忍者ブログ
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


2024/11/19 21:15 |
陽花 其の六/クランティーニ(生物)
PC:クランティーニ・ブランシュ セシル・カース フロウリッド・ファーレン
イヴァン・ルシャヴナ
場所:クーロン付近裏道~クーロン
NPC:フィーク フィル・パンデゥール フィール・マグラルド


 今日も今日とて空は快晴。普段は静かな裏街道だか今日は少し賑やかだ。
「で? なんで俺が毎度毎度メシ作ってんだ?」
 セシルは三角巾とエプロンをつけて不機嫌な顔で鍋をかき回しながら言っ
た。ちなみに三角巾とエプロンはクランティーニとフロウに無理矢理つけさせ
られた。案の定フィークとフィルには思いっきり笑われた。
「そりゃあ、セシル。料理できるのがお前しかいないからだろ」
 咥えタバコで本を読んでいるクランが事も無げに言った。そう、セシル以外
の連中は全くと言っていいほど料理ができなかった。
 クランティーニに作らせたときはメンドクサイと言って保存食の干し肉を何
食わぬ顔で出したし。イヴァンの場合は食材を調理もしないでそのまま全部一
人で食った。フロウに至っては思い出したくもない。
「まったく……この」
 お玉を握るセシルの手がぷるぷると震える。ああ、なんか泣けそうだ。明ら
かに人数よりも多いであろう量の野菜と肉を鍋で煮込みならセシルはそろそろ
逃げ出そうか、なんて事を考え始めるが、すぐに無駄だと思い至ってやめた。
――きっと途中で捕まるんだろうな……。
 そう、調理中に逃げればまず間違いなくイヴァンが追ってくる。
「そしてものの数分で捕まる。間違いない。残念!」
「黙れ虫。鍋の具にするぞ」
 お玉をフィークに突きつけてセシルはすごむが、フィークはケラケラ笑いな
がらフロウの頭に止まる。
「フロウ! その虫を黙らせろ。飼い主だろ」
「えー、フィークはペットじゃなくてお友達なのです」
 友達だったら五月蝿くてもいいのか……。真剣にセシルはそう問い詰めたか
ったが、きっと笑顔で肯定されるからやめにした。
「クランの旦那」
「あー?」
 馬車の屋根でぼけーっと座っていたイヴァンの影、フィルが起き上がる。
「ここんとこあの黒いのは出てこねぇっすが、あっしら今だいたいどこら辺
で?」
「うーん。ちょっと待て」
 クランティーニはタバコを咥えたまま地図を取り出して眺める。しばし薪の
燃える音とセシルが鍋をかき回す音が響く。
「……たぶんここら辺」
「ほうほう、ここら辺で」
 適当に指された場所をフィルは真面目に覗き込む。さらにその後からフロウ
とフィークもいる。
「このアンガスってぇとこで?」
「ちょっと待て!」
 セシルはお玉を放り出してクランティーニに詰め寄る。
「ありえないだろ! どこをどう通ればアンガス近くまで来れるんだ、むしろ
移動時間を考えると無理だろ!」
「おお、よくわかったな」
 クランティーニはへらへらと笑顔を浮かべて地図を懐に戻す。
「嘘だったってのか!?」
「わぁ、大人ってひでぇ」
「あっはっは、軽いジョークじゃないか」
 軽いジョーク……、で済まされるのだろうか。むしろ影とか虫とか騙してな
にがおもしろいのか。よく、わからない。
「で、実際のところは今どのへんなんだ?」
 クランティーニはタバコの煙を軽く吸って、一呼吸置いてから呟いた。
「あー、俺の表情でわかんない?」
 わかんねぇよ! と、セシルはつっこみたかったが、クランティーニの表情
が心なしか困ったように見えた。セシルはつっこみより、そっちの方が気のせ
いだと心底思いたかった。

         ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 クーロン、大陸のほぼ中心に位置すると同時に最大級の都市である。乱雑に
立てられた建物の間にようやく、という感じで伸びる道を厳つい馬車が進んで
行く。
 クーロンがいくら特殊な街だと言っても、さすがにこの馬車は目立ちすぎ
る。御者台に子供が座っていれば違和感も倍増するという物だろう。
「わー、すごいのですねぇ」
「そう言えばフロウちゃんはクーロンに来たかったんだよね。なにか目的があ
ったの?」
「んー、特になにかあったわけではないですのです。ただ大陸で一番大きい街
を見てみたかったのです」
「ふーん、こんな街をねぇ」
 クランティーニはタバコを取り出そうとしたが、空だと気付いて空箱を握り
つぶして荷台の窓を叩いた。
「あんだよ」
 不機嫌そうに小さな窓を開けたセシルは顔を外に晒さないような位置に立っ
ていた。ここに来るまで3回ほど毒矢やらなんやらを打ち込まれもすればこう
いう立ち方をするようにもなる。
「俺の荷物からタバコだしてくんない?」
「イヤだね」
 そう言ってピシャリと窓を閉めてしまった。
「セシルさん、ご機嫌が悪そうですのね」
「子供なんだろ」
「誰が子供だ!」
「そういうところがだよ」
 笑いながらセシルからタバコを受け取って、真新しい一本に火をつける。街
の南区画を少し進んだところでクランティーニは馬車を止めた。
「着いたぞ」
 御者台から降りてクランティーニは荷台の扉を開ける。無言でイヴァンが降
りてくる。続いてセシルがようやくかという表情で背伸びをしながら降りた。
「荷物は?」
「俺が持つのかよ」
 クランティーニの言葉に思いっきりのしかめ面でセシルは返した。
「これですか?」
 フロウが荷台から大仰な箱を持ち出してきた。フロウが持つと非常に違和感
があるのだが、軽々と持っているところを見ると以外と軽いのだろう。
「おお、さすがフロウちゃん。どっかのひねくれ小僧とはえらい違いだ」
 あはは、と照れ笑いを浮かべるフロウの頭の上でフィークが感嘆の声を上げ
る。
「おー、この街はデカイ建物ばっかだけど。ここは一段とデカイなぁ」
 周囲の建物とは一線を隔した豪奢な建物がクランティーニ達の前に建ってい
た。フィール・マグラルドの私邸、この近所では空き巣すら近寄らない恐怖の
館である。
「お前が小さいから余計にでかく見えるんだろ」
「お待ちしておりました」
 セシルのセリフにちょうどフィークが言い返そうとしたとき、玄関のドアが
開き、やたらとフリルが強調された服を着たメイドが出迎えに来た。クランテ
ィーニが軽く片手を上げて挨拶をする。
「家主さんはいるかい?」
「はい、おります。皆様は中でお待ちになってください」
 メイドに促されてクランティーニ達は応接間に通された。
「少々お待ちください。すぐに呼んでまいります。あと、積荷の方は私どもが
お預かりします」
 一礼してからメイドはフロウが運んできた箱を三人がかりで持っていった。
「てか、クランここどこだよ」
「今更だな、おい」
 苦笑してクランティーニはテーブルの灰皿にタバコを擦り付ける。
「ここはフィール・マグラルドの私邸だよ」
「マグラルドって……、あのマグラルドか?」
「俺はマグラルドって聞くと一つしか思い浮かばないんだがな」
 しばらく沈黙が漂う。セシルもマグラルドで真っ先に思い浮かぶのは大陸屈
指の豪商で知られるマグラルドだ。へんぴな場所にも支店があり、二十四時間
営業なうえ従業員はそこらの冒険者よりも強いという噂のあのマグラルドだ。
「わー、クランさんすごいですのですね。そんなお金持ちとお知り合いなん
て」
 素直にフロウが感心する。セシルはというと難しい顔でなにか考え込んでい
た。
「……知り合いか?」
「同じ村の出身だ。ついでにお隣だったな」
 そのセリフと同時にセシルはソファから立ち上がり、出口を目指して歩き出
した。
「俺は帰る、分け前も十分貰ったしな」
「どうしたんだよ、セシル」
 不思議そうにフィークが首を傾げる。フィルは大人しくイヴァンの影の中に
納まっている。
「嫌な予感がかなりする。というか、こいつと同じ村の出身なんて変人に決ま
ってる!」
 キレイに肩から指先までを一直線にしてクランティーニを指差してセシルは
叫んだ。
「失敬な、まあ否定はしないけど。もう手遅れだ」
 あ? と疑問符を体現したセシルの後頭部に思いっきりドアが派手な音を立
てて叩きつけられた。
「ってぇな。なにすんだよ!」
「あら、ごめんなさい。でもドアの前に立っている方が悪いのでなくて?」
 質素な服に身を包んだフィール・マグラルドが微笑みを浮かべて言う。
「とりあえず、これで仕事は終わりだ」
「そうね、一応聞いておくけど中身は見てないわよね?」
 頷くクランティーニの表情が心なしか強張っている。そう、と残念そうにフ
ィールは足を組んだ。
「ウェム」
「はい」
 ウェムと呼ばれた女性が大きめの皮袋をテーブルの上に置く。中身が全部金
貨とするならば千枚近くあるだろうか、かなりの額だ。
「多すぎない?」
 引きつった笑みを浮かべてクランティーニが満面の笑みを浮かべたフィール
を見た。
「ほら、もう一仕事してもらおうかなと思って、その前金も入ってるわ」
「ちょ、ちょっとま……」
「断ったらどうなるか。わかってるわよね? くーちゃん」
 一瞬、笑顔のまま凍りつくクランティーニ。ようやくといった様子で口を開
く。
「ほら、俺一人だけじゃないし、仲間とも相談して」
「俺は別に構わないけど?」
 セシルが意地悪そうな笑顔で言った。フロウも右に同じといった感じだっ
た。イヴァンに至ってはいつものようにぼけーっとしている。
「なら決まりね。じゃあ皆こっちに来て」
 フィールはソファから立ち上がりセシル達を促して部屋を出た。
「あ、そうそう。くーちゃんには別の仕事があるから、ウェム」
「はい。こちらへ」
 セシル達とは逆方向へ誘導されるクランティーニにセシルはにやけた表情で
声をかける。
「がんばれよくーちゃん」
「ああ、お前も……。後で、後悔しても遅いぞ」
 疲れた表情で笑顔を浮かべたクランティーニはウェムの後に着いて二階に上
がった。突き当たりの部屋に通された部屋の中で予想通りの展開にクランティ
ーニは天を仰いだ。
「ああ、やっぱり」
 広い室内の中には女性物のドレスが多数。隅の方に置かれた大きめの箱は恐
らく変装道具一式、ちょうど真ん中あたりには化粧台が置かれていた。
「だから、気をつけてと書いたのに」
「気をつけただけフィール姉さんをかわせるなら依頼拒否なんかしないさ」
 タバコに火をつけてため息と一緒に煙を吐き出す。彼女の行動に振り回され
たくないなら最初からフィールの依頼は受けない。ただ今回はサイフが寒くな
りすぎた上にポポルのギルドにろくな仕事がなかったのが不幸だった。
「浪費癖は治ってないようね」
 ウェムが化粧台の椅子を引いて背もたれを軽く叩く。
「趣味に金は惜しまない主義だから」
 クランティーニはコートを脱いでハンガーにかけてから咥えタバコまま椅子
に座る。
「タバコは消してもらえるとありがたいんだけど」
「喫煙者はなにかと肩身が狭いよ」
 苦笑してタバコをウェムの差し出した携帯灰皿に押し付ける。
「毎回思うんだけど」
「なにを?」
「人殺しするのに女装は必要なのかなと」
「趣味だからしょうがないんじゃない? クランくんと同じであの人も趣味に
お金惜しまない人だから」
 くすくすとクランティーニの金髪を梳きながらウェムは笑う。フィールが暗
殺の依頼をする時は必ず女装を強要される。それは女装と呼ぶには生温い、ま
ったくの別人に変装させられる。
それがどういう意味を持っているかはクランティーニにもわからない、顔が割
れてマグラルドの仕業とばれない様にする配慮か、それとも本当に趣味なの
か。気にならないと言えば嘘になるが、とりあえずクランティーニはウェムの
説明で納得しておくことにした。彼女に深入りするとろくな事にならない、現
に暗殺なんて柄じゃない仕事を任されている。
「ああ、そう」
「ふざけるなぁああああああ!」
 クランティーニの諦め気味のため息が掻き消されるように階下からセシルの
怒鳴り声が聞こえてきた。ようやく真実が見えたのだろうが、今更遅いという
ものだ。
「そういえば、向こうはなにを?」
「お嬢様の護衛。ちょうどカランズ商会主催のパーティがあるから」
「敵地に赴くとはさすが」
 カランズ商会はフィールと並ぶ商人で、ここ十数年で急速に成長するマグラ
ルド商会が気に食わないらしくなにかとフィールを目の敵にしている。マグラ
ルドの支店がある場所には必ず支店を出店したり、フィールに刺客を送り込ん
だ事もあった。
「まあ、お嬢様と張り合って最近自滅気味だからほっといてもいいんじゃない
かと思うんだけど」
「どうして行くかなんて聞かなくてもわかるよ」
 挑発、というよりからかいに行くんだろうなと、自分の長めの髪が後頭部で
結ばれるのを見ながら苦笑する。
「まあ、あっちはイヴァンがいるから心配はないか」
 未だに階下から聞こえるセシルの叫び声を聞きながらクランティーニは窓の
外に目をやる。日が傾き、クーロンの街が赤く染まっていた。

         ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「……」
 不機嫌、そして疲労の色を顔全体に押し出しセシルはただ黙って応接間のソ
ファに座っていた。
「気分悪いです?」
 心配そうなフロウの問いかけにもセシルは顔も見ない。というか応えたくな
かった。フリフリでヒラヒラの淡いピンク色のドレスを着たフロウを見てしま
うと自分の状況を改めて認識してしまうからだ。
「あはははー、ほっとけほっとけ。そいつが機嫌悪いのはいつものことじゃ
ん」
 フロウの肩で普段の格好のままフィークは腹を抱えて笑う。
「黙れ虫、殺すぞ」
 今までで一番の殺意をこめてセシルはフィークに言うが、言われた妖精はフ
ロウの肩を叩きながら笑い続ける。
「往生際がわりぃなセシル、旦那だってガマンしてんだ、おめぇだけじゃね
ぇ」
 セシルの向かいに大人しく座っているイヴァンの影が揺れる。ちなみにフリ
フリでヒラヒラは同じだが全員微妙にデザインが違う。色もセシルは赤でイヴ
ァンは白に近い青だ。
「そいつは何も考えてないだけだろうが!」
「ひゃははははははは」
「笑うな虫!」
 テーブルの上に足を叩きつけてセシルは叫ぶ。
「あらあら、レディがはしたないわよ」
 着替えを終えたフィールが部屋に入ってきた。セシル達は全員フリフリでヒ
ラヒラだが、その服を強要した本人はいたって普通のフォーマルドレスを着て
いた。
「誰がレディだ、誰が。そもそもあんたはなんでそんな普通のカッコして俺は
こんなフリフリドレスなんだ!」
「あら、だっていい大人がそんな格好恥ずかしいじゃない」
 満面の笑みを浮かべてフィールは言い放った。そして思い出したかのように
フロウに顔を向ける。正確にはフロウの肩で笑い転げているフィークにだ。
「フィークちゃんのも用意したからすぐに着替えて、もう時間がないから」
「あはは、ひぃひぃ、は……は?」
 フィークの顔が笑い顔のまま固まる。そして体勢を変えないまま飛び去ろう
とするがすかさずセシルの手が伸びて捕まった。
「逃がすと思うか……」
「せ、セシルさん、目がマジなんだけど」
 無言でセシルはフィールの後ろにいるメイド――鬼のように強かった――に
フィークを差し出す。
「嫌だ! 離せ! 俺はそんな人間みたいな格好は、フロウ助け、あ、いやぁ
ああああ」
 騒ぐフィークをよそにフィールは笑顔で話しを続ける。
「とりあえず依頼は私の護衛ということでわかったかしら? まあ、適当にひ
やかしたら帰るから、すぐに終わるわ。じゃ、外の馬車に移動してちょうだ
い」
 無理矢理着替えさせられてぐったりしたフィークをメイドから受け取って歩
き出したフィールの後にイヴァンとフロウが続く。セシルも諦めたようにため
息を一つついてそれを追った。すぐに終わる、その、僅かで吹けば消えるよう
な希望の光を信じて。

PR

2007/02/12 22:50 | Comments(0) | TrackBack() | ▲紫陽花

トラックバック

トラックバックURL:

コメント

コメントを投稿する






Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字 (絵文字)



<<紫陽花 其の五/セシル(小林悠輝) | HOME | 紫陽花 其の七/イヴァン(熊猫)>>
忍者ブログ[PR]