PC:礫 メイ
NPC:ガリュウ・ソーン 朧月の店主
場所:ガリュウの家~ポポル
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礫が扉を叩こうと拳を振り上げると、いきなり中から扉が開いた。だが、扉の直
ぐそこには誰もいない。奥から「開いてるよ。来ることはわかっていた。入ってき
なさい」と声がかかる。礫とメイは一瞬顔を見合わせると、声に促されるように入
っていった。
中には一人の、みすぼらしいが威厳と風格のある老人が椅子に腰掛けていた。白
髪と白髭は伸びきったままだ。端々が切れ切れのローブを纏っている。どこからど
う見てもただの隠居老爺にしか見えない。だが、纏っているオーラが違った。礫に
はわかる。ただのじじいではないと。
小屋はこの居間兼台所の他にもう一つ奥に部屋があるようだ。礫は老爺に近付い
て、誰何した。
「あなたが、ガリュウ・ソーンさんですね?」
念のためだ。老爺は即答で答えた。
「そうだ」続けて、
「お前達が来ることは解っていた。さあ、座りなさい」
ニコリとも、振り向きもせずに、着席を促した。礫は静かにそれに従う。着席し
たところを見計らうようにテーブルに置いてあった菓子入れを指して、
「月餅は好きかね?」
と訊いてきた。礫は見たことも聞いたことも食べたことも無かったので、沈黙で
答えた。すると、ガリュウは一つ摘むとそれを一口かじり咀嚼してから言った。
「月餅はシカラグァの名産品でね。おいしいよ。一つどうだね?」
礫は何の意図があって、月餅を進めるのか解りかねていた。理解しがたい。魔術
師とは皆こうなのか。変人が多いとは聞いていたが、まさか本当にそうだとは思っ
ていなかった。だが、目前にしてそれが正しいことが解ったような気がする。
「あの、今日はあなたに頼みたいことがあって、やって来ました」
切り口上にまくし立てる。しかしそれも、相手はどこ吹く風だ。メイは卓上で瞳
を煌かせながら月餅を見詰めている。よだれが垂れそうに口を半開きにさせて。礫
は胸の中で溜息をつく。メイちゃんもやっぱり食べたいのか、月餅と。
礫は一ついいですか、と断りを入れてから月餅を一つ掴むと、小さいメイでも食
べやすいように小さく千切ってメイに渡す。
「れっきぃぃぃぃ……ありがとう」
満面の笑みを浮かべるメイ。この笑顔を見れただけで礫は嬉しかった。
「皆まで言わなくてよい。解っている」
威厳のある声音でガリュウが言葉を紡ぐ。礫はきょとんとガリュウを見詰める。
やがて、ああ、先ほどの話の続きか、と合点がいってやっと話に戻る。見る間に笑
顔に変わり、
「じゃあ、引き受けてくれるんですね!」
と確認する。だが、次の瞬間、ガリュウが口にした言葉を聞いて、愕然とする。
「君達の頼みを聞き入れるのに、条件がある。――ポポルに、朧月という酒場があ
る。その店の主が困っているようだ。その困り事を解決したら、頼みを聞き入れて
やっても良い」
条件? 条件って何だ。このじじいはそれ程偉いのか。と怒鳴りたくなる衝動を
律して、礫はやっと話の内容を飲み込んだ。飲み込んで、飲み下して、消化して、
言葉を吐き出す。
「……つまり、その店の困り事を解決したら、僕たちの頼みを聞いてくれるんです
ね」
相手は沈黙で答える。その沈黙を、了承と取る礫。かくて契約は成り立った。後
は気まぐれが発動しないことを願うだけである。
■□
ガリュウの家を出た礫達は、森の中をポポルに向けて歩いている。正午の日差し
を受けて、木漏れ日が眩しい。しかし、とても清々しい。木々の間から見える青く
高い空が目に突き刺さってくる。この時間、太陽を直接見ることは自殺行為だ。目
が焼きついて暫く白い点しか見えなくなる。目が潰れるほどではないが、目を酷使
することは事実である。だから礫は太陽の大体の位置を把握したあと、直ぐに視線
を前に戻した。
「ねぇ、れっきー」
「何? メイちゃん」
「あのおじいさん、本当に私たちの頼み事聞いてくれると思う?」
「それは…………解らないな。あの人に、誠実さがあればいいけど」
苦笑する礫。これから先のことはその時になってから考えれば良い。
礫は、メイを見ていてふと不思議な感覚に襲われた。この胸のドキドキはなんだ
ろう。強い衝撃を受けたときのような、魂が揺らぐあの感じ。強敵と対峙した時と
は違う。実の父さんと母さんが死んだ人だと聞かされたときの、あの感じとも違う。
何かが決定的に違う、でも魂が揺らぐあの感じ。この感じはなんだろう。よく解ら
ない。でも、とても心地いいような気がする。メイを見ると自然とにこやかになっ
ている自分を意識した。
太陽が西の空に少し傾いた頃、だから二時くらいにポポルの町並みが見えてきた。
開放的な町らしく、外壁は無い。と、いうよりも、森が自然の要塞になっているの
だろう。確かに道に明るくなければ迷いやすい森だ。でも迷いの森のように、魔法
が掛かっている訳ではないので多少日数を要するが、抜け出せないレベルではない。
しかし、一番警戒しなければいけないのは森に住むエルフ達だろう。エルフ達は木
と一対なので、木を汚すもの、傷付ける者達には容赦しない。それが、森エルフと
呼ばれるものたちだ。その森エルフの存在があるからこそ、あえて外壁を作らない
のだろう。
ポポルの町に入って、最初に異変に気付いた。
ポポルの町近郊の森に近い場所。そこに巨大なクレーターがぽっかりと口を開け
ていた。暗い眼窩を穿たれたその大地の傷は、一種異様な迫力があった。
「すごい穴だねー」
「一体、何があったんだ?」
二人はその穿たれた墓穴を避けるように大回りして町に入った。
地図を書いてもらった場所に、その店はあった。ワイングラスを模った木製の看
板の丸い外枠に“朧月”と書いてある。確かにこの店のようだ。
礫は決意も新たに店の扉を潜った。
中には中年の上品そうな男がカウンターの奥に居た。中肉中背の鍛え上げてはい
るけれど、それを見せない体格の持ち主だ。
「何用だい? まだ店はやっていないよ」
男の言葉に周りを見渡すと、確かに椅子が丸テーブルの上に上げてある。開店は
どうやら夕方からのようだ。
「すいません。ガリュウ・ソーンさんの依頼できたのですが」
礫があらたまった声音で声を掛ける。ガリュウの名前を聞くと、男はぴくりと眉
毛を動かした。心当たりがあるらしい。
「君は……誰だね?」
「はじめまして。僕は礫と申します。冒険者です。こちらはメイといいます」
こちらはというところで、礫はメイを指して紹介した。
「はじめましてー」
男はあからさまに怪訝な顔をした。
「依頼だって?」
「ガリュウさんから、あなたの困り事を解決して欲しいと言われまして」
男は無言で、数秒値踏みするように礫を眺め回した。
「……なぜ、そのことを知っている?」
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NPC:ガリュウ・ソーン 朧月の店主
場所:ガリュウの家~ポポル
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礫が扉を叩こうと拳を振り上げると、いきなり中から扉が開いた。だが、扉の直
ぐそこには誰もいない。奥から「開いてるよ。来ることはわかっていた。入ってき
なさい」と声がかかる。礫とメイは一瞬顔を見合わせると、声に促されるように入
っていった。
中には一人の、みすぼらしいが威厳と風格のある老人が椅子に腰掛けていた。白
髪と白髭は伸びきったままだ。端々が切れ切れのローブを纏っている。どこからど
う見てもただの隠居老爺にしか見えない。だが、纏っているオーラが違った。礫に
はわかる。ただのじじいではないと。
小屋はこの居間兼台所の他にもう一つ奥に部屋があるようだ。礫は老爺に近付い
て、誰何した。
「あなたが、ガリュウ・ソーンさんですね?」
念のためだ。老爺は即答で答えた。
「そうだ」続けて、
「お前達が来ることは解っていた。さあ、座りなさい」
ニコリとも、振り向きもせずに、着席を促した。礫は静かにそれに従う。着席し
たところを見計らうようにテーブルに置いてあった菓子入れを指して、
「月餅は好きかね?」
と訊いてきた。礫は見たことも聞いたことも食べたことも無かったので、沈黙で
答えた。すると、ガリュウは一つ摘むとそれを一口かじり咀嚼してから言った。
「月餅はシカラグァの名産品でね。おいしいよ。一つどうだね?」
礫は何の意図があって、月餅を進めるのか解りかねていた。理解しがたい。魔術
師とは皆こうなのか。変人が多いとは聞いていたが、まさか本当にそうだとは思っ
ていなかった。だが、目前にしてそれが正しいことが解ったような気がする。
「あの、今日はあなたに頼みたいことがあって、やって来ました」
切り口上にまくし立てる。しかしそれも、相手はどこ吹く風だ。メイは卓上で瞳
を煌かせながら月餅を見詰めている。よだれが垂れそうに口を半開きにさせて。礫
は胸の中で溜息をつく。メイちゃんもやっぱり食べたいのか、月餅と。
礫は一ついいですか、と断りを入れてから月餅を一つ掴むと、小さいメイでも食
べやすいように小さく千切ってメイに渡す。
「れっきぃぃぃぃ……ありがとう」
満面の笑みを浮かべるメイ。この笑顔を見れただけで礫は嬉しかった。
「皆まで言わなくてよい。解っている」
威厳のある声音でガリュウが言葉を紡ぐ。礫はきょとんとガリュウを見詰める。
やがて、ああ、先ほどの話の続きか、と合点がいってやっと話に戻る。見る間に笑
顔に変わり、
「じゃあ、引き受けてくれるんですね!」
と確認する。だが、次の瞬間、ガリュウが口にした言葉を聞いて、愕然とする。
「君達の頼みを聞き入れるのに、条件がある。――ポポルに、朧月という酒場があ
る。その店の主が困っているようだ。その困り事を解決したら、頼みを聞き入れて
やっても良い」
条件? 条件って何だ。このじじいはそれ程偉いのか。と怒鳴りたくなる衝動を
律して、礫はやっと話の内容を飲み込んだ。飲み込んで、飲み下して、消化して、
言葉を吐き出す。
「……つまり、その店の困り事を解決したら、僕たちの頼みを聞いてくれるんです
ね」
相手は沈黙で答える。その沈黙を、了承と取る礫。かくて契約は成り立った。後
は気まぐれが発動しないことを願うだけである。
■□
ガリュウの家を出た礫達は、森の中をポポルに向けて歩いている。正午の日差し
を受けて、木漏れ日が眩しい。しかし、とても清々しい。木々の間から見える青く
高い空が目に突き刺さってくる。この時間、太陽を直接見ることは自殺行為だ。目
が焼きついて暫く白い点しか見えなくなる。目が潰れるほどではないが、目を酷使
することは事実である。だから礫は太陽の大体の位置を把握したあと、直ぐに視線
を前に戻した。
「ねぇ、れっきー」
「何? メイちゃん」
「あのおじいさん、本当に私たちの頼み事聞いてくれると思う?」
「それは…………解らないな。あの人に、誠実さがあればいいけど」
苦笑する礫。これから先のことはその時になってから考えれば良い。
礫は、メイを見ていてふと不思議な感覚に襲われた。この胸のドキドキはなんだ
ろう。強い衝撃を受けたときのような、魂が揺らぐあの感じ。強敵と対峙した時と
は違う。実の父さんと母さんが死んだ人だと聞かされたときの、あの感じとも違う。
何かが決定的に違う、でも魂が揺らぐあの感じ。この感じはなんだろう。よく解ら
ない。でも、とても心地いいような気がする。メイを見ると自然とにこやかになっ
ている自分を意識した。
太陽が西の空に少し傾いた頃、だから二時くらいにポポルの町並みが見えてきた。
開放的な町らしく、外壁は無い。と、いうよりも、森が自然の要塞になっているの
だろう。確かに道に明るくなければ迷いやすい森だ。でも迷いの森のように、魔法
が掛かっている訳ではないので多少日数を要するが、抜け出せないレベルではない。
しかし、一番警戒しなければいけないのは森に住むエルフ達だろう。エルフ達は木
と一対なので、木を汚すもの、傷付ける者達には容赦しない。それが、森エルフと
呼ばれるものたちだ。その森エルフの存在があるからこそ、あえて外壁を作らない
のだろう。
ポポルの町に入って、最初に異変に気付いた。
ポポルの町近郊の森に近い場所。そこに巨大なクレーターがぽっかりと口を開け
ていた。暗い眼窩を穿たれたその大地の傷は、一種異様な迫力があった。
「すごい穴だねー」
「一体、何があったんだ?」
二人はその穿たれた墓穴を避けるように大回りして町に入った。
地図を書いてもらった場所に、その店はあった。ワイングラスを模った木製の看
板の丸い外枠に“朧月”と書いてある。確かにこの店のようだ。
礫は決意も新たに店の扉を潜った。
中には中年の上品そうな男がカウンターの奥に居た。中肉中背の鍛え上げてはい
るけれど、それを見せない体格の持ち主だ。
「何用だい? まだ店はやっていないよ」
男の言葉に周りを見渡すと、確かに椅子が丸テーブルの上に上げてある。開店は
どうやら夕方からのようだ。
「すいません。ガリュウ・ソーンさんの依頼できたのですが」
礫があらたまった声音で声を掛ける。ガリュウの名前を聞くと、男はぴくりと眉
毛を動かした。心当たりがあるらしい。
「君は……誰だね?」
「はじめまして。僕は礫と申します。冒険者です。こちらはメイといいます」
こちらはというところで、礫はメイを指して紹介した。
「はじめましてー」
男はあからさまに怪訝な顔をした。
「依頼だって?」
「ガリュウさんから、あなたの困り事を解決して欲しいと言われまして」
男は無言で、数秒値踏みするように礫を眺め回した。
「……なぜ、そのことを知っている?」
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