場所 : クーロン図書館~クーロン第七地区・クラノヴァ執政長邸宅
PC : ハーティー 香織
NPC: 傭兵 『赤の女王』
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「お姉さん大丈夫?」
どうやら必殺の一撃となった世界地図を丁寧に折りたたんだハーティーは、
隣の女性になるべく衝撃を与えないように話しかけた。
「…うふふ、なんなのココ…どこの世界なのよ!冗談じゃないわ!」
半笑い&半泣きで、誰にでもなく怒ってる。
まあ、大抵の人々は、見も知りもしない世界に、急に放り込まれれば
そうなる。
「僕達が特別な、あるいは異常なだけかな」
楽しそうに呟いた言葉に、香織が顔を上げた。
ここは地区の小さな図書館。
地図と情報が入るなら、こういう市営の場所が一番のハズ……だった。
もちろん、未開の地や不可思議な場所がごまんと存在する世界だ。絶対、とは
言い切れないものの、それでも確実でそれなりな大陸地図や世界地図は無論存
在する。
「ニホン、ニホン…うーん、ないねぇ。というかその、漢字っていうの?
確かに漢字圏らしい国は存在するけど、残念。“日本”はないね。あ、あと
“ジャパン”もなかったね」
どうして同じ国名なのに、呼び方が二つもあるの?と聴いたら、香織は「“ジ
ャパン”のほうは英語よ?」とさらに不思議な言語を示唆してくれた。
もちろん、英語なんて漢字名の言語、残念ながら存在しない(漢字言語でもな
いのだが、彼に分かるはずもない)。
「…お姉さん、そんなに落ち込まないでよ。
僕が泣かせちゃったみたいじゃないか。
こう見えてもまだ、女の子を泣かせた経験ってあんまりないから困るよ」
多少戸惑いながらも、全然慰めにもなっていない言葉を言うハーティー。
聞きようによっては、さらに相手を落ち込ませる内容は、香織にとって非常に
マイナスの面に取られたようだ。
思わず泣き出しそうな彼女に、慌てて発言を修正しようとする青年。
「うわっ、だから違うって!
その、別にお姉さんいじめてるわけじゃなくって…ああ!泣かないでってば!
あーもーどーしよ……」
なかなかこういう場面に遭遇しないためか、珍しく慌てて香織を懸命になだめ
るハーティー。
「………」
現在の状況を、ようやく理解し始めた香織に、他人を気遣う余裕などどこにも
無い。
自分の状況すら手に余る事態だ。冷たい深海のような青の梟は、こんな時でも
沈黙を堅固して宥めようとも、助けようともせずただ見ている。
「…お姉さん、じゃあもう一つだけ手がかりをあげるから泣かないで、ね?」
困惑気味の声に含まれた“手がかり”という単語に反応した香織を見て、やっ
とハーティーはいつもの笑顔で微笑んだ。
「お姉さんと同じ、この世界の出身じゃない人に、会わせてあげる」
クーロン第七地区・『小麦の大地(フォルメンテラ)』
黄金のかがやかしい実り豊かなその名前を裏切らず、そこは闇の底無し沼に沈
んだ金が、豊かに消費される場所である。
麻薬、人買、娼婦に密輸。交わされるのは昼の世界ではあり得ない単語と視
線。
交錯するのは思惑と殺意に疑惑。閑散とした立派なレンガ造りの建物が並ん
だ、夕暮れの町。
「…さっきの何なの?すっごく血みたいな染みが壁沿いにあったり!黒いサン
グラスのお兄さんが並んでこっちを睨んだり!ねえ、大丈夫なのここ?本当に
『赤の…』なんとかって人、いるの?」
袖をつつく香織は、不安120%でこちらを伺ってる。
「『赤の女王(レーヌ・ド・ルージュ)』だよ。
彼女はこの世界じゃない別の世界の住人だったんだ。えーと「魔族」っていう
とっても綺麗で強い種族の人でね。あ、人じゃないか。
とにかく、彼女には空間を歪ませる力があって…ようは別の世界と別の世界を
行き来できるらしいんだ。だから『不思議の国』でも情報屋として成立して
る」
あ、確か「夜魔(サキュバス)」だっけ? と香織に既存のない知識を教えつ
つ、古びた壁の角を曲がると、大きな邸宅が見えてきた。
人も住んでるらしく、窓には明かりがともり、庭も手入れを怠っていない。
「この家?大きいわね」
「そりゃそうだよ、だってここはこの第七地区『小麦の大地』のー……」
「何者だ!ここはクーロン自治区・クラノヴァ執政長の邸宅だぞ!」
とたんに、ぞろぞろっとどこにいたのか用心棒の軍隊が周りを取り囲む。
すでに武器や凶器を構えて臨戦態勢バッチリのきちがいまでいる。香織が恐怖
で失神する前に、ハーティーは困ったようにはにかんだ。
「うん。知ってるよ。
ああ、お姉さん。ここクーロンの…この第七地区のお偉いさんのお宅。『赤の
女王』は結構パトロン持ちだから、大抵愛人の家にいるんだよ」
「そんなのん気に説明しないで、この状況なんとかしてよ!」
恐怖と威圧で失神しそうな顔で、ハーティーをせかす香織。
「待て、その男に手を出すな」
低く重圧した声音が、一瞬で傭兵まがいの用心棒達に、緊張と束縛を与えた。
邸宅の門構えから出てくる男性、歳は60代前後。
顔には無数の傷跡が目立ち、その巨躯も歴史を感じさせる壁のような男だっ
た。
周りの反応から見て、この男がこのクラノヴァ執政長という護衛のリーダー
か。
「そいつは『不思議の国の住人』だ。手を出せばこっちが危険だ。そいつは
『壊れたら元に戻らない者(ハンプティ・ダンプティ)』だ、一度『壊して』
しまえば、こちらが危ない」
「褒め言葉にしてはひねりがないね、『赤の女王』に用があるんだ。君達のご
主人には用はないよ」
どこか鋼のような鋭く光った前髪が、柔和な下の紫の瞳と会って違和感を催
す。
その微笑を真正面から直視できる数少ない男性は、あごで後ろの邸宅を示し
た。
「あの女は寝室にいる。クラノヴァは留守だ、あまり中を荒らすな」
「そう、ありがとう」
あっさり最後は顔パスで通してくれた男性に、感謝の言葉を述べながら、散歩
のような足取りで邸宅の中へ入っていく。
その後ろで戸惑い気味の女性が、慌てて後をついていく。
その後姿を見ながら、男性は溜息をついた。
「お前達、気をつけろ。あれは『不思議の国』の新入りだそうだ。あまり敵に
回したくない」
恐る恐る、部下らしい小柄な男が聞き出した。
「…ちょっとばかし調子付いたガキにしか見えませんでしたが?」
数人も、同意の意を示すとばかり顔を見合わせる。
「……覚えておいた方がいい、『あいつら』と戦って死ねれば、いいほうだ。
“壊れる”よりは…な」
「…さっきの人と知り合いなの?」
「ううん、別に」
そんな噂のハーティーは、香織と並んで赤い絨毯の廊下を並んで歩いていた。
「ずいぶん、噂されてるのね。君って」
「そうかな?噂の一人歩きでしょ…ここかな?寝室って」
大きな木製の扉が、廊下の突き当たりにそびえている。
香織は希望と期待、そして少しの不安顔で「早く早く」と表情でハーティーを
せかした。
それに答えるように、笑顔で笑ってノックをしようとしてー…ふと、何かを思
い出したのか、いきなり顔が硬直した。
いつまでたっても固まったままのハーティーに、不思議そうに香織が覗き込
む。
「どうしたの?早く会いましょうよ!もうすぐそこにいるのよ」
「あ…その、なんていうか…この状況って…」
珍しく戸惑いつつ、なぜか顔が赤い青年。珍しい場面だ。
業を煮やした香織が、我慢できずといった調子で、ついに取っ手に手をかけ
た。
「もう!何やってるの!私が開けるっ…すみませんっ!!」
「あああっ、お姉さん!ストップストップ!!」
焦燥と限界が二重になった音が、扉を開ける音より後に響いた。
琥珀の月明かりで、影は蒼く、深い。
蒼く暗い室内に、琥珀の明かり。家具も壁も室内がすべてその2色に侵食され
ているのに、なぜかたった一つ、白い人影があった。
大理石のような、という白さではない。鼓動を帯びた、甘い白。
練乳色の肌は、透き通るようで光を吸収し、光るというより照らされる とい
う感覚がふさわしい。
想像されるのは、甘い白。生気を帯びた、生の暖かさ。
なぜ、そんなにも白いのか。明快単純、相手は素っ裸であるから。
髪の毛の糸が見えないまでにまとまって、粘性の液体のように緩やかに動きに
伝う黒髪を、手であげて、裸身の女王は憂いを帯びた瞳を大きくまばたいた。
香織が石化して、後ろのハーティーは「やっぱり」と珍しくも額に手をあてて
目を閉じていた。
時間が、鈍行列車のごとく流れた。
「きゃああああああああああ!ごめんなさいっっ!!」
「前は他に3人ぐらい相手がいたけど…よかった、一人で」
「…ふふ、なんなら今から相手してあげてもいいけれど?そこのお嬢さんもご
一緒に」
素肌の女性は、まったく動じてなかった。
「『女王』、頼むから僕だって精神はともかく身体上は普通の人間なんだか
ら、抑えてよ」
ベットの上で、胸の谷間を見せつけながら、女王は魅惑の微笑で問いかけた。
「我慢しなくたっていいのよ?君はまだ可愛い。『イカれ帽子屋』なんて、ち
っとも誘ってくれないわ」
「君が誘ってるから、結果的には同じでしょ?」
「いいから早く服着てください!それとハーティー君見ないで!変態!」
「…はいはい、というわけで『赤の女王』、早く着替えてね。あとこの部屋事
後だと思うから、よければ別の部屋を用意してくれると若者的にすごく助か
る」
「…ベットの中じゃ不満?」
「不満、ついでに拒否」
「早く服着てくださいー!!」
香織の悲鳴が、邸宅にこだました。
PC : ハーティー 香織
NPC: 傭兵 『赤の女王』
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「お姉さん大丈夫?」
どうやら必殺の一撃となった世界地図を丁寧に折りたたんだハーティーは、
隣の女性になるべく衝撃を与えないように話しかけた。
「…うふふ、なんなのココ…どこの世界なのよ!冗談じゃないわ!」
半笑い&半泣きで、誰にでもなく怒ってる。
まあ、大抵の人々は、見も知りもしない世界に、急に放り込まれれば
そうなる。
「僕達が特別な、あるいは異常なだけかな」
楽しそうに呟いた言葉に、香織が顔を上げた。
ここは地区の小さな図書館。
地図と情報が入るなら、こういう市営の場所が一番のハズ……だった。
もちろん、未開の地や不可思議な場所がごまんと存在する世界だ。絶対、とは
言い切れないものの、それでも確実でそれなりな大陸地図や世界地図は無論存
在する。
「ニホン、ニホン…うーん、ないねぇ。というかその、漢字っていうの?
確かに漢字圏らしい国は存在するけど、残念。“日本”はないね。あ、あと
“ジャパン”もなかったね」
どうして同じ国名なのに、呼び方が二つもあるの?と聴いたら、香織は「“ジ
ャパン”のほうは英語よ?」とさらに不思議な言語を示唆してくれた。
もちろん、英語なんて漢字名の言語、残念ながら存在しない(漢字言語でもな
いのだが、彼に分かるはずもない)。
「…お姉さん、そんなに落ち込まないでよ。
僕が泣かせちゃったみたいじゃないか。
こう見えてもまだ、女の子を泣かせた経験ってあんまりないから困るよ」
多少戸惑いながらも、全然慰めにもなっていない言葉を言うハーティー。
聞きようによっては、さらに相手を落ち込ませる内容は、香織にとって非常に
マイナスの面に取られたようだ。
思わず泣き出しそうな彼女に、慌てて発言を修正しようとする青年。
「うわっ、だから違うって!
その、別にお姉さんいじめてるわけじゃなくって…ああ!泣かないでってば!
あーもーどーしよ……」
なかなかこういう場面に遭遇しないためか、珍しく慌てて香織を懸命になだめ
るハーティー。
「………」
現在の状況を、ようやく理解し始めた香織に、他人を気遣う余裕などどこにも
無い。
自分の状況すら手に余る事態だ。冷たい深海のような青の梟は、こんな時でも
沈黙を堅固して宥めようとも、助けようともせずただ見ている。
「…お姉さん、じゃあもう一つだけ手がかりをあげるから泣かないで、ね?」
困惑気味の声に含まれた“手がかり”という単語に反応した香織を見て、やっ
とハーティーはいつもの笑顔で微笑んだ。
「お姉さんと同じ、この世界の出身じゃない人に、会わせてあげる」
クーロン第七地区・『小麦の大地(フォルメンテラ)』
黄金のかがやかしい実り豊かなその名前を裏切らず、そこは闇の底無し沼に沈
んだ金が、豊かに消費される場所である。
麻薬、人買、娼婦に密輸。交わされるのは昼の世界ではあり得ない単語と視
線。
交錯するのは思惑と殺意に疑惑。閑散とした立派なレンガ造りの建物が並ん
だ、夕暮れの町。
「…さっきの何なの?すっごく血みたいな染みが壁沿いにあったり!黒いサン
グラスのお兄さんが並んでこっちを睨んだり!ねえ、大丈夫なのここ?本当に
『赤の…』なんとかって人、いるの?」
袖をつつく香織は、不安120%でこちらを伺ってる。
「『赤の女王(レーヌ・ド・ルージュ)』だよ。
彼女はこの世界じゃない別の世界の住人だったんだ。えーと「魔族」っていう
とっても綺麗で強い種族の人でね。あ、人じゃないか。
とにかく、彼女には空間を歪ませる力があって…ようは別の世界と別の世界を
行き来できるらしいんだ。だから『不思議の国』でも情報屋として成立して
る」
あ、確か「夜魔(サキュバス)」だっけ? と香織に既存のない知識を教えつ
つ、古びた壁の角を曲がると、大きな邸宅が見えてきた。
人も住んでるらしく、窓には明かりがともり、庭も手入れを怠っていない。
「この家?大きいわね」
「そりゃそうだよ、だってここはこの第七地区『小麦の大地』のー……」
「何者だ!ここはクーロン自治区・クラノヴァ執政長の邸宅だぞ!」
とたんに、ぞろぞろっとどこにいたのか用心棒の軍隊が周りを取り囲む。
すでに武器や凶器を構えて臨戦態勢バッチリのきちがいまでいる。香織が恐怖
で失神する前に、ハーティーは困ったようにはにかんだ。
「うん。知ってるよ。
ああ、お姉さん。ここクーロンの…この第七地区のお偉いさんのお宅。『赤の
女王』は結構パトロン持ちだから、大抵愛人の家にいるんだよ」
「そんなのん気に説明しないで、この状況なんとかしてよ!」
恐怖と威圧で失神しそうな顔で、ハーティーをせかす香織。
「待て、その男に手を出すな」
低く重圧した声音が、一瞬で傭兵まがいの用心棒達に、緊張と束縛を与えた。
邸宅の門構えから出てくる男性、歳は60代前後。
顔には無数の傷跡が目立ち、その巨躯も歴史を感じさせる壁のような男だっ
た。
周りの反応から見て、この男がこのクラノヴァ執政長という護衛のリーダー
か。
「そいつは『不思議の国の住人』だ。手を出せばこっちが危険だ。そいつは
『壊れたら元に戻らない者(ハンプティ・ダンプティ)』だ、一度『壊して』
しまえば、こちらが危ない」
「褒め言葉にしてはひねりがないね、『赤の女王』に用があるんだ。君達のご
主人には用はないよ」
どこか鋼のような鋭く光った前髪が、柔和な下の紫の瞳と会って違和感を催
す。
その微笑を真正面から直視できる数少ない男性は、あごで後ろの邸宅を示し
た。
「あの女は寝室にいる。クラノヴァは留守だ、あまり中を荒らすな」
「そう、ありがとう」
あっさり最後は顔パスで通してくれた男性に、感謝の言葉を述べながら、散歩
のような足取りで邸宅の中へ入っていく。
その後ろで戸惑い気味の女性が、慌てて後をついていく。
その後姿を見ながら、男性は溜息をついた。
「お前達、気をつけろ。あれは『不思議の国』の新入りだそうだ。あまり敵に
回したくない」
恐る恐る、部下らしい小柄な男が聞き出した。
「…ちょっとばかし調子付いたガキにしか見えませんでしたが?」
数人も、同意の意を示すとばかり顔を見合わせる。
「……覚えておいた方がいい、『あいつら』と戦って死ねれば、いいほうだ。
“壊れる”よりは…な」
「…さっきの人と知り合いなの?」
「ううん、別に」
そんな噂のハーティーは、香織と並んで赤い絨毯の廊下を並んで歩いていた。
「ずいぶん、噂されてるのね。君って」
「そうかな?噂の一人歩きでしょ…ここかな?寝室って」
大きな木製の扉が、廊下の突き当たりにそびえている。
香織は希望と期待、そして少しの不安顔で「早く早く」と表情でハーティーを
せかした。
それに答えるように、笑顔で笑ってノックをしようとしてー…ふと、何かを思
い出したのか、いきなり顔が硬直した。
いつまでたっても固まったままのハーティーに、不思議そうに香織が覗き込
む。
「どうしたの?早く会いましょうよ!もうすぐそこにいるのよ」
「あ…その、なんていうか…この状況って…」
珍しく戸惑いつつ、なぜか顔が赤い青年。珍しい場面だ。
業を煮やした香織が、我慢できずといった調子で、ついに取っ手に手をかけ
た。
「もう!何やってるの!私が開けるっ…すみませんっ!!」
「あああっ、お姉さん!ストップストップ!!」
焦燥と限界が二重になった音が、扉を開ける音より後に響いた。
琥珀の月明かりで、影は蒼く、深い。
蒼く暗い室内に、琥珀の明かり。家具も壁も室内がすべてその2色に侵食され
ているのに、なぜかたった一つ、白い人影があった。
大理石のような、という白さではない。鼓動を帯びた、甘い白。
練乳色の肌は、透き通るようで光を吸収し、光るというより照らされる とい
う感覚がふさわしい。
想像されるのは、甘い白。生気を帯びた、生の暖かさ。
なぜ、そんなにも白いのか。明快単純、相手は素っ裸であるから。
髪の毛の糸が見えないまでにまとまって、粘性の液体のように緩やかに動きに
伝う黒髪を、手であげて、裸身の女王は憂いを帯びた瞳を大きくまばたいた。
香織が石化して、後ろのハーティーは「やっぱり」と珍しくも額に手をあてて
目を閉じていた。
時間が、鈍行列車のごとく流れた。
「きゃああああああああああ!ごめんなさいっっ!!」
「前は他に3人ぐらい相手がいたけど…よかった、一人で」
「…ふふ、なんなら今から相手してあげてもいいけれど?そこのお嬢さんもご
一緒に」
素肌の女性は、まったく動じてなかった。
「『女王』、頼むから僕だって精神はともかく身体上は普通の人間なんだか
ら、抑えてよ」
ベットの上で、胸の谷間を見せつけながら、女王は魅惑の微笑で問いかけた。
「我慢しなくたっていいのよ?君はまだ可愛い。『イカれ帽子屋』なんて、ち
っとも誘ってくれないわ」
「君が誘ってるから、結果的には同じでしょ?」
「いいから早く服着てください!それとハーティー君見ないで!変態!」
「…はいはい、というわけで『赤の女王』、早く着替えてね。あとこの部屋事
後だと思うから、よければ別の部屋を用意してくれると若者的にすごく助か
る」
「…ベットの中じゃ不満?」
「不満、ついでに拒否」
「早く服着てくださいー!!」
香織の悲鳴が、邸宅にこだました。
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