PC:アベル ヴァネッサ
NPC:ギア
場所:ギサガ村
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ヴァネッサ、今……。」
アベルは自分の思考がほとんど止まりかけているのを自覚しながら、
それでも何か言わなくてはと、絞り出すようにうめいた。
ここにきたのに深い意味は無かった。
実に単純に、どうせアカデミーの話になるのなら、一緒にきこう、と
それだけのことだった。
きてみたところなにやら深刻そうな話をしてるみたいだったので、藪
からでるに出れなくなってしまったのも、なんとなくていどの事だった。
そんな中、出るタイミングをうかがっていたアベルが聞いてしまった
のは、ヴァネッサの命が長くないという事実だった。
辺境の小さな村で生きてきたアベルにとって、家族は小さな世界のほ
とんどといっていいほどの存在。
それも、冒険にでた父なら有る程度覚悟の範疇といえるが、よりにも
よって、最も近くの存在である姉が欠けるなど、想像の中ですら考えた
ことのないことだった。
「そ、その話……本当なのか?」
喉の奥が乾いて張り付いたかのような……なぜか体が声を出すのを拒
絶してるかのような感覚を感じながら、アベルはようやくで声を絞り出
す。
「アベル君……。」
ヴァネッサも隠し通せるとは思ってなかったが、打ち明けるのはもっ
とさしせまってから、と考えていたため、まだ心の準備ができていず、
動揺を隠せなかった。
それでも仮にも姉であるヴァネッサは、つとめて冷静に返事をした。
「ええ、ほんとうよ。私のお母さん……生んでくれたお母さんもそうだ
ったし、おばあちゃんもそうだったの。」
「なんでだよ!」
「私達の血筋は強力な呪詛に縛られてる。それから逃れる術はないのよ。」
ヴァネッサは全てを受け入れたかのように静かに話した。
その様子に口を挟もうとしたギアも躊躇してしまったほどだった。
だが、アベルはむしろ何かいわなければならないことがあるような気
がして、さっきまでとは逆に考えるより先に口を開いていた。
「ヴァネッサが自分で確かめたわけじゃないだろ! アカデミーにいけ
ば情報も集められるかもしれないし、修行次第で、自分の力でのろいを
解けるかもしれないじゃないか。」
「ダメよ。私達の運命は決められているの。」
「だから、何もする前から決め付けるなよ!」
アベルは言い知れない怒りにも似た思いを感じていた。
その思いが先ほどからアベルの口を動かしていたのだ。
自分の運命を真の親からきいたのなら、ヴァネッサがこの村に来たと
きにはすでに覚悟が決まっていたのかもしれない。
アベルが覚えている最初から、ヴァネッサは「良い子」だった。
優しく気のつく少女は村の大人達にも可愛がられ、アベルにとっても
自慢になる姉であった。
とはいえ、人のためにという思いが強すぎ、先の洞窟のときのように、
飛び出していってしまうところがあり、アベルでさえも心配させられる
こともあった。
それも持ち前の優しさが過ぎているのだろうと思っていたのだが、も
しそれが、自分をあきらめているがゆえ、外に向ける思いが先走るのだ
としたら……。
「アベル君……私は大丈夫だから……。」
思いが言葉にならずに焦れるアベルを気遣うように、ヴァネッサはゆ
っくり近寄り、軽く頬に触れようと手を伸ばす。
「違う!」
その手をつかみ、叫ぶようにアベルは言った。
「違う、違う!」
「アベル君……。」
「ヴァネッサはわかってない!」
限られた寿命、それもまだ幼い内から知ってしまったとしたら……。
頑丈すぎる体を持っているアベルは死をほんとの意味で感じたことは
無い。
強いて言えばあの洞窟のときだが、それにしても戦士としての昂ぶり
や村を護る使命感が先に立ち、死を考えたとは言いがたい。
そんなアベルはヴァネッサの気持ちを完全に理解した言葉を言えるわ
けは無かったが、それでもいわなければならない言葉があった。
「ヴァネッサ! 俺が……俺達がヴァネッサに生きていて欲しいんだ!」
悩んで焦れて、結局でてきたのは唯一つの本音の言葉。
「アベル君……。」
人生経験があるがゆえに、少女の苦しみを想像できてしまい、口を挟め
ずにいたギアの目元が緩む。
アベルの心が伝わったかどうかはわからないが、それでいいと思えた。
(嬢ちゃんも気がついてるはずだ。精霊が力を貸したのは、嬢ちゃんが皆
に愛されてるからなんだぜ)
それは当事者で無いからこその傲慢かもしれない。
しかし、そうだと知っても望まれる、それこそが百の言葉に勝る真実。
ギアもまた、少女の未来に光を望む一人であるのだった。
NPC:ギア
場所:ギサガ村
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ヴァネッサ、今……。」
アベルは自分の思考がほとんど止まりかけているのを自覚しながら、
それでも何か言わなくてはと、絞り出すようにうめいた。
ここにきたのに深い意味は無かった。
実に単純に、どうせアカデミーの話になるのなら、一緒にきこう、と
それだけのことだった。
きてみたところなにやら深刻そうな話をしてるみたいだったので、藪
からでるに出れなくなってしまったのも、なんとなくていどの事だった。
そんな中、出るタイミングをうかがっていたアベルが聞いてしまった
のは、ヴァネッサの命が長くないという事実だった。
辺境の小さな村で生きてきたアベルにとって、家族は小さな世界のほ
とんどといっていいほどの存在。
それも、冒険にでた父なら有る程度覚悟の範疇といえるが、よりにも
よって、最も近くの存在である姉が欠けるなど、想像の中ですら考えた
ことのないことだった。
「そ、その話……本当なのか?」
喉の奥が乾いて張り付いたかのような……なぜか体が声を出すのを拒
絶してるかのような感覚を感じながら、アベルはようやくで声を絞り出
す。
「アベル君……。」
ヴァネッサも隠し通せるとは思ってなかったが、打ち明けるのはもっ
とさしせまってから、と考えていたため、まだ心の準備ができていず、
動揺を隠せなかった。
それでも仮にも姉であるヴァネッサは、つとめて冷静に返事をした。
「ええ、ほんとうよ。私のお母さん……生んでくれたお母さんもそうだ
ったし、おばあちゃんもそうだったの。」
「なんでだよ!」
「私達の血筋は強力な呪詛に縛られてる。それから逃れる術はないのよ。」
ヴァネッサは全てを受け入れたかのように静かに話した。
その様子に口を挟もうとしたギアも躊躇してしまったほどだった。
だが、アベルはむしろ何かいわなければならないことがあるような気
がして、さっきまでとは逆に考えるより先に口を開いていた。
「ヴァネッサが自分で確かめたわけじゃないだろ! アカデミーにいけ
ば情報も集められるかもしれないし、修行次第で、自分の力でのろいを
解けるかもしれないじゃないか。」
「ダメよ。私達の運命は決められているの。」
「だから、何もする前から決め付けるなよ!」
アベルは言い知れない怒りにも似た思いを感じていた。
その思いが先ほどからアベルの口を動かしていたのだ。
自分の運命を真の親からきいたのなら、ヴァネッサがこの村に来たと
きにはすでに覚悟が決まっていたのかもしれない。
アベルが覚えている最初から、ヴァネッサは「良い子」だった。
優しく気のつく少女は村の大人達にも可愛がられ、アベルにとっても
自慢になる姉であった。
とはいえ、人のためにという思いが強すぎ、先の洞窟のときのように、
飛び出していってしまうところがあり、アベルでさえも心配させられる
こともあった。
それも持ち前の優しさが過ぎているのだろうと思っていたのだが、も
しそれが、自分をあきらめているがゆえ、外に向ける思いが先走るのだ
としたら……。
「アベル君……私は大丈夫だから……。」
思いが言葉にならずに焦れるアベルを気遣うように、ヴァネッサはゆ
っくり近寄り、軽く頬に触れようと手を伸ばす。
「違う!」
その手をつかみ、叫ぶようにアベルは言った。
「違う、違う!」
「アベル君……。」
「ヴァネッサはわかってない!」
限られた寿命、それもまだ幼い内から知ってしまったとしたら……。
頑丈すぎる体を持っているアベルは死をほんとの意味で感じたことは
無い。
強いて言えばあの洞窟のときだが、それにしても戦士としての昂ぶり
や村を護る使命感が先に立ち、死を考えたとは言いがたい。
そんなアベルはヴァネッサの気持ちを完全に理解した言葉を言えるわ
けは無かったが、それでもいわなければならない言葉があった。
「ヴァネッサ! 俺が……俺達がヴァネッサに生きていて欲しいんだ!」
悩んで焦れて、結局でてきたのは唯一つの本音の言葉。
「アベル君……。」
人生経験があるがゆえに、少女の苦しみを想像できてしまい、口を挟め
ずにいたギアの目元が緩む。
アベルの心が伝わったかどうかはわからないが、それでいいと思えた。
(嬢ちゃんも気がついてるはずだ。精霊が力を貸したのは、嬢ちゃんが皆
に愛されてるからなんだぜ)
それは当事者で無いからこその傲慢かもしれない。
しかし、そうだと知っても望まれる、それこそが百の言葉に勝る真実。
ギアもまた、少女の未来に光を望む一人であるのだった。
PR
トラックバック
トラックバックURL: