PC :セシル フロウ イヴァン
場所 :クーロン(カランズ邸・別宅)
NPC :フィーク フィル・パンドゥール フィール・マグラルド
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「さて、帰りましょうか」
フィール・マグラルドはにこりと笑った。何でもないようなその表情が上辺だけであ
るのか、それとも本物なのかの見分けをつけることは、少なくともセシルにはできなか
った。その場にいる他の連中にしてもセシルとおなじか、或いは、見分けたところで気
にすることはないだろう。
「皆もそろそろ息苦しいでしょう?
――せっちゃん以外は気にしてないかしら」
「俺が気にしてるよ」
妖精が小声で毒吐いた。フィールはまた薄く笑う。
「とても似合ってるわ、皆。
たまにはまったくの別人になるのも悪くないと思わない?」
セシルはその言葉を聞いて、これ以上、愚痴を言うのをやめようと決めた。
今回はこれだけ入念な変装が必要だったのだ。わかっていたことではあったが、ここ
まで直接的に言われてしまったら、反論の言葉は思いつかない。だからといって女装は
――女なら油断されるし、身体検査もされない。それだけのこと。
理解はしていても、嫌だということは変わらないけれど。
「……襲われるためにわざわざ来るなんて、気が違ってる」
「正気だからこそ、時にはそう見えるのよ」
言って、フィールは踵を返した。焼け焦げて落ちていたテーブルクロスを高いヒール
で上品に蹴散らし、彼女はもうさっさと帰還するつもりらしい。無言で後ろに従うイヴ
ァンは果たして何を考えているのか。何も考えていないのかも知れない、というあまり
にも悪い予感を強引に押しやると、セシルも彼らの後に続くことにした。
フィールは最後に一度だけ振り向いた。
「疲れたでしょう? 帰ったら食事にしようか」
「本当ですか!」
フロウが鋭く反応して、小走りで彼女に駆け寄った。
「まだ食べるの」という妖精の呟きを意に介す者はいない。
それにしても、これだけ大掛かりな罠を用意されるとは、フィール・マグラルドとい
う女は一体どんな恨みを買ったのだろうか。間違えても本人には聞けないし、調べてみ
ようという気にもなれないが。
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PC :クランティーニ ライ
場所 :クーロン(カランズ邸・本宅)
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「……暗殺なんてよくないと思うけどなぁ」
「あら、指名手配中の凶悪犯が道徳観念を語るの」
背の高い女だ。彼女の言葉に、ライは曖昧な笑顔だけを返した。何かを言い返すこと
に意味は見出せなかった。わざわざ誤解を解こうと努力したって徒労に終わるだろう。
付き合うつもりがなければ簡単に消えることだってできるのに、ついついここまで来て
しまった時点で、もう大方を諦めるしかないということはわかっている。気まぐれの代
償なら、決して高くはないだろう。
「クーロンは恐い場所だって聞いてたけど、本当みたいですね」
「人のいるところならどこだって変わらないわ」
「なんだかなぁ」
「とにかく話を合わせて」
ライはやる気なく「はぁい」とだけ答えた。
それから事前に彼女に言われた通り――つまり“それらしい格好をしなさい”――、
実体をいじくって服装を変えた。いつだか見た、貴族の護衛がこんな格好をしていた気
がする。藍色の上衣、踵の堅いブーツ。帽子を少しだけ深くかぶる。
かつかつ歩いて、女が「この建物」と示したのは、なかなかの豪邸だった。
門には紋章が飾られているが、形式からして貴族ではなさそうだということくらいし
かわからない。クーロンの住人事情なんてまったく知らない。
☆ ・ ☆ ・ ☆ ・ ☆
「ええ、本当に。
確かにこの時間、リリィお嬢様と約束しましたの」
「そう言われましても……」
召使らしき男は困ったような表情で玄関を横目にした。
「お嬢様は現在、留守にしております」
「忘れてしまわれたのかしら、お嬢様の新しい事業についての、とても重要なお話なの
ですけれど。
今日でなくてはならない、何かの間違いで一日たりとも遅れることがあれば、待ちに
待った機会を失うことになってしまうとお嬢様が仰られたので、わたくしも今日だけは
と予定を明けて伺ったのです」
「……ふむ」
しばらくの逡巡の後、召使はどうやら、この客を返して主人の怒りを買うことを恐れ
たようだった。「失礼ですが、お名前を伺ってもよろしいでしょうか」
「クリスティーナ・フィオナ・エテツィオと申しますわ」
「! エテツィオ家の……失礼致しました、お嬢様」
彼女の後ろに立っていたライは、随分とまぁ大胆な嘘をつくものだと思ったが、澄ま
し顔で護衛のふりをしながら、視線だけで周囲を観察した。さて、帰りはどこから逃げ
ようか。
「どうぞ、客間へご案内いたします――エテツィオ家の方がいらっしゃった際には丁重
に遇すよう言い遣っております故に」
ライが横目で女を見ると、表情のわずかな変化から、どうやら本人にとって予想以上
の反応のようだった。異国の伯爵家とこの家の令嬢にどのような関係があるのかは、き
っと知らない方がいいんだろうな。どうせ何かしら後ろ暗いに決まってるんだから。
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場所 :クーロン(カランズ邸・別宅)
NPC :フィーク フィル・パンドゥール フィール・マグラルド
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「さて、帰りましょうか」
フィール・マグラルドはにこりと笑った。何でもないようなその表情が上辺だけであ
るのか、それとも本物なのかの見分けをつけることは、少なくともセシルにはできなか
った。その場にいる他の連中にしてもセシルとおなじか、或いは、見分けたところで気
にすることはないだろう。
「皆もそろそろ息苦しいでしょう?
――せっちゃん以外は気にしてないかしら」
「俺が気にしてるよ」
妖精が小声で毒吐いた。フィールはまた薄く笑う。
「とても似合ってるわ、皆。
たまにはまったくの別人になるのも悪くないと思わない?」
セシルはその言葉を聞いて、これ以上、愚痴を言うのをやめようと決めた。
今回はこれだけ入念な変装が必要だったのだ。わかっていたことではあったが、ここ
まで直接的に言われてしまったら、反論の言葉は思いつかない。だからといって女装は
――女なら油断されるし、身体検査もされない。それだけのこと。
理解はしていても、嫌だということは変わらないけれど。
「……襲われるためにわざわざ来るなんて、気が違ってる」
「正気だからこそ、時にはそう見えるのよ」
言って、フィールは踵を返した。焼け焦げて落ちていたテーブルクロスを高いヒール
で上品に蹴散らし、彼女はもうさっさと帰還するつもりらしい。無言で後ろに従うイヴ
ァンは果たして何を考えているのか。何も考えていないのかも知れない、というあまり
にも悪い予感を強引に押しやると、セシルも彼らの後に続くことにした。
フィールは最後に一度だけ振り向いた。
「疲れたでしょう? 帰ったら食事にしようか」
「本当ですか!」
フロウが鋭く反応して、小走りで彼女に駆け寄った。
「まだ食べるの」という妖精の呟きを意に介す者はいない。
それにしても、これだけ大掛かりな罠を用意されるとは、フィール・マグラルドとい
う女は一体どんな恨みを買ったのだろうか。間違えても本人には聞けないし、調べてみ
ようという気にもなれないが。
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PC :クランティーニ ライ
場所 :クーロン(カランズ邸・本宅)
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「……暗殺なんてよくないと思うけどなぁ」
「あら、指名手配中の凶悪犯が道徳観念を語るの」
背の高い女だ。彼女の言葉に、ライは曖昧な笑顔だけを返した。何かを言い返すこと
に意味は見出せなかった。わざわざ誤解を解こうと努力したって徒労に終わるだろう。
付き合うつもりがなければ簡単に消えることだってできるのに、ついついここまで来て
しまった時点で、もう大方を諦めるしかないということはわかっている。気まぐれの代
償なら、決して高くはないだろう。
「クーロンは恐い場所だって聞いてたけど、本当みたいですね」
「人のいるところならどこだって変わらないわ」
「なんだかなぁ」
「とにかく話を合わせて」
ライはやる気なく「はぁい」とだけ答えた。
それから事前に彼女に言われた通り――つまり“それらしい格好をしなさい”――、
実体をいじくって服装を変えた。いつだか見た、貴族の護衛がこんな格好をしていた気
がする。藍色の上衣、踵の堅いブーツ。帽子を少しだけ深くかぶる。
かつかつ歩いて、女が「この建物」と示したのは、なかなかの豪邸だった。
門には紋章が飾られているが、形式からして貴族ではなさそうだということくらいし
かわからない。クーロンの住人事情なんてまったく知らない。
☆ ・ ☆ ・ ☆ ・ ☆
「ええ、本当に。
確かにこの時間、リリィお嬢様と約束しましたの」
「そう言われましても……」
召使らしき男は困ったような表情で玄関を横目にした。
「お嬢様は現在、留守にしております」
「忘れてしまわれたのかしら、お嬢様の新しい事業についての、とても重要なお話なの
ですけれど。
今日でなくてはならない、何かの間違いで一日たりとも遅れることがあれば、待ちに
待った機会を失うことになってしまうとお嬢様が仰られたので、わたくしも今日だけは
と予定を明けて伺ったのです」
「……ふむ」
しばらくの逡巡の後、召使はどうやら、この客を返して主人の怒りを買うことを恐れ
たようだった。「失礼ですが、お名前を伺ってもよろしいでしょうか」
「クリスティーナ・フィオナ・エテツィオと申しますわ」
「! エテツィオ家の……失礼致しました、お嬢様」
彼女の後ろに立っていたライは、随分とまぁ大胆な嘘をつくものだと思ったが、澄ま
し顔で護衛のふりをしながら、視線だけで周囲を観察した。さて、帰りはどこから逃げ
ようか。
「どうぞ、客間へご案内いたします――エテツィオ家の方がいらっしゃった際には丁重
に遇すよう言い遣っております故に」
ライが横目で女を見ると、表情のわずかな変化から、どうやら本人にとって予想以上
の反応のようだった。異国の伯爵家とこの家の令嬢にどのような関係があるのかは、き
っと知らない方がいいんだろうな。どうせ何かしら後ろ暗いに決まってるんだから。
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