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2024/05/16 23:41 |
夢御伽 02/礫(葉月瞬)
PC:礫 メイ
NPC:見世物小屋の経営者
場所:トーポウ
+++++++++++++++++++++++++++++++++++

 村を出る理由はいくらでもあった。
 ご飯が美味しく感じられないとか、真の友達がいないとか、辺境の一地域で
朽ち果てたくないとか、見聞を広めたいとか、村が小さ過ぎて偏見の塊ばかり
とか。
 でも一番の理由は、自分の居場所がないことだった。

 礫には両親の記憶がない。
 礫が生まれたばかりの頃、土砂災害にて両親共々失ったのだという。これ
は、育ててくれた村長が話してくれた事だが、俄かには信じられなかった。か
といって疑う余地も無いのだが。何といっても礫に両親の記憶が無い、と言う
事実が村長の言っていた事が真実だという証拠であった。
 礫にとっての両親は、おぼろげながら残る輪郭だけの存在だった。普通、記
憶と言うものは三歳以前のことは覚えていないものだ。すると、礫が両親と死
に別れたのは三歳の頃かと言うと、そうでもないらしい。礫を拾って育ててく
れた育ての親である村長の言によると、当時長雨続きで地盤が緩んでいた山道
を物凄い速度で走り去ろうとした馬車があったそうだ。何処から来たのか、何
処へ向かっているのか定かではなかったが、その馬車は何かに追われているか
のようだったという。その馬車の振動が緩んでいた地盤を揺らし、土砂崩れが
起こったのだという。通り過ぎようとしていた馬車は敢え無く土砂に飲み込ま
れ、砂礫の下敷きになってしまったのだ。
 狩りのため、村長が丁度付近を通りかかった時、偶然赤ん坊の泣き声が聞こ
えてきたのだそうだ。まだ、1歳か0歳くらいの。生まれて間もない赤ん坊の泣
き声だった。それは奇跡だった。不運が続いた後の、たった一つの奇跡だっ
た。
 救い出されると安心したのか、赤ん坊――当時の礫――は直ぐに泣き止んだ
のだという。
 それから村に連れて帰って上へ下への大騒ぎになった。ともかく、奇跡の子
だなんだと騒ぎ立てた。奇跡の子として扱われていた時はまだ良かった。だ
が、一度赤ん坊が瞳を開け広げると途端に水を打ったような静けさが広がっ
た。そして、波紋が広がるようにざわつき始めた。
 その赤ん坊は、青い瞳を持っていた。
 色素の薄い、蒼穹の青さを持った子供。
 その瞳の色はここ、カフールでは特に珍しい色合いだった。
 そして、礫はその日から忌み子として倦厭される事になる。
 普通、自分と違うものを持ったものは物珍しい目で奇異に見られるか、敬遠
するのが一般的である。ましてやここは閉鎖的なカフール皇国の片田舎。皆一
様に黒髪黒目と、同じような姿なのだ。その中に一人だけ違う毛色の者が放り
込まれたら、どうなるか。結果は明瞭である。仲間として受け入れられなくて
弾き出されるのが落ちだ。礫も、その例に漏れなかった。
 だから、礫は幼い頃より苛められてきた。
 礫は名目上、村長の家に引き取られることになった。
 村長自身は優しく、温かい目で受け入れてくれたが、村長の家族達は不満が
滲み出ていた。一言で言って、面白くない、のだ。何故に他人の子供――しか
も両親は既に死んでいる――を引き取らねばならぬのか。その疑問を拭い去る
ことは出来なかった。最後まで。
 家の内にいても、外にいても、礫の居場所は無かった。
 家の中では肩身が狭くて、家の外では苛められていたのだ。つまはじき者と
して。
 村長の家族達の対応は皆一様に冷たかった。冷酷、とまでは行かないまでも
それなりに冷めている。そんな中途半端さが逆に痛かった。朝、昼、晩のご飯
はちゃんと作ってくれるし、家族皆と同じ献立で同じだけの量を食することが
出来た。でも、食事中の会話は何故か礫だけ除け者になっていたし、村長だけ
が礫に対して話しかけることはするけれどもそれ以上のことはしてはくれなか
った。
 そのほかの時間でも、礫は何故か除け者にされていた。冷たい、嫉妬心に満
ちた視線ばかり浴びるが、それ以上の事はしてこなかった。
 事、勉強に関しては家族の中に礫の右に出るものは居なかったので教えるこ
とはあったが、それ以上の関係にはなり得なかった。
 つまり、肩身が狭かったのだ。
 学校でも礫は肩身の狭い思いをしていた。
 肩身が狭いどころか、無視されたり、何か事件が起こると決まって礫のせい
にされたり、時々暴力に訴えてくることもあったが、全体的に無視されること
が多かった。完全に無視される事がどういうことか。真綿で首を絞められるよ
うに、精神的な苦痛を与えられるという事だ。だからというわけではないが、
礫は学校の成績だけは良かった。他に何もやることが無かったし、それに成績
優秀、品行方正を貫かなければ直ぐにでも家を追い出されるような気がしたか
らだ。自分はこの家の本当の子供ではない。そんな雰囲気を肌に感じていたか
らだ。ずっとそうだった。小さい頃からずっと。
 単一民族の中で、一人だけ毛色が違うという事による孤立。
 苦しかった。どうしようもなく独りだった。
 だから礫は、早くそこから逃げ出したかった。
 だから、村を出たのだ。
 馬喰[バクラ]の村を――。


 そして、今。
 目の前には昆虫のような羽根をつけた小さな女の子がいた。彼女は、突然礫
の胸に飛び込んで来てぶつかってしまったのだ。
 その少女は、どこかあどけなさを残していた。体長は恐らく15センチくら
いだろう。緑色の長髪を横に括って赤いリボンを結んでいる。白いワンピース
の上から薄黄色の長い上着を羽織って、ピンクのリボンで止めている。赤い靴
が印象的だ。その大きな赤っぽい瞳には、朝露のような大粒の涙が浮かんでい
た。
 少女は、伝説に名高い妖精と言う種族に似ていた。
 その妖精は、礫が優しく声を掛けると、何故か突然泣き出してしまった。

「……大丈夫?」

「うっ、うわぁぁぁぁん!」



    *□■*



 男は、見世物小屋を経営していた。
 彼は大陸全土を渡り歩いていた。もちろん、見世物小屋の経営者として、
だ。
 男には妻子も家もあったし、おおよそ平穏で凡庸な生活と言うものがあっ
た。だが、見世物小屋を普及させるために、その全てをかなぐり捨てて来た。
 見世物小屋と言うのは、物珍しい物、おかしな物を観客に見せて金を稼ぐ生
業だ。所謂サーカスと言う奴と似ているかもしれない。サーカスと似て非なる
ものは、展示する中身だろう。サーカス団は自身の体を使ったアクロバティッ
クな運動を見世物にするが、見世物小屋は不可思議な身体を持った人間や珍し
い種族などを見世物にするのだ。おどろおどろしくも派手な看板と事実無根の
でまかせや真実を織り交ぜた独特の前口上で客引きをするのが特徴である。
 今までは帆が風を孕む様に、順調に事が運んでいた。だが、ここ最近経営が
右肩下がりになってきていた。何故かは解らない。何故かは解らないが、今現
在経営不振に陥っている事実だけは変えがたい。
 経営不振に陥ってるからといって、それを理由に断念することは彼の自尊心
[プライド]が許さなかった。諦めれば、それまでの人生を全否定することにな
りかねない。それだけは避けたかった。
 何とかなるなら、何とかしたい。
 そう思って、幾年月。
 男は、背に重いものが圧し掛かってきて、肩が下がって来ているのを実感し
て久しかった。これがかの有名なプレッシャーと言う奴なのかもしれない。男
は責任感だけは人一倍強かった。
 今日も今日とて相変わらずの猫背で、見世物小屋のネタ探しに町を彷徨い歩
いていた。目が落ち窪んで、少々どころじゃなく虚ろだ。見た限り覇気と言え
るものが無い。
 ここは、トーポウの街である。
 近辺を森に囲まれた静かな街だ。ここから幾日か行った場所にポポルと言う
森の街として有名な街があるが、そこよりも若干規模が小さい森に囲まれてい
る。ポポルと違って、エルフの住んでいない静かな森だ。
 ここで一つの奇跡を見ることになる。
 妖精だ。
 普段は森や異世界にいて、この世界に姿を現す事のない妖精が今、男の目の
前にいた。
 男は打ち震えた。

――これだ!

 天啓が閃いた。
 男は、今目の前で展開した現象に括目した。
 今目の前で起こった現象――妖精の少女が少年にぶつかるという現象に狂喜
さえ覚えた。

 その瞬間から、男のストーカー行為が始まった。
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2007/02/12 19:51 | Comments(0) | TrackBack() | ▲夢御伽

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