場所 : クーロン第七地区・クラノヴァ執政長邸宅~邸宅前
PC : ハーティー 香織 冬留
NPC: 『赤の女王』 傭兵
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
赤絨毯の敷かれたまっすぐな廊下を、香織は歩いていた。
(どうしようかな……これから)
うつむき加減に歩く彼女の頭の中は、そのことで一杯だった。
あなたを頼って、何ヶ月、あるいは何年も待っている余裕なんてない。
少しでも早く帰れる方法を見つけるために、行動する。
香織がそう告げると、『赤の女王』は微笑み、がんばりなさい、と励ました。
誰もが惹きこまれそうな、慈母のような、女神のような、そんな微笑みだった。
香織は今、その部屋を後にしてきたところである。
(これから、大変よね……家族とか、帰るトコとか、いっぺんになくなっちゃたんだ
もん)
家族も、帰る場所もない世界。
考えれば考えるほど、孤独感がじわじわ強くなる。
しかし、どこかまだ冷静でいられるのは、言葉が通じるから、なのかもしれない。
……まだ実感が沸かないだけ、なのかもしれないが。
もし、ここが言葉の全く通じない場所だったなら、香織は絶望して泣きわめいていた
ところだろう。
ともあれ。
家族も、帰る場所もないこの世界で生活していくためには、まず、お金が必要だろ
う。
どうにかして稼がなくてはならない。
「ちょっとちょっと、お姉さん」
「へ?」
ふと呼ばれて振り向くと、ハーティーが後方で手をひらひらさせていた。
「お姉さん、そっちじゃないよ。こっち」
言ってハーティーは、右の通路を指差す。
「え、あ、ああ、そうなの? ごめんごめん」
香織は決して方向音痴というわけではない。
考え事をしながら歩いていたから、間違えてしまったのだろう。
小走りにハーティーのところに戻り、再び歩き出すと、中断した思考を戻した。
とりあえずは、収入源となる仕事を見つけねばなるまい。
しかし……こちらの世界にどんな仕事があるのやら。
こちらの世界のことなんて、まるでわからない。
「ねえ、ハーティー君。いい仕事先、知らない?」
頼るアテなんてものもなくて、香織はハーティーに聞いてみた。
出会ってそう時間も経っていない人間に、そんなことを聞くべきじゃないかもしれな
いが、香織にとってハーティーとは、唯一こちらの世界の情報を提供してくれる人物
なのである。
「ええっ? いい仕事先、ねえ……うーん……希望とか条件はある?」
いきなり聞かれたハーティーは、ほんの少し眉をしかめる。
「そうね~……」
言って香織は少し考える。
「そりゃ、できるだけ楽な仕事で、お給料が高くって、休みが多いと嬉しいけど……
こっちの世界だって、世の中そんなに甘くないでしょ?」
「楽して儲けられる仕事なんて、たぶんロクなものじゃないと思うよ」
「そうよねえ。楽な仕事とか、休みが多い仕事って、その分給料が安くなっちゃうの
が普通だし……」
腕組みをし、うんうん、なんて頷く香織。
「じゃあ、得意なことって?」
今度は香りが眉をしかめる番だった。
「得意……っていうか、好きなのは料理と、手芸ね。得意かどうかって聞かれると、
ちょっとわかんないけど……あ。中学と高校ね、部活、手芸部に入ってたわ」
「ブカツ?」
ハーティーの反応を見て、香織はハッとした。
そうだ、こちらの世界の人が『部活』なんてものを知ってるはずもない。
「ああ、ごめんごめん。わかんないよね。たいしたことじゃないから忘れて」
首を傾げるハーティーに、手をぱたぱた振って、香織はごまかした。
そうこうしているうちに、2人は屋敷の玄関に到達した。
ただの玄関なのに、これがまたやたらに広く、凝った彫刻の施された置き物が片隅に
飾られていたりする。
立派な玄関を出ると、さっきの用心棒達の姿が見えた。
(……やっぱり怖い)
先ほど取り囲まれたのが、まだ少し怖い香織だった。
できるだけ目を合わせないように、と気をつけながら、門へと向かう。
――そんな姿勢で歩いていると、前方への注意がおろそかになってしまいがちであ
る。
「きゃ」
香織は、屋敷の門を出たところで、どん、と何かにぶつかり、しりもちをついた。
ちゃんと前を見て歩いていたなら、どこ見て歩いてるのよ、くらいのことは言えたか
もしれないが、香織は用心棒達と目を合わせたくないあまり、前方に注意を向けてい
なかった。
完全なる前方不注意状態で歩いていた香織に非がある。
「ご、ごめんなさいっ! 前、全然見てなくて!」
慌てて謝りながら、香織は顔を上げて――固まった。
ただし、その瞳だけは大きく見開かれた。
フォールインラブ、というわけではない。だいたい相手は明らかに年下である。
身長こそ、かなりの高さだったが。
香織が注目したのは、そこではない。
彼の身につけている衣服が、ここでは珍しいとされ――元の世界では普段着にしか見
えない、というものだったからだ。
たっぷり十数秒、彼の姿をあ然と見つめた後、香織の脳裏にある考えが起きた。
もしかして、この人……現代人?
「あなた、その格好、もしかして……現代人っ?」
思わず、香織はそう尋ねていた。
PC : ハーティー 香織 冬留
NPC: 『赤の女王』 傭兵
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赤絨毯の敷かれたまっすぐな廊下を、香織は歩いていた。
(どうしようかな……これから)
うつむき加減に歩く彼女の頭の中は、そのことで一杯だった。
あなたを頼って、何ヶ月、あるいは何年も待っている余裕なんてない。
少しでも早く帰れる方法を見つけるために、行動する。
香織がそう告げると、『赤の女王』は微笑み、がんばりなさい、と励ました。
誰もが惹きこまれそうな、慈母のような、女神のような、そんな微笑みだった。
香織は今、その部屋を後にしてきたところである。
(これから、大変よね……家族とか、帰るトコとか、いっぺんになくなっちゃたんだ
もん)
家族も、帰る場所もない世界。
考えれば考えるほど、孤独感がじわじわ強くなる。
しかし、どこかまだ冷静でいられるのは、言葉が通じるから、なのかもしれない。
……まだ実感が沸かないだけ、なのかもしれないが。
もし、ここが言葉の全く通じない場所だったなら、香織は絶望して泣きわめいていた
ところだろう。
ともあれ。
家族も、帰る場所もないこの世界で生活していくためには、まず、お金が必要だろ
う。
どうにかして稼がなくてはならない。
「ちょっとちょっと、お姉さん」
「へ?」
ふと呼ばれて振り向くと、ハーティーが後方で手をひらひらさせていた。
「お姉さん、そっちじゃないよ。こっち」
言ってハーティーは、右の通路を指差す。
「え、あ、ああ、そうなの? ごめんごめん」
香織は決して方向音痴というわけではない。
考え事をしながら歩いていたから、間違えてしまったのだろう。
小走りにハーティーのところに戻り、再び歩き出すと、中断した思考を戻した。
とりあえずは、収入源となる仕事を見つけねばなるまい。
しかし……こちらの世界にどんな仕事があるのやら。
こちらの世界のことなんて、まるでわからない。
「ねえ、ハーティー君。いい仕事先、知らない?」
頼るアテなんてものもなくて、香織はハーティーに聞いてみた。
出会ってそう時間も経っていない人間に、そんなことを聞くべきじゃないかもしれな
いが、香織にとってハーティーとは、唯一こちらの世界の情報を提供してくれる人物
なのである。
「ええっ? いい仕事先、ねえ……うーん……希望とか条件はある?」
いきなり聞かれたハーティーは、ほんの少し眉をしかめる。
「そうね~……」
言って香織は少し考える。
「そりゃ、できるだけ楽な仕事で、お給料が高くって、休みが多いと嬉しいけど……
こっちの世界だって、世の中そんなに甘くないでしょ?」
「楽して儲けられる仕事なんて、たぶんロクなものじゃないと思うよ」
「そうよねえ。楽な仕事とか、休みが多い仕事って、その分給料が安くなっちゃうの
が普通だし……」
腕組みをし、うんうん、なんて頷く香織。
「じゃあ、得意なことって?」
今度は香りが眉をしかめる番だった。
「得意……っていうか、好きなのは料理と、手芸ね。得意かどうかって聞かれると、
ちょっとわかんないけど……あ。中学と高校ね、部活、手芸部に入ってたわ」
「ブカツ?」
ハーティーの反応を見て、香織はハッとした。
そうだ、こちらの世界の人が『部活』なんてものを知ってるはずもない。
「ああ、ごめんごめん。わかんないよね。たいしたことじゃないから忘れて」
首を傾げるハーティーに、手をぱたぱた振って、香織はごまかした。
そうこうしているうちに、2人は屋敷の玄関に到達した。
ただの玄関なのに、これがまたやたらに広く、凝った彫刻の施された置き物が片隅に
飾られていたりする。
立派な玄関を出ると、さっきの用心棒達の姿が見えた。
(……やっぱり怖い)
先ほど取り囲まれたのが、まだ少し怖い香織だった。
できるだけ目を合わせないように、と気をつけながら、門へと向かう。
――そんな姿勢で歩いていると、前方への注意がおろそかになってしまいがちであ
る。
「きゃ」
香織は、屋敷の門を出たところで、どん、と何かにぶつかり、しりもちをついた。
ちゃんと前を見て歩いていたなら、どこ見て歩いてるのよ、くらいのことは言えたか
もしれないが、香織は用心棒達と目を合わせたくないあまり、前方に注意を向けてい
なかった。
完全なる前方不注意状態で歩いていた香織に非がある。
「ご、ごめんなさいっ! 前、全然見てなくて!」
慌てて謝りながら、香織は顔を上げて――固まった。
ただし、その瞳だけは大きく見開かれた。
フォールインラブ、というわけではない。だいたい相手は明らかに年下である。
身長こそ、かなりの高さだったが。
香織が注目したのは、そこではない。
彼の身につけている衣服が、ここでは珍しいとされ――元の世界では普段着にしか見
えない、というものだったからだ。
たっぷり十数秒、彼の姿をあ然と見つめた後、香織の脳裏にある考えが起きた。
もしかして、この人……現代人?
「あなた、その格好、もしかして……現代人っ?」
思わず、香織はそう尋ねていた。
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