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2024/11/18 05:20 |
夢御伽 10/礫(葉月瞬)
PC:礫 (メイ)
NPC:ニャホニャホタマクロー、雇われ冒険者
場所:トーポウ~ポポル
+++++++++++++++++++++++++++++++++++

 ニャホニャホタマクローが告げた場所に行ってみたが、時既に遅し、当該地点には何も
なかった。

 ニャホニャホタマクローが慌てて身柄の潔白と情報の正しさを主張している中、礫は一
人冷静になって見世物小屋の痕跡を観察していた。それはもう、つぶさに。轍の跡などが
無いか、調べているのだ。
 礫は、こういう時こそ、自分が冷静にならなければと考えていた。ともすると冷静さを
失いかねない状況下において冷静でいられるということは、相手の先手を打てるというこ
とであり様子を見て行動に移せるということだ。だから、どんなときでも冷静さを失って
はいけないと、冒険者ギルドの先輩は言っていた。今でもその訓話は実行に移している。
 案外、手がかりはあっさり見つかった。夜露に濡れて、少々ぬかるんだ土くれの道に、
轍の跡がくっきりと残っていたのだ。礫はその唯一残されたメイへと繋がる道を見失わな
いように、昼を過ぎ街人達が一仕事終えて帰途につき通りを賑わしている最中、人の波を
縫うように一歩一歩確実に眼で追っていった。ニャホニャホタマクローがその後を静かに
追っていく。
 街の中央を通って、南北を結ぶ大通りを南に下ると街の出入り口に出る。このまま街道
を南下すれば、ポポルに辿り着くはずだ。そして轍はそのポポルに向かった事を物語って
いた。北ではなく、南に。

「――そうか、ポポルか――」

 呟く礫の瞳には、メイを助け出す算段が浮かんでいた。

 旅立つにはそれなりの支度が必要だ。とはいえ、元々旅をしている最中なのだから、定
着者が旅立つよりは遥かに楽ではある。それでも色々と準備しておかなくてはならないの
だ。食料品とか、日用雑貨とか、戦闘に必要な武器類、防具類、それから心の準備など。
ましてや、今回はメイがキシェロとか言う男に誘拐されたかもしれないのだ。もしかした
ら、その男と戦う羽目になるかもしれない。もしそうなったとしても、万全を期していけ
ば万に一つの勝ち目も無いと言うことは無いだろう。キシェロという男がどれだけ出来る
男かは知らないが、備えあれば憂いなし、だ。とはいえ、礫の戦闘形態は飛び道具などの
消耗品を使わないので、然して準備するものも無い。強いて必要なものといえば常時帯剣
している名も無き銘刀ただ一本である。その銘刀を宿屋の自室にて研ぎ澄ませる。丁子
(ちょうじ)油を塗って鞘に収めれば、準備は万端だ。
 そうして宿を立つ。盾は持たない。攻撃こそ最大の防御、だからだ。それに、渾身の一
撃は両手で振るうものだ。礫の持つ刀は、一撃こそ軽いが鋭く反しの速度が速い。そして、
重い一撃を与えるためには両手で振り下ろさないと駄目なのだ。だから、盾は持たない。
 宿を出て大通りを南下する。大通りとはいえ、今の時間人は疎らだ。夕方近くというこ
ともあったし、市場からだいぶ離れている、ということもあった。とはいえ、店が皆無と
いうことも無い。密集して立ち並ぶ民家の合間に、所々店舗が見える。それは洋品店だっ
たり、服屋だったり、骨董品店だったり、食料品店だったりする。それらは全て、市場ま
で行けない人達の為のものだ。暫し歩いてふと立ち止まる。おもむろに後ろを振り向いて、
大声を張り上げる。こめかみがひくついているのは怒りのためではない。信じられない事
象を目の当たりにしたからだ。

「ちょっと待て。君も来るの!?」

 当然のごとき顔色で、共に旅立とうとついてきていたニャホニャホタマクローを見咎め
る礫。それでも付いて行きたいという懇願と期待の真摯な眼差しを受け止め、礫は逡巡す
る。この子を連れて行けば貴重な戦力になるだろう。だが、時として足枷になってしまう
かもしれない。それに、未だ味方だという保証が成されたわけではない。だから、信じる
に足るべきものなのか、見極めなければいけない。
 礫は生唾を飲み込んで、次の言葉を吐き出す。

「わかったよ。邪魔になるなよ」

「やったぁ! 絶対役に立ってみせるって」

 任せてとでも言わんばかりに、胸を叩くニャホニャホタマクロー。その瞳は無邪気に喜
色を帯びていた。どうして自分に付いて来てくれるのだろうかと、疑問に思わざるを得な
い。ほんの、ちょっとしたことで知り合ったばかりなのに。しかも最悪の出会いだった。
敵対こそすれ、味方になどならないだろう出会いだった。それなのに、今はこうして自分
の隣で笑っている。不思議な少年だ。一体この少年の心に何が起こったというのだろう。
 大通りに出て、暫く南下したところで礫はふと思い立ち思考を言葉にする。

「さてと。君の事、なんて呼ぼうか。
 そのままニャホニャホタマクローじゃ、長過ぎるしなぁ。ニャホタマ?」

「そんな呼び方酷すぎるよ! せめて、タマクローと」

 タマクローと呼ぶことにした。

 一時間ほど歩くと、やがて家並みが疎らになり、緑の木々が迫ってきた。もう間もなく
で家が途絶え、森の只中になる。出発の時間がだいぶ遅かったので、今は陽が傾き新鮮な
血の色を木々の間から滴らせている。
 街を出たところで、不意に礫が立ち止まった。タマクローは突然の事にびっくりして、
礫の背にぶつかりそうになった。抗議の声を上げようとして、礫に先を越されてしまった。

「……さて、そろそろ出て来てくれませんかね」

 礫は、誰もいないはずの後方に向かって語りかけた。すると、数人の男達が木々の間か
らぞろぞろと出てきた。ごろつき風情の男もいれば、服装をきちんと着こなしている男も
いる。服装などはまちまちだが、背格好は皆同じようなものだった。皆一様に武具防具を
帯びている。どうやら、そこら辺のごろつきとは違うようだ。

「冒険者ですか。殺気を隠そうともしない。まだまだ未熟者ですね」

 自分の未熟は棚に上げて言ってみる。ギルドランクこそまだ下の方だが、こと戦闘に関
しては冒険をこなしている熟練者に引けを取らない自信がある。少なくとも今目の前に陳
列している、恐らくは自分と同ランクであろう冒険者相手には遅れを取らないと思ってい
る。だから態と見下した。

「へん。お前達をここから先に行かせるわけにはいかねぇ」

 集団の代表格らしき男が言った。

「……と、いうことは、キシェロとかいう人に雇われて?」

 吐く気は無いだろうが、かまをかけてみる。

「なっ!? どうして、その名前を!?」

 案の定、うまくかかってくれた。案外、三流なのかもしれない。

「悪いけど、僕達も足止め食らうわけにはいかないんです」

 そう言うと礫は、ゆっくりと舐めるように得物を抜いた。
 勝負は一瞬でついた。
 礫は刀を完全に抜き去ると同時に前に踏み込んでいた。勢いはそのままに、一足飛びで
先ず目の前にいる男に肉薄した。“縮地”という技だ。爆発的な瞬発力を利用して一瞬に
して肉薄する技である。剣閃一線、横に凪ぐ。狙いは――、相手の得物だ。ここが礫の甘
いところである。普通は相手の弱点とも言える局部を狙うものである。喉元を狙えば一瞬
にして葬れる。心臓を狙えば暫くのた打ち回った後に、死すだろう。だが礫は、相手の命
を奪おうとはしない。自分の命が危うくなった時にだけ、その鋭い殺気を走らせる。
 相手の手元を一閃し、得物を薙ぎ払う。三流が相手ならば、それだけで怯んでしまう。
そして、今目の前にしているのは文字通り“三流”なのだ。
 男は怯んだ。
 礫は一瞬の間も空けず、隣り合っている者達の得物を次々と弾いていく。その様に見惚
れてしまうタマクロー。その瞳は潤みを帯びていて、どこか煌いていた。まるで恋する者
のそれのようだ。

「お前達、まだやるか?」

「お、覚えていろっ!」

 まるで三流の悪役を絵に描いたような捨て台詞を残して、男達は来た時とは正反対に素
早く転身して奔走した。後を追いかける謂れは無い。
 礫はやれやれと肩を竦めて見せて、先を促した。

「行こう。気付かれてるかもしれない」

 憶測であり、確信である。だが、言葉の裏には真実が含まれていた。

 カルドからトーポウ経由でポポルへと延びている街道を、南下する。街道とはいえ、森
の中で見通しが利かないが木の枝葉の伸び具合と、太陽の位置で南の方角は割り出せる。
その上、街道はほぼ一本道なので、森の中に入らなければ迷うことは無い。森はエルフの
領域だ、とふとそんな話を礫は思い出していた。誰の言だったかは覚えていないが、それ
までの予備知識と理屈が妙に相まって、納得した覚えがある。エルフは、森に住まう種族
だ。おまけに自分達の領域を守ろうとする意志が強いらしく、人間が森に入ることを毛嫌
いしている風がある。仲間意識も強いのか、閉鎖された集落を形成しているようだ。中に
は変人もいるようで、人間社会に溶け込むエルフもいるようだが。これから向かうポポル
は、稀に見るエルフと人間が共存している街なのだ。

「それにしても、さっきのアニキの手並み、凄かったよ。惚れ惚れしちゃった」

 唐突にタマクローが喋りだす。沈黙に堪え切れなかったのだろう。その瞳は、潤みを帯
びた煌きで満たされていた。さっきから何なんだろう、と礫は思う。この、妙にまだるっ
こしくも甘ったるい視線は。この視線の意味するところが、礫には解らなかった。自分と、
この少年との間に一体何があるのだろうと。
 空は今まさに星星の天蓋が昇ろうとしていた。


 ポポルには徒歩で二日かかった。

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2007/02/12 19:54 | Comments(0) | TrackBack() | ▲夢御伽

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