PC:礫 (メイ)
NPC:引ったくりの少年 花売りのおじさん
場所:トーポウ
+++++++++++++++++++++++++++++++++++
そうか。幸せってこういうものなんだ。
家族って、こういうものなんだ。
メイちゃんといるとまるで、血を分けた本当の家族と暮らしているみたいな気分になる。
いや、彼女に対してはもっとこう、家族以外の、家族以上の何かとても暖かい感情を抱
いてしまう。彼女を見ていると、体の奥底から湧き上がってくる熱い何かを感じずにはい
られない。彼女は、本当の家族以上の――。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
金糸が室内に差し込み、礫の頬を刺す。暗色に支配されていた室内が黄金色の輝きに染
まっていき、色を取り戻す。人生で何度目かの朝がやってきた。足元に陽が差し込んで来
たところで、漸く意識が浮上する礫。ゆっくりと重たい瞼を上に押し上げる。目を開けた
だけで、暫く固まっている。布団から這い出すのが億劫でならない。朝が来た、というこ
とは日光の差し込み具合で何となく解るが、如何せん頭が働かない。憂鬱そうに視線だけ
で、室内を見渡す。メイの姿が無いのを見て取ると、未だに夢見心地な頭で必死に考える。
そして出した結論が、散歩だった。
「うん。多分、メイちゃんは、朝の散歩に行っているんだ。きっとそうだよ。だって、朝
の空気は清々しいからね」
礫は、自分に言い聞かせるように呟く。何か、思い込みめいて宙に虚しく散る。
言葉尻を取るならそれは不安めいた独り言でしかなかった。朝起きて、メイちゃんにお
はようの挨拶をしよう、などと楽しみに寝入った昨日の晩の自分が酷く恥ずかしく、滑稽
に思えた。
頭が活性化するまで暫く呆けていると、窓の外で野鳥が囀る声が聞こえて来た。
窓から差し込む陽が刻一刻と長くなっていく。それと同時に、部屋の灰色に染まってい
る部分が、徐々に色を取り戻す面積を増やしていく。夜の支配から昼の支配へと移り変わ
っていく瞬間だ。それでも闇がわだかまる部分というのは、無くならない。その闇の部分
に目を凝らしているうちに、次第に自分の過去へと落ちてゆく。人の心は、このわだかま
っている闇と同じだ。人心にわだかまった差別意識や偏見など消すことなど出来ない。礫
が家族だと思い接してきた、人々も同じだった。家族といえども、所詮真っ赤な他人でし
かなかった。血の繋がりのようなものなど、欠片ほども感じられなかった。自分に笑い掛
けるときでさえ、どこか他人めいていた。確かに、見ず知らずの他人である自分を引き取
って育ててくれた恩義は感じたが、それ以上の繋がりは無かった。家族というものは血の
繋がりで成り立っている他人だから、自分など入り込む余地が無かったのである。
わだかまっていたのは、自分か。
そこまで考えて、窓の外を見る。
窓の外では、曙色から浅葱色へと変化していくところだった。綺麗なグラデーションに
なって、その交代劇は滞りなく行われていく。外では早くから市がたっているらしく、呼
び込みの声や値切りの声などがけたたましく行き交っている。
朝起きてからどれ位の時間が経っているのだろう。少なくとも、一時間は経過していな
いはずである。それでも、散歩だったらそろそろ戻ってきてもいいくらいの時間は経って
いた。
早朝の散歩にしては時間が長いなとか、早く彼女を探さないと、などと考えたりもした
が、腹の虫が鳴ったのでとりあえず腹ごしらえをすることにした。寝巻きから普段着に着
替え、護身用にと刀を手に持つと荷物を置きっぱなしにして階下へと降りる。一応部屋に
は鍵を掛けておくが、メイが何時帰って来てもいいように、書置きを扉に貼り付けておく
事も忘れない。彼女が人間の使う文字を読めれば意味が通じるが、その限りで無いことは
とりあえず念頭から外しておく。
とりあえず、階下へ降りていく。
とりあえず、開いている席へ着席する。
とりあえず、朝食を用意されてある場所まで取りに行く。
とりあえず、器に盛る。
とりあえず、席について食べる。
一人で食べる朝食は、どこか味気ない。
おかしい。村を出てから今までずっと一人で食べて来たはずなのに。どうしてこんなに
もつまらないと思えてしまうんだろう。ずっと一人だった。食事するときも、夜寝るとき
も。でも、そのときは少しも“寂しい”だなんて思わなかった。それなのに――。
礫は、ひとりでに涙が溢れてきたのに気付いた。
「あれ? おかしいな。僕、何で泣いてる――」
語尾が続かなかった。
とめどなく流れる涙の理由は、何となくだけど解る様な気がした。
メイは、昼を過ぎても帰って来なかった。
彼女が誘拐されたのではないかという思いがもたげるが、果たして本当にそうだろうか
という疑問も浮上する。第一、もし本当に誘拐であるならば、脅迫状みたいなものが届け
られるはずである。それが無いところを見ると、誘拐したことによる副産物が目当てなの
ではなく、彼女自身が目当ての誘拐か、そもそも誘拐などという事件自体が起こっていな
いかのどちらかだ。出来れば誘拐など起こって欲しくはなかった。
未だ誘拐だと決まったわけでは無いけれど、もし誘拐か連れ去り事件だとしても犯人を
特定できる物品もなければ、心当たりの場所も無い。こんな状況ではメイを探しに行きた
くとも出来ない。だからとりあえず、メイの故郷への手がかりを探しに外に出る事にした。
外で動き回っていれば、メイに関する情報が飛び込んでくるかもしれないからだ。何もし
ないよりましである。何もしないと、おかしくなりそうだった。
とりあえず、昨日メイが言っていた、花売りのおじさんを探してみることにする。
花売りのおじさんは、特徴が掴めているからあっけなく見つかった。
彼は市場の端、村の中央広場寄りのところに店を構えていた。店はこじんまりとした店
で、花を売っている傍らでお茶なども売っている。お茶は花茶といって、ここ最近この近
辺で流行しているお茶である。店主はメイの表現がピッタリ当てはまるような人相、髪の
毛は勿論の事、髭も、眉毛までがモジャモジャで熊のような体躯のおじさんだった。年齢
は40代半ば、といったところか。
「すいません。ちょっといいですか?」
「はい。いらっしゃいませ」
「この、花なんですけど、何処で仕入れているんですか?」
礫は店の奥まった所に陳列されている、花茶の一種、白くて小さい花を指差して言った。
すると、店主は鋭い目つきで礫を睨み据えるとやや警戒した語調で言った。
「あんた、同業者か何か?」
「いいえ! 違いますよ。ただ……そう! 勉強のために調べているんです。学校の課題
で……」
「ふうん」
それでも花屋は胡散臭そうに礫を見詰める。まるで値踏みをされているようだ。礫は苦
し紛れの言い訳しか出来なかった自分の脳の足りなさ加減を悔やんだ。もっとましな言い
訳が出来れば。
しかし、事態は思っていたほど悪い方へは転ばなかった。
花屋は今まで値踏みしていた視線を引っ込めると、にやりと意味ありげに笑った。
「まぁ、いいや。花茶の仕入先だったね。ここから南東の方角にあるポポルを経由して二
つ三つ町を越えたところにある、田園地帯で作られているのさ。俺はいつもそこで仕入れ
ているね」
「なるほど。地図で言うとどの辺ですか? 差し支えなければお願いします」
「んーっと、だいたいこの辺だなぁ」
礫が持ってきていた地図を広げると、花屋は正確な位置を指で指し示した。
「ありがとうございます」
礫は礼を述べて、店を後にした。
店を後にした礫の服の裾を、誰かが引っ張った。
見ると、昨日礫の財布を引っ手繰ろうとした少年だった。その円らな瞳でじっと礫を見
上げてくる。愛くるしい仕草にも見れるが、何かを訴えかけようとしているようにも見て
取れる。少年は暫く見詰めた後、礫に質問を投げ掛けた。
「お兄ちゃん、昨日一緒にいた妖精さんは?」
その言葉を聞いた時、少年が何かを掴んでいる事を礫は直感的に悟った。本当の事を言
おうか迷ったが、本当の事を言うことにした。隠し立てしてもしようが無いからだ。
「それが……今朝起きたら居なくて。ひょっとしたら誰かに連れ去られたのかもしれない
んだ。心当たりあるのかい?」
少年は、暫く逡巡した後はっきりと礫に告げた。
「うん。キシェロさんが妖精さんを連れて行くところ、見たんだ」
まただ。
また、キシェロの名前が出てきた。昨日といい、今日といい、キシェロと言う者は一体
何者だろう。礫は、少年に対する疑念よりも先ず最初にその疑問が浮上するのを覚えた。
だが、口をついて出た質問は、違う言葉だった。少年に対するそれよりも、キシェロと言
う者の正体よりも、先ず最初にしなければならないこと。
「大変だ。早くメイちゃんを助け出さないと」
「お兄さん、冒険者でしょ。俺も連れて行って! 俺、役に立つから」
少年から意外な言葉が飛び出た。
「俺、キシェロさんの顔、わかるよ!」
少年は、無我夢中で自己主張をした。自分を売り込むのに必死な形相をしている。少年
は名前をニャホニャホタマクローといった。盗賊だという事だから、恐らく偽名だろう。
どこかの民族で活躍した英雄の名前からとったのだそうだ。
礫も自ら名乗って、二人は見ず知らずの他人から仲間になった。
これで後はメイが戻って来てくれればいいのだが――不安げな視線を彷徨わせて南天を
通り過ぎる太陽を見上げる礫であった。
NPC:引ったくりの少年 花売りのおじさん
場所:トーポウ
+++++++++++++++++++++++++++++++++++
そうか。幸せってこういうものなんだ。
家族って、こういうものなんだ。
メイちゃんといるとまるで、血を分けた本当の家族と暮らしているみたいな気分になる。
いや、彼女に対してはもっとこう、家族以外の、家族以上の何かとても暖かい感情を抱
いてしまう。彼女を見ていると、体の奥底から湧き上がってくる熱い何かを感じずにはい
られない。彼女は、本当の家族以上の――。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
金糸が室内に差し込み、礫の頬を刺す。暗色に支配されていた室内が黄金色の輝きに染
まっていき、色を取り戻す。人生で何度目かの朝がやってきた。足元に陽が差し込んで来
たところで、漸く意識が浮上する礫。ゆっくりと重たい瞼を上に押し上げる。目を開けた
だけで、暫く固まっている。布団から這い出すのが億劫でならない。朝が来た、というこ
とは日光の差し込み具合で何となく解るが、如何せん頭が働かない。憂鬱そうに視線だけ
で、室内を見渡す。メイの姿が無いのを見て取ると、未だに夢見心地な頭で必死に考える。
そして出した結論が、散歩だった。
「うん。多分、メイちゃんは、朝の散歩に行っているんだ。きっとそうだよ。だって、朝
の空気は清々しいからね」
礫は、自分に言い聞かせるように呟く。何か、思い込みめいて宙に虚しく散る。
言葉尻を取るならそれは不安めいた独り言でしかなかった。朝起きて、メイちゃんにお
はようの挨拶をしよう、などと楽しみに寝入った昨日の晩の自分が酷く恥ずかしく、滑稽
に思えた。
頭が活性化するまで暫く呆けていると、窓の外で野鳥が囀る声が聞こえて来た。
窓から差し込む陽が刻一刻と長くなっていく。それと同時に、部屋の灰色に染まってい
る部分が、徐々に色を取り戻す面積を増やしていく。夜の支配から昼の支配へと移り変わ
っていく瞬間だ。それでも闇がわだかまる部分というのは、無くならない。その闇の部分
に目を凝らしているうちに、次第に自分の過去へと落ちてゆく。人の心は、このわだかま
っている闇と同じだ。人心にわだかまった差別意識や偏見など消すことなど出来ない。礫
が家族だと思い接してきた、人々も同じだった。家族といえども、所詮真っ赤な他人でし
かなかった。血の繋がりのようなものなど、欠片ほども感じられなかった。自分に笑い掛
けるときでさえ、どこか他人めいていた。確かに、見ず知らずの他人である自分を引き取
って育ててくれた恩義は感じたが、それ以上の繋がりは無かった。家族というものは血の
繋がりで成り立っている他人だから、自分など入り込む余地が無かったのである。
わだかまっていたのは、自分か。
そこまで考えて、窓の外を見る。
窓の外では、曙色から浅葱色へと変化していくところだった。綺麗なグラデーションに
なって、その交代劇は滞りなく行われていく。外では早くから市がたっているらしく、呼
び込みの声や値切りの声などがけたたましく行き交っている。
朝起きてからどれ位の時間が経っているのだろう。少なくとも、一時間は経過していな
いはずである。それでも、散歩だったらそろそろ戻ってきてもいいくらいの時間は経って
いた。
早朝の散歩にしては時間が長いなとか、早く彼女を探さないと、などと考えたりもした
が、腹の虫が鳴ったのでとりあえず腹ごしらえをすることにした。寝巻きから普段着に着
替え、護身用にと刀を手に持つと荷物を置きっぱなしにして階下へと降りる。一応部屋に
は鍵を掛けておくが、メイが何時帰って来てもいいように、書置きを扉に貼り付けておく
事も忘れない。彼女が人間の使う文字を読めれば意味が通じるが、その限りで無いことは
とりあえず念頭から外しておく。
とりあえず、階下へ降りていく。
とりあえず、開いている席へ着席する。
とりあえず、朝食を用意されてある場所まで取りに行く。
とりあえず、器に盛る。
とりあえず、席について食べる。
一人で食べる朝食は、どこか味気ない。
おかしい。村を出てから今までずっと一人で食べて来たはずなのに。どうしてこんなに
もつまらないと思えてしまうんだろう。ずっと一人だった。食事するときも、夜寝るとき
も。でも、そのときは少しも“寂しい”だなんて思わなかった。それなのに――。
礫は、ひとりでに涙が溢れてきたのに気付いた。
「あれ? おかしいな。僕、何で泣いてる――」
語尾が続かなかった。
とめどなく流れる涙の理由は、何となくだけど解る様な気がした。
メイは、昼を過ぎても帰って来なかった。
彼女が誘拐されたのではないかという思いがもたげるが、果たして本当にそうだろうか
という疑問も浮上する。第一、もし本当に誘拐であるならば、脅迫状みたいなものが届け
られるはずである。それが無いところを見ると、誘拐したことによる副産物が目当てなの
ではなく、彼女自身が目当ての誘拐か、そもそも誘拐などという事件自体が起こっていな
いかのどちらかだ。出来れば誘拐など起こって欲しくはなかった。
未だ誘拐だと決まったわけでは無いけれど、もし誘拐か連れ去り事件だとしても犯人を
特定できる物品もなければ、心当たりの場所も無い。こんな状況ではメイを探しに行きた
くとも出来ない。だからとりあえず、メイの故郷への手がかりを探しに外に出る事にした。
外で動き回っていれば、メイに関する情報が飛び込んでくるかもしれないからだ。何もし
ないよりましである。何もしないと、おかしくなりそうだった。
とりあえず、昨日メイが言っていた、花売りのおじさんを探してみることにする。
花売りのおじさんは、特徴が掴めているからあっけなく見つかった。
彼は市場の端、村の中央広場寄りのところに店を構えていた。店はこじんまりとした店
で、花を売っている傍らでお茶なども売っている。お茶は花茶といって、ここ最近この近
辺で流行しているお茶である。店主はメイの表現がピッタリ当てはまるような人相、髪の
毛は勿論の事、髭も、眉毛までがモジャモジャで熊のような体躯のおじさんだった。年齢
は40代半ば、といったところか。
「すいません。ちょっといいですか?」
「はい。いらっしゃいませ」
「この、花なんですけど、何処で仕入れているんですか?」
礫は店の奥まった所に陳列されている、花茶の一種、白くて小さい花を指差して言った。
すると、店主は鋭い目つきで礫を睨み据えるとやや警戒した語調で言った。
「あんた、同業者か何か?」
「いいえ! 違いますよ。ただ……そう! 勉強のために調べているんです。学校の課題
で……」
「ふうん」
それでも花屋は胡散臭そうに礫を見詰める。まるで値踏みをされているようだ。礫は苦
し紛れの言い訳しか出来なかった自分の脳の足りなさ加減を悔やんだ。もっとましな言い
訳が出来れば。
しかし、事態は思っていたほど悪い方へは転ばなかった。
花屋は今まで値踏みしていた視線を引っ込めると、にやりと意味ありげに笑った。
「まぁ、いいや。花茶の仕入先だったね。ここから南東の方角にあるポポルを経由して二
つ三つ町を越えたところにある、田園地帯で作られているのさ。俺はいつもそこで仕入れ
ているね」
「なるほど。地図で言うとどの辺ですか? 差し支えなければお願いします」
「んーっと、だいたいこの辺だなぁ」
礫が持ってきていた地図を広げると、花屋は正確な位置を指で指し示した。
「ありがとうございます」
礫は礼を述べて、店を後にした。
店を後にした礫の服の裾を、誰かが引っ張った。
見ると、昨日礫の財布を引っ手繰ろうとした少年だった。その円らな瞳でじっと礫を見
上げてくる。愛くるしい仕草にも見れるが、何かを訴えかけようとしているようにも見て
取れる。少年は暫く見詰めた後、礫に質問を投げ掛けた。
「お兄ちゃん、昨日一緒にいた妖精さんは?」
その言葉を聞いた時、少年が何かを掴んでいる事を礫は直感的に悟った。本当の事を言
おうか迷ったが、本当の事を言うことにした。隠し立てしてもしようが無いからだ。
「それが……今朝起きたら居なくて。ひょっとしたら誰かに連れ去られたのかもしれない
んだ。心当たりあるのかい?」
少年は、暫く逡巡した後はっきりと礫に告げた。
「うん。キシェロさんが妖精さんを連れて行くところ、見たんだ」
まただ。
また、キシェロの名前が出てきた。昨日といい、今日といい、キシェロと言う者は一体
何者だろう。礫は、少年に対する疑念よりも先ず最初にその疑問が浮上するのを覚えた。
だが、口をついて出た質問は、違う言葉だった。少年に対するそれよりも、キシェロと言
う者の正体よりも、先ず最初にしなければならないこと。
「大変だ。早くメイちゃんを助け出さないと」
「お兄さん、冒険者でしょ。俺も連れて行って! 俺、役に立つから」
少年から意外な言葉が飛び出た。
「俺、キシェロさんの顔、わかるよ!」
少年は、無我夢中で自己主張をした。自分を売り込むのに必死な形相をしている。少年
は名前をニャホニャホタマクローといった。盗賊だという事だから、恐らく偽名だろう。
どこかの民族で活躍した英雄の名前からとったのだそうだ。
礫も自ら名乗って、二人は見ず知らずの他人から仲間になった。
これで後はメイが戻って来てくれればいいのだが――不安げな視線を彷徨わせて南天を
通り過ぎる太陽を見上げる礫であった。
PR
トラックバック
トラックバックURL: