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2024/05/17 06:23 |
待雪草~マツユキソウ~ 2/ラルフ(ゆうま)

第二話 被写体の前で

××××××××××××××××××××××
PC:礫 ラルフ・ウェバー
NPC:メイ
場所:ポポル近郊遺跡
××××××××××××××××××××××

「何故、止めなかったんですか! 危険な場所なんですよ!」
 ……怒られてしまった。
 自分が何かしただろうか?ラルフはキョトンとした表情のまま、東方出身だと思われる顔立ちの少年を見て訪ねた。
「そんなに危険なのですか?」

 道理で……。
 遺跡を見つめラルフは納得した。とりあえず、観察しようと近づいたのだが、どうにもあまり良い感覚がない。やはり情報を集めにポポルへ足を伸ばそうと判断をし、ラルフはポポルへと歩き出した。ところが、ふと振り返って遺跡を見たらその姿の美しいこと。ラルフはすぐに引き返し遺跡のスケッチを始めた。日が暮れるまでにはまだ少し時間がある。急ぎの用事があるわけでもないのでゆっくり行こうとラルフはスケッチに耽ったのだった。夜になると魔物の出る心配はあったが逃げ足には自信がある、だから何とかなるだろうと、飄々と構えていた。
 少しすると知らない男が思い詰めた表情で現れ、遺跡に入って行った。男はラルフの存在に気が付いていないのか、目の前を素通りし遺跡付近で何やら呪文を唱えると遺跡の中に入って行った。
 やはり結界が張ってあったかと、ラルフは思った。目には見えないが何となくそれらしい感覚はあった。無理に近づかなくて正解だったようだ。男に声をかけることも、止めることもせず、ラルフはそんな感想を持っただけだった。
 自分は慈善事業をやっているわけではないし、あの男が何者なのか興味もない。

 そもそも、ラルフの当初の目的はポポルに向かうことだった。ポポル周辺には遺跡が点在しており、それのどれかに入って探索しようと考え、遺跡の情報を集めようとポポルに向かっていた。だが、ポポルに入る前にそれらの遺跡を自分の目で確かめておこう思い立ち、遺跡周辺を回っていたのである。それらの遺跡の中でも、ラルフは目の前にあるこの遺跡が気になった。何故かと聞かれても、ただ何となく。としか答えようがないのだが……。ところが、近づくにつれ、嫌な感覚は増すばかり、されど少し離れて見たその姿は被写体として創造意欲が掻き立てられ、さらに思い詰めた顔をした男が遺跡の中に入っていく。自分の直感は正しかったとラルフは確信したのだった。
 ふと、ラルフは感覚的に動く自分とは正反対の、理論で動く父親のことを思い出した。




 勘当され、コールベルにある実家を出て10年。いつの間にかそんなにも時が経ってしまっていた。気がつけばあと2年で三十路である。
 考古学に関して、難しい考察ばかり並べていたあの人は、今でも元気にやっているようだ。時々、書店に入ると著書を見かける。相変わらず複雑なことを口述していることが、そのタイトルから分かる。どうやら、あともう10年は経たないと和解できそうにもない。
 いや、もっとか……。
 いつも優しげに微笑んでいた母に10年振りの便りを送ってから数か月が経った。自分は一所に留まっているわけではないので、返信は不要だと書き添えて。
 ラルフは遺跡をスケッチしながら、これを2通目の便りにしようと考えていた。2~3か月に1通くらい送れば彼女も安心するだろう。

 ひとり考え事をしながらスケッチをしていると、男が呪文を唱え遺跡に入って行き、その男を追ってきたらしい少年に、何故止めなかったのかと怒られた次第である。


 
 改めて、少年を観察してみる。年は10代中頃から後半といったところか、やや短めの黒髪で、色素の薄い青い瞳。身長は自分より低い。おそらく、30センチの物差しが1本入るくらいの身長差はあると思われた。服装は戦いやすい洋服に、革のブレストプレートを着込んでいる。腰には刀を装備。冒険者なのかもしれない。
 だが、そんな身体的特徴よりも最初に目についたのは彼の肩に乗っているそれだった。

 妖精だろうか……?過去に妖精とは何度か遭遇したことがあるのでそれほど驚くことはなかったが、人間の肩に乗っている妖精を見るのは初めてだった。
 ラルフはニコリとその妖精に微笑みかける。
「可愛いお友達をお連れなんですね。握手させてもらってもいいですか?」
 先刻からこちらを睨みつけている少年にそう言うと、ラルフは妖精に人差し指を差し出した。
「はじめまして。俺はラルフ=ウェバーっていいます。あなたは?」
 すると妖精は顔を真っ赤にして少年の首筋に隠れた。が、警戒心は解いていない様子でラルフを見ていた。
「コイツなんか怪しいよ?れっきー」
「おや……何だか嫌われてしまいましたね……。お友達になりたいんですが、駄目ですか?」
 至極、残念そうな表情をラルフはして見せた。
「……あなたはいったい何者なんです?ここで何をしてたんですか?」
「俺はただの盗賊ですよ。通りすがりのね。この遺跡があまりにも美しかったのでスケッチをしてたんですよ。……ほら。これ」
 そう言って、ラルフはまだラフ画の状態のスケッチブックを少年に見せた。
「……綺麗」
 思わず、その絵を見た少年が呟いた。ラフ画だが、完成度はかなり高い。
 首筋に隠れていた妖精も、どうやら見とれているようだ。
「ありがとうございます」
 ニコリと2人に微笑む。
「けど、どうやら絵を描いてる場合ではないようですね。その男性を探しに行くんでしょう?よかったら俺にもお手伝いさせて下さい」
 名前も知らない少年に提案する。ラルフは妖精を引き連れた少年に興味がわき、この少年と行動を共にしようと勝手に決めたようだ。
 よろしくとでも言うように、ラルフは少年に握手を求めたのだった。
 
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2008/10/23 18:29 | Comments(0) | TrackBack() | ▲待雪草~マツユキソウ~

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