PC:メイ (礫)
NPC:キシェロ
場所:ポポル
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
メイが目を覚ましたのは、閉じたまぶたを眩しい日差しが貫いたからだった。
「んにゃ……」
寝ぼけた声を上げ、うっすらとまぶたを開く。
「おはよう、妖精さん」
視界いっぱいに映ったのは、こんなに眩しい日差しの中でも、やっぱりどこか陰鬱な
キシェロの顔だった。
起きて真っ先にこんなものを見せられては、心臓に悪い。
メイは、寝起きとは思えない俊敏な動きで、その顔と最長距離を取った。
すなわち、鳥かごのような檻の中で、反対の向きに逃げたのである。
鉄の柵に背中をぶつけたが、特に痛いとは思わなかった。
「そんなに警戒しなくてもいいだろう?」
その反応に、キシェロはため息をつく。
「妖精を食べ物で釣って捕まえる人間なんか、最低よっ!」
両手で頬を引っ張りつつ、メイは舌を出した。
「……まあいい」
キシェロは鳥かごをそっと持ち上げると、テーブルの上に置いた。
そこにあったのは、ドールハウス、というやつだった。
ちょうど、部屋を横から見た感じのものである。
小花を散らした壁紙の部屋の中に、テーブルとソファー、そしてベッド、本棚などの
家具一式が置いてある。
さすがに、本棚の中の本はニセモノだが……それでも立派なものである。
ただし、鳥かごよりは巨大な檻の中に、それは収まっていた。
部屋と言うよりは、牢獄と言った方が正しいのかもしれない。
「いつまでも鳥かごの中では窮屈だろう? 今日からは、ここが君の家だよ」
メイはそっぽを向いた。
(こんな奴の言う事なんか、絶対聞かない!)
その一心である。
「どうしたんだい? これは君のために用意したんだよ。人形用のものだけれど、一
番良いものを揃えておいたよ。最初は慣れないかもしれないけれど、そのうちにきっ
と気に入るさ」
「あたし、作ってなんて頼んでないもん」
メイはつーんとそっぽを向いたまま。
あまりにも可愛げのない態度に、キシェロはこめかみを引きつらせた。
別にお礼を言ってもらいたくてやったことではないが、自分の努力が全く省みられな
いというのが気に食わなかったのである。
――やはり、いつまでも下手(したて)に出ていてはいけない。
キシェロの思考は、やや物騒な方向に向かった。
ここは、どちらの立場が上であるかを教えてやる必要がある。
彼女は今から、自分に飼われるのだ。
食事だって、自分が与えてやらなければ得られない。
本当は、もう少し後にするつもりだったが……このあまりにも可愛げのない態度を見
て、考えが変わった。
だが、最初が酷すぎてもいけないだろう。
心に傷を負ってしまい、塞ぎこむなどして見世物にならなくなっては元も子もない。
まずは鳥かごを思いきり揺さぶって恐怖を味わせて、『これから言う事を聞かなけれ
ば同じことをするよ』とでも言っておこう。
あとは、態度によって徐々に度合いを強めていけばいい。
キシェロは、鳥かごを乱暴に持ち上げた。
それは、突発的な事故だった。
持ち上げたところで手が滑り、がしゃん、と鳥かごが床に落ちたのである。
「ふぎゃ!」
とは言っても、メイにとってはまさしく『世界がひっくり返った』ような状態で、し
こたま腰をぶつけた。
舌を噛まなかったのが、せめてもの救いだろう。
「あた、あたたた……」
涙目で腰をさすり……メイはハッと気付いた。
落ちた衝撃で、鳥かごの小さな格子が開いていた。
通常は、鳥のエサ箱にエサを補充したりする時に開ける格子である。
――考えるよりも先に、体が勝手に動いた。
入り口から這い出して、飛び立つべく羽根を広げる。
そう、ここから逃げ出すために。
礫のことが、頭をかすめた。
元いた場所に帰れないと泣いた自分のために、協力を約束してくれた。
ご飯をおごってくれた。
眠る場所を提供してくれた。
実に優しい人間だった。
そんな彼と、つまらない食欲一つのために離れ離れになるなんて。
怒っていないだろうか。
また、会えるだろうか。
いや。
(絶対、れっきーのトコに帰るっ!)
メイは、とんっ、と床を蹴った。
が。
いつもなら何でもなく動く羽根は異様に重く、結局飛べないままぺたりと床にへたり
込む羽目になった。
(なんで? なんで?)
この事態がうまく飲みこめず、メイはあたふたと混乱した。
「ああ、そうだ」
キシェロの手が伸びてきて、メイの胴体を捕まえた。
「触んないでよっ、このっ、変態っ、根暗っ」
きーきーわめきながらキシェロの手をボカボカ叩いていると、彼は黙ってメイを眼前
まで持ち上げた。
睨みつけようとしたメイは……息を飲んだ。
なんと言っていいのか、よくわからない。
だが、今のキシェロが、なんだか怖かったのだ。
具体的にどこがどう怖いのか、説明することはできないが……強いて言うなら、全体
的に、雰囲気が今までと違っていた。
「君の羽根に、特殊な油を塗っておいたんだ。飛んで逃げることぐらい、私だって予
想するよ」
目の前のキシェロの顔を、メイは愕然としながら見上げた。
NPC:キシェロ
場所:ポポル
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メイが目を覚ましたのは、閉じたまぶたを眩しい日差しが貫いたからだった。
「んにゃ……」
寝ぼけた声を上げ、うっすらとまぶたを開く。
「おはよう、妖精さん」
視界いっぱいに映ったのは、こんなに眩しい日差しの中でも、やっぱりどこか陰鬱な
キシェロの顔だった。
起きて真っ先にこんなものを見せられては、心臓に悪い。
メイは、寝起きとは思えない俊敏な動きで、その顔と最長距離を取った。
すなわち、鳥かごのような檻の中で、反対の向きに逃げたのである。
鉄の柵に背中をぶつけたが、特に痛いとは思わなかった。
「そんなに警戒しなくてもいいだろう?」
その反応に、キシェロはため息をつく。
「妖精を食べ物で釣って捕まえる人間なんか、最低よっ!」
両手で頬を引っ張りつつ、メイは舌を出した。
「……まあいい」
キシェロは鳥かごをそっと持ち上げると、テーブルの上に置いた。
そこにあったのは、ドールハウス、というやつだった。
ちょうど、部屋を横から見た感じのものである。
小花を散らした壁紙の部屋の中に、テーブルとソファー、そしてベッド、本棚などの
家具一式が置いてある。
さすがに、本棚の中の本はニセモノだが……それでも立派なものである。
ただし、鳥かごよりは巨大な檻の中に、それは収まっていた。
部屋と言うよりは、牢獄と言った方が正しいのかもしれない。
「いつまでも鳥かごの中では窮屈だろう? 今日からは、ここが君の家だよ」
メイはそっぽを向いた。
(こんな奴の言う事なんか、絶対聞かない!)
その一心である。
「どうしたんだい? これは君のために用意したんだよ。人形用のものだけれど、一
番良いものを揃えておいたよ。最初は慣れないかもしれないけれど、そのうちにきっ
と気に入るさ」
「あたし、作ってなんて頼んでないもん」
メイはつーんとそっぽを向いたまま。
あまりにも可愛げのない態度に、キシェロはこめかみを引きつらせた。
別にお礼を言ってもらいたくてやったことではないが、自分の努力が全く省みられな
いというのが気に食わなかったのである。
――やはり、いつまでも下手(したて)に出ていてはいけない。
キシェロの思考は、やや物騒な方向に向かった。
ここは、どちらの立場が上であるかを教えてやる必要がある。
彼女は今から、自分に飼われるのだ。
食事だって、自分が与えてやらなければ得られない。
本当は、もう少し後にするつもりだったが……このあまりにも可愛げのない態度を見
て、考えが変わった。
だが、最初が酷すぎてもいけないだろう。
心に傷を負ってしまい、塞ぎこむなどして見世物にならなくなっては元も子もない。
まずは鳥かごを思いきり揺さぶって恐怖を味わせて、『これから言う事を聞かなけれ
ば同じことをするよ』とでも言っておこう。
あとは、態度によって徐々に度合いを強めていけばいい。
キシェロは、鳥かごを乱暴に持ち上げた。
それは、突発的な事故だった。
持ち上げたところで手が滑り、がしゃん、と鳥かごが床に落ちたのである。
「ふぎゃ!」
とは言っても、メイにとってはまさしく『世界がひっくり返った』ような状態で、し
こたま腰をぶつけた。
舌を噛まなかったのが、せめてもの救いだろう。
「あた、あたたた……」
涙目で腰をさすり……メイはハッと気付いた。
落ちた衝撃で、鳥かごの小さな格子が開いていた。
通常は、鳥のエサ箱にエサを補充したりする時に開ける格子である。
――考えるよりも先に、体が勝手に動いた。
入り口から這い出して、飛び立つべく羽根を広げる。
そう、ここから逃げ出すために。
礫のことが、頭をかすめた。
元いた場所に帰れないと泣いた自分のために、協力を約束してくれた。
ご飯をおごってくれた。
眠る場所を提供してくれた。
実に優しい人間だった。
そんな彼と、つまらない食欲一つのために離れ離れになるなんて。
怒っていないだろうか。
また、会えるだろうか。
いや。
(絶対、れっきーのトコに帰るっ!)
メイは、とんっ、と床を蹴った。
が。
いつもなら何でもなく動く羽根は異様に重く、結局飛べないままぺたりと床にへたり
込む羽目になった。
(なんで? なんで?)
この事態がうまく飲みこめず、メイはあたふたと混乱した。
「ああ、そうだ」
キシェロの手が伸びてきて、メイの胴体を捕まえた。
「触んないでよっ、このっ、変態っ、根暗っ」
きーきーわめきながらキシェロの手をボカボカ叩いていると、彼は黙ってメイを眼前
まで持ち上げた。
睨みつけようとしたメイは……息を飲んだ。
なんと言っていいのか、よくわからない。
だが、今のキシェロが、なんだか怖かったのだ。
具体的にどこがどう怖いのか、説明することはできないが……強いて言うなら、全体
的に、雰囲気が今までと違っていた。
「君の羽根に、特殊な油を塗っておいたんだ。飛んで逃げることぐらい、私だって予
想するよ」
目の前のキシェロの顔を、メイは愕然としながら見上げた。
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