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2024/11/01 10:20 |
光と影 第十五回「破壊遊戯」/ヴォルボ(葉月瞬)
PC:ヴォルボ ウェイスター
NPC:ウォダック(テスカトリポカ)
場所:ソフィニア~イヴァノフォールドの一農村
+++++++++++++++++++++++++++++++++++

 魔術学院に併設されている寮のウォダックの自室に一枚の紙が置いてあった。
 その机の上に置き去りにされた紙には、こう書かれてあった。

――僕は旅に出ます。
  捜さないで下さい。



    *□■*



 ガラガラと規則正しく轍を踏む車輪の音が聞こえてくる。
 ヴォルボはその心地よい音を聞きながら、微睡んでいた。
 自慢の鬚[ひげ]が風に靡いて揺れている。

 結論から言うと、ヴォルボはウェイスターの言う通り邪滅の剣とやらを取りに、カミカゼ機動隊の総本山ともいえる受刑都市ジュデッカへと旅立ったのだった。
 邪滅の剣『麗黒剣』は意思を持つ剣だ。自身の意思で持ち主を選び、主に助言を与えながらも敵を薙ぎ払う、と言う代物だ。そんな武具などヴォルボには到底作れないし、だからヴォルボはウェイスターの申すとおりジュデッカへの旅路に着いたのだ。ウェイスターの説明を受けてからの出立と相成った。
 ソフィニア東側の門を通って街の外に出ると、先ず広がるのが長閑な田園風景だった。まるで馬でも欠伸しそうなほど長閑で平和な地帯だ。この辺で取れるのは小麦や大麦などのパンの主原料である穀物や、シリアルの主原料でもあるトウモロコシや野菜、果物なども栽培している。農家の家屋はその段々畑や麦畑、トウモロコシ畑などの間に点々と見えるだけだ。何処までも長閑で、そして平和だった。まるで、ここら辺近辺では戦闘など起こらないようである。魔物の姿も、これといって見当たらない。ここイヴァノフォールド一帯を統治している領主、オーギュスト・ル=イヴァノフォールドが善政を布いているのが覗える。
 ヴォルボとウェイスターは、馬車を借りて陸路を通ってジュデッカへ向かうことにした。
 何故、暢気に陸路など選んだのか。
 海路と言う選択肢もあったが、そのルートはヴォルボが真っ先に否定した。理由は、鎧が錆びるから、だそうだ。本人もそう言って、頑として聞き入れないから仕方なしにウェイスターは陸路を選ばざるを得なかったのだ。

「取り敢えず、ガイスに向かいましょう」


 御者台にて手綱を引くウェイスターに声を掛けるヴォルボ。
 道程はまだ始まったばかり。ジュデッカはまだ遥か先にある。
 御者台に上るのは、交代制にしたのだ。一日走って夜は野営をして、翌日はヴォルボが手綱を引く番だ。ドワーフとはいえ、一通り手綱捌きも覚えたつもりだ。冒険者暮らしは何かと覚えることが多い。
 借りた馬車は幌馬車とも言うべきものだった。荷台に簡易式の天蓋が覆っていて、御者台と荷台を分かち遮るものは何も無い。当然後ろからも丸見えになるが、追われているで無し、都合の悪い事など何も無い。荷台を引く馬は二頭いて両方とも栗毛の馬だ。片方には前足の片方が白くなっていて、業界用語で星と言うものが付いていた。それ以外は、双方共に差異はない。

「あ、ああ。そうだな」

 一拍遅れてウェイスターが応対する。

 今は手綱捌きで忙しい、と言うところだろう。
 道はそれなりに石畳で舗装はされていたが、所々未舗装な部分もあって馬車にとっては見過ごせないほどの大きさの石が落ちていたり、轍の溝が何重にも重なっていたりと御者にとっては集中を余儀なくされる道だからだ。
 ウェイスター自身手綱捌きになれていないせいもあるにはあるが。
 この分だと、途中で野宿することになるだろうなぁ、とそんな事を暢気に考えながらヴォルボは再び微睡みの中に投じていった。


    *□■*



 どの位微睡んでいただろう。
 ただ車輪の等間隔に響いてくる心地よい響きと揺らぎとに身体をもたせ掛けて、危うく頭を床板に打ち付けるところだった。
 打ち付けるまでには至らなかったが、完全に目覚めることは出来た。
 頭を二、三度横に振って正気を保とうとする。
 その時丁度ウェイスターの声が聞こえて来て、ヴォルボが前方に注意を向ける。

「ヴォルボ殿、向こうに村が見えます」


 ウェイスターの指差す先に、小さく点のような集落が見えてきた。ヴォルボは目を凝らしながらそのゴマ粒を観察した。ゴマ粒は見る間に近付いてきて大きくなっていく。文字通り集落に形作られるのは時間の問題だった。ヴォルボとウェイスターの顔が俄かに明るみを増した。今夜は野宿をしなくて済みそうだからだ。

「良かった。今夜はあそこに――」

 ヴォルボの言葉が終わるか終わらないかの内に、目の前に迫っていた村が突如として陥没した。集落を形作っている一軒一軒が地面に飲み込まれるが如く、崩れ崩落し瓦礫と化していく。それはまるで映画の一幕をコマ送りで見ているように、ゆっくりとだが激しく崩れ去っていった。家の中で生活していた人々の、阿鼻叫喚が聞こえてくるようだ。その村人達の阿鼻叫喚を飲み込んでも尚、村は上下に激しく揺れていた。
 地面の激震はまだ続いていて、ヴォルボとウェイスターが乗っている馬車のある辺りまで揺れていた。当然だ地続きなのだから。道の中央に亀裂が走り、地面が上下にずれていく。馬車を飲み込みながら。ヴォルボはしっかと馬車の縁[へり]に掴まって体を固定した。そして、ウェイスターに向かって叫ぶ。

「大丈夫ですか!? ウェイスター殿!」


「な、なんとか!」

 ウェイスターのほうも、御者代の縁を掴んで身体を固定していた。
 だが、馬の方は沈み行く地面に脚を取られ、恐慌に陥っていた。嘶きが虚しく虚空に消えゆく。馬は、哀れ地面に飲み込まれていった。

「こ、この揺れは、震度7くらいですかね……」

 火山の多い地震地帯の出身らしく、ヴォルボはこの揺れの中でも冷静さを保っていた。
 やがて地面の揺れが収まったとき、何処からか聞き覚えのある高笑いが聞こえて来た。

「……そんな、あり得ない……」

 その声は、テスカトリポカに取り付かれたウォダックのものだった。
 二人とも近くまで行って確かめたい衝動に駆られたが、如何せん馬車は先程の地震で横転していた。馬も、地割れの溝に挟まって動けなくなっていた。二人は協力して二頭の馬を地割れから引き上げることにした。そのためには先ず馬車から外さなければならない。それは馬車を捨てるということだ。だが、今は迷っている暇はない。馬だけでも救い出さねば。
 二人は先ず、馬を荷台から外すと一頭ずつ地割れに挟まれた馬を引き起こしにかかった。細い足が丁度地面の割れ目に入り込んでしまっていて、なかなか上手く引き抜けない。ヴォルボはふと思いついて、荷台の床板を外しにかかった。それを使って割れ目の穴を大きく掘り広げていく。ウェイスターもそれを見て手伝い始めた。
 二人で作業をすれば早いもので、じきに二頭とも救出することに成功した。
 二人はその馬に跨って村へと疾駆した。



 村は惨憺たる有様だった。
 火事でもあったのかそこかしこで火が燻っていたり、瓦礫の下敷きになっているのか何処からか人の呻き声や赤ん坊の泣き声が聞こえてくる。「助けて」とか細い声で呼んでいるものもいる。
 村はどこか虚ろになっていた。
 それ以前の村を知らないからなんとも言えないが、ともかく陰惨な活気のない村に変貌していた。
 村の中央の大通りらしき道を馬を引きながら歩いていくと、村の中央辺りにある井戸の上で宙ぶらりんになったウォダックがいた。ずり落ちそうな眼鏡を人差し指で直し、かつて戦った二人を目にすると虚ろな目で嗤った。

「遅かったな。もう村は壊滅したあとだよ。フフフ。もう少し楽しませてくれなくちゃあ」

 まるで新しい遊びでも思いついたかのように、不気味に笑うウォダック。
 その人格は少しずつだが変わっていた。

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2007/02/12 17:21 | Comments(0) | TrackBack() | ▲光と影

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