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2024/05/17 01:05 |
待雪草~マツユキソウ~ 1/礫(葉月瞬)

※これは、夢御伽の続きです。

第一話 探し人

××××××××××××××××××××××××××××
PC:礫 ラルフ・ウェバー
NPC:メイ 朧月の店主
場所:ポポル~ポポル近郊遺跡
××××××××××××××××××××××××××××

「……なぜ、そのことを知っている?」

 朧月の店主は訝しげに聞いてきた。
 数瞬、礫は瞬きし、躊躇いがちに言った。

「ガリュウ・ソーンさんから聞きました」

 そう答えるしかない。ガリュウの千里眼を信じるのだ。ガリュウと親交を深めている朧月の店主はその一言で理解したように一つ頷くと、重たい口を開いた。

「……そうか。それならば信用するがね。…………困り事というのはね、ある遺跡にある男が一人で行ってしまったんだ。そこへ行って、その男を探し出してきて欲しいんだ。――私にはどうしてもあいつを止めることが出来なかった。あいつはいつだって無茶ばかりする。だから、私が止めなくてはいけなかったのに――」

 涙が一滴店主の頬を伝った。その素振りから、非常に後悔しているようである。そんなに危険な場所に行ったのか、と訊ねてみれば、付近の遺跡でも指折りの危険地帯だと返ってきた。どうしてそんな危険な場所に行ったのかと問うても、首を横に振るばかり。解らないというのだ。ただ、どうしても行かなければならない、一人ででも行く、と言い張っていたそうだ。巌の意思を感じてそれ以上は止められなかったという。

「僕に任せてください。僕が連れて帰ってきます」

 礫は、無意識のうちに言葉を紡いでいた。礫の性格がそうさせるのだろう、他人の力になりたい、他人を助けたいと意識が動くのだ。確かな自信などない。今まで依頼をこなしてこれた、自身の実績と力を信じるのみだ。
 酒場を出て大通りを東の方角へ歩を進める。目指す遺跡の有る方角だ。その遺跡はこの地域に住んでいる者達から、太陽の遺跡と呼ばれている。太陽の昇る方角にあるからだそうだ。大規模な遺跡で、未探査部分もかなり残っているという。礫は胸が躍るのを抑えきれずに、足早になっていった。

「ねぇ、れっきー……」
「ん? 何? メイちゃん」

 歩きながら、突然話しかけてきたメイに顔を向ける。ややひきつり気味の笑顔は、今は歩くことに集中したいからだ。それでも笑顔を忘れないのはメイへの愛ゆえだ。

「あんなに簡単に引き受けちゃって良かったの?」
「でも、そうしないとガリュウさんが僕達の頼みごとを聞いてくれなかったからさ」

 ガリュウのせいにしてみる。しかし、遺跡と聞いて胸が躍った事実は隠したままだ。しょうがないじゃん、と肩を竦めてみせる。メイはそれで納得してくれたようだ。本当に素直でいい子だ。礫は愛おしそうにメイを見詰める。歩みはそのままで。
 やがて、町の出入り口に辿り着く。町を出たところで礫は地図を広げた。先ほど酒場の主人が遺跡までの道順を記してくれた地図だ。地図通りに行くと、半日もかからないところに遺跡はあった。だが、場所は近いが遺跡の深度は深く、一度潜り込んだら一週間や二週間では戻って来れないという。さらに魔物が住み着いているのだ。町の者達は、町に魔物が侵入しないように遺跡の付近に結界を張ってあるという。ある種の呪言を唱えないと遺跡の中に入れないようになっている。
 陽が傾いてきた午後の日差しを遮るように、木々が生い茂っている。翡翠色を濃くしたような、灰色に近付いたような緑色が地面の茶色と相まって暗い印象を受ける。急がないと、と礫は歩をより一層早めた。急がないと夜になってしまう。夜になれば魔物が活発に活動する。そうなれば少し厄介な仕事になってしまう。魔物は油断できない。どのような攻撃をしてくるか解らないからだ。人間だったら対処もできよう。だが、魔物は。
 礫の意識が途中で途切れたのは、メイに話しかけられたからではない。目的の遺跡が見えてきたからだ。
 遺跡に近付くと、入り口の目の前で写生をしている男が居た。髪は銀髪で短く切りそろえられている。後姿なので顔は判らない。年は、若い。二十代後半といったところか。礫は徐に男に近付いていった。あ、あのう、すみません。ためらいがちに声を掛けてみる。男が振り向いたとき、妖精を肩に乗せた自分を見てどう思うだろう。不安が胸の中で膨らんでいく。なんだい? 軽やかに男が振り向いた。
 男の容姿は端的に言って盗賊然としていた。まず目に付くのは、その細身のシルバーフレームの眼鏡だ。おそらく異界流出品だろう。身長は百八十はあろうか。少なくとも礫よりは背が高いことは確かだ。その長身に見合った黒のハイネックのースリーブを着、足の長さを誇示するように黒の細身のパンツをはいている。腰には濃灰色の帆布製のチョークバッグと、ナイフホルダーを装着していた。動きやすさを一番に考えた、盗賊らしいスタイルだ。
 以外にも男は驚愕の素振りを見せなかった。妖精を肩に乗せた礫を見てもなんとも思わなかったのだろう。普通に接してきている。その事実が礫にとっては意外だった。
 あのう、ここに人は通りませんでしたか? 礫の問いかけに、男は答えた。

「ああ、その男なら知ってますよ。さっき入って行きました」

 屈託のない笑顔でさらりと言った。

「何故、止めなかったんですか! 危険な場所なんですよ!」

 礫の怒声に、

「そんなに危険なのですか?」

 とぼけた顔で訊いてきた。この男は、知らない。この遺跡の、否、遺跡そのものの怖さを。迷宮と化している遺跡の広大さ、魔物が徘徊している危険極まりない地帯。遺跡とは本来そういう場所なのだ。観光地化が進んだ遺跡は元来ほとんど探査が終わっている、いわば危険を排除した状態にされているのだ。そういう遺跡にはえてして宝物など転がっていない、冒険者にとっては魅力のない存在と化しているのだ。
 未探査の遺跡の前で写生をしていたこの男が、果たして冒険者なのか観光者なのか。そのどちらなのか見極める必要はありそうだ。先ほどのとぼけた言葉から察するに、この遺跡そのものを脅威とは見なしていないようだ。しかし、もし観光者ならば無知ゆえの過ちとも思える。
 礫は男に挑むように睨み付けた。

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2008/10/10 02:42 | Comments(0) | TrackBack() | ▲待雪草~マツユキソウ~

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