忍者ブログ
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


2024/05/17 08:58 |
夢御伽 03/メイ(周防松)
PC: メイ  礫
場所: トーポウ
NPC: 見世物小屋の経営者
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


――泣けば泣くほど、泣いていた理由からは遠ざかるものである。


「うぅっ、えうぐっ、ううっ、うー」

メイは、口を思いきりひん曲げて、べそべそと泣き続けていた。
乱暴にこすったせいか、目の下の柔らかい皮膚が痛い。

「え…えぇと、妖精…だよね?」

少年の問いかけに、メイは頷いた。
声を出して返事ができる状態ではなかったのである。

「どうして泣いてるの?」
「……ぐすっ……花畑……」
「え?」
「花畑で……っ……花がいっぱい、入ったカゴがあったから、寝転がってみたら、知
らないやつが掴んでて、知らないところにいて!」

メイとしては、一からきちんと事情を説明しているつもりだった。
妖精の森から花畑に遊びに出かけ、そこでカゴの中に敷き詰められた花びらの上に寝
転がり……気がついたらいきなりこの街に来てしまっていた、ということを。

しかし、聞いている少年にしてみれば、次々と言葉をまくしたてているだけのように
しか聞こえない。
まったく要領の得ない説明である。
少年は、とにかく、この妖精は今物凄く困っているんだ、ということだけは理解でき
た。

「あーんっ、ここどこなのよーっ! あたしが何したっていうのよぉっ!」

妖精だろうがなんだろうが、泣く女ほど手に余るものはない。
大泣きに泣いているメイを見つめ、少年は固まっていた。
明かに、メイの扱いに困っている様子である。

「え、ええと、妖精さん……ここがどこだかわからなくて、家に帰れないから困って
る……んだよね?」

メイの様子や言葉などから、どうにかその結論に達したらしい少年は、おずおずと
いった感じでそう尋ねる。

「もし良かったら、手伝おうか?」

その言葉に、メイは、涙でぐじゃぐじゃになった顔を上げた。

「手伝う……?」

ひっく、ひっく、としゃくり上げながら問い返すと、少年は「うん」と頷いた。

「家に帰れるように手伝うから、その……泣かないで、ね?」

見知らぬ、しかも人間の街で。
不安でぐちゃぐちゃなところへ。
助けの手を差し伸べてくれる人物に出会う。

その時の喜びと安堵感は、何物にも変え難いほど大きいものだ。

メイの顔から、不安の影が消えていき――その目に、希望に満ちたキラキラした輝き
が宿る。

「わぁい、ありがとーっ!」

先ほどまでの大泣きしていた様子とは一変、メイはすっかり元気を取り戻した。
羽根のはばたきすらも、先ほどまでより力強いものに変わっている。

メイは、ひゅいんっ、と少年の眼前まで羽根を羽ばたかせて飛びあがると、その鼻先
に手を置いて笑顔を見せた。
「あたし、メイリーフ! だけど面倒くさいからメイでいいよ」
少年はつられたように微笑みを返した。
「僕は礫(れき)って言います」
「ちょい待ち。なんでそこだけ敬語になるかな?」
メイは、びし、と手刀に似た手の動きを少年――礫に向ける。
いわゆる、『ツッコミ』といわれるソレである。
「な…なんとなく」
「ふーん。じゃあ、あだ名は『れっきー』ね」
「……え?」
突然『れっきー』呼ばわりされて、礫は戸惑ったような表情を浮かべた。
「え? イヤ?」
「いや……あの、嫌ってわけじゃないけど……別に、普通に呼んでもらっても……」
メイが首を傾げると、礫はもごもごとそんなことを呟いた。

「じゃあよろしくね、れっきー」
訂正しないところを見ると、メイの中では既に決定事項であるらしい。

「れっきー……って……」

礫の呟きは、虚しく風に消えたのだった。




その一連の動きを、じっと観察している者がいることには、まだ気付いていない。

PR

2007/02/12 19:51 | Comments(0) | TrackBack() | ▲夢御伽

トラックバック

トラックバックURL:

コメント

コメントを投稿する






Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字 (絵文字)



<<夢御伽 02/礫(葉月瞬) | HOME | 夢御伽 04/礫(葉月瞬)>>
忍者ブログ[PR]