PC:ヴォルボ ウェイスター
NPC:吟遊詩人の男
場所:一農村~ガイス(廃村)
+++++++++++++++++++++++++++++++++++
「とりあえず、ガイスに向かいましょう」
取り敢えず、ヴォルボはそう提案した。
いつまでもこんな破壊された農村に拘っているわけにはいかない。二人に
は、時間が無いのだ。今にも、彼等が敵としているウォダックの身体に憑依し
たテスカトリポカが、破壊の限りを尽くさないとも限らないのだ。事実、目の
前で村を一つ壊滅させられた。地獄を見た、気がした。何の罪も無い人々が、
突然の災害に巻き込まれて死んでいく様をこの目に焼き付けられてそして、自
分達は何の力も無いことを思い知らされた。助けられる命を助けられなかっ
た。その事を悔やんだが、悔やんでも悔やみきれなかった。涙をいくつ流した
だろう。
瓦礫に埋まっている人々を見て回ったとき、まだ助けられる人もいた。
だが、助けられなかった。
子供が燃え盛る火の海の中に置き去りにされていた時、母親の悲痛な叫びを
聞いた。
だが、救助することが出来なかった。
瓦礫の中で一つ一つ消えていく命の灯火達に、何もしてやることが出来なか
った。
だが、悲嘆にくれることならいつでも出来る。自分達はこれから先の事を考
えて、行動しなければならないのだった。
だから。
だから、ガイスに向けて旅立たねばいけなかった。
ガイスの先にある、受刑都市ジュデッカに向けて。
更に歩を進める二人であった。
*□■*
馬車を失って歩くしかないからから、だから時間がかかる。しかし、道が平
坦で無くなってしまったから、馬車がもし無事でも結局歩くしか選択肢は無い
だろう。道は地割れに喰われていた。巨大な顎[あぎと]に喰い付かれた様に、
そこかしこに亀裂が走り断層が見えるくらいに地面に高低差が出ている。あい
にくここは山道ではないので、砂礫で道が塞がったり土砂災害が発生したりす
る事は無かった。だが、先程起こった地震の被害は尋常じゃない。この分だと
ソフィニアも無事かどうか甚だ疑問だ。
兎も角、当初予想していた時間より大幅にずれて、二人はガイスに辿り着い
た。
ガイスに辿り着ければ暖かい食事とベッドが待っていると思っていたのだ
が、そこで二人が遭遇したのは村の閉鎖と言う絶望だった。
人っ子一人とていない。
村は瓦礫の山と化していた。
「酷いな。誰がこんな事を……」
少なくとも半日前に起こった地震が原因とは思えなかった。
ここ数日間で出来た瓦礫の山ではない。少なく見積もっても半年前からこの
状態だったに違いない。瓦礫の山には、年月を想起させる様な塵と埃が積もっ
ていた。
瓦礫の山と山の間に、いまだ無事な姿を佇んでいる家屋が所々見え隠れす
る。それらも例外なく、人が住まなくなって久しい廃屋だ。その廃屋を一軒一
軒見て回りながら、ヴォルボは感慨深げな眼差しをして地図を取り出した。そ
の地図にはギルド公認の証である印が押してあったが、その印も色褪せていて
何処と無く歳月を思わせた。
「ボクは、数年前の地図を見て旅をしていたようですね。ガイスがよもやこん
なことになっていようとは」
直ぐ傍で付き従うように歩いているウェイスターに、言い訳じみた言葉を吐
いてみる。彼は一つ頷いただけで、別に何を喋るでもなかった。「まぁ、そう
気を落とすな」とも、「こんなこともあるさ」とも言ってくれなかった。ただ
無言の内に慰めの言葉を隠しているだけのようだった。
二人が村の中央付近に差し掛かった時、それは起こった。
村の中央に位置する広場に一歩足を踏み入れた途端、ヴォルボとウェイスタ
ーは異変に被われた。突然周囲の情景がぼやけ、霞んだかと思いきや、突如と
して村が復元されたのだ。それは、かつて栄えていた頃の村の面影。かつて人
がこの村で生きていた頃の、それは幻影だった。夢であり、幻であり、現だっ
た。そこには、かつての活気が確かにあった。人々の行き交う息遣いが感じら
れた。再現された家々からは、立ち上る煙が見えた。市場には売り買いの声が
響いていた。
生き返った村を見て、訝しんでお互いに見合う二人。二人の頭の中を、クエ
スチョンが飛び交っていた。
と、そこに何処からかか細い男のような歌声が聞こえて来た。
二人の耳にはたった今届いたかのようだが、村が復元した当初からそれは鳴
り響いていた。
「嗚呼夢は潰え
そして幻となり消える」
「? 歌が聞こえる……」
歌の聞こえてくる方を見遣ると、一人の男がハープを片手に詩を歌ってい
た。
男は一言で言うと、美麗だった。端麗な顔立ちに大きな眼が印象的だった。
緑色の瞳を空に括りつけて、余り大き過ぎない薄い唇で歌を口ずさんでいる。
瞳の色と同じ色の髪の毛は長く、腰に掛かるほどだった。寒そうな空の下、寒
そうに肌を露出して佇んでいた。纏うは薄布一枚。マントが風に靡いている。
「誰だ?」
男は答えの代わりに、歌で答えた。
「そこは夢の終わるところ
死の淵
そこは常世[とこよ]
死者が戯れるところ」
男が歌う度に、男がハープを奏でる度に、周囲の様子は変わっていった。
先程まで声だけだった活気が、周囲に人々が行き交うようになっていったの
だ。
歌声が弾ける度毎に、弦が弾ける度毎に、人々の影が増えていった。
その村はもう、廃墟ではなくなっていた。死に満ちてはいなかった。
その村は、正に生き返ったのだ。
「な!? これはっ!?」
NPC:吟遊詩人の男
場所:一農村~ガイス(廃村)
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「とりあえず、ガイスに向かいましょう」
取り敢えず、ヴォルボはそう提案した。
いつまでもこんな破壊された農村に拘っているわけにはいかない。二人に
は、時間が無いのだ。今にも、彼等が敵としているウォダックの身体に憑依し
たテスカトリポカが、破壊の限りを尽くさないとも限らないのだ。事実、目の
前で村を一つ壊滅させられた。地獄を見た、気がした。何の罪も無い人々が、
突然の災害に巻き込まれて死んでいく様をこの目に焼き付けられてそして、自
分達は何の力も無いことを思い知らされた。助けられる命を助けられなかっ
た。その事を悔やんだが、悔やんでも悔やみきれなかった。涙をいくつ流した
だろう。
瓦礫に埋まっている人々を見て回ったとき、まだ助けられる人もいた。
だが、助けられなかった。
子供が燃え盛る火の海の中に置き去りにされていた時、母親の悲痛な叫びを
聞いた。
だが、救助することが出来なかった。
瓦礫の中で一つ一つ消えていく命の灯火達に、何もしてやることが出来なか
った。
だが、悲嘆にくれることならいつでも出来る。自分達はこれから先の事を考
えて、行動しなければならないのだった。
だから。
だから、ガイスに向けて旅立たねばいけなかった。
ガイスの先にある、受刑都市ジュデッカに向けて。
更に歩を進める二人であった。
*□■*
馬車を失って歩くしかないからから、だから時間がかかる。しかし、道が平
坦で無くなってしまったから、馬車がもし無事でも結局歩くしか選択肢は無い
だろう。道は地割れに喰われていた。巨大な顎[あぎと]に喰い付かれた様に、
そこかしこに亀裂が走り断層が見えるくらいに地面に高低差が出ている。あい
にくここは山道ではないので、砂礫で道が塞がったり土砂災害が発生したりす
る事は無かった。だが、先程起こった地震の被害は尋常じゃない。この分だと
ソフィニアも無事かどうか甚だ疑問だ。
兎も角、当初予想していた時間より大幅にずれて、二人はガイスに辿り着い
た。
ガイスに辿り着ければ暖かい食事とベッドが待っていると思っていたのだ
が、そこで二人が遭遇したのは村の閉鎖と言う絶望だった。
人っ子一人とていない。
村は瓦礫の山と化していた。
「酷いな。誰がこんな事を……」
少なくとも半日前に起こった地震が原因とは思えなかった。
ここ数日間で出来た瓦礫の山ではない。少なく見積もっても半年前からこの
状態だったに違いない。瓦礫の山には、年月を想起させる様な塵と埃が積もっ
ていた。
瓦礫の山と山の間に、いまだ無事な姿を佇んでいる家屋が所々見え隠れす
る。それらも例外なく、人が住まなくなって久しい廃屋だ。その廃屋を一軒一
軒見て回りながら、ヴォルボは感慨深げな眼差しをして地図を取り出した。そ
の地図にはギルド公認の証である印が押してあったが、その印も色褪せていて
何処と無く歳月を思わせた。
「ボクは、数年前の地図を見て旅をしていたようですね。ガイスがよもやこん
なことになっていようとは」
直ぐ傍で付き従うように歩いているウェイスターに、言い訳じみた言葉を吐
いてみる。彼は一つ頷いただけで、別に何を喋るでもなかった。「まぁ、そう
気を落とすな」とも、「こんなこともあるさ」とも言ってくれなかった。ただ
無言の内に慰めの言葉を隠しているだけのようだった。
二人が村の中央付近に差し掛かった時、それは起こった。
村の中央に位置する広場に一歩足を踏み入れた途端、ヴォルボとウェイスタ
ーは異変に被われた。突然周囲の情景がぼやけ、霞んだかと思いきや、突如と
して村が復元されたのだ。それは、かつて栄えていた頃の村の面影。かつて人
がこの村で生きていた頃の、それは幻影だった。夢であり、幻であり、現だっ
た。そこには、かつての活気が確かにあった。人々の行き交う息遣いが感じら
れた。再現された家々からは、立ち上る煙が見えた。市場には売り買いの声が
響いていた。
生き返った村を見て、訝しんでお互いに見合う二人。二人の頭の中を、クエ
スチョンが飛び交っていた。
と、そこに何処からかか細い男のような歌声が聞こえて来た。
二人の耳にはたった今届いたかのようだが、村が復元した当初からそれは鳴
り響いていた。
「嗚呼夢は潰え
そして幻となり消える」
「? 歌が聞こえる……」
歌の聞こえてくる方を見遣ると、一人の男がハープを片手に詩を歌ってい
た。
男は一言で言うと、美麗だった。端麗な顔立ちに大きな眼が印象的だった。
緑色の瞳を空に括りつけて、余り大き過ぎない薄い唇で歌を口ずさんでいる。
瞳の色と同じ色の髪の毛は長く、腰に掛かるほどだった。寒そうな空の下、寒
そうに肌を露出して佇んでいた。纏うは薄布一枚。マントが風に靡いている。
「誰だ?」
男は答えの代わりに、歌で答えた。
「そこは夢の終わるところ
死の淵
そこは常世[とこよ]
死者が戯れるところ」
男が歌う度に、男がハープを奏でる度に、周囲の様子は変わっていった。
先程まで声だけだった活気が、周囲に人々が行き交うようになっていったの
だ。
歌声が弾ける度毎に、弦が弾ける度毎に、人々の影が増えていった。
その村はもう、廃墟ではなくなっていた。死に満ちてはいなかった。
その村は、正に生き返ったのだ。
「な!? これはっ!?」
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