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2025/03/10 07:41 |
立金花の咲く場所(トコロ) 25/ヴァネッサ(周防松)
PC:アベル ヴァネッサ 
NPC:ギア ラズロ ウサギの女将さん
場所:エドランス国 せせらぎ亭

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

三人がせせらぎ亭に戻ったのは、太陽がだいぶ傾いてきた頃だった。
昼間の日差しとは違う、濃くなった光が街に降り注ぐ。
それは、せせらぎ亭とて同じことであった。
赤い色の屋根は、オレンジ色に変わりつつある光を浴びて、真昼の頃よりも柔らかい
色合いに見えた。
「はいはいはい、おかえりなさぁい」
帰ってきたところを、女将が出迎える。
どうやら、開店準備もあらかた終わったようで、天井から吊られているランプには、
ぼんやりとした温かみのある明かりが灯っている。
「え……ええと、今帰りました」
実家でもないのに『ただいま』と言うのも気が引けて、ヴァネッサはそう言った。
たちまち、女将が表情を曇らせる。
「おかえりなさい、って言われたら『ただいま』でしょう?」
どうやら、少し機嫌を損ねてしまったらしい。そういった気遣いは無用、と考えてい
るのかもしれない。
「た……ただいま、です」
だからと言って、急に変えられるものではない。
今のヴァネッサにはこれが限界だった。
「うーん……」
女将としては、まだちょっと不満のようである。
「ただいま、おばちゃん!」
アベルは対照的に元気に返している。
それを見て、ようやく女将は表情の曇りを取り払った。
「うんうんうん、今度から皆もそうしてねぇ。ここは皆の家なんだから、変に気を使
わないでねぇ。ギクシャクしてると、お店の仕事もうまく行かなくなっちゃうんだか
らぁ」
「はーい……」
ヴァネッサは返事をしながら、ちらりとラズロを見た。
ラズロは、ギルドアカデミーから帰る道中からずっと、黙ったままだ。
元々あまり喋る性分ではないようだが、今のそれは『嫌なことがあったから、誰とも
喋りたくない』という感じの黙り方である。
(そういえば、オーベンス、って言われたあたりから、変だったような気がするけ
ど……)
家名で呼ばれるのが、そんなに嫌なのだろうか。
変な名前じゃないのに、とヴァネッサは首を傾げた。

「さあさあさあ、お店を開ける前に、お仕事の分担を決めましょう」
女将は、その可愛らしい前足……二本足で立って歩いているのだから、もはや手と呼
ぶべきか……を、ぺた、と合わせる。
「分担?」
聞き返したのはアベルである。
「だって、お客さんにお料理を出す以外にもすることがあるのよぉ? お掃除は皆で
やるとして……厨房で盛り付けをやる人とか、お客さんまでお運びする人とか、決め
なくちゃいけないわぁ」
「ちょっと待て、女将」
ギアが、片手を挙げる。
「その掃除って、まさか俺にまでやらせるつもりじゃないだろな?」
『皆でやるとして』、のくだりに引っかかるものを覚えたらしい。
「なぁに言ってるのよぉ。うふふふ。うちのお店の敷居をまたいだ以上、有効活用さ
せてもらうわよぉ。使えるものはなーんでも使うんだからぁ」
……おっとりとした可愛らしいウサギさん、という見た目に反して、女将は立派な商
売人根性をお持ちのようである。
せせらぎ亭の将来は安泰かもしれない。

「あ、あのっ」

ヴァネッサは、言わなくてはならないことを思い出した。
そう、あれだ。
「私……夜はあまり……その、全然駄目、ってわけじゃないんですけど……」
「どういうことかしらぁ?」
女将は、きょとんとヴァネッサを見上げる。
ヴァネッサは急に言いづらくなった。
(どうしよう)
自分の持病。夜になると襲ってくる、原因のよくわからない発作。
ギサガ村での落盤事故の日から、ここのところずっと軽い症状で済んでいるが、いつ
またあんなひどい発作を起こすか、わからないのだ。
発作がひどければ、その度に仕事を休ませてもらわなくてはならない。
(でも……)
そんな、満足に働けない人をうちに置いておくわけにはいきません、なんて言われた
ら、一体どうしたらいいのだろう。

「私、発作が……」
発作。
その一言を口にするのに、ヴァネッサはどれほどためらっただろうか。

「あ、あの……でも、軽い時とひどい時があって、軽い時はなんとか……でも、ひど
い時は、本当に、申し訳ないんですけど……えぇと、起きていられなくて……」

働けません、という一言がなかなか言えず、ヴァネッサの説明はどんどんと長くな
る。
説明すればするほど、まるで言い訳しているみたいな気持ちになって、心が苦しく
なっていく。
「うーん、それなら、朝はどう? 早くに起きて、お料理の仕込み作業をするんだけ
ど」
女将はあっさり、別の仕事を持ちかけてきた。
「えっ……それは、で、でも、夜はほとんど使いものにならないんですよっ?」
「うふふふふふ、だぁいじょうぶ。言ったでしょう? うちは、お客さんの注文を聞
いてすぐに料理をお出しするような店じゃあないの。ふらっと来る人よりも、朝のう
ちに予約して、夜に来るような人が多いんだからぁ」
……ということは……。
(よかった、働ける!)
ヴァネッサは、ぱあ、と表情を輝かせた。
「私、早起きします!」
「ふふふ、これで朝の部は決定ねぇ」
ウサギの女将は頬をなでると、少年二人に向き直った。

「さてと、それじゃあ男の子二人はどうしましょ」


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2007/02/12 21:41 | Comments(0) | TrackBack() | ▲立金花の咲く場所

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