまで考えたところで抵抗も限界に達し、ルフトは体を蝕むそれ――つまり、いわゆる睡魔――に思考を明け渡した。
手足から力が抜け、ばったりと地面に倒れる。くーかーという幸せそうな寝息が聞こえてくるまで数秒も掛からない辺りに根性のなさが伺えた。
「何やってんのよ、この犬は……」
ベアの呆れを多分に含んだ呟きが、夜風に流れていく……
――同時刻、ヴィンドブルフ――
「あいたたたた」
勇んで飛び出したはいいが、自分が夜目がまったく効かない事をうっかり忘れていたブルフは、いきなり街灯に突撃して目を回していた。
起き上がって、あまりの痛さに思わず羽根で頭を押さえる。さすがにコブができるほど高性能ではないので、本当にただ意味もなく押さえただけなのだが。
「ほぅ、喋る上に動作も人間のような鳥じゃのぅ」
頭上から降ってきた声に驚いて、ブルフは空を見上げた。街灯からの光を背にして、こちらを覗きこんでいる人影がある。
「あ、あんた自警団の人か?」
「いいや、違うぞぇ」
聞いた事のない口調で喋るその人物は、どうやら声の感じからして女性だなとブルフはあたりをつけた。とりあえず、危険な事だけでも伝えておいた方がいいだろうか。
「今な、この街には殺人鬼がいるんだ。で、それが出たって事を俺は自警団に伝えに行きたいんだけどよ、とりあえずおじょーさんはどっか安全なトコに避難した方がいいと思うぜ?」
喋る鳥が言う事を信用するかなー、とか不安な要素は多々あったが、とりあえず動かない事には話が進まない。だからブルフは自分が持っている情報をさっさと教えてしまう事にした。そろそろ頭痛も治まってきたし、今度こそ自警団を見つけにいかなくては。
「ほうほう、それでその殺人鬼とやらはどっちの方にでたのかの?」
あぁ、確かにどちらにいるのか教えないと逃げようがないものな。そう思って、ブルフは自分が飛んできたと思われる方向(実はちょっと曖昧なのだが)を羽根で指した。が、それを見た女性の行動はブルフの予想とは180度違うものだった。
「お、おい!だからそっちには殺人鬼がいるんだって!」
あろうことか、その女性はまっすぐ指し示された方向へとすたすた歩き始めてしまったのだ。慌てて後を追いかけるが、いくら言っても女性が思いとどまる様子を見せる事はなかった。
ブルフはだま知らない。自分が、自警団なんかよりも遥かに頼りになる切り札を引き当てたという事を。
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