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2025/03/10 12:41 |
光と影 第十一回「本質」/ヴォルボ(葉月瞬)
PC:ヴォルボ ウェイスター
NPC:ウォダック(テスカトリポカ)
場所:ソフィニア魔術学院
+++++++++++++++++++++++++++++++++++

 ヴォルボの脳裏にふと浮かんだのは、新しい武器を購入しなくてはいけな
い、と言うことだった。でも、しかし、ともかくもこの場を何とかしなくて
は。敵は直ぐ目の前に立ちはだかっているのだし、そう易々と逃がしてくれそ
うに無さそうだった。
 だから突撃を敢行したのだった。だが、あえなく撃沈した。
 ヴォルボが気が付いたときには、倒れ伏したウェイスターと、それを目の前
にして高笑いをあげているウォダックが立ちはだかっている所だった。ウォダ
ックは腰に手を当て、高笑いを押さえ切れないで喘ぐように息をしている。そ
れでも尚、高笑いを繰り返していた。こいつ、頭がおかしいんじゃないのか、
そうヴォルボが思った時、ウォダックの高笑いが不意に止んだ。それはまる
で、轟いていた雷鳴が不意に鳴り止むのに酷似していた。
 ヴォルボが何事かと目を瞠っていると、ウォダックは自分の頭を両手で抱え
込み、身体を腰の辺りで半分直角に折り曲げて苦悩の格好で苦しむように声を
絞り出した。

「う、うう……。……ボクは、ボクだ。ボクは、オマエ……じゃない……」

 一体彼の中で何が起こっているというのか。
 暫し呆然と様子を覗っていたヴォルボの脳裏に、閃光と共に閃くものがあっ
た。
 ひょっとして、彼の本質はテスカトリポカと同化出来ずにいるのではないの
か。仮にも神であるテスカトリポカと完全に同化するには、その本質を変えな
くてはならない。あくまでも人間でしかない彼がテスカトリポカと完全に同化
する事は出来ないのだ。だから、無理に使った身体に反動が跳ね返って来てい
るのではないだろうか。力を行使する、と言うことはそういう事だ。

「何を言うか! お前が望んだ事なのだぞ!」

 テスカトリポカがウォダックの口を借りて喋っていることは明白だが、傍か
ら見ればまるで独り言をほざいているかのようで不謹慎だが面白い。

「ボクが……望んだ……こと? そうだ……ボクは、世界を……ぐあぁ!」

 ウォダックの中で何かと葛藤しているようだ。
 自分の良心と葛藤しているのか、それともウォダックの本質とテスカトリポ
カの本質がぶつかっているのか。何れにせよ心の葛藤であることには代わりが
無い。

 ウォダックはいつに無く、焦っていた。
 単位が危ないという事もあったが、もっと大きなことはテスカトリポカを召
喚することに成功したらA+をくれてやると言った、一教授に急かされたから
だ。その教授はずり落ちそうな眼鏡を鼻で支えながらいつも本を読んでいた。
髪の毛がおかっぱで、カッパ頭の教授と呼ばれていた。ついでに目付きが物凄
く悪かった。
 そんな教授に呼ばれたウォダックは、初め当然の如く疑問を抱いたし、単位
が危ないんだなと思っていよいよもって諦めざるを得ない心境に陥っていた。
進退窮まったウォダックは教授のゼミの扉を軽くノックした。考えてみたらそ
んな時から既に運命は決められていたのかもしれない。あの日、あの時、あの
場所に行かなければ。そして、あの教授の口車に乗せられていなければ。
 教授は普通の人が見ても邪悪に見えるほどだった。その教授の名前は――確
か、ケインといったか。ケイン・ウォーゼフ。
 その彼に、嵌められた。
 今だからこそ、言える。確かに、彼に嵌められた、と。
 彼はウォダックにこう言った。
 テスカトリポカと言う名前の邪神を召喚し、そいつの力を取り込めと。
 だが、理想と現実は異なっていた。
 考えてみれば、神ほどの力の持ち主をたかが人間の身体が支えられるわけが
無い。神としての力を振舞おうとすれば、人間の身体では持たないのが現実
だ。ウォダックは、乗っ取られてからその真実を思い知らされた。
 自分は、神にはなれないのだと。
 自分は、変われないのだと。
 所詮、自分は自分でしかないのだと。

 絶叫が、木霊した。
 人間の本質と、神の本質とのぶつかり合いで、ウォダックはその内面をズタ
ズタにされていた。心が壊れて、空っぽになっていく。後には、虚ろな洞だけ
が残った。口をだらしなく開き、目はウェイスターとヴォルボの頭上を滑る様
に動いているが何も映していないことが解る。何かに向かって動き出そうとし
ているが、その動きは緩慢で片輪を無くし惰性で走る馬車のように遅くて不安
定な動作だった。やがて、片手が何かを掴むように上げられる。だが、何も掴
む事はなかった。ただ空虚な何かを掴んだだけに過ぎなかった。

「……ボクは、……ボクは、……ボクは、神だ……」

 ウォダックの呟きが聞こえて来た時、ヴォルボは既に武器となるものを手に
していた。
 魔剣で無くとも良い。邪神は既に神ではなく、人間の身体の内に潜り込んで
いるのだから。どのような武器でさえも容易に傷付ける事が出来るだろう。例
え拳でさえも――。
 そう思って手にした得物は、ナイフだった。
 一振りのナイフ。それには、とある魔法が付与されていた。
 ヴォルボはその時はっと気付いて、懐に忍ばせておいた髪飾りを取り出し
た。その日作っていた孔雀の髪飾りだ。これはマリリアンに渡す筈のものだっ
た奴だ。だが、愛しのマリリアンはもう既にいない。この世から永遠に消され
てしまったのだ。だからこそ、このアイテムは相応しきものに渡すべきだ。今
この場で相応しき者――ウェイスターに。

「ウェイスターさん! 受け取ってください!」

 決意を固めるように強く握り締めると、ヴォルボは髪飾りをウェイスターの
方へと投げた。
 その髪飾りには一つの能力が付加されていた。
 魔法防御力と物理防御力を飛躍的に上げる能力。
 それが、その髪飾り“孔雀の髪飾り”の能力だった。
 古来より、魔法鉱石には魔力が備わっているという。ヴォルボはその魔力を
利用して、魔法防御力と物理防御力が上がる魔法を髪飾りに付与しておいたの
だ。ドワーフ特有の、魔法付与の能力である。自分で作ったアイテムに鉱石に
含まれている力を利用して、魔法を付与するのだ。

「それを、頭髪に付けてください! そうすれば、魔法防御力と物理防御力が
――」

「うるさい!」

 ヴォルボの語尾は残念ながらウォダック――テスカトリポカといった方がい
いか――の怒号に掻き消された。そしてその怒号と同時に振り下ろされた右拳
は床にめり込んでいた。めり込まれた床には無数の亀裂がまるで魔方陣の如く
張り巡らされていた。そして一際大きな地響きが響いたと思いきや床一面に太
くて大きな亀裂が走り、床が、部屋が、地響きを立てて崩落した。
 落下していく瓦礫と共にウェイスターとヴォルボは落ちていく。
 ヴォルボは咄嗟の判断で、空中で身体を反転させて受身の姿勢になる。その
体制を整えながら、落下していった。当然降りくる瓦礫を避けながらの作業と
なる。ウェイスターの方はどうなったか解らない。恐らく受身ぐらいは取って
いるだろう。だが、いかんせん無数の瓦礫の束が壁となってヴォルボの位置か
らではウェイスターの様子は見えなかった。
 降り立った場所は、広い地下空洞だった。魔術学院の地下に、こんな空洞が
あったなんて初耳だった。
 ヴォルボは無言で身構える。
 目の前には、テスカトリポカに完全に乗っ取られたウォダックが居た――。

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2007/02/12 17:19 | Comments(0) | TrackBack() | ▲光と影

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