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2024/11/01 10:21 |
立金花の咲く場所(トコロ) 15/ヴァネッサ(周防松)
PC:アベル ヴァネッサ 
NPC:ギア カタリナ ラズロ ランバート
場所:ギサガ村

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

目を覚ますと、既に朝日は昇りきった後だった。

起き上がり、ヴァネッサはぼんやりと前方に視線を投げる。
記憶にあるうちでは、壁伝いにずるずると横倒しに倒れたはずである。

それなのに、朝目覚めてみるとどういうわけか、きちんとベッドに寝ていた。
無意識のうちにベッドの中に入ったのかなぁ、とヴァネッサは寝ぼけた頭で考えた。

…………。

(いけないっ)
寝起きの頭が、ようやく正常な回転を始める。
そうだ、いつまでも寝ぼけていられない。
今日は、ゆうべの酒盛りの片づけをしなくてはならないのだ。
片付けをしている人がいるというのに、グースカ寝ていたなどとあっては申し訳な
い。

慌てて寝巻きからいつもの服に着替え、ヴァネッサは台所に向かった。
空腹で手伝いに行って倒れたら、かえって片付けの邪魔になってしまう。
そうならないように、チーズの一かけらでもお腹に入れておこう、と思ったのであ
る。

「……あれ……?」

しかし、台所に行ってみてヴァネッサは拍子抜けした。
普段、家族は台所にあるテーブルで食事をする。
片付けに出払っているのなら誰もいないはずのテーブルに、アベルとカタリナ、さら
にランバートとギア、ラズロがついていた。
しかも食事をとっている。

「あ、起きたね。おはよう」
暖炉の鍋の中身をかき混ぜていたカタリナが笑う。
鍋の中身は、匂いから察するにシチューだろう。
「お、おはよ……ございます」
家族以外の人間もいることに気付いて、ヴァネッサは語尾に敬語を付け足した。

「お義母さん……片付けは?」
「ん? 昨日のうちに終わったよ。昨日は疲れただろ? もっと寝てても良かったん
だよ」
「……ごめんなさい」
思わずしょげるヴァネッサだった。
「気にすんなって。発作だったんだろ?」
むしゃむしゃとパンを頬張りながら、アベルが口をはさむ。
「え?」
その言葉に、ヴァネッサは一瞬、戸惑ったような顔をした。
よく見れば、カタリナとギアの表情も固まっているのだが……それには気付かなかっ
た。
「そんなに周りに気ぃ使うことねーじゃん。どーんと構えてりゃいいんだよ、どーん
と」
「う…うん」
ヴァネッサは、曖昧に返事をし、頷いた。
『発作』の話題になると、最近はあることが頭をよぎって仕方がなかった。
避けることのできない、嫌でも考えなくてはならない事態。
だけど、それだけは誰にも言いたくなかった。

『発作』のことを知った時の、グラントとカタリナのことを思い出す。
二人はひどく心配し、喉や肺に良いという薬草を煎じて飲ませてくれたり、つきっき
りで看病してくれたり、嫌な顔一つせずに世話をしてくれた。
そのことを思う時、ヴァネッサは感謝すると同時に、『すまない』という気持ちが沸
き上がった。
二人にとってはその分、負担だっただろうから。
それに、二人がヴァネッサのことにかかりきりになっている間、アベルは随分寂しい
思いもしただろうから。

父親が、『これが現れたら、お前はあと3年しか生きられない』と言っていた刻印。
記憶にある母親にも、胸の中央にそれらしいものがあった。

それが自分の胸の中央に現れた時、ヴァネッサは誰にも伝えなかった。

これ以上の負担を家族にかけたくなかったのだ。
ヴァネッサは一人、決めたのである。
――『その時』が来るまで、このことは黙っていよう、と。
どうせ、どうにもならないことなのだから。

……発作のことで話題が掘り下げられてはいけない。
ヴァネッサは、話題を変えなくちゃと思った。

「あ、そ……そうだ」
ヴァネッサは、ちらりとラズロに目をやった。
「宿のお客さん、どうして家の方でご飯食べてるの? やっぱり片付いてないん
じゃ……」
「ああ、それね」
カタリナが、一枚の皿を取り、シチューをよそう。
コトコトと煮込まれたことがわかるとろみ具合と、優しい匂い、ほかほかと立つ湯気
がなんとも食欲をそそる。
「人数少ないし、昔からの知り合いだから、こっちで一緒に食ったほうがいいと思っ
てね」
ランバートは以前、宿に長期滞在していたことがあるし、ギアはカタリナの幼なじみ
だ。
今更気がねする必要もないからと、そういうことになったらしい。
しかし、ギアの弟子であるラズロは、どこか居心地悪そうにしていた。

カタリナからシチューの盛られた皿を受け取ると、ヴァネッサは空いた場所に腰を降
ろした。
そこはアベルとラズロのちょうど中間ほどの場所だった。


「ヴァネッサちゃん」
「はい?」
とりとめもない会話に参加したりしながらあらかた食べ終えたところで、ギアが話し
かけてきた。
「これから、時間あるか?」
「え……」
それはどういう意味なんだろうか、とヴァネッサは思わず勘ぐってしまった。
一応、多感な年頃である。
これがよぼよぼのおじいさんだったりしたなら、別に何とも思わなかったところだ
が、ギアはまだそれほどの年齢ではない。
まさかそんなことあるわけないでしょ、と冷静になろうとすればするほど、どうして
か顔が赤くなってくる。

「先生……」
ラズロはギアに軽蔑したような目を向け、
「ギア……アンタ、昨日あたしに言われたこと、忘れたんじゃないだろうね?」
カタリナは拳を握り、
「なんだ?」
アベルはきょとんとした顔をしていた。
彼はまだ、そういうところに思考が働かないらしい。

「い、いや、違う、違うって」
ギアは、特にカタリナの拳を恐れながら両手を前に出して「落ちつけ」と訴えた。
「……誤解を招くような物言いをするからじゃぞ。はっきり言わんか」
ランバートは険しい顔をして茶をすすっている。

ゴホン、とギアは気まずそうに咳払いをした。
その頬は、心なしか赤らんでいる。

「い、いや、あのな。その……アベルに昨日話したことを話そうと思って」
「あ、そう、そうですか」
妙な勘違いをしたことに気付き、
(私……自意識過剰なのかな……)
と、ヴァネッサはちょっとした自己嫌悪に襲われた。

「今から大丈夫か?」
「はい」
ヴァネッサが頷くと、
「んじゃ、ちと借りてくぞ」
ギアはカタリナに一言伝え、椅子から立ち上がって玄関に向かって歩き出した。
察するに、ついて来い、ということらしい。
ヴァネッサは、「ごちそうさまでした」と言うと、その後を追った。



家を出たギアが足を止めたのは、宿の裏庭にあたる場所である。
茂みに囲まれた場所で、傍らには薪や樽が積み上げられている。
日常的に人の気配のない場所だった。

「あのな、ヴァネッサちゃん」
そんな場所で、ギアはヴァネッサと向き合い、口を開く。
「はい」
「アベルにはもう話したことなんだが」
ガリガリ、とこめかみの辺りをかき、ギアは続ける。

「ギルドアカデミーに興味ないか?」
「ギルドアカデミー……ですか」
一応、名前ぐらいは知っている。
元は王立の学術機関だった王立アカデミーに、ギルドが協力して技術や知識などを伝
達していくうちにギルドアカデミーと呼ばれるようになった機関のことである。
その役割を一言で言えば、『エドランス国の人材育成』だろう。

「どうして、その話を私に……?」
だいたいの答えは予想がつくというのに、ヴァネッサの口はそんな言葉を紡いでい
た。
「率直に言うと、スカウトだな」
……予想は当たっていた。
ヴァネッサは、表情を曇らせて片肘を押さえた。
「折角ですけど、私、そこに入れるぐらいの才能、ないと思います」
「そんな事ない。生まれついて治癒の魔法が使えたんだろ?」
「でも、それって本当に弱いものなんです。お義父さんやランバート先生に教わった
けど、いまだに重症の傷は治せません」
「ちゃんと専門的な勉強をしたら、できるようになるさ」

ヴァネッサは、ギアの顔を見れなかった。

お願い。
お願いだから、これ以上かまわないでください。
ここで引き下がってください。

「グラントも…あいつも、多分それを望んで」
「あ…あのっ!」

遮るように、ヴァネッサは声を上げていた。
ギアは、真摯な目でじっと見つめ返す。

「家族には、絶対……絶対、言わないでください。私、あと……3年しか、生きられ
ないんです」

言った。
とうとう、言ってしまった。
誰にも言わないでいた……家族にすら黙っていたことを。

「だから、もう何をやったって意味ないんです。どうせ、あと3年だけなんだか
ら……」

内心にずっと溜め込み続けていたものを吐き出した後、ヴァネッサは一気に力が抜け
ていくような気がした。

「……それで、か」
「え?」
ギアの呟きを聞きとがめ、思わず顔を上げたその時――近くの茂みが、ガサッ、と大
きな音を立てた。
いきなりのことに驚いて身をすくめ、それから、おずおずとそちらの方向に目を向け
る。

「あ……アベル君」

ヴァネッサの視線の先。
茂みの向こうに、アベルがと驚いた表情で立ち尽くしていた。

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2007/02/12 21:33 | Comments(0) | TrackBack() | ▲立金花の咲く場所

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