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2024/05/17 07:16 |
夢御伽 04/礫(葉月瞬)
PC:礫 メイ
NPC:キシェロ
場所:トーポウ
+++++++++++++++++++++++++++++++++++

 出会いとは奇妙なものだ。
 村を出て、当て所なく各地の村や町や遺跡などをフラフラしていたら、珍妙
な生き物――妖精にぶつかった。しかも、よりにもよってその少女は突然泣き
出してしまったのだ。「どうしたの?」と宥めてみても、余計に涙腺を緩める
ばかり。如何せん往来のど真ん中なので、弱った事になってしまった。
 そして、少女の困り事を解決する手伝いをすることになってしまった。
 少女の名は、メイリーフといった。
 そして、泣いたカラスが一瞬で笑い出した。

「あー、んと、取り敢えず涙拭こうか」

 礫は一つ提案した。
 メイは涙を拭く事も忘れて、喜びを噛み締めているからだ。

「あっ、そうだね」

 小さな手の甲で必死に涙を拭うメイ。その行為が可愛らしくて、つい目を細
めてしまう礫。取り出したハンカチーフがメイに対して大き過ぎる事に気付い
て、慌ててしまいこむ。どうやって拭いてあげたらいいか解らなかったから
だ。一体妖精はハンカチーフを持っているのだろうかなどと、ぜんぜんその場
に関係ない事を考えたりした。
 暫くして、メイがその小さな腕を涙で濡れそぼらせながらやっと涙を拭き終
った頃合を見計らって、もう一つ提案した。

「取り敢えずさ、ここから動かない? お腹空いてない? 喉渇いてない? 
どこかに入ろうか」

「お腹? 空いてるー!」

 二人はどこか近くに食堂らしき店がないか探しに、歩き出した。
 その後ろ、数歩後方に退いた所に男の影が見える。男は陰鬱な眼窩を光らせ
て、何やら熱心に見詰めている。まるで何かを思い詰めたかのようだ。二人が
歩き出した頃合を見計らって、男も後を付けるように動き出した。その影は建
物の陰に隠れ潜むようにひっそりと移動していった。



    *□■*



 ここにも、奇妙な出会いを体験した男がいた。
 男はその出会いを目撃したとき――その珍妙な生物を目撃したとき、ぴんと
来るものがあった。
 男には、長年悩み苦しんできた悩みがあった。その悩みとは、見世物小屋を
この先ずっと経営し続けていく事であった。男が経営する見世物小屋は、今や
経営困難に陥っていた。今のままではこの先ずっと続けていくなど夢物語だろ
う。マンネリ化した見世物に、客は飽きてきている。おまけに胡散臭がる客も
出てきている始末だ。無理もない。猿のミイラと魚のミイラを足して、人魚の
ミイラとして見世物にしているのだから。今の見世物は、本物じゃない。
 本物が必要だった。
 今以上の。
 今目の前にいる生物――妖精と言う――は、正にうってつけだった。
 長年見世物小屋を経営して旅をしてきた男の、勘だった。
 男の行動は素早かった。少女と、少年を尾行し始めたのだ。
 行動原理は簡単だった。「捕らえて、見世物にする」これに尽きる。しか
も、生きたままで。彼のターゲットは少女の方、妖精だった。少年などどうで
も良い。しかし、邪魔立てするならば手段は選ばない。
 男は執念にぎらつく目を少年と少女に一心に向けながら、静かに後を付けて
行く。
 音を立ててもし相手に気付かれたら、アウトだ。二人の後を、付かず離れず
身長に尾行していく。
 男が、二人が洒落た食堂に入って行くのを見届けて自分も食堂に入ろうとし
たその時、

「うぉーい! キシェロさん!」

 溌剌[はつらつ]とした声に呼び掛けられて、キシェロと呼ばれた男は猫背を
大仰に震わせて肩を掬わせびくつきながら振り返った。

「どうしたんです? 見世物小屋の方ほっぽっといて、こんな所で」

 そういって気さくに声を掛けてきた男は、キシェロの見知った顔だった。
 この街の青年で、よく見世物小屋に見に来ている若者だ。物珍しいものが大
好きなのだという。好奇心旺盛な瞳をいつもキラキラさせて、覗きにやってく
る一ファンだった。数少ない、ファンの一人だ。

「いや、何ね、とてもいいものを見つけて」

 しきりに眼鏡を直しながら答えるキシェロ。眼鏡の奥の眼窩は落ち窪んでい
る。

「いいものって、何ですか!?」

 青年は目をキラキラ輝かせて訊ねてきた。とても、何かを期待した瞳だ。
 キシェロは本能で、この青年の期待に応えなくてはならないと思った。
 そして、青年の期待に応えるためにも今の尾行を続けて、機会が訪れたらあ
の妖精を手に入れなければならないと思った。絶対に失敗してはならないと
も。
 キシェロは、青年に今改めて訪れた決心が解る様に微笑んだ。
 眼鏡の奥の瞳は、希望に満ちていた。



    *□■*



「何、食べる?」

 礫は、食堂に入って店員に案内された席に座るとメイに訊ねた。
 傍から見ると礫が一人で座っているように見えるけれど、ようく見ればその
丸テーブルの上に置かれた礫の左腕の上に、緑色の髪の毛の小さな女の子が乗
って据わっているのが解る。礫と同じように、メニューが書かれた冊子を覗い
ている。

「んーっと、あたしはねぇ、若鶏のクリームスープとホイエルンのバター炒
め」

「んじゃあ、僕は朝色茸のカボチャクリームパスタ。カモミールの紅茶もつけ
ようかな」

 店員を呼んで、注文をする礫。
 暫くして、最初の一品が運ばれてきた。
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2007/02/12 19:52 | Comments(0) | TrackBack() | ▲夢御伽

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