忍者ブログ
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


2024/05/17 23:26 |
紫陽花 其の五/セシル(小林悠輝)
PC  :クランティーニ セシル フロウ イヴァン
場所  :ポポル付近・裏街道
NPC :フィーク フィル・パンドゥール 他なんかいろいろ。
------------------------------------------------------------------------

 秒だった。

 別に一騎当千なんて言わないけど、Aランクハンターが二人も混じっていては、大抵
の相手では敵になりすらしないのだ。たとえ、その強いハンターの片方が主に石とか投
げてるだけだったとしても。

(あの石は、当たったら痛そうだけどな……)

 自分が投げられたわけではないからどうでもいい。
 セシルはため息をついて、遠くから、縛り倒されたシシなんとかとその一団を眺めた。

 いつも通り飄々としてるが少し呆れた様子で見下ろしているクランティーニと、興味
を失ったらしく――というか最初から一秒も興味を抱きはしなかっただろう――木の枝
にとまった鳥を無表情に眺めているイヴァン。

 その二人よりも後方でフロウと並んでいるのが定位置になりかけている。変な人には
近づきたくないから問題ない。

 それで……その位置で何をしているかというと、主に妖精をからかったり、妖精にか
らかわれたり。ジョークとマジの境界線は常に超えている。ぶっちぎりすぎて振り返っ
ても見えないくらいだ。
 振り返る気になれば、の話だが。

「で、どういう種類の生き物だったんだろうなアレ」

「知らないし知りたくもないけど少なくとも妖精じゃないね」

「……いや、さすがに俺もそこまでは侮辱しないぞ?」

 種族を超えて“変人”の枠に括るなら別だが、それを実行してしまったらこの場にい
る自分以外のほぼ全員が当てはまりそうだと気がついて、セシルは、どうしようもない
思考を中断させた。

 もちろん自分は普通の人だと固く信じている。それだけは譲れない。
 たとえ今この瞬間に大魔王とかが復活して「譲らないと三回くらい世界を滅ぼした後
で丸めて捨てるぞ」とか言われたとしても、駄目だ。そもそも何を丸めて捨てるのかも
わからないが。
 たぶん、世界の滅ぼしきれなかった部分をこっそり捨てるのだろう。

 セシルは戦慄して呟いた。

「――なんて姑息な大魔王だ……」

「現実以外を見るのは程ほどにしとかないと連れてかれるよ。光るチョウチョとかに」

 妖精――やっと名前を覚えた。たしかフィークだ――が言うと、興味深そうに縛り倒
された一団を見ていたフロウが振り返って、空中に浮かぶ彼を見上げた。

「光るチョウチョってきっとキレイですよね」

「たぶんね」

 受け流し方に、扱いを心得ている様子が窺える。別にフロウを悪く言っているのでは
なくて。ただ、こういう一瞬に、いいコンビだなと感じてしまうだけのこと。

「どこに行けば見れるんでしょうね」

「見ようと思えばどこでも見れるんじゃない? さっき見えなかった?」

「なんでそこで俺に振るんだよ」

 大魔王は見えたが光る蝶は見ていない。よくよく考えれば前者も問題ある気がするが。
 見えてしまったものは仕方がないのでセシルは一度ゆっくりと瞬きして、大魔王のこ
とは忘れることにした。

 気は進まなかったが現実を見ることにして、遠くで変人の親分の相手をしているクラ
ンティーニを見ると、彼は、相変わらず気だるげにタバコの煙を吐きながら「そういえ
ば近くに結構大きな川があるんだけど、流れてみる?」とシシなんとかに訊いていると
ころだった。


      ☆ ・ ☆ ・ ☆ ・ ☆


 シシなんとか達は本当に流された。


      ☆ ・ ☆ ・ ☆ ・ ☆


「そろそろお昼ごはんにしませんか?」

「そんな時間か……」

 フロウの言葉にクランティーニが見上げた空は、どこまでも青く晴れていた。一点の
曇りもない遠い天蓋は、地上で起こった細かいことになど影響されない。
 少なくない人数が「そこに川があるから」という理由で流されたこととか。

 そんなことは関係なく空は雲ひとつなく綺麗な蒼で、馬車の馬はくたびれた目つきで
草を食んでいる。すぐ近で流れ続ける水音はただひたすらに清涼だ。

 ――これが確かな現実で、シュールな悪夢の類ではないことを疑いそうになった。

PR

2007/02/12 22:49 | Comments(0) | TrackBack() | ▲紫陽花

トラックバック

トラックバックURL:

コメント

コメントを投稿する






Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字 (絵文字)



<<紫陽花 其の四/フロウ(聖十夜) | HOME | 陽花 其の六/クランティーニ(生物)>>
忍者ブログ[PR]