PC:アベル ヴァネッサ
NPC:ギア ラズロ ウサギの女将さん
場所:エドランス城下(首都)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「え……えぇっと……」
アカデミーに通う間に滞在する、いわば住処となる場所。
……自分が、決めてしまっていいことなのだろうか。
ヴァネッサは少し戸惑った。
二人にだって言い分や考えというものもあるのではないだろうか。
「宿と寮って、何が違うんですか?」
いろんなことを悩みつつギアに尋ねてみると、彼はあごをなで、うーん、と視線を上
に向けた。
何かを思い出そうとしている仕草だ。
おそらく、自分の経験を織り交ぜて説明したいのだろう。
「寮はな、料金も安いし何より学校に近いからな、空き時間がちょっと増える。だが
な、やたら規則がうるさくってな。俺の通ってた頃だと、規則違反した奴には頭から
冷水ぶっ掛けてたな」
懐かしさと共に、あの頃の嫌な思い出の一つ二つも思い出したのだろう、ギアは少し
顔をしかめた。
「で、宿の方は、ちっと割高なんだよ。で、アカデミーから離れてるから早めに起き
る必要もある。ただ、寮じゃねえから規則もない。最大の利点は『好きにできる』っ
てことだな」
ヴァネッサは、ここでしばらく考えた。
甘ったれた考え方……なのかもしれないが、規則がうるさい寮よりも、多少自由の利
く宿の方が良いような気がした。
「……宿、にします」
それから、二人に対して、「どうするの?」という風に視線を向ける。
「俺も宿にする。ヴァネッサの発作、心配だし」
アベルはすぐに答えた。
気を使わせているのだろうか。
そう思うと、ヴァネッサの表情は曇った。
「僕は……」
残るラズロは、なかなか決まらない様子だった。
どうやら、彼は二者択一という行動が苦手らしい。
「折角知り合ったんだし、一緒だっていいんじゃねえの? 旅は道連れ世は情け、っ
て言うじゃん」
あっけらかんと言うアベルに、
「それは、この場合当てはまらないんじゃないか……?」
疑問を口にしつつも、彼は結局宿を選択した。
「じゃ、決定だな」
ガリガリとギアは頭をかいた。
(……宿の方が実は厳しいんだよな)
内心の言葉を、彼は口にしなかった。
まとめて面倒みてやる、とは言ったが、それは何でもかんでも指図して用意して膳立
てしてやる、という意味合いではない。
これから社会に出ていく彼らのために、自立心を育ててやらねばならない、という思
いがあった。
規則でビシビシ取り締まっている寮の方が、実は楽なのだ。
こちらで何も考えずとも、向こうが勝手にああしろこうしろと言ってくれるのだか
ら。
あとはそれにならって行動していればいいのだから。
まあ、「規則がうるさいのに何が楽なんだ」という意見もあるだろうが。
しかし、宿で寝泊りしながら勉学に励むというのは容易なことではない。
規則が無い、ということは、堕落しやすい環境である、とも言えるのだ。
自分に甘い人間では、あっという間にサボり癖がついてしまう。
実際、そういう風になってしまって、何も身につかないままアカデミーを去っていっ
た人間を、ギアは何人も見た。
「学生に評判のいい宿があるんだ。案内するからついてこい」
ギアは、三人の先頭に立って街を歩き出した。
* * * * * * *
ギアが案内したのは、アカデミーからそう離れていない場所にある、赤い屋根の小さ
な宿だった。
表に出ている看板には、『せせらぎ亭』と宿の名前が書かれている。
さらにその下に小さく、『下宿大歓迎』と記されていた。
「おーい、女将さーん!」
ギアは木製のドアを開け、奥に向かって声を張る。
人気は全く感じられないが、掃除がよく行き届いているようで、床はピカピカに磨か
れていた。
「はいはいはいはい、ちょっと待ってて」
奥の方から、やや高めの、中年女性の声が答える。
パタパタと慌ただしげな……しかし、人間のものにしては軽すぎる足音を立てて、
“店主”は現れた。
「まあまあまあ、お客さんね。いらっしゃい」
「こ……こんにちは」
ヴァネッサは、それだけを言うのがやっとだった。
「う、う、うさぎっ……?」
アベルは目をまん丸くしていたが、ラズロはいつもと同じく黙りこくっていた。
現れた“店主”は、人間ではなかった。
大きさは、人間の子供ぐらいだろうか。
真っ白い、ふさふさとした毛並みのウサギが、人間の衣服を着ていた。
本来のウサギとの相違点を挙げるとしたら、その背後でぴこぴこと揺れている、長い
尻尾だろう。
「女将、ここってまだ下宿させてくれるのか?」
「えぇえぇえぇ、大丈夫ですよ。うちみたいな小さい宿だと、旅人さんは気付いてく
れないもの。学生さんが下宿してくれなかったら、干上がっちゃうわ」
などと言いつつ、ウサギは両頬を押さえ、ふうぅ…とため息をついた。
「実はな、三人、下宿先を探してるんだが……ここ、空いてるか?」
「まあまあまあ! 大歓迎よぉ。こないだ、下宿してた人がアカデミーを卒業し
ちゃったもんだから、今、だぁれもいないのよ」
ウサギはキラキラと目を輝かせた。
人間であるヴァネッサにも、喜んでいる表情だとはっきり分かる。
「……だそうだが、どうする? ここにするか?」
ヴァネッサ、アベル、ラズロは何ともぎこちなく頷いた。
三人とも、人間以外の種族を見たことがなかったのである。
「ああ良かった。これでうちも安泰だわぁ」
ウサギはのん気に笑うと、
「じゃあ、ここに座って、ちょっと待っててね」
手近なところのテーブルを指し、椅子につくようすすめると、ウサギは宿屋のカウン
ターから紙を持って戻ってきた。
「この紙に必要事項書いてちょうだいね。これ、後でアカデミーに持ってかなきゃい
けないのよ。生徒の連絡先ってことになるから」
慣れた様子でそれぞれの前に紙を差し出しすウサギを見て、ヴァネッサは思った。
(もしかして、ギルドアカデミーって人間以外の種族も通ってるのかしら……?
……仲良くなれたらいいんだけど……)
NPC:ギア ラズロ ウサギの女将さん
場所:エドランス城下(首都)
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「え……えぇっと……」
アカデミーに通う間に滞在する、いわば住処となる場所。
……自分が、決めてしまっていいことなのだろうか。
ヴァネッサは少し戸惑った。
二人にだって言い分や考えというものもあるのではないだろうか。
「宿と寮って、何が違うんですか?」
いろんなことを悩みつつギアに尋ねてみると、彼はあごをなで、うーん、と視線を上
に向けた。
何かを思い出そうとしている仕草だ。
おそらく、自分の経験を織り交ぜて説明したいのだろう。
「寮はな、料金も安いし何より学校に近いからな、空き時間がちょっと増える。だが
な、やたら規則がうるさくってな。俺の通ってた頃だと、規則違反した奴には頭から
冷水ぶっ掛けてたな」
懐かしさと共に、あの頃の嫌な思い出の一つ二つも思い出したのだろう、ギアは少し
顔をしかめた。
「で、宿の方は、ちっと割高なんだよ。で、アカデミーから離れてるから早めに起き
る必要もある。ただ、寮じゃねえから規則もない。最大の利点は『好きにできる』っ
てことだな」
ヴァネッサは、ここでしばらく考えた。
甘ったれた考え方……なのかもしれないが、規則がうるさい寮よりも、多少自由の利
く宿の方が良いような気がした。
「……宿、にします」
それから、二人に対して、「どうするの?」という風に視線を向ける。
「俺も宿にする。ヴァネッサの発作、心配だし」
アベルはすぐに答えた。
気を使わせているのだろうか。
そう思うと、ヴァネッサの表情は曇った。
「僕は……」
残るラズロは、なかなか決まらない様子だった。
どうやら、彼は二者択一という行動が苦手らしい。
「折角知り合ったんだし、一緒だっていいんじゃねえの? 旅は道連れ世は情け、っ
て言うじゃん」
あっけらかんと言うアベルに、
「それは、この場合当てはまらないんじゃないか……?」
疑問を口にしつつも、彼は結局宿を選択した。
「じゃ、決定だな」
ガリガリとギアは頭をかいた。
(……宿の方が実は厳しいんだよな)
内心の言葉を、彼は口にしなかった。
まとめて面倒みてやる、とは言ったが、それは何でもかんでも指図して用意して膳立
てしてやる、という意味合いではない。
これから社会に出ていく彼らのために、自立心を育ててやらねばならない、という思
いがあった。
規則でビシビシ取り締まっている寮の方が、実は楽なのだ。
こちらで何も考えずとも、向こうが勝手にああしろこうしろと言ってくれるのだか
ら。
あとはそれにならって行動していればいいのだから。
まあ、「規則がうるさいのに何が楽なんだ」という意見もあるだろうが。
しかし、宿で寝泊りしながら勉学に励むというのは容易なことではない。
規則が無い、ということは、堕落しやすい環境である、とも言えるのだ。
自分に甘い人間では、あっという間にサボり癖がついてしまう。
実際、そういう風になってしまって、何も身につかないままアカデミーを去っていっ
た人間を、ギアは何人も見た。
「学生に評判のいい宿があるんだ。案内するからついてこい」
ギアは、三人の先頭に立って街を歩き出した。
* * * * * * *
ギアが案内したのは、アカデミーからそう離れていない場所にある、赤い屋根の小さ
な宿だった。
表に出ている看板には、『せせらぎ亭』と宿の名前が書かれている。
さらにその下に小さく、『下宿大歓迎』と記されていた。
「おーい、女将さーん!」
ギアは木製のドアを開け、奥に向かって声を張る。
人気は全く感じられないが、掃除がよく行き届いているようで、床はピカピカに磨か
れていた。
「はいはいはいはい、ちょっと待ってて」
奥の方から、やや高めの、中年女性の声が答える。
パタパタと慌ただしげな……しかし、人間のものにしては軽すぎる足音を立てて、
“店主”は現れた。
「まあまあまあ、お客さんね。いらっしゃい」
「こ……こんにちは」
ヴァネッサは、それだけを言うのがやっとだった。
「う、う、うさぎっ……?」
アベルは目をまん丸くしていたが、ラズロはいつもと同じく黙りこくっていた。
現れた“店主”は、人間ではなかった。
大きさは、人間の子供ぐらいだろうか。
真っ白い、ふさふさとした毛並みのウサギが、人間の衣服を着ていた。
本来のウサギとの相違点を挙げるとしたら、その背後でぴこぴこと揺れている、長い
尻尾だろう。
「女将、ここってまだ下宿させてくれるのか?」
「えぇえぇえぇ、大丈夫ですよ。うちみたいな小さい宿だと、旅人さんは気付いてく
れないもの。学生さんが下宿してくれなかったら、干上がっちゃうわ」
などと言いつつ、ウサギは両頬を押さえ、ふうぅ…とため息をついた。
「実はな、三人、下宿先を探してるんだが……ここ、空いてるか?」
「まあまあまあ! 大歓迎よぉ。こないだ、下宿してた人がアカデミーを卒業し
ちゃったもんだから、今、だぁれもいないのよ」
ウサギはキラキラと目を輝かせた。
人間であるヴァネッサにも、喜んでいる表情だとはっきり分かる。
「……だそうだが、どうする? ここにするか?」
ヴァネッサ、アベル、ラズロは何ともぎこちなく頷いた。
三人とも、人間以外の種族を見たことがなかったのである。
「ああ良かった。これでうちも安泰だわぁ」
ウサギはのん気に笑うと、
「じゃあ、ここに座って、ちょっと待っててね」
手近なところのテーブルを指し、椅子につくようすすめると、ウサギは宿屋のカウン
ターから紙を持って戻ってきた。
「この紙に必要事項書いてちょうだいね。これ、後でアカデミーに持ってかなきゃい
けないのよ。生徒の連絡先ってことになるから」
慣れた様子でそれぞれの前に紙を差し出しすウサギを見て、ヴァネッサは思った。
(もしかして、ギルドアカデミーって人間以外の種族も通ってるのかしら……?
……仲良くなれたらいいんだけど……)
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