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2025/03/10 12:35 |
光と影 第十三回「光明」/ヴォルボ(葉月瞬)
PC:ヴォルボ ウェイスター
NPC:ウォダック(テスカトリポカ)
場所:ソフィニア魔術学院
+++++++++++++++++++++++++++++++++++

 何処をどうやって歩いてきたのか解らなかった。
 ただ一つ判明している事は、ここは学園の敷地内で学園の地下からは出てい
るのだという事だけだった。学園の敷地内である事が解るのは、推測でしかな
いが然程歩き回った訳でもないので学園の敷地から出ている訳ではないだろう
ということと、周囲に点在している建物が魔術学院のそれだったからだ。学園
の地下――先程の場所から出ているのだという判断は、日の光が見えたから
だ。恐らく朝日だろう。曙光がビロードの天幕と大地を割って顔を覗かせてい
た。といっても、建物に曙光が当たって朱色に輝いているところからの推測に
過ぎないが。
 ヴォルボは暫く呆けていたが、はっと気付いてウェイスターを助けに行かな
ければという思いに駆られた。どういう訳で彼が自分と行動を共にしているの
かは解らないが、唯一ついえる事は今回の件に関して彼が深く関わってしまっ
たと言う事だ。それも、自分の所為かもしれないのだ。自分の所為で彼が危険
な目にあっているのだとしたら、つまるところそれは助けなければならないと
いうことだ。
 ヴォルボは急いで元来た道を引き返そうと、踵を返した。
 が、そこではたと止まった。
 元来た道?
 はたして、元来た道と言うのをヴォルボは知らなかった。当然だ。何処をど
うやって歩いて来たかも解らないのだから。はたして、どうしたものか。ヴォ
ルボは悩んだ。今となってはテスカトリポカに対する恐怖と言うのも、不思議
と薄れていた。ひょっとしたら先程見た、マリリアンの幻が恐怖を払拭してく
れたのかもしれない。詳しいことは解らないが、ともかくウェイスターを放っ
ておくわけにはいかない。
 ヴォルボは意を決し、再び暗黒の口の中へと踊り込んだのだった。

「待ってて下さいよ、ウェイスター殿。今すぐに助けに行きますからね」

 地下講堂のそのまた下に造られた、ということはひょっとしたらここは古の
実験場か何かだったのかもしれない。今は使われていないようだが。所々に見
たことも無いような文様やら文字の様なものやらが、点在していた。時々通る
道筋に魔法陣のようなものも描かれていたりする。地面が陥没したり意図的に
陣の一部を消されたりして、今は機能していない様だが。ヴォルボがそれを知
ることが出来たのは、その陣の上に乗っても何も起こらなかったからだ。最初
は警戒して、遠巻きに魔法陣を迂回していたが、そのうち迂闊に足を踏み入れ
てしまったのだ。その時何かが起こると思って、思わず目を瞑ったが暫く経っ
ても何も起こらなかった。そして、その事から、ここは使われなくなって久し
い場所なのだと知ることが出来た。今では魔法陣を見ても迂回せずに堂々と踏
み荒らすことが出来る。魔法文字の知識が無いので、その魔法陣が元々持って
いた機能が何なのか、知ることは出来ないが。時々完全な形で残っている魔法
陣があって、その場所だけは慎重に迂回することにした。

 何処をどう歩いたのかすら覚えてない。記憶にあるのは、ただ暗い迷路のよ
うに入り組んだ地下道を右往左往し行きつ戻りつしたことだけだ。ただ、外に
出た時と同じ道順を進んでいるであろうことは薄々勘付いていた。
 暫く進むと、仄かな明かりが見えてきた。
 おかしい。ここは人が立ち入らなくなって久しい地だというのに。
 ヴォルボは、警戒しつつも静かに近付いていった。ひょっとしたらその明か
りは、ウェイスターが灯したものかもしれないからだ。

 それは、魔法の明かりだった。
 魔法の明かり、と言うことはそれはウェイスターが灯したものではない、と
言うことだ。ウェイスターではない第三者、つまり、テスカトリポカが灯した
ものであろうことは明白だった。

(しまった! ウェイスター殿に合流するよりも先に敵に遭遇してしまった
か!)

 ヴォルボは算段した。
 ウェイスターの助けもなしにどれだけテスカトリポカと渡り合えるか。
 戦斧[バトルアックス]は壊れてしまったが、先程取り出しておいた風の魔法
が掛かった短剣、鞠村がこちらにはある。だが、これだけでは心もとない事も
また事実だ。
 まだ姿を見た訳ではないから明確ではないが、何れ近付けばはっきりするだ
ろう。だが、近付いてからでは遅いのだ。
 ヴォルボは考えあぐねていた。焦って汗が滴り落ちるのも気が付かないほど
だ。知恵の輪を解けそうで解けないもどかしさにも似ている。焦りすぎると
段々腹が立って仕方がなくなるものだ。ドワーフであるヴォルボもその例には
漏れなかった。
 ヴォルボの焦りとは裏腹に、足音が初め小さかったものが段々大きく響くよ
うになって来た。それはつまるところ、こちらに向かって近付いている、と言
うことだ。複数ある柱の影に隠れてはいるが、いつ見つかるとも解らない。ヴ
ォルボの焦りは頂点に達していた。心臓の鼓動が早鐘のように打ち鳴らす。汗
が滝のように滴り落ちる。呼吸が乱れて荒くなる。

 足音は、ヴォルボが隠れている柱の手前で止まった。
 くすりと、影が嗤った様な気がした。
 ヴォルボの心拍数は今まで生きてきた中で最高拍をたたき出していた。
 鞠村を握る手が白く変色する。どこか汗ばんでいるようだった。



 だが、足音の主は暫くその場に立ち止まっていただけで何をする事もなかっ
た。
 ヴォルボの予想は杞憂に終わった。
 男は無言で立ち止まっていた後、徐に歩き出した。今までの進行方向、前へ
と。
 それでその場は丸く収まる筈だった。
 ヴォルボが男の言葉を耳にしなければ――。

「――今は見逃しておいてやるよ。今はね――」

 男は、ぼそりと呟いただけだった。
 ほんの小さく、ぼそりと。
 普通なら殆ど耳に入らないくらい、小さく、小さく、呟いただけだった。
 だが、ここは静寂の支配する空間。そして、聞いていた当人はドワーフだっ
た。普通の人間よりも少し、耳が良いのだ。耳に入らないはずがない。そし
て、一度耳にしてみれば空恐ろしさを感じずにはいられなかった。その言葉は
枯れ木の間を吹き荒ぶ寒風の如く、不気味に聞こえた。およそ人間の声音とは
思えない声音だった。何処から声を出しているのか解らないほど、それは異形
のもの、人ならざるものに近しい声だった。その声を耳にしたものは発狂する
か、意識を持ってかれるかのどちらかだろう。だがしかし、ヴォルボはそのど
ちらにも当てはまらなかった。正気を保つ事に、成功したのだ。
 ヴォルボは意を奮い立たせて、仲間――ウェイスターの元へと向かったのだ
った。



    *□■*



 ウェイスターは瓦礫の上に仰向けになって気絶していた。
 一体何が起こったのか、ウェイスターの身体全体に薔薇の様に鮮やかな鮮血
がこびり付いていた。顔面には血と共に青あざ等も刻み込まれていた。足は折
られ、腕には爪で引っかかれたのだろう切り傷が見られた。ご自慢の制服は当
然の事ながら破れてボロボロになっている。そうとう凄惨な戦闘が行われたの
だろうと窺わせた。それも、一方的な私刑[リンチ]に近い戦闘が。
 ヴォルボは小走りに近寄って、声を掛けた。

「大丈夫ですか? ウェイスター殿」

 が、返事がない。
 無理もない。意識を手放しているのだから。
 ヴォルボはウェイスターの意識が無いのを見て取ると、手早く応急処置を施
した。先ず脈を診て、閉じている瞼を開けて瞳孔が開いているかどうかを確認
して、次に息をしているかどうかを見るために唇に掌を翳す。そして、気道確
保のために頭部を持ち上げて口を開かせる。頚椎を四十五度の角度に固定する
と、次の作業に移った。即ち止血だ。腕の引っかき傷には腕を圧迫して止血す
る。服の一部を破って腕に巻いていく。折れている足は何処からか拾ってきた
棒切れを服の切れ端で固定した。
 てきぱきと慣れた手つきだ。何年も冒険者をやっていると、こういうことに
長けてくる。
 応急処置を施して、ヴォルボはほっと胸を撫で下ろした。幸いな事に命には
別状がないらしい。
 ヴォルボは、満身創痍のウェイスターを背に担ぐと足早に歩き去って行っ
た。ここではないところ、ここから外へと通じる竪穴へと――。



    *□■*



 ヴォルボはとりあえずこの場――魔術学院から出ることにした。
 とりあえず今は受けた傷を癒す事に専念するしかない。そのためには出来る
だけテスカトリポカから遠ざかる必要があった。今の力では、テスカトリポカ
に打ち勝つことは出来ない。今はまだ力が及ばないのだ。それを今し方痛感し
たばかりだ。先程の焦りと緊張の連続した時間と、満身創痍にされたウェイス
ターを見れば一目瞭然だ。
 とりあえず傷を癒す事。
 それから、戦力を立て直し戦術を練って様子を見るしかないようだ。
 そう思って、街へと足を伸ばすヴォルボ。その背にはウィスターが意識を手
放して圧し掛かっていた。ウェイスターの足を引き摺るように彼を運んで街へ
と赴くヴォルボ。当然だ。彼の背丈は人間のそれよりもはるかに小さいのだ。
 ずるずるとウェイスターの足を引き摺りながらソフィニアの街へと出る。
 魔術学院を出て初めて、ソレに遭遇した。
 ソフィニアの街では今や、チャーハン祭りなるものが催されていたのだ。
 何故、そうなったのか。ヴォルボは熟考してみた。
 思い当たる節があった。
 髪飾りを造っていたとき、奇声を上げて何かがソフィニアの街に押し寄せて
きた。きっと、多分、絶対、ソレのせいだろうと思った。

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2007/02/12 17:20 | Comments(0) | TrackBack() | ▲光と影

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