忍者ブログ
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


2024/05/16 16:40 |
しふみ 狐と油揚げ/しふみ(周防松)
PC:しふみ
場所:どこかの食堂
NPC:ウェイトレス・その他のお客さん達

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

その日は、朝から不快な天候だった。
気温そのものは高くないのだが、風がない上にじとりと湿った空気が肌にからみつ
き、何か行動を起こすたびに不快度指数が跳ね上がるのだ。
平素に比べ、ややイライラしやすい環境とも言えた。

町の中心部を通る、大通りに面した場所にある大衆食堂。
少しでも涼を取るためか、窓という窓は全て全開の状態である。
客の大半は、汗をかくのを嫌がって、冷たい料理を注文していた。

――そんな中で。

「……は?」

食堂のウェイトレスが、盆を抱えたまま、困惑した表情を浮かべて首を傾げる。
普通、接客業を生業とする者は、いついかなる時でも笑顔で応対するようにとしつけ
られている。
働き始めてまだ間も無いうちは、なかなか上手くいかない場合も多かったりするのだ
が。
しかしこのウェイトレスは、この店で働き出してから実に三年以上にもなるのだ。
それが困惑した表情を浮かべたのだから、相当なことに出くわしたのだと容易に想像
がつくだろう。

「あら、ここにもないのね」

ウェイトレスを困惑させた張本人たる客は、さして気にした風でもなく呟いた。
白い着物に赤い袴を履いた、赤い長髪の女性である。
彼女の衣服は、ウェイトレスの目にはただの「奇抜な服」と映った。
センスの問題ではなく、そんな衣服を今まで見たことがなかったからである。

「ご注文に添えられなくて、大変申し訳ありませんっ」
ウェイトレスは、少し慌てた様子で頭を下げる。
女性客は、ぱたりとメニューの表をテーブルに置いた。
不満げだとか、怒っているだとか、そんな雰囲気ではない。
(まるでクレームをつけた客みたいね、これじゃ)
周囲の客がちらちらとこちらを気にするので、彼女はそんなことを考えていた。
アレがあれば是非食べたかったのだが、ないのならきっぱりとあきらめる聞き分けの
良さはある。
メニューに見当たらなかったので、聞いてみただけの話なのである。

「無いのならいいのよ。そうね……じゃがいもの冷たいスープをもらおうかしら」
この状況を変えるために、彼女は別のものを注文して終わりにしようと考えた。
じゃがいもの冷たいスープにしたのは、たまたまメニューの表の中でそれが目に付い
たからである。
「は…はいっ、かしこまりました」
ウェイトレスは、そう言ってまた頭を下げ、そそくさと厨房の方へと戻って行った。

はあ……。

ウェイトレスが立ち去ったのを見届けた後、女性客――しふみは、こっそりとため息
をこぼした。


   *   *   *   *   *



「ねえ、さっき何があったの?」

注文を取り次いだところで、食器を下げて戻ってきた同僚のウェイトレスが、こそこ
そと話しかけてくる。
無駄話をしていると店長に睨まれるので、ウェイトレス達は、話をしたい時は片付け
などを装って、さりげなく近付いて話すという風にしているのだ。
「なんだか『アブラアゲ』とかいう物を使った料理はないか、って聞かれたのよ」
「アブラアゲ?」
「知ってる?」
尋ねられ、同僚は眉をしかめ――ふと、何かを思い出したように眉間を広げた。
「ああ、油揚げね。見たことはないけど……聞いたことはあるわ。なんでも、東にあ
る国の食べ物らしいわよ。豆で作るんですって」
「東っていうとー……カフールあたり?」
豆で作る、と聞いたウェイトレスは、豆を揚げたものを想像していた。
「うーん、どうだったかなぁ」
実物を知らない以上、詳しい説明などできようはずもない。
「でも、そんなものを注文するなんて、この辺の人じゃなさそうよね。着てる服もな
んか変だし」
ちらり、と先ほどの客に視線を送り、ウェイトレスは少々失礼なことを呟いた。
「まあね。さ、それよりも仕事に戻りましょ」
ぽん、と肩を軽く叩き、同僚は別のテーブルへと注文を取りに向かう。
会話はそこで終了となり、残されたウェイトレスも仕事へと戻っていった。

PR

2007/02/12 20:44 | Comments(0) | TrackBack() | ○シベルファミト

トラックバック

トラックバックURL:

コメント

コメントを投稿する






Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字 (絵文字)



<<ファブリーズ  16/ジュリア(小林悠輝) | HOME | シベルファミト  01/ルフト(魅流)>>
忍者ブログ[PR]