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2025/04/27 05:02 |
立金花の咲く場所(トコロ)20/アベル(ひろ)
PC:アベル ヴァネッサ 
NPC:ギア ラズロ ウサギの女将さん
場所:エドランス城下(首都)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「……と、これでいいかな?」
 ギアはウサギの女将にいくつか確認を取りながら、いくつかの
書類を埋めていく。
「その就労学生ってなに?」
 ヴァネッサと横で見ていたアベルは、その書類の中で知らない
言葉を見つけて言った。
「ああ、金持ちなら、有る程度まとめ払いをしておいたり、親元
に支払いを任せたりすることもあるんだ。けど、お前らは生活費
は自分でかせがにゃならんからな。つまり、働きながら学生する
ってことさ。」
 アカデミーは簡単に言うと出世払いなので、通うことだけなら
誰でもできる。
 しかし、地元ならともかく、外からくるなら当然、生活費の負
担が重くのしかかる。
 それゆえ、一部の貴族階級や商家の裕福な者を除くほとんどは
働きながら通うのが一般的になっていた。
「ここを薦めるのにも関係があることなんだ。」
 ペンの柄で頬をかきながらギアは女将と目をかわした。
 頷いた女将は黒くつぶらな瞳を子供達に向け、一枚のチラシを
取り出した。
 それは「食堂」の「せせらぎ亭」の広告だった。
「え、これは?」
 ふともう一度周りを見渡したヴァネッサは首をかしげた。
 綺麗に磨かれた床は清潔で建物の雰囲気も悪くはないし、冒険
者向けに限らず、宿の一階は酒場というのは定番でもある。
 第一、アベルとヴァネッサが育った実家こそ、それが家業だっ
たのだからそれは不思議ではない。
 しかし、客の集まる時間に波があるとはいえ、実家の田舎です
ら、日が昇りきる前から店は開けていたものだった。
 なのに、もう街が完全に目覚めている昼日中、呼ばれるまで女
将が出てこないほど人気が無いなど普通は無い。
 そうした疑問が顔に浮き出ていたのか、女将は意外なほど優し
差を感じさせる笑みを浮かべて、チラシに書かれていた営業時間
を指し示した。
 そこには夕方からのみの営業になっていた。
「実はここせせらぎ亭は仕込み料理が評判の店でな……。」
 その言葉に照れたように女将はギアの肩をたたいた。
「まあまあまあ、そんなことないんですよ。ただ、私達は手があ
なた達ほど器用でないから、注文聞いてすぐお出しするよりも、
十分に手をかけたものをお出しするほうがあってたの。」
 最初こそ驚いたものの、思った以上に感情の伝わる表情を見せる
女将に感心するヴァネッサとラズロをよそに、まだ見ぬ名物料理に
思いをはせたアベルは素直に感嘆の声を上げた。
「へー、そういうのもいいなぁ。」
「……それが僕らにどういう関係が?」
 少し下がって様子を見ていたラズロが、アベルの呑気さに呆れた
のか、思わずギアに言った。
「ここは下宿人を食堂で使ってくれるのさ。もちろんほかに優先さ
せることがあるならそっちに行けばいいんだから、アカデミーの用
や、やってみたい仕事があれば遠慮なく挑戦できる。普通そんな仕
事日雇いの肉体労働しかないから、お前らみたいなのにはありがた
い所なのさ。」
「あらあらあら、別にたいしたことじゃないわ。」
 ギアの説明にウサギの女将は照れたよう笑った。
「私もアカデミーのお世話になってここまでこれたから、引退した
後は学生の皆さんのお役に立てたらって、ここをはじめたんですよ。」
 ふと気がついてアベルは女将に言った。
「女将さんもアカデミーの卒業生なの?」
「これでもちゃんと修士の資格を取ってるのよ。」
 女将はこころもち胸を張るようにしていった。
「まあ、興味があるんならおいおい色々ときいてみるといいさ。な
にしろ女将さんは俺やカタリナ達の先輩だからな。」
「「ええ!?」」
 アベルとヴァネッサは共に驚いた。
 年上なのは当たり前と思っていたが、両親の先輩などときくと、
いまさらながら、女将の年齢がわからなくなってくる。
(いや、年齢はともかく、このウサギさんが冒険者?)
 アベルは余りに想像がつかなくて、ただ驚いた。
 ラズロも、とくにギアに敬意をもっているだけにアベル以上に
衝撃は大きかった。
(ひょっとして、お母さんがあの店を開いたのって?)
 ヴァネッサは男ほど女将の経歴にそれほど驚かなかったが、直
感のような思いがよぎった。
 会ったときは、異種族との交流に不安を覚えていたのに、ちょ
っとしたつながりを見つけると、もうそんなに気にならない。
(みんな女将さんみたいだといいけど)
「あらあらあら、先輩って言われても、私は探索専門だったから、
魔法も剣もろくに使えないのよ。」
「んなこと言ってるけど、せせらぎの音も聞き分けるその耳にか
なうレンジャーは当時からいまもっていないんだぜ。」
 ギアと女将の話にアベルもラズロも興味ありげだったが、かき
終えた書類を封筒にまとめてサインをしたギアはよいしょ、と席
を立つ。
「よし、手続き済ましてくるわ。お前らも荷物はここにおい
ときゃいいから。」
 隅のほうを指差して、ついでに、と自分の荷物もアベルに渡す。
「じゃ、またあとで。」
 荷物を並べ終わった子供達と一緒に、女将に挨拶をして戸をく
ぐっていった。

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2007/02/12 21:35 | Comments(0) | TrackBack() | ▲立金花の咲く場所

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