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2024/05/17 01:31 |
光と影 第五回「悪玉と髪飾り」/ヴォルボ(葉月瞬)
PC:ヴォルボ (ウェイスター)
NPC:黒ローブの男達
場所:何処かの広間~ソフィニア市街
+++++++++++++++++++++++++++++++++++

「もう時間が無いんだ! 明日までに美女を一人連れて来い!」

 ヒステリックな男の細い声が広間に反響して木霊となって返ってくる。

「はっ! わかりましたっ! 今直ぐにでも連れて参ります!」

 ヒステリックに喚き散らす男と同じように、黒いローブを目深に被った長身
の男が了解の意を伝え小走りに掛けて行く。その男の後姿に、まるで追い討ち
を掛けるように再びヒステリックな男の声が響く。

「当たり前だ! 期限何時までだと思っているんだ!」

 揺れる蝋燭の炎の光を反射して、眼鏡の奥がきらりと光る。
 ここは何処かの地下にある大広間。暗くて湿度の高い場所で、同じく暗くて
邪悪な事をしている黒ローブが複数居た。その中でも特に偉そうに踏ん反り返
っている、角眼鏡の男が自分よりも背の高い男達に指示を出している。彼は黒
ローブ集団の中でも一番背が低いようだ。だが、その反面一番身分や気位が高
い様でもあった。それが片腕を振り回して大声を張り上げている。まるで、自
分の欠点を打ち消すが如く。その様は傍から見ていておかしささえ覚えるほど
だ。

「い・い・か! 今夜だ! タイムリミットは今夜だからなーっ!!」

 周囲の壁という壁に眼鏡男の声が反響する。それは静かな衝撃となって、辺
りに散りばめられた。



   *□■*



 宿屋に戻ったヴォルボは部屋の中で、簡易式の移動工房を広げて早速魔法鉱
石の加工に取り掛かった。作るべき物のイメージは既に頭の中に思い描いてい
る。後は具現化するだけだ。イメージから現実のものへ。鉱石から装飾品へ。
 加工は手馴れたものだった。先ず、魔法鉱石の原石を削りだし石の本来の輝
きを引き出す。魔法鉱石は元来空気に触れるとその部分から魔力が漏れ出し、
本来の輝きを失っていく。魔法鉱石の鉱山で見た、魔法鉱石の輝きは一瞬で消
えうせてしまうのだ。それを防ぐために、空気に触れて酸化する前に研磨石で
磨き上げるのだ。それは素早さと繊細さを要する作業である。正にドワーフに
うってつけの作業であった。
 鉱石を研磨し終わると、微細な粒子を内包した仄かに青く光る宝石へと変貌
した。それはまるで深い海の底の様な色であり、また、遥かに高い空の色でも
あった。ヴォルボはそれを更に細かく砕いていく。そして磨き上げて小さな宝
石の塊へと変えていった。
 次に取り出したのは、何の変哲も無い銀板である。その銀板を打ち込んで、
細かく模様を入れていく。それはまるで花畑のようであり、所々穴が開いてい
て何かをはめ込める様になっている。丁度中央部にあたる部分には何かの鳥の
ような形に穴を穿ち、形作っていく。
 本当に細かい作業を、熱心に着実に形にしていく。
 銀板の作業が終わったところで、次に移ったのははめ込む作業だった。
 先程細かく砕いて加工した魔法鉱石の欠片を銀板の穴の部分に埋め込んでい
く。中央に掘り込まれた鳥の模りにも魔法鉱石を埋め込んでいく。嵌め込まれ
ていく過程で、その姿が露わになっていく。その形は、孔雀だった。美しい虹
色の尾を広げた雄の孔雀。それが中央に堂々と掘り込まれていた。

「よし! 出来た! 後は……」

 後は髪飾りとしての機能を持たせるだけである。
 銀板の裏に模っておいた筒の中に蝶番を取り付けて、髪に留めるための金具
を取り付ける。これで髪留めは完成だ。
 後はこれを彼女に届けるだけだ。付けて貰えるだろうか。孔雀を模った髪留
め。
 彼女には、孔雀のような豪華なものが良く似合う。そう考えて、ヴォルボは
笑みがこぼれるのを覚えた。髭に隠れていて見えないが、口角は上がってい
た。
 マリリアンに贈ろうと部屋を出ようとした時、ヴォルボは奇妙な叫び声のよ
うな呻き声のような声ともとれない奇声を聞いた。同時に街路を走っていくよ
うな荒々しい足音も聞こえて来た。一人ではない。声は一人のものだが、足音
は数人のものだ。
 ヴォルボはその奇声の所在を見るべく、窓に走り寄った。
 窓から見えたものは――。
 なんと形容したらいいのか。
 一言で言って、男が包丁を片手に走っていた。
 男は、二十代後半から四十代前半くらいに見える。一目でくたびれたと言う
形容詞が思いつくような、そんな男だった。大きな背負い鞄を背負った、勘違
いした冒険者。そんな出で立ちだ。
 その後ろから男に負けぬ勢いで、一目でチャーハン魔王と解る格好をした男
が通りを横切って公園の方へと走り去って行く所だった。
 ヴォルボはそれらを見てから、「はて、アレは何なのだろう」と首を傾げ
た。包丁を持った男の後ろにいた男がチャーハン魔王だと解ってしまった自分
にも首を傾げた。
 それはともかく置いといて、と思い直しヴォルボは急いで通りに出ることに
した。



   *■□*



 通りに出て、最初に目に入ったのは、魔方陣だった。
 紙に書いた魔法陣が通りの中央に広げられて落ちていた。そしてそれを落と
したらしい、黒ローブの男が自分の目の前を通り過ぎていくのをも目撃した。
 ヴォルボはそれだけでそいつが何をやろうとしているのか、図りかねてい
た。だから、行動が遅くなった。
 だから、少女がその魔法陣の書かれた紙を踏みつけて、瞬間移動させられる
のを止める事が出来なかった。その少女は、藍色の髪を型までの高さで切り揃
えていて、緑色の目は大きくくりっとしていて、薄く赤い唇が笑んでいた。鼻
は高く、何処から見ても美少女だった。普通の人間が見れば。だが、目撃して
いたのは残念なことにヴォルボだった。彼の目には彼女の美貌は不細工に映っ
ていた。
 その少女が紙を踏みつけた途端に、無数の煙と共に跡形も無く消えたのだ。
恐らくどこかへと飛ばされたのだろう。黒ローブの男の口角が、笑みの形に歪
んでいた。ただの笑いじゃない。邪念が篭った笑みだった。
 流石にその光景を見て、ヴォルボも気付かぬ筈がなかった。
 黒ローブの男が仕掛けた。
 その事実に辿り着くのにさほど時間はかからなかった。
 そしてたっぷり一秒経った後、立ち去る黒ローブの背に指を突きつけて叫ん
だ。

「こらぁ! そこの君! ちょっとまったぁ!」

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2007/02/12 17:17 | Comments(0) | TrackBack() | ▲光と影

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