忍者ブログ
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


2024/05/16 20:18 |
光と影 第三回「鉱石とドワーフ」/ヴォルボ(葉月瞬)
PC:ヴォルボ ウェイスター
NPC:マリリアン
場所:ソフィニア郊外の鉱山~ソフィニア市街
+++++++++++++++++++++++++++++++++++

 二人は、岩窟の行き当たりに辿り着いた。
 すると、ヴォルボは何を思ったか手にしていた松明を投げ捨てると、手近に
転がっている石ころを拾い上げ熱心に見詰め始めた。
 そして、ひとりごちる。

「ふむぅ。やはりここは良質の魔法鉱石が採れるなぁ」

――良質の魔法鉱石?

 と、後ろの方でいぶかしんでいる人間が一人いるが、それは気にしない事に
した。
 思えば、おかしな人が付いて来たものだ。ソフィニアの街からずっと後を付
けてきた上に、ばれたらばれたでさも友達然として後に引っ付いてきている。
世の中には暇人もいたものだなぁ。と、ヴォルボは思うのであった。
 打ち捨てられた松明は、丁度水が流れている部分に嵌ったのか、じゅっとい
う音共に火が消えてしまった。明かりが消えたことにより周囲が暗くなり、魔
法鉱石が暗中に光り輝いて、幻想的な人口の青を周囲に撒き散らしていた。そ
れは天空に輝く星星の輝きにも似て、一時世界中の時が止まってしまったかの
ように感じられた。青い光の中に浮き彫りにされる、二人の顔。浮き彫りにさ
れたのは二人の顔だけでは無かった。周囲を取り巻く環境も、今まで松明で半
径5mほどしか照らされていなかった部分が、青白い魔法鉱石の光によって岩
窟の内部が浮き彫りになっていた。そこは、坑道と呼ぶに相応しい造りだっ
た。丸太と木板が交差して組み合わさって、洞窟の崩落を防いでいる。足元を
見れば、トロッコのレールが今も尚使われているが如く敷かれている。鉱石が
所々に散乱していたりする。
 ヴォルボが恍惚に浸っていると、思い切り罵る声が後ろから響いて来た。

「なっ、何なんですかっ! あなたはっ! 依頼はどうなったんですかっ!」

 前髪が少しうっとおしそうなそれでいて、妙に青い制服が似合う男だった。
道すがら聞いた話によると、正義のために戦っているとの事だ。この、いかに
も怪しげな男が正義を語るとはへそが茶を沸かす、というものだ。

「依頼? 依頼は遂行しますよ。ただ、ここの鉱物を採ってからです」

 今度作る装飾品のためにどうしても、ここの魔法鉱石が必要なのだ。だから
こそ、ここへ来た。男は勝手に付いて来ただけだというのに、五月蝿いことを
言う。
 ヴォルボはうっとうしいと思いながらも男を邪険には扱わなかった。扱いよ
うが無い。だってついさっき知り合ったばかりだし、見ず知らずの赤の他人を
理由も無しに邪険に扱えるほどヴォルボは世間知らずではなかったし非常識で
もなかった。

「この鉱物を採ってからって……、一体何に使うんです?」

「装飾品に使おうと思いましてね」

 ヴォルボは正直に話した。嘘を付いたところで得策とはいえないからだ。何
が得で何が得でないか解っているつもりだ。

「敵のアジトは突き止めないのですか!?」

 色めきたった男の必疑にヴォルボは落ち着き払って言った。

「やだなぁ。流石に確たる情報も無いのに、動くわけ無いじゃないですか」

 ハハハと乾いた笑い声を漏らすヴォルボ。何度も言うようだが、嘘を付く謂
れは無い。

「そういえば、自己紹介がまだでしたね。ボクの名前はヴォルボ・ヴォルフガ
ング=リミット。ヴォルボでいいです。失礼ですが、あなたは……?」

 名前をまだ名乗りあっていない事に気付き、ヴォルボは慌てて名乗りあげ
る。ドワーフとしての誇りだけはまだ持ち合わせているつもりだった。例え家
名を捨てたとしてもドワーフとしての誇りだけは、捨てられない。それが、ヴ
ォルボの生きる糧だからだ。彼は、ドワーフを捨て切れていなかったのだ。

「あ、いや。失礼。私は…………」

 男は暫し躊躇った後、自分の名を名乗った。
 彼は名をウェイスター・ロビンといった。どうやら頑なな信条があるようで、
立ち居振る舞いなどからその堅固さが滲み出て来ていた。頑ななのは良いこと
だ。自分自身が見えなくなるよりも、自分の信じる道を真っ直ぐに歩いていけ
る事は大切だ。ただ、闇雲に信じる事や、頑な過ぎるというのは問題だが。い
つ、どんなときでも過度に求める事は受け入れられないものだ。

 名前を明かし合ったところで、打ち解けられたのかどうかは不明だがとにか
くこの坑道から出ることにした。ヴォルボにとっては何てこと無い暗闇でも、
ウェイスターにとっては有り難くない暗闇だからだ。

「ところで、情報を仕入れなくてはいけませんね。どこに行けば良いのか、見
当は付いているんですか?」

 黙々と出口に向かって歩いている所、最初に口火を切ったのはウェイスター
だった。
 今やウェイスターはヴォルボに先導されている状態だった。松明の火が消え
た事により、坑道は暗闇に沈みこんでしまいウェイスターの目では手探りで歩
かなければいけないので、足元が覚束ないのだ。だから、暗視能力があるヴォ
ルボに手を引いてもらっている。格好悪いといえば悪いのだが、致し方あるま
い。

「あるといえばある、無いと言えば無いですかね」

 ヴォルボは暫く熟考してから、答えた。考えに考えた末の結論ではないが。

「まさか、依頼人本人が手掛かり、とか言うんじゃないでしょうね」

 信じられないという面持ちでウェイスターが言った。
 ヴォルボは振り向いて微笑んだだけだった。



  *■□*



 ソフィニアの街に着いて先ず最初に向かったのは、例の依頼人の少女の所だ
った。
 取り敢えず今入手している情報は、依頼人の少女――名をマリリアンといっ
た――から聞いた話によると、彼女を誘拐した犯人達は「暗くてじめじめした
ところ」と「岩肌が露出していた」という場所にいるそうである。
 これ以上の情報を彼女からなんとしても聞き出さなくてはいけなかった。今
の情報では少な過ぎて、逆に絞込みが出来ないからだ。暗くてじめじめした所
など掃いて捨てるほどあるし、岩肌が露出した場所など坑道や山の洞窟など沢
山ある。その中で絞り込まなければいけないのだ。呼び出された部屋の大きさ
や、高さ、寒暖差など集めようと思えば情報はいくらでもある。そういったこ
とを一つ一つ彼女から導き出さねばならないと、ヴォルボのその天才的な頭脳
が閃いた。
 依頼人の住所は予め聞いておいた。そして、その通りの住所だった。
 扉を軽く二、三回叩く。間もなく中から返事がした。

「はい。どちら様?」

 誰何の声は、意外と高音だった。彼女はその見た目に合わず、高い透き通っ
た声の持ち主なのだ。

「ヴォルボです。今日は依頼の事について二、三窺いたいと思い参りました」

 扉は静かに開かれた。





「で? 窺いたい事とは?」

 マリリアンはその円らな瞳(ヴォルボ視点)で、こう切り出して来た。
 ヴォルボは一つ頷いて、話し出した。

「聞きたい事は大きく分けて三つあります。まず、部屋の大きさ。それから、
天井があればその高さとか、奥行きなど。三つ目は寒暖差です。その部屋の温
度が高かったか、低かったか。湿度なども、出来れば」

「そうですね――」

 彼女は思い出しながら、掻い摘んで話してくれた。
 まず、部屋の大きさ。
 部屋の大きさはかなり広かったそうだ。男の後ろに魔法陣が描かれていて、
それの大きさが大の大人が手を繋いでぐるりと周りを囲んだら数十人は必要か
と思われるほどだった。その魔法陣がすっぽり収まってもまだ余りあるほどの
広さだった。周囲に存在するはずの壁などはマリリアンの位置からは見えなか
ったと言う。奥行きもかなり合ったそうだ。入り口らしきものが闇の中に沈ん
で見えなかったからだ。ただ、部屋は石畳で出来ていた。それだけは間違いが
無いと言う。
 天井は有る様だったが、周囲が闇に飲み込まれて見えないぐらいだから天井
も当然見えなかった。ただ、柱は左右に等間隔に並べられていたから、そこか
ら類推するに恐らく天井は有るだろうという事だった。
 部屋の温度は高くも無く、低くも無く、適度な温度だった。ただ、湿度は高
かったように思うとのことだ。

「ふむふむ」

 ヴォルボは頷きながら、聞き入っていた。

「……あの、その方は?」

 マリリアンが今気が付いたかのように、おずおずと訊ねるまでヴォルボは遠
くの世界に行ってしまっていた。

「…………え? あ、ああ。こちらの方は、ウェイスターさんといいます。僕
と一緒に仕事をする事になりました」

 突然の事に、マリリアンは呆気に取られていた。

PR

2007/02/12 17:16 | Comments(0) | TrackBack() | ▲光と影

トラックバック

トラックバックURL:

コメント

コメントを投稿する






Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字 (絵文字)



<<光と影 第二回「その男、いい加減につき」/ウェイスター(ノーマン) | HOME | 光と影 第四回「尋問からの発見」/ウェイスター(ノーマン)>>
忍者ブログ[PR]