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2024/05/17 04:06 |
夢御伽 05/メイ(周防松)
PC:礫 メイ
NPC:キシェロ 店員
場所:トーポウ

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「あ」

メイが声を上げたのは、礫が店員に注文をし終えた時だった。

「どうしたの? もっと何か頼む?」
尋ねる礫はあくまでも優しい。
メイは、首を横に振った。
「……あたしの注文ってさ」
両足を交互にぶらぶらと揺らしながら、メイはテーブルの木目をじっと見つめる。
その横顔はどこか真剣……というべきか、真面目な表情だった。
「注文がどうかした?」
「うん……れっきーと同じぐらいの量で来るのかな、って思って」

「…………」

礫はしばらく固まった。
メイは今度は腕組みをし、む~……と難しい顔をする。
「もしさ、れっきーと同じぐらいだったら、あたし、食べきれないよ? 食べ物残し
ちゃいけないって、じい様も言ってたし……」
どうしよう~……とメイはぺしゃんこな気分だった。
「あ、あのさ」
そんなメイに、礫は微笑みかけた。
「もし人間用のサイズで出てきたら、なんとか食べられるだけ片付けるよ」
「……礫って大食い?」
メイの問いかけに、礫はほんの少し考え込む。
「普通、ぐらいだと思う……けど」


「はいよ、お待ちどうさま」

中年ぐらいの女の声とともに、メイの周囲に影が落ちる。
顔を上げると、エプロンをかけた中年女が、料理を載せているらしい木のおぼんを手
に現れたところだった。
女は、運んできた料理を、手際よくてきぱきとテーブルに並べてゆく。
ほわほわと湯気を立てる、カモミールの紅茶。
そして……人間の料理のことは詳しくわからないのだが、パスタの上にカボチャの風
味を感じるソースがかかっているから、隣の皿に盛りつけられているのが『朝色茸の
カボチャクリームパスタ』というやつなのだろう。
メイにとってはまさしくパスタの山である。

(ちょっとだけ食べてみたいなぁ……って、いかんいかんっ)

慌ててメイは思考を戻した。
さて、自分の注文はどんなことになっているのか。
人間用のサイズだったら、礫が少々苦しい思いをすることになろう。
(うぅ、ごめん、れっきー)
早くも食べ過ぎで苦しむ礫の姿を思い浮かべ、メイはちょっとした罪悪感を感じてい
た。

「それから、あなたのはこっちね」

店員はそう言うと、メイの注文分の料理をテーブルに並べ始めた。

「うわあ」
メイは、自分の前に置かれた皿を見て感嘆の声を上げた。
小さな……そう、小さな妖精であるメイにとって『ちょうどよい』サイズの食器の中
に、注文した『若鶏のクリームスープ』と『ホイエルンのバター焼き』が盛りつけら
れていたのだ。
感心すべきは容器に盛りつけてあるだけではなく、材料までがきちんと容器に見合う
ように小さく切られている点である。
まさしく職人技、という他にない。

「店長の娘さんがおチビの頃に使ってたやつだから、ちょっと古いけどね。ちゃんと
綺麗に
洗ってあるから、使ってちょうだい」

「えへへ、ありがと!」
メイは女性の顔を見上げ、笑顔を見せた。




その様子を、やや離れた席からじっと見つめつつ、キシェロはコーヒーをすすってい
た。
別に、コーヒーなど飲みたくもなかった。
しかし、食堂に入っておきながら注文もせずに居座っているというのも目立つと思
い、一番安いものを注文したのである。
安いコーヒーはただもの熱い上、砂糖とミルクをたっぷり入れて苦味を誤魔化さねば
とても飲めないような代物だった。
おまけに、飲みこんだ後に舌に酸っぱさが残る。
本当はブラックで飲むのが好きだったキシェロだが、今回ばかりは仕方なく、主義に
反して砂糖とミルクをたっぷり入れた。
『それ』は、もはやコーヒーというよりも『砂糖とミルクの水溶液』とでも呼びたい
ような有り様だった。
主義に反したコーヒーは、彼に憩いの時間を与えるどころか、活力をガリガリと削り
落としてゆく。
俗に、甘いものは疲労に良いというが、この場合、当てはまりそうにない。


「いただきます」
「いっただきまーすっ」

見ているうちに、少年と妖精とが仲良く食事を始めた。
妖精用の食器など、普通、置いてあるものだろうか……と疑問に思い、妖精の使って
いる食器を観察してみると、それはどうやら人形遊びなどで使うおもちゃのようであ
る。


――そうだ。
彼の脳裏に、突如として閃きが起こった。
妖精を捕まえた後のことも考えておかなくてはならない。

そのことに気付いた彼は、脳みそを目まぐるしく回転させる。

妖精を捕まえた後、どうやって見世物小屋に置こう。
ありきたりな、鳥かごに入れて飾っておくようなものでは駄目だ。つまらない。
何より、妖精を引きたてることができない。

人形用に作られた家……そう、ドールハウスを用意しよう。
食器や家具類も、一通りそろえてやらなくては。
それから、忘れてはならないのが衣服だ。
飾るためのものなのだから、できるだけたくさん用意しておこう。
それもやはり、人形用のものを見繕うとしよう。

そのためには、まず。

(妖精を確実に捕まえる方法を考えないと……な)

甘ったるい液体を口の中に流し込み、キシェロは近くにいた店員を呼ぶ。
今度は、ブラックで飲んでも美味しい、値段の高いコーヒーを注文しよう。
時間つぶしのためではなく、すっきりとした頭で捕獲方法を考えるために。

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2007/02/12 19:52 | Comments(0) | TrackBack() | ▲夢御伽

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