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2025/03/10 06:34 |
クロスフェードA 第10話 Over Kill/リーデル(陽)
PC:リーデル、ライン、チップリード
NPC:ユヴェス、ベルナール
場所:ソフィニア近郊
___________________________________

 目を覚ましたとき、真っ先に目に入ったのは満天の星空だった。どうやら俺
は仰向けで寝むっていたらしい。カロリー消費を抑えるための緊急措置だった
が、元々大して潤沢でもない俺の体力は、例の襲撃と毒で予想以上に削られて
いたのかもしれない。
 が、それが分かったところで腹が膨れるわけでもない。

 俺は斬魔刀を取り出すと、呪封子が装填されているのを確認し、編み上げた
術式を開放した。名はまだつけていない俺オリジナルの術式で、血中の血糖値
を引き上げ、脳の満腹中枢に「もう食べ物は入りません」という信号を送らせ
てムリヤリ空腹感を紛らわすのだ。
 もの凄く貧乏くさい術式だが背に腹は変えられない。トェイブにもかけてや
ろうかと思ったが、貴重な呪封子をこれ以上無駄に消費するのもどうかと思う
ので、やめておく。まあ、俺よりは体力がありそうだし大丈夫だろう。

 そうこうしているうちに、ラクフェールがいなくなったあたりの草むらがガ
サガサと音を立てた。

「あ、戻ってきたみたいですね……随分時間がかかったから、大物でも仕留め
たかな?」
 
 トェイブの予想は言葉の上では当たっていた。ラクフェールは確かに大物を
連れてきたのだ。

「『殲滅のユヴェス<ユヴェス・ザ・オーバーキル>』………!!」

 茂みから顔を出した人物を認めて、俺は思わず声を上げていた。

「へぇ、あんたも知ってるってことは、俺も結構有名人なワケだ」

 と、その人物――ユヴェス・レクトールは口の端を吊り上げた。

 ユヴェス・レクトール。またの名を『殲滅のユヴェス』
 一般的には史上最年少でSランクに達した稀代の名剣士と知られている。そ
の物騒な二つ名は、「レイモンド伯爵低占拠事件」において立て篭もったテロ
リストたちを、ひとりで文字通り殲滅したことからきている。
 だが、少し裏の事情に通じている者は、特に俺のような半分地下に潜ってい
るような非合法な攻性魔術師には、二つ名の「殲滅」にまた別の意味があるこ
とを知っている。

 ユヴェスは確かにテロリストを全滅させた。
 だが、同時に人質になっていたレイモンド伯爵一家とそこで働いていた使用
人32人も皆殺しにしたのだ。無論、表向きは逆上したテロリストが手当たり
次第に斬り殺したことになっているが、それは人質の刀傷がテロリストの所持
していた剣と一致し、ユヴェスが殺したという証拠が全く残されていなかった
為、なし崩して的に下された決定にすぎない。  
 さすがにあまりの被害の大きさにユヴェス自身はSランクの剥奪、ギルドか
らの強制退会などの重い処分を受けたが、一切罪には問われなかった。

 人質のほとんどがただの一撃で急所を貫かれているという検死結果や、ユヴ
ェスが突入した直後に伯爵邸に強力な結界が敷かれ、「遠視」のような遠隔走
査魔術が全て使用不能になったという不可思議な現象の全ては闇に葬られた。
そんな人物が、なぜこんなところに?

「あんたらも、ディアン・ローガンに雇われたんだろ?」

 ユヴェスのその一言で得心がいった。つまり、彼は俺達が任務に失敗した時
のために別口で雇われたのだろう。それにしても、何とも豪華な予備があった
ものだ――まあ、実力的に言えば、俺達の方が『補欠』なのだろうが。
 ユヴェスはトェイブを、続いて俺を一瞥すると、軽く鼻を鳴らした。

「一応、競争相手の顔を見ておいて――手ごわそうなら『対策』を練るつもり
だったが……」

 その表情から察するに、どうやら必要ないと判断されたらしい。確かに、元
Sランクのユヴェスに比べれば俺達はただの雑魚も同然だろう。ヘタに目を付
けられて『対策』とやらを打たれるよりはマシ、と考えるべきかどうかは微妙
なところだ。

「そんなことよりっ!!」

 と、大声で割って入ったのはラクフェールだった。驚いたことに、その背に
は小柄な初老らしき男が背負われている。ユヴェスの放つ圧倒的な存在感のせ
いで、不覚にも今の今まで全く気付かなかったのだ。それはトェイブも同じら
しく、慌ててラクフェールのもとに駆け寄り、男の様子を窺う。
 
 男の身体は力なく脱力しており、意識はあるようだが見るからに顔色が悪
い。見る限りでは大きな出血は見当たらないので、おそらく毒――それもあま
り状態は良くない。トェイブが早速治療にとりかかっているが、果たして助か
るかどうか……

 俺の視線の意図に気付いたのか、ユヴェスが面倒くさそうに説明した。

「行きがけの駄賃でぶっ潰してきた箭霧のアジトにとっ捕まってた。例の姉弟
の脱走を手引きした所員だよ、ベルナールとかいう。一応、依頼の中に可能な
ら生きて連れてこいって話があったからな」

 ベルナール……確か例の姉弟の主治医だった男だ。箭霧に捕まっていたとい
うことは、おそらくエルダート姉弟とケヴィン・ローグの行方も箭霧に聞き出
されたのだろう。これは一刻も早く姉弟を見つける必要がある。
 だが、こちらの手がかりはほとんどゼロに近い。

「ま、その爺さんの世話は任せた」
 
 あっさり踵を返すユヴェスに、俺は思わず声をかけた。

「おいおい、ここに置いてく気か?」
「死体なんて持ち運んでどうする?」

 不吉なことをあっさりと口にする。

「俺にはそれなりの情報網があってね――姉弟の場所はもう大体分かってる。
悪いが、この仕事はこっちがもらうぜ」

 皮肉っぽく口元を歪めたユヴェスの姿が、闇の中に消えた。

「クソッ! ダメだ!!」

 焦りを滲ませたトェイブの声とベルナールのうめき声に、俺は思わず振り向
いた。そして、今更のように気付く。どうも寝起きのせいかさっきから頭の回
転が悪い。
 手がかり――
 俺はベルナールの傍に歩み寄ると、耳に口を寄せた。

「エルダート姉弟はどこに向かった?」
「………」
「箭霧に捕まるより早く二人を見つけなければ、あの姉弟がどうなるか……そ
んなことは、言わなくても分かるだろ?」
 
 ベルナールの口からは、ただ苦しげな息遣いが漏れるだけだ。その瞳は、だ
んだん霞がかってきていた。明らかに生命の灯火が消えようとしている。
 ラクフェールが、おそらく純粋な心配からきているのだろうが、瞳にわずか
に咎めるような色を浮かべて俺を見る。
 それを無視して、俺は根気強く言葉を続けた。

「あんたも医者だ。自分がもう長くないことは分かるはずだ。喋れる体力があ
るうちに、姉弟の居場所を教えてくれ」
「……フォード」
「何?」
「ライゼル・アルフォードの邸宅……」
 
 ライゼル・アルフォード――ここよりさらに南方の領主の名だ。

「急いでくれ……ヤツらはもう………」

 ベルナールが一際大きく咳き込んだ。そこに赤いものが混じっていることに
気付いた時には、すでにベルナールの身体はぐったりと弛緩していた。
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2007/02/14 21:23 | Comments(0) | TrackBack() | ▲クロスフェードA

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