※これは、夢御伽の続きです。
第一話 探し人
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PC:礫 ラルフ・ウェバー
NPC:メイ 朧月の店主
場所:ポポル~ポポル近郊遺跡
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「……なぜ、そのことを知っている?」
朧月の店主は訝しげに聞いてきた。
数瞬、礫は瞬きし、躊躇いがちに言った。
「ガリュウ・ソーンさんから聞きました」
そう答えるしかない。ガリュウの千里眼を信じるのだ。ガリュウと親交を深めている朧月の店主はその一言で理解したように一つ頷くと、重たい口を開いた。
「……そうか。それならば信用するがね。…………困り事というのはね、ある遺跡にある男が一人で行ってしまったんだ。そこへ行って、その男を探し出してきて欲しいんだ。――私にはどうしてもあいつを止めることが出来なかった。あいつはいつだって無茶ばかりする。だから、私が止めなくてはいけなかったのに――」
涙が一滴店主の頬を伝った。その素振りから、非常に後悔しているようである。そんなに危険な場所に行ったのか、と訊ねてみれば、付近の遺跡でも指折りの危険地帯だと返ってきた。どうしてそんな危険な場所に行ったのかと問うても、首を横に振るばかり。解らないというのだ。ただ、どうしても行かなければならない、一人ででも行く、と言い張っていたそうだ。巌の意思を感じてそれ以上は止められなかったという。
「僕に任せてください。僕が連れて帰ってきます」
礫は、無意識のうちに言葉を紡いでいた。礫の性格がそうさせるのだろう、他人の力になりたい、他人を助けたいと意識が動くのだ。確かな自信などない。今まで依頼をこなしてこれた、自身の実績と力を信じるのみだ。
酒場を出て大通りを東の方角へ歩を進める。目指す遺跡の有る方角だ。その遺跡はこの地域に住んでいる者達から、太陽の遺跡と呼ばれている。太陽の昇る方角にあるからだそうだ。大規模な遺跡で、未探査部分もかなり残っているという。礫は胸が躍るのを抑えきれずに、足早になっていった。
「ねぇ、れっきー……」
「ん? 何? メイちゃん」
歩きながら、突然話しかけてきたメイに顔を向ける。ややひきつり気味の笑顔は、今は歩くことに集中したいからだ。それでも笑顔を忘れないのはメイへの愛ゆえだ。
「あんなに簡単に引き受けちゃって良かったの?」
「でも、そうしないとガリュウさんが僕達の頼みごとを聞いてくれなかったからさ」
ガリュウのせいにしてみる。しかし、遺跡と聞いて胸が躍った事実は隠したままだ。しょうがないじゃん、と肩を竦めてみせる。メイはそれで納得してくれたようだ。本当に素直でいい子だ。礫は愛おしそうにメイを見詰める。歩みはそのままで。
やがて、町の出入り口に辿り着く。町を出たところで礫は地図を広げた。先ほど酒場の主人が遺跡までの道順を記してくれた地図だ。地図通りに行くと、半日もかからないところに遺跡はあった。だが、場所は近いが遺跡の深度は深く、一度潜り込んだら一週間や二週間では戻って来れないという。さらに魔物が住み着いているのだ。町の者達は、町に魔物が侵入しないように遺跡の付近に結界を張ってあるという。ある種の呪言を唱えないと遺跡の中に入れないようになっている。
陽が傾いてきた午後の日差しを遮るように、木々が生い茂っている。翡翠色を濃くしたような、灰色に近付いたような緑色が地面の茶色と相まって暗い印象を受ける。急がないと、と礫は歩をより一層早めた。急がないと夜になってしまう。夜になれば魔物が活発に活動する。そうなれば少し厄介な仕事になってしまう。魔物は油断できない。どのような攻撃をしてくるか解らないからだ。人間だったら対処もできよう。だが、魔物は。
礫の意識が途中で途切れたのは、メイに話しかけられたからではない。目的の遺跡が見えてきたからだ。
遺跡に近付くと、入り口の目の前で写生をしている男が居た。髪は銀髪で短く切りそろえられている。後姿なので顔は判らない。年は、若い。二十代後半といったところか。礫は徐に男に近付いていった。あ、あのう、すみません。ためらいがちに声を掛けてみる。男が振り向いたとき、妖精を肩に乗せた自分を見てどう思うだろう。不安が胸の中で膨らんでいく。なんだい? 軽やかに男が振り向いた。
男の容姿は端的に言って盗賊然としていた。まず目に付くのは、その細身のシルバーフレームの眼鏡だ。おそらく異界流出品だろう。身長は百八十はあろうか。少なくとも礫よりは背が高いことは確かだ。その長身に見合った黒のハイネックのースリーブを着、足の長さを誇示するように黒の細身のパンツをはいている。腰には濃灰色の帆布製のチョークバッグと、ナイフホルダーを装着していた。動きやすさを一番に考えた、盗賊らしいスタイルだ。
以外にも男は驚愕の素振りを見せなかった。妖精を肩に乗せた礫を見てもなんとも思わなかったのだろう。普通に接してきている。その事実が礫にとっては意外だった。
あのう、ここに人は通りませんでしたか? 礫の問いかけに、男は答えた。
「ああ、その男なら知ってますよ。さっき入って行きました」
屈託のない笑顔でさらりと言った。
「何故、止めなかったんですか! 危険な場所なんですよ!」
礫の怒声に、
「そんなに危険なのですか?」
とぼけた顔で訊いてきた。この男は、知らない。この遺跡の、否、遺跡そのものの怖さを。迷宮と化している遺跡の広大さ、魔物が徘徊している危険極まりない地帯。遺跡とは本来そういう場所なのだ。観光地化が進んだ遺跡は元来ほとんど探査が終わっている、いわば危険を排除した状態にされているのだ。そういう遺跡にはえてして宝物など転がっていない、冒険者にとっては魅力のない存在と化しているのだ。
未探査の遺跡の前で写生をしていたこの男が、果たして冒険者なのか観光者なのか。そのどちらなのか見極める必要はありそうだ。先ほどのとぼけた言葉から察するに、この遺跡そのものを脅威とは見なしていないようだ。しかし、もし観光者ならば無知ゆえの過ちとも思える。
礫は男に挑むように睨み付けた。
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第二話 被写体の前で
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PC:礫 ラルフ・ウェバー
NPC:メイ
場所:ポポル近郊遺跡
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「何故、止めなかったんですか! 危険な場所なんですよ!」
……怒られてしまった。
自分が何かしただろうか?ラルフはキョトンとした表情のまま、東方出身だと思われる顔立ちの少年を見て訪ねた。
「そんなに危険なのですか?」
道理で……。
遺跡を見つめラルフは納得した。とりあえず、観察しようと近づいたのだが、どうにもあまり良い感覚がない。やはり情報を集めにポポルへ足を伸ばそうと判断をし、ラルフはポポルへと歩き出した。ところが、ふと振り返って遺跡を見たらその姿の美しいこと。ラルフはすぐに引き返し遺跡のスケッチを始めた。日が暮れるまでにはまだ少し時間がある。急ぎの用事があるわけでもないのでゆっくり行こうとラルフはスケッチに耽ったのだった。夜になると魔物の出る心配はあったが逃げ足には自信がある、だから何とかなるだろうと、飄々と構えていた。
少しすると知らない男が思い詰めた表情で現れ、遺跡に入って行った。男はラルフの存在に気が付いていないのか、目の前を素通りし遺跡付近で何やら呪文を唱えると遺跡の中に入って行った。
やはり結界が張ってあったかと、ラルフは思った。目には見えないが何となくそれらしい感覚はあった。無理に近づかなくて正解だったようだ。男に声をかけることも、止めることもせず、ラルフはそんな感想を持っただけだった。
自分は慈善事業をやっているわけではないし、あの男が何者なのか興味もない。
そもそも、ラルフの当初の目的はポポルに向かうことだった。ポポル周辺には遺跡が点在しており、それのどれかに入って探索しようと考え、遺跡の情報を集めようとポポルに向かっていた。だが、ポポルに入る前にそれらの遺跡を自分の目で確かめておこう思い立ち、遺跡周辺を回っていたのである。それらの遺跡の中でも、ラルフは目の前にあるこの遺跡が気になった。何故かと聞かれても、ただ何となく。としか答えようがないのだが……。ところが、近づくにつれ、嫌な感覚は増すばかり、されど少し離れて見たその姿は被写体として創造意欲が掻き立てられ、さらに思い詰めた顔をした男が遺跡の中に入っていく。自分の直感は正しかったとラルフは確信したのだった。
ふと、ラルフは感覚的に動く自分とは正反対の、理論で動く父親のことを思い出した。
勘当され、コールベルにある実家を出て10年。いつの間にかそんなにも時が経ってしまっていた。気がつけばあと2年で三十路である。
考古学に関して、難しい考察ばかり並べていたあの人は、今でも元気にやっているようだ。時々、書店に入ると著書を見かける。相変わらず複雑なことを口述していることが、そのタイトルから分かる。どうやら、あともう10年は経たないと和解できそうにもない。
いや、もっとか……。
いつも優しげに微笑んでいた母に10年振りの便りを送ってから数か月が経った。自分は一所に留まっているわけではないので、返信は不要だと書き添えて。
ラルフは遺跡をスケッチしながら、これを2通目の便りにしようと考えていた。2~3か月に1通くらい送れば彼女も安心するだろう。
ひとり考え事をしながらスケッチをしていると、男が呪文を唱え遺跡に入って行き、その男を追ってきたらしい少年に、何故止めなかったのかと怒られた次第である。
改めて、少年を観察してみる。年は10代中頃から後半といったところか、やや短めの黒髪で、色素の薄い青い瞳。身長は自分より低い。おそらく、30センチの物差しが1本入るくらいの身長差はあると思われた。服装は戦いやすい洋服に、革のブレストプレートを着込んでいる。腰には刀を装備。冒険者なのかもしれない。
だが、そんな身体的特徴よりも最初に目についたのは彼の肩に乗っているそれだった。
妖精だろうか……?過去に妖精とは何度か遭遇したことがあるのでそれほど驚くことはなかったが、人間の肩に乗っている妖精を見るのは初めてだった。
ラルフはニコリとその妖精に微笑みかける。
「可愛いお友達をお連れなんですね。握手させてもらってもいいですか?」
先刻からこちらを睨みつけている少年にそう言うと、ラルフは妖精に人差し指を差し出した。
「はじめまして。俺はラルフ=ウェバーっていいます。あなたは?」
すると妖精は顔を真っ赤にして少年の首筋に隠れた。が、警戒心は解いていない様子でラルフを見ていた。
「コイツなんか怪しいよ?れっきー」
「おや……何だか嫌われてしまいましたね……。お友達になりたいんですが、駄目ですか?」
至極、残念そうな表情をラルフはして見せた。
「……あなたはいったい何者なんです?ここで何をしてたんですか?」
「俺はただの盗賊ですよ。通りすがりのね。この遺跡があまりにも美しかったのでスケッチをしてたんですよ。……ほら。これ」
そう言って、ラルフはまだラフ画の状態のスケッチブックを少年に見せた。
「……綺麗」
思わず、その絵を見た少年が呟いた。ラフ画だが、完成度はかなり高い。
首筋に隠れていた妖精も、どうやら見とれているようだ。
「ありがとうございます」
ニコリと2人に微笑む。
「けど、どうやら絵を描いてる場合ではないようですね。その男性を探しに行くんでしょう?よかったら俺にもお手伝いさせて下さい」
名前も知らない少年に提案する。ラルフは妖精を引き連れた少年に興味がわき、この少年と行動を共にしようと勝手に決めたようだ。
よろしくとでも言うように、ラルフは少年に握手を求めたのだった。
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第三話 遺跡へ
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PC:礫 ラルフ・ウェバー
NPC:メイ
場所:ポポル近郊遺跡
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男は握手を求めてきた。礫は求められた行為に応えた。二人は固く握手を交し合った。
新たな連れ合いができた。その事は別に悪くない。むしろ、人と触れ合っていたいと思っているから、嬉しいとさえ思える。しかも、この男は妖精を肩に乗せた自分を見てもおかしいと思わなかったのだ。嬉しくないはずは無い。ただ、これから行く遺跡は危険極まりない遺跡なのだ。その危険な場所にあえて連れて行こうというのか。礫の良心が疼いた。
「危険な場所なんですよ。いいんですか?」
「いいですって。丁度俺も遺跡に入るところだったし。ま、もっとも、合言葉か何かが必要のようでしたけど」
男はそういい終わると肩を竦めてみせた。どやら遺跡に張られた結界のことを知らなかったようである。それもそうか。自分も朧月のマスターに聞いてようやく知ったところなのだから。礫は一つ静かに溜息を吐く。
それにしても、この男は危険を危険と思わないのか。むしろ危険を楽しんでいる節もあるように思える。遺跡の前で写生をしていたことといい、変わった人物だな、と言うのが第一印象だった。
「解りました。――僕の名前は礫です。こちらは妖精のメイちゃん」
相手に名前を名乗らせるには、自分から名前を明かすのが礼儀だ。そのぐらいの儀礼ぐらい礫は心得ていた。
「メイリーフでーす」
メイも紹介を受けて礫の襟元から出て挨拶をする。ちょこんとお辞儀をする様は、かわいらしい。流石にこの流れでは名乗らなくてはならないことを察してか、男も自身の名前を口にした。
「俺はラルフ。ラルフ・ウェバーっていうんだ。よろしく」
ラルフ、いい名前ですね。と礫が言い、今度はこちらから握手を求める。ラルフのほうも求めに応じ、二人は固く手を握り合った。
■□
この遺跡の内部に何が眠るのか。行きて帰りし者がいないので誰も知る由もないが、噂だけは実しやかに流布していた。この遺跡の最奥部には死んだものを蘇らせる伝説の宝が眠っていると。確かめた者はいない。だからそれが事実であると言う確証も無い。ただ、男はこの噂を頼りにこの遺跡に潜ったのではないか、と礫は聞いている。そのことをラルフに言うと、好奇心の目で応えてきた。
礫は入り口の前から少し離れた場所に立つと、聞かされた呪言を口走る。「白き衣を脱ぎ捨てるとき、青き女王が眠りを覚ます」途端に、周囲に光の輪が広がり、遺跡の前に建っていた四本の石柱が鈍い音と共に光り輝いた。その光はまるで幾何学模様のようで、魔法が発動したのだと瞬時に悟った。それと同時に、振り返ってそれを確認した礫の後ろ――遺跡の入り口付近で空間が、軋んだ。暫瞬、何かが割れるような軽くて冷たい音が響き渡った。
「扉は開かれた」
何の前触れも無く、ラルフが言った。礫はぎくりとした。次の瞬間、何の意図があって言ったのだろう、と思った。暫瞬メイと目を合わせ、そのことをラルフに訊いてみることにした。すると、返ってきた答えがわからない、だった。ただなんとなく口走っていた、のだそうだ。
「え、だってー、何となく雰囲気出るじゃん」
自己紹介しあって打ち解けたからなのか、こちらのことを年下だと見たからなのか、ラルフはある瞬間からやや打ち解けた感じのため口をきくようになっていた。ただ、礫はそれでもいいと思っている。ため口は慣れ親しんだ証だ。友達の印のようなものなのだ。礫にはそれが嬉しかった。だから許しているのだ。
「じゃあ、遺跡の中に入りますよ」
掛け声も新たに礫が先陣を切った。恐らくこの結界は時間が経つと元に戻るシステムになっているのだろう。だから遺跡の内部に入るのは今、この瞬間を置いてない訳だ。いそいそと遺跡の入り口を通過する。ラルフが後ろから付いてくるのが気配で分かる。
「ふわぁ。黴くさーい」
メイが感嘆とは言い難い感想を述べる。誰も入ったことのない遺跡だから黴臭いのは当然だ。それも想定内である。暫くすればじきに慣れるだろう。さて、探し人はいったいどの辺まで潜ってしまったのか。礫が独りごちる。カンテラが必要だな。独りでに口をついて出た言葉。迂闊だった。カンテラが必要だとは推察できただろうに。
「持ってるよ」
ラルフがカンテラを揺らしながら言った。まだ灯りは点けていない。用意周到な人だ。いや、そもここの遺跡に潜る予定のある者ならば当然か。ありがとうと礼を言ってカンテラを受け取る。火口箱も受け取って灯りを点す。柔らかな橙色の光が周囲を照らした。辺りを観察してみる。通路は人工的に切り出した石に覆われていた。遺跡なのだから当然と言えば当然なのだが、礫はもっと岩肌が露出しているのを想像していたので面食らった。白くてらった石が通路の奥の方まで続いている。半径三メートルくらいしか照らせていないので、通路の奥の方は全闇で何も見えない。どうやら進んでいくしかないようだ。礫はゆっくりと一歩目を踏み出した。
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「カーチスさーん」
事前に聞かされていた探し人の名前を呼んでみる。虚しくも木霊となって返ってくるのみだ。
「へぇ、カーチスさんって言うんだ」
ラルフが初めて聞いたというふうに茶々を入れてきた。あまり興味は無いようだが、一応の同行者が探している人なので聞いてきたという感じだ。
「茶々を入れないでください。真面目に探しているんですよ」
礫が少しむきになって言うと、ラルフは肩を竦めて見せて礫の前に躍り出た。
「まぁ、そう言うなって。こういうのはさ、俺の専門なんだから」
「専門?」
聞き返した礫には答えず、ラルフはしきりに石畳の地面を見詰める。石畳にはうっすらと埃が降り積もっていた。それは積年の系譜であり、ここが未探査であることの証左である。しかし、よくよく見るとその降り積もった埃が部分部分取り除かれたような、舞い散ったような後がある。それを括目してみると薄っすらと人の足型が浮かび上がってくる。ラルフはその足跡を消さないように慎重に追跡して行った。礫とメイは静かにラルフの後ろを付いていくだけだ。邪魔しないように、慎重に。
通路が二股に分かれた場所に出た。不意にラルフが人差し指を嘗め、双方の行く手に翳した。片方の通路からは風が通っている感触があり、もう片方の通路からは風の感触は無い。
「多分、奥に行くとしたらこっちだな」
と、風の通っていない左の通路を指差すラルフ。
「どうして解るんですか?」
「勘だよ。風はどこから来ると思うかい?」
「風は遺跡の外から吹いてきますよね。……あ!」
「解ったかい」
「風が吹いているということは、遺跡の外に通じている、ということですね。つまり、遺跡の深部に行くには風の吹いていない方に行けばいいんだ。ラルフさん凄いです」
礫もメイも賞賛の念を込めてラルフを見詰める。ところが当のラルフはこんなことは遺跡荒らしにとっては当然のことだと、胸を張ることをしない。代わりにラルフがしたことは通路の壁にチョークで印を書き込むことだった。今まで通ってきた道には「入り口」と。風の通う方には「出口」と書き込んだ。さらに深部方向には「深部」と書き込む。
「これで解りやすくなっただろ」
にいっと笑顔を見せるラルフ。
「足跡は?」
礫の問いかけに、口元に人差し指を当てて静かにしろと合図を送る。
はたして、足跡はあった。迷い無く深部の方向に向かっていた。彼は恐らく遺跡探索の初心者ではないだろう事がはっきりと判った。備えもしてきているだろう。しかし、油断はならない。偶然という言葉もある。
「さあて、行きますか」
ラルフの言葉とそれはほぼ同時だった。
轟音と共に、それは壁を突き破って来た。
「なんだ!?」
驚く間も惜しむように、礫は刀を正眼に構えた。
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