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2025/03/10 12:34 |
光と影 第十二回「それぞれが正義」/ウェイスター(ノーマン)
PC:ヴォルボ ウェイスター
NPC:ウォダック(テスカトリポカ)
場所:ソフィニア魔術学院の地下
+++++++++++++++++++++++++++++++++++

ヴォルボが何かを言っていた気がする。
かすかに残る記憶の中で、そんなことをウェイスターは考えていた。

ここはかび臭く、暗い。石造りで頑丈そうな壁。学院の地下なのだろうか。ふと見上
げた頭上には、さっきまで自分がいた部屋があったからだ。事の顛末については、よ
くわからないが、とりあえず地下に落ち、あの場で死ぬことだけは避けられたという
ことだろう。

瓦礫の中で、身を起こし、瓦礫と埃を払う。すると足元に何かが落ちているのに気が
ついた。

「…髪飾り?」

ウェイスターはヴォルボが何を言っていたか覚えていなかった。テスカトリポカの力
の前に絶望し、意識はあっても何も考えられなかったからだ。
身体が痛む。とても戦える気がしない。ウェイスターは髪飾りを懐にしまいこみ、瓦
礫に腰かけ静かに目を閉じた。

「私の求めた正義とは…かくも脆弱なものだったのだな。」

正義を愛し、妄信してきた彼にとって、それが打ち砕かれるとは思わなかった。正義
は勝つ。
だから、世は回ってきたのだ。夜は明けてきたのだ。
なのに、彼は負けた。
正義は勝つはずなのにだ。

「…違うな。脆弱なのは正義ではない…。私…か。」

負ける正義は正義ではない。
私は…正義ではないのだ。

そう思うと、ウェイスターには戦う理由が一切見当たらなかったのだ。

それが例え、たった一枚の壁の向こうでヴォルボが危機的状況にあったとしても。


          *□■*

テスカトリポカは困惑していた。
それは、ウォダックの精神がテスカトリポカとの同化を拒んでいたからではない。大
概の人間というヤツは、自分で望んでおきながら、いざとなると邪神との同化を拒む
ものだ。
だから、テスカトリポカの困惑の原因は肉体の方だった。ウォダックの肉体があまり
に貧弱だったのだ。
かつて、テスカトリポカと同化しようとするものは、心身ともに強靭かつ、野心の大
きなものだった。つまり、善悪の区別をつけなければ間違いなく英雄と呼ばれるよう
な…である。
ところがウォダックの肉体は、まさに貧弱。雑誌のウラなんかに書いてある、通信販
売の筋トレ器具の【以前のボクはこんなに貧弱だったんだ】の見本のような体つき
だ。アバラのういた腹。小枝のような腕。…うんざりだ。

「う…ぅぅ…。ボクは…ボクだ…。」

全身を震わし、涙やらよだれやら体液を垂れ流しながら、ウォダックは自我を保とう
と必死だった。
目の前にいる、ドワーフになど目に移って入るものの見えてはいなかった。
ただただ、必死で自分が生きる理由を探す。やり残したこと、言えなかった言葉、会
いたい人…。
そして、数えて泣きたくなった。
なんてボクには何もないのだろう。毎日を必死に生きるだけで、誰かを気にかけるこ
となんてしていなかった。
恋人はおろか、友人だってろくにいない。両親は必死にボクの学費のために働いてく
れているが、僕はそれに答えることなど一つとしてできなかった。…いっそ邪神にで
もなってしまえばいいのかもしれない。

「あぁああああああああッッ!!」

こんな風に叫んだのは…何年ぶりだろう。
腹の奥から感情を垂れ流すのは………。

その間、ヴォルボは何をしていたかといえば、逃げ出していた。
逃げるといえば響きは悪いが、先ほどの突撃でもどうにもならないとなると、頼みの
綱は例の髪飾りだ。
しかし、それはウェイスターに渡してしまって手元にはない。
となれば、髪飾りを探すか、ウェイスターを探すか…。どちらにせよ、今、あのヲタ
クとやりあうのは得策ではない。
冷静に頭を切り替えてヴォルボは駆け出していた。

ほとんど光はなく、普通の人間なら歩き出すのを躊躇うところだが、ドワーフである
彼にはそんな心配はなかった。
とりあえず、ヲタクと距離をとる。行くべき方向など初めからないのだ。

「マリリアン…。」

なんとなく、彼女を思い出すと涙がこぼれそうになった。が、彼は男だ。かすかに目
を赤くした程度で涙を流すには至らない。だから、胸に残る寂しさや悔しさ…そう
いった感情が、何一つ晴れるわけではなかった。

走り続けてどのくらいたっただろうか、肺が張り裂けそうだ。足がもつれる。喉が渇
いた。身体が痛い。めまいがする。
めまいついでに何かがぼんやり見えてきた。

「…?マリリアン?」

デブでブスで、それに気付かないという犯罪行為的な女性、マリリアンの姿があっ
た。

「…マリリアン。どうしてここに。」

マリリアンの声は聞こえない。そんなに距離があるわけではないはずなのに。口だけ
がパクパクと動いている。

「なに?聞こえない。」

駆け寄る。もつれる足で懸命に。

「あれ?ちょっと…。」

進んでいるのに、ちっとも近づかない。むしろ遠のいているかと思うぐらいだ。

「待ってよ。どこに行くの?」

やっとのことで、手の届く位置まで歩み寄り、手を伸ばす。

「ねえ、マリリアン…。」

スゥ…と、ヴォルボの手が空を切った。

「………。」

うなだれ、膝を突く。
何故だろう。悲しくてむなしいはずなのに…涙が出るような気がしなかった。

『あきらめないで…。』

マリリアンの声がして、ふと顔を上げた。
どこか遠く…。
辺りを見回しても、姿はない。

『がんばってね…。ヴォルボ…。』

声の主は遠くなどなかった。むしろ、頭の中に直接響くようだった。

「…うん。」



ヴォルボが、それが幻聴だと気付くころには、学園を出ていた。
少しだけ澄んだ空気を吸って、自分が生きていることを確かめた。

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2007/02/12 17:19 | Comments(0) | TrackBack() | ▲光と影

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