PC:アベル ヴァネッサ
NPC:村のみなさん ギア ランバート
場所:ギサガ村 宿屋
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ギサガ村は、田舎である。
一日の大半は畑仕事や家事に費やされ、あとは寝るばかりというのが日常である。
つまり、楽しみというものが少ないのである。
都市ならば遊びに行く場所もあるのだが、田舎にはそれもない。
村人達のほとんど唯一の楽しみと言っても過言ではないものが――酒、だった。
そのためなのだろうか、何かと理由をつけては酒を飲む機会をもうける。
「種まきが終わったから」だの、「息子がもうじき嫁をもらうから」だのといった程
度ならば、理解もできよう。
しかし、「夢に出てきた神様が、今日酒を飲むべしとお告げをくださったから」だ
の、「隣の家だって飲んでるんだから俺だって飲む」だのといったものに関しては、
こじつけもいいところである。
今回の酒盛りの口実は、「村の一大事を助けてくれた旅のお方(ギアとラズロのこと
である)に、もてなしの一つもないのでは失礼」というものだった。
ともかく、落盤事故の報告を聞き終えた村長のはからいで、カタリナの経営する酒場
が貸しきられ、酒盛りが決行されることとなったのである。
「怪我を治療したばかりの学者達には、体に障るといけないので酒を飲ませない」と
いう条件付きではあるが。
「お師匠。まま、グッと飲んで」
酒が入って上機嫌のギアは、ランバートの持つグラスにどぼどぼと酒を注いだ。
グラスの八分目ほどまで酒で満たされていたところへ、またさらにどぼどぼと注ぐも
のだから、グラスから容赦なくあふれ出た酒がランバートの衣服を濡らしたのだが、
ギアは全く意に介しない。
「……あまりはしゃぐものではないぞ。めでたい席の酒盛りとは違うのじゃからな」
「だーいじょうぶですって!」
バン、と胸板を叩くそのさまは、まるきり酔っ払いである。
ランバートは、はぁ、と短く嘆息をもらした。
そんなことにはまったく気にしないギアは、今度はぐるぐると酒場内を見まわす。
「うぉーい! ラズロッラズロッ、ラズロはどこ行ったぁー?」
しかし、いくら探しても、村人でわいわいと大騒ぎしている酒場内に、ラズロの姿は
なかった。
「料理お待ちぃ!」
そこへ、厨房から料理ののった皿を持ってアベルが現れた。
両手に一つずつ、そして腕にももう一皿ずつのせて運ぶという、なかなか器用なこと
をしている。
「おっ、アベル、ラズロ見なかったか?」
「へ? ラズロ?」
串焼きの皿をテーブルに置き、アベルは首を傾げる。
「そういや、見かけないな。見つけたら『呼んでる』って教えとけばいい?」
「おぅ、頼むぜー。あいつ、こういう集まりの席になるといつもいないんだよなぁ。
ちゃんと参加しなきゃいかんって、いつも言ってるんだがよぉ」
「ふーん。美味いもの食えるんだから、参加しといた方が得なのにな」
「ところでよー、アベル」
ギアは、酔っ払い特有の、でろんとした瞳をアベルに向ける。
「お前、ギルドアカデミーって興味あるかぁ?」
一方、こちらは厨房である。
厨房には村中の手の空いている女性が集まって、料理に大忙しである。
ヴァネッサはというと、ここの片隅でイモの皮むきをしていた。
しかし、どうも様子がおかしい。
どこか暗い表情を浮かべ、時折、妙な咳をしていた。
「ヴァネッサちゃん、大丈夫?」
声をかけられ、ヴァネッサは「大丈夫」という意味をこめて微笑みを返した。
「やだ、顔色が悪いわよ。もう休んだら?」
その声を聞きつけてか、他の女性達も気遣わしげな視線を向けてくる。
「あたし、魔法のことってよくわからないけど、特別な力を使うんでしょ? 男ども
以上に疲れてるんじゃない?」
「そうよ、無理して寝こむようなことになったら、それこそかえって申し訳ないわ」
「……でも…こんな、忙しい時に一人だけ休んでるのって、悪いですから……」
言いながら、ヴァネッサは窓の外へと視線を向ける。
山際の空の色は、オレンジ色である。
上に行くに従い、青の度合いが濃く暗くなっていく。
――もうすぐ、夜になる。
そっと胸に手をあて、ゆっくりと深呼吸を繰り返す。
喉の違和感はおさまらないが、まだ大丈夫だろう。
本当に酷くなるのは、これからだ。
NPC:村のみなさん ギア ランバート
場所:ギサガ村 宿屋
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ギサガ村は、田舎である。
一日の大半は畑仕事や家事に費やされ、あとは寝るばかりというのが日常である。
つまり、楽しみというものが少ないのである。
都市ならば遊びに行く場所もあるのだが、田舎にはそれもない。
村人達のほとんど唯一の楽しみと言っても過言ではないものが――酒、だった。
そのためなのだろうか、何かと理由をつけては酒を飲む機会をもうける。
「種まきが終わったから」だの、「息子がもうじき嫁をもらうから」だのといった程
度ならば、理解もできよう。
しかし、「夢に出てきた神様が、今日酒を飲むべしとお告げをくださったから」だ
の、「隣の家だって飲んでるんだから俺だって飲む」だのといったものに関しては、
こじつけもいいところである。
今回の酒盛りの口実は、「村の一大事を助けてくれた旅のお方(ギアとラズロのこと
である)に、もてなしの一つもないのでは失礼」というものだった。
ともかく、落盤事故の報告を聞き終えた村長のはからいで、カタリナの経営する酒場
が貸しきられ、酒盛りが決行されることとなったのである。
「怪我を治療したばかりの学者達には、体に障るといけないので酒を飲ませない」と
いう条件付きではあるが。
「お師匠。まま、グッと飲んで」
酒が入って上機嫌のギアは、ランバートの持つグラスにどぼどぼと酒を注いだ。
グラスの八分目ほどまで酒で満たされていたところへ、またさらにどぼどぼと注ぐも
のだから、グラスから容赦なくあふれ出た酒がランバートの衣服を濡らしたのだが、
ギアは全く意に介しない。
「……あまりはしゃぐものではないぞ。めでたい席の酒盛りとは違うのじゃからな」
「だーいじょうぶですって!」
バン、と胸板を叩くそのさまは、まるきり酔っ払いである。
ランバートは、はぁ、と短く嘆息をもらした。
そんなことにはまったく気にしないギアは、今度はぐるぐると酒場内を見まわす。
「うぉーい! ラズロッラズロッ、ラズロはどこ行ったぁー?」
しかし、いくら探しても、村人でわいわいと大騒ぎしている酒場内に、ラズロの姿は
なかった。
「料理お待ちぃ!」
そこへ、厨房から料理ののった皿を持ってアベルが現れた。
両手に一つずつ、そして腕にももう一皿ずつのせて運ぶという、なかなか器用なこと
をしている。
「おっ、アベル、ラズロ見なかったか?」
「へ? ラズロ?」
串焼きの皿をテーブルに置き、アベルは首を傾げる。
「そういや、見かけないな。見つけたら『呼んでる』って教えとけばいい?」
「おぅ、頼むぜー。あいつ、こういう集まりの席になるといつもいないんだよなぁ。
ちゃんと参加しなきゃいかんって、いつも言ってるんだがよぉ」
「ふーん。美味いもの食えるんだから、参加しといた方が得なのにな」
「ところでよー、アベル」
ギアは、酔っ払い特有の、でろんとした瞳をアベルに向ける。
「お前、ギルドアカデミーって興味あるかぁ?」
一方、こちらは厨房である。
厨房には村中の手の空いている女性が集まって、料理に大忙しである。
ヴァネッサはというと、ここの片隅でイモの皮むきをしていた。
しかし、どうも様子がおかしい。
どこか暗い表情を浮かべ、時折、妙な咳をしていた。
「ヴァネッサちゃん、大丈夫?」
声をかけられ、ヴァネッサは「大丈夫」という意味をこめて微笑みを返した。
「やだ、顔色が悪いわよ。もう休んだら?」
その声を聞きつけてか、他の女性達も気遣わしげな視線を向けてくる。
「あたし、魔法のことってよくわからないけど、特別な力を使うんでしょ? 男ども
以上に疲れてるんじゃない?」
「そうよ、無理して寝こむようなことになったら、それこそかえって申し訳ないわ」
「……でも…こんな、忙しい時に一人だけ休んでるのって、悪いですから……」
言いながら、ヴァネッサは窓の外へと視線を向ける。
山際の空の色は、オレンジ色である。
上に行くに従い、青の度合いが濃く暗くなっていく。
――もうすぐ、夜になる。
そっと胸に手をあて、ゆっくりと深呼吸を繰り返す。
喉の違和感はおさまらないが、まだ大丈夫だろう。
本当に酷くなるのは、これからだ。
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