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2024/11/14 12:28 |
きっと僕の名前を呼んで(冬留-1)/冬留(菫巽)
PC:真田冬留(さなだとうる)
性別:男
性格:沈着冷静でいて他人事に首を突っ込むのが好き。
年齢:15歳
場所:異世界(東京)→オルヴィア
NPC:真田寛二/ザザ
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
冬留-1 【迷子と影踏み】



 何時でも見る夢は、決まって遊園地で泣いている夢だった。
 何時まで待っても迎えに来てはくれない父親を待っている夢だった。
 自分はその年にしては頭のいい子供で、警察が言った『捨てられたんだな』
という言葉が理解できた。
 施設で数年暮らし、自分は運良くその施設のオーナーに引き取られた。
 オーナーには息子が既にいたしもう70歳を過ぎていたから、息子と言うより
孫という形で引き取られた。オーナー、祖父は優しかった。
 名前すら覚えていなかった自分に名前をくれて、心から愛してくれた。
 けれど、彼は死んでしまった。
 次に自分を引き取ったのは祖父の息子夫婦だった。
 けれどそれは所詮世間体で、与えるのは物ばかり。
 いつも独りきりで、いつしか独りで食事をする事も独りで眠る事も帰った時
『ただいま』なんて言わなくなった。それが当たり前になった。
 それが劇的な変化を遂げたのが15歳の秋。
 本当の家族が見つかった。
 真相はこうだ。
 父親は自分を捨てたのではなく、母親に呼び出されて遊園地から一度退場し
て近くの店へ車を走らせている最中、交通事故に遭い、それから長い間記憶喪
失になっていたのだ。
 だから自分を捜せなかった。
 けれど三ヶ月前に父親の記憶が戻り、俺の家族は四方八方手を尽くして俺を
探し、ついに俺が引き取られていた施設から俺の場所を探し当てた。
 偽の家族の絆なんて安い物で、里親は簡単に俺を本当の両親に引き渡した。
 俺に与えられたのは大きな家と疑いたくなるほどに自分を愛してくれる家族
と双子の兄。
 それから、慣れるには遠ざかりすぎた本当の名前。

 真田冬留。

 今でも慣れず、名を呼ばれても反応できない事が多い。
「……留…。冬留…。…………………夏樹」
「え、」
「ずっと呼んでいたんだぞ」
「あ………ごめん」
 自分と同じくらいの身長の双子の兄に謝って、またやってしまったと俺は思
った。
 本当の名前である冬留に反応できなくて、見かねた兄は仕方なく俺が里子だ
った頃の名で呼ぶのだ。

 夏樹、と。

 家のベランダで風に吹かれていた。
 もう、黄昏が近い。
「なあ……真田」
「冬留」
「あ……ごめん。またやっちゃった」
 二度目。
 目の前にいる双子の兄、真田寛二は元々俺の同級生だったので名字で呼ぶ癖
がコレまた抜けない。
「悪い…悪かったから寛二……。そんな眉間を深くしないでくれよ」
「…いや、まだ三ヶ月だ。無理に、慣れろと言う方が無理だった」
「……でも俺は悪くないと思ってるよ? この生活。
 まだぎこちないけれどさ。帰ってきて『ただいま』をいう相手が居るってい
うのは…」
 それは、当たり前の幸せだ。
 けれどそれが当たり前でなかった冬留に、寛二は何も言えない。
 本当は冬留が、自分を愛してくれた祖父に貰った『夏樹』という名前を捨て
るのが辛かった事も判っている。
 けれどずっと探していた自分の半身だから、見つけて、じゃあそれで、とい
うわけにはいかなかったのだ。
「……そうだ。これ、お前が探していた本。物置にあったのを見つけたから」
 気まずくなった話題を逸らすために、寛二は冬留に一冊の古びた洋書を手渡
した。
「あ、これ探してたんだよ。有り難う」
 今は、少しずつでいい。失っていた時間を取り戻せるなら。
 焦る必要はない。自分達はまだ15歳で、時間は充分にあるのだから。
 そう思って、自分と大して変わらない長身の、短い黒髪に度の強い眼鏡を掛
けた弟を見つめる。
 生憎、冬留とは二卵性の双子であんまり似ていない。似ていたならもっと早
く見つかっただろう。
 整っているとはいえ老けていると言われがちな自分と違って、冬留は身長の
所為で年上に見られるだけでその顔は笑えば年相応で、まるで日本人形のよう
に整っている。
 興味津々に早速ベランダでその本を開き始めた冬留に、せめて部屋に入って
から読めと言おうとした。
 次の瞬間、真田寛二の眼に入ってきたのは目映いばかりの光の奔流と、一度
だけ顔を上げて自分を見て何かを言った冬留の姿だった。
 思わず寛二は叫んでいた。
 呼び慣れた名前で。
 冬留の、里子だった頃の、ただの同級生だった頃に呼んでいた彼の名字で。

「深崎――――――――!!」





(…頭、痛い)
 何処かにぶつけたかと思って、冬留は身体を起こす。
 そうして、愕然とした。
 見たこともない場所が目の前に広がっていた。
 洋風の建物。こちらを振り向きもしない人々の群れ。
 まだ高い位置にある太陽。
(……な、に?)
 質の悪い夢だろうか。確かに自分はゲーム好きだけれど。
 記憶を辿る。
 そうだ。寛二が俺が探していた本を渡してくれて、それを開いた瞬間。

 でも……。

「…………真田」
 とても、懐かしい名前で呼ばれた。
 きっと寛二、真田は気付いていた。
 俺が祖父に貰った名前も名字も捨てたくなかった事。
 だから、ただあいつも慣れきっていなかっただけなのかもしれないけれど。
 呼んでくれた。

『深崎』と。

 数ヶ月前まで、深崎夏樹だった自分。
 此処は、何処だろう。
 気が付けば、あの洋書はまだ自分の腕の中にあった。
 服は、先程まで着ていた普段着のままだ。
 立ち上がって、声を掛けようとして少し考える。
「……言葉が通じなかったらどうしよう」
 生憎と自分が喋れるのは日本語と英語くらいである。
(違うヨーロッパ方面だったらどうしよう……というかなんで此処にいるんだ
ろう)
 何処でもドア?
 しかし夢と思いこむにしては打ち付けたらしい頭が痛い。
 思い切って通りかかった女性に声を掛けた。
「あの、すいません」
「はい? 何か?」
(あ、よかった言葉通じた…)
 じゃなくて。
「…あの、変なことを訊くんですけど、俺も訊きたくないんですけど……。
 …………此処……………何処ですか?」
 何だか自分の中に馬鹿らしい考えが浮かんできて、冬留は現実逃避しかけな
がらも。
 何とかそう言った。
 ら、女性はきょとんとして。何言ってるの? と返してきた。
「ここはオルヴィアよ?」
「……オルヴィア?」
「街よ。知らないの? 何処の田舎から来たの貴方?」
「……………いえ、あの」
 東京は田舎じゃなくて都会です。
 じゃなくって。
「……呼び止めてすいませんでした」
 としか言えない。
 去って行く女性を横目に、冬留は手の中の本を見つめる。
(とりあえず)

「……お前が元凶だって事に間違いはないよな」

 返答など帰らぬはずの本に向かって呟いた。
 ら。

「失礼だなボクをないがしろにするのかいトール?」

 やけにハスキーな声と共に本が勝手に開いて中から黒い帽子を被ったような
影とその影に張り付くように宙に浮かんだまるで漫画のような三日月型の眼と
口が動いた。
 辺りに響いた悲鳴は自分の物ではなく、それを運悪く目撃してしまった街の
女性だった。
 あっという間に自分の周りに人垣が出来る。
(…こういうのは慣れてるけど……でなくて)
「………何? 君?」
 何だか冷静に冬留は問いかけてしまった。
「オドロカナイ? 流石トール。気に入った。ボクの味方にしてあげる」
 ケケケっとその宙に浮かんだ口が笑った瞬間、本は一瞬にして消えて手の中
からなくなり、その不気味な影も消えた。と思った。
 周囲の人垣が更なる悲鳴を上げなければ。
 あきらかに自分を見ている。
 畏怖の目だ。
 だけど本は何処に。あの不気味な影は…。
「此処だよトール」
 背後から聞こえた声に弾かれるように振り返る。
 そこには、あの三日月型の口と眼を宙に浮かばせた帽子を被った形の影が自
分よりも二倍ほどの大きさで佇んでいた。
「…………おま…え」
「ボクはザザ。トールが呼んだら出てきてあげる。あの本もトールが呼べば出
てくる」
「……出てくるって何処から………」
 言いかけて、冬留はその影が何処へ続いているのかに気付いて眼を見開い
た。
 ザザ、と名乗ったその不気味な影は間違いなく、冬留の影から伸びていたの
である。
「…悪魔?」
 こんな時でも冷静に訊ける自分が少し間抜けになった。
 取り乱したりパニックになれれば楽だったかも知れないけれど。
「悪魔と呼んでもいい。ボクはザザ。『ザザの影法師』。だからこんな事もお
手のものサ」
 そう言ったザザが影の黒い手でパチンと指を鳴らした途端、周囲の自分を囲
んでいた人々がいきなり無表情になりぞろぞろと徒党を組んだように群になっ
て同じ方向へ歩き出して行ってしまった。
「………何、やった?」
「言ったろ? 頭いいのに飲み込み悪いネトール。
 ボクは『ザザの影法師』。だからボクの力が入り込んだ人間は影を通して操
れる。
 さっきのはボクがあいつらの影を操ってトールから離れるようにあいつらの
影を動かしたからあいつらの肉体も離れていったってコト」
「…じゃ、待て。お前に影乗っ取られてる俺は?」
「言ったジャン。ボクはトールの味方。味方を操ったりしない。
 それにボクは宿主が必要なんだヨネ。宿主はボクと一心同体で主であり下
僕。
 その宿主を操るなんてコトしない」
「……気に入ったという言葉の意味は宿主として気に入ったって意味か」
「そういうコトジャン」
「じゃあ最初の質問だ。ザザ」
「ナァニ? トール?」
「此処は現実か? そして馬鹿馬鹿しい話だが異世界とか言う奴か?」
 信じたくないが、今の冬留に頼れるのはこの不気味な影しかいない。
 ザザは口を大きくして笑いながら答えた。


「当たり前ジャン」

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2007/02/11 23:18 | Comments(0) | TrackBack() | ▲いくつもの今日と明日と世界と

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