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2024/05/17 02:20 |
カットスロート・デッドメン 7/タオ(えんや)
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PC:タオ、ライ
NPC:ソム、バラントレイ、バンドレア、レイブン、神父、水兵、海賊等々
場所:シカラグァ・サランガ氏族領近海の船上
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タオはソムの元に向かいながら、もう一度ライとの会話を振り返っていた。

(…空?)

タオは空を見上げる。空一面も霧で覆われ、星空はおろか月すらも見えない。

(…船長は既に死んでいたか…とすれば…)

タオはふと舷側を覗き込んだ。
そこにはまだカッターボートが括りつけられていた。

(…元より計画の内であれば、小船で大海の中を逃げ出す危険は冒さぬか…)

タオは襲い掛かる海賊を殴り倒しながら先を急ぐ。

(ならば、彼らはどこに?)

タオは足を止めた。その視線の先には、甲板の上に突き出すような海賊船のバウスプリットと美女の胸像が見えた。


 *   *   *


船内へと続く階段の入り口付近では生き残っている傭兵達が肩を並べて防衛ラインを築いていた。タオはその中に赤い髪を見つけて、そこに向かった。

「無事ですか?」
「まだ無事だよ、こんちきしょう!お前どこ行ってたよ!?」

ソムが汗をたらしながら怒鳴る。

「申し訳ない。」
「そう思うんなら、あとはお前がやれ!」

タオは頷くと、防衛ラインの前に歩み出、一人の万鬼の腕を捻った。
その万鬼は捻られるまま隣の万鬼にぶつかり三人ほど巻き込み体勢を崩す。
タオはその横に踏み込んで、そのまま背を万鬼に預け、床を力強く踏み込んだ。
万鬼が数体まとめて吹き飛んだ。タオはというと、万鬼が吹き飛ぶと同時に反対側へと踏み込み、そちら側にいた万鬼も数体まとめて弾き飛ばす。

「…お前のデタラメ見てると、真面目に生きてるのが馬鹿みたく思える…。」

タオは押し寄せる万鬼を片付けながら尋ねた。

「状況は?」
「バラントレイのおっちゃんが全員呼び集めて防衛線築いたとこ。
 あのおっちゃん、元軍人じゃねーかな?」
「なるほど。で、そのバラントレイ殿は?」
「当の本人は何人か連れて、敵の総大将に切り込んでるよ。」

ソムの指し示すほうを見ると、万鬼達の中央で数名の傭兵が戦っていた。
いや、円陣を組むように防衛している。その円の中央で、バラントレイが骸骨の描かれた船長帽を被った万鬼と対峙していた。その万鬼は片手に黒い剣を握っていた。

「"黒剣の"レイブンまでアンデッドになってたとはな。」
「一対一で臨むのは、彼の矜持ですかね。」
「それが"決闘者"のゆえんさ。」

バラントレイのレイピアがうねった。
変幻自在の軌道を持つ高速の突きが放たれる。
レイブンはそれを黒剣で払いながら体を捌き左手を伸ばす。
バラントレイは素早く体を引き、レイブンの左手をかわした。

「あちらのほうが楽しそうですね。」
「そう思えるお前の頭ん中のほうが愉快だよ。」

その時、遠くで誰かが一際高い悲鳴を上げた。

「船倉!?」
「女性の声ですね。」
「なんで女がいるんだよ。」
「さぁ」

ソムは舌打ちした。

「しゃーねぇ。ここは任せたぜ。」
「用心を。」
「何を今さら。」
「今以上の用心を。」
「…何か気になることがあんのか?」
「この船の船長は死んでいました。それも昨日今日ではなく。
 最初から、計画の内かも知れません。」
「…どういうことだ?」

タオが答えようとしたとき、ライが万鬼の隙間を縫って駆けつけてきた。

「悲鳴は?」
「中だ!」

ライはそのまま階段を駆け下りた。

「ちょうどいい。中はヤツに任せよう。」
「そうですね。」
「…で、船長が死んでるっていうのは?」
「腐り果てていました。この船もまた幽霊船だったということです。
 …ですが、幽霊船が積荷を積んだり客を取ったり護衛を雇うことはできない。
 我らの雇い主は確かに生きていたし、大勢の水夫も然りです。
 死せる船長を隠し船を動かすには生ける協力者が必要です。
 万鬼もまた、徒党を組み海賊を働くということは考えにくい。
 やはり生ける者の作為を感じます。
 死人を利用する何者かがいて、その操る死人の船が洋上で出くわす。
 無いとは申しませぬが、何者かは同じと考えるとするなら。
 協力者は今どこにいるのか?
 下手に船に留まれば、流れ弾に当たるかも知れぬし、
 万鬼に襲われない不自然さに気付かれる虞れもある。
 カットボートはどれ一つ欠けてはいなかった。
 ならば…」

タオは万鬼を片付けながら、自らの思考を整理するように言葉を紡ぐ。

「…相手の船か!」
「あるいは。襲撃されてからは船上は混乱していて
 仮に誰かがあちらの船に乗り込もうとしても気付きますまい。」
「ふん、死人より生きてる奴のほうがおぞましいってか。
 …だが、目的は?」
「我々か、客か、荷物かでしょう。」
「それでも、こんな馬鹿騒ぎ起こす必要があるか?」
「それが疑問の残るところ。
 どのみちこれ以上推論を重ねたところで無意味でしょう。
 なんだって起こり得る。私の考えすべて誤っているやもしれません。
 …ですから、ただ、用心を。」

その時、傭兵の一人が叫んだ。

「やった!」

バラントレイのレイピアが、レイブンの心臓を貫いていた。

「いえ。誘われました。」

レイブンは刺し貫かれたままそのレイピアを左手で掴みとると、剣を握った右手を振りかぶった。

バラントレイは剣を離すことに一瞬躊躇した。
その隙を待つ筈もなく、レイブンは右手を振り下ろした。

銃声が響き、レイブンの右手から黒剣が弾き飛ばされた。

「誰だ?」
「バンドレア殿ですね。」

マストの上の見張り台からバンドレアがマスケット銃を突き出していた。
目の前に迫った死を逃れたバラントレイは、レイピアから手を離しレイブンから距離を取る。

「いつの間にあそこに行ったんだ。」
「わりと最初のほうに登って行ったのを見かけましたが。」
「今の今まで、何もせずに隠れていたのかよ!」
「まぁ、ただの銃では万鬼は倒せませんし、弾込めに時間も割けない状況、
 一人で持ち歩く銃の数などたかが知れてるのですから仕方ないでしょう。」

バンドレアの存在に気付いた万鬼達がマストをよじ登り始める。バンドレアは上から短銃を撃っては投げ捨て応戦するが万鬼達は気にせず登っていく。

「一度撃てば、ああなるわけですし。」
「やべっ、タオ何とかしろ!」
「彼はその覚悟を持ってやったのでしょう。
 自らの命と引き換えにでもバラントレイ殿の命を救うことのほうが、
 この戦況では価値があると。」
「覚悟できてるからって、つーか、そんな心意気見せられて見捨てられるか!」

ソムはそう叫ぶと手にした剣を投げた。
剣はマストをよじ登る一番先頭の万鬼をマストに縫い付けた。

「お見事。」

万鬼が武器を無くしたソムに迫る。ソムは地面に転がり落ちていた剣を拾う。

「タオ!お前ならバンドレアを助けられるだろ!」
「やってみましょう。」

タオは防衛陣から数歩踏み出すとマストへ向かった。

万鬼が襲いかかる寸前、懐に飛び込む。

「失礼。」

その万鬼はそのまま宙を舞い、マストによじ登っていた万鬼とぶつかる。
タオは次々と万鬼をマストにぶつけていった。

「"魔弾"を救い出すぞ!」

戻ってきたバラントレイの一団がマストへと切り込んでいく。
タオはその様子を眺めると、踵を返しレイブンのほうへ歩いていった。
迫る万鬼を軽くかわしながら、散歩する足取りでレイブンの前に立つ。

「手合わせを。」

レイブンが言葉にならない叫びをあげる。
タオはふと後ろに身体を流すと、つられて襲い掛かる万鬼をレイブンにむかって投げ飛ばした。
レイブンは一振りでその万鬼を両断する。人間業には出来ない膂力の賜物だ。

「なるほど。ではこれは?」

タオは再び万鬼を誘い、投げ飛ばす。レイブンがその万鬼を切り捨てるそのタイミングを見計らい、もう一体。さらにもう一体投げ飛ばし、掌底で加速させる。
レイブンは振り切った剣を引き戻すと、その勢いのまま飛んできた万鬼を払い、二体目を左手で受け止め、剣を返し切り裂いた。
それらの行動をほぼ一息で行い、両手の動きだけで三体の万鬼砲弾を捌いた。
体の軸は一切ぶれない。恐るべき手技の速さであった。

「良し。この程度で仕留められるような者ではないと。」

タオの言葉はどこか嬉しそうだった。
レイブンが吠えた。万鬼達はタオに襲いかかるのをやめた。
タオが万鬼の間合いに踏み込んでも微動だにしない。それは万鬼を砲弾代わりに使えないことを意味した。
タオ自身の筋力では万鬼を投げ飛ばすことはおろか、持ち上げることも出来ない。万鬼が襲い掛かってくる力の向きを操り、軸をずらし、重心を変化させることで投げ飛ばしているのだ。いわば万鬼自身の力で飛んでいるに過ぎない。万鬼が襲い掛からなければ万鬼を投げ飛ばせないのだ。

「1対1をお望みですか。」

タオはレイブンの周りを緩やかに廻りはじめる。
レイブンは剣を構えたままタオを正面に見据えるように足を入れ替える。

レイブンの剣技はイスクリマと呼ばれるシカラグァのレーグラント氏族領で伝わる剣技が元になっている。「払う」「掴む」「斬る」という動作を両手を用い、ほぼ一挙動で行うその技は、数多くの剣技の中でも優れた剣速を誇るが、万鬼と化したレイブンのそれは、もはや神速と言っても過言ではなかった。

二人の間合いが徐々に近づく。
徐々に二人の間の空気が張り詰めていく様がソムのところからも見て取れた。
しかしタオはその顔に微笑みを浮かべ、緊張を感じさせない。
余裕の表れか、はったりか。
対するレイブンは牙を剥いたまま、死者に闘争本能があるのかは不明だが、凶暴さを隠そうとはせず、それでも待ちの構えを取っていた。
間合いに入れば即斬るといった構えだ。
見つめあったまま、緊迫した静寂が戦場に満ちる。
いつ仕掛けるか、じりじりと時が過ぎてゆく。
数呼吸に過ぎない時間が、永劫に感じられたその時、船が揺れたその瞬間を見計らって、タオは膝の力を抜き、滑り出した。
動作の起こりを見抜けなかったレイブンは反応が一瞬遅れた。
気付いたときにはタオはレイブンの懐深くに潜り込んでいた。
その手はレイブンの腹に添えられている。

レイブンがタオに剣を振るうよりも先に、タオは足を踏み込んだ。
自らにかかる沈下力と、足先から全身を使い生み出す纏絲力を重ね、押し込む。
派手な音と共にレイブンの体が宙を舞った。


 *   *   *


ライは船倉に駆け下りる。
扉をノックしようとして、思い直した。乗客の精神状況でここを開けるとは思えない。説得する自信もなかったし、その時間も惜しい。何より、中がそんな余裕のある状況かどうか怪しかった。
ライは意識的に自らの構成を緩め、壁を透り抜けた。

そこには隅っこに転がる一人の少女と、それを庇うようにする神官。
そして、それと対峙するように手に棒やら思い思いの武器を手にした乗客の姿があった。

「その女がいたから、この船は化け物に襲われたんだ!」
「今すぐ仕留めろ!海に放り出せ!」
「落ち着きなさい。今この者を放り出したところでどうなるというんです?」
「どけよ神父さん。」

「…どうなってるんだ?」

ライが呆然と呟く。

「荷物の影にね、密航者がいたんですよ。それも女性の。
 で、誰かが『死者に襲われたのは女を船に乗せたからだ』って。
 まったく。恐怖に苛まれる人々は、時に面白い思考をするものですね。」

ライの横付近でモスタルグィアのエグバートが他人事のように言った。


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2010/03/12 20:09 | Comments(0) | TrackBack() | ○カットスロートデッドメン

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