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2024/05/17 04:11 |
『不思議の国の住人』期待の新人/ハンプティ・ダンプティ(Caku)
PC :『壊れたら元に戻らない者(ハンプティ・ダンプティ)』 
NPC:『イカれ帽子屋』『赤の女王』『三月兎』『絶滅老鳥』
場所:『不思議の国』~ギルド酒場

……………………………………………………………………………………………
………


      それは、不思議な不思議な物語のお茶会の物語りです。


「聞いたわよ『イカれ帽子屋(マッド・ハッター)』、貴方また新しい玩具を
見つけたってね」

真っ赤な唇が、天上の音楽のような声音を紡いだ。
人間とはかけ離れた造形のシルエット、美の女神をかくやと思わせる美しい肢
体。
艶消しの黒髪を、滝が流れる様のように垂らしている女性。紅いドレスが、ま
るで彼女のためだけにある色彩だと言わんばかりに咲き誇る。

「人間を玩具に例えるのは感心致しませんね『赤の女王(レーヌ・ド・ルー
ジュ)』。
まあ、貴女にとっては人も同胞(魔族)も劇場のエキストラと同じでしょう
が」

彼女の声に答えたのは、恐ろしい程に白い肌の男性だった。
白粉をまぶしたようなあり得ない白さの上には、『赤の女王』と呼ばれた女性
に劣るとも勝るともいえない真っ赤な三日月型の口腔が覗く。
喪服と見間違う黒のスーツにシルクハット。
相手をたしなめつつも、どこかその言葉には含み笑いという成分が見える。

「可哀想に、お前に目をつけられたとなるば、平穏な人生を奪われたようなも
のじゃ」

その発言に横から入ってきたのは、しわがれた老人のような声。

「おや、案外失礼なことをおっしゃりますね『絶滅老鳥(ソロモンコー)』。
平穏という絶望と退屈な物語では、観客は心動かされないものです」

いかにも心外である、と嘆かわし気な演技をこなす『イカれ帽子屋』。しかし
その不気味な微笑みは微動だにしない。
その姿を、まるで劇場の光を見るように目を細める鳥。
そう、『絶滅老鳥』と呼ばれる対象は、どうやらこの人間ほどの大きさの老鳥
であるらしい。

「物語としては、平穏はたしかに偏屈で鬱陶しくて残忍。でも、お話の最後は
いつもそうなるの」

と、今度は彼等のやや斜め前から飛んできた口調があった。
幼くて愛らしい少女の音調、人形のウサギの耳が揺れた。

「しかし我らの世界には終末は用意されていないのです。永遠の興奮と感動
を”アリス”はお求めなのです」
「汚らわしい口で”お姉様”の名前を発するな『イカれ帽子屋』!」
「止めぬか『三月兎』」

『イカれ帽子屋』の応対に、何故か嫌悪と憤怒の色が混じった。
少女は振り向き、男を睨む。銀色の髪に、銀色の瞳。黒いリボンで可愛く飾っ
てあり、まるで人形のようだ。制止した老鳥の言葉も耳にしていないらしく、
愛らしい目つきを一振りの刃のように視線で突き刺す。
手には、数個の人形。どれもウサギをかたどった物ばかりである。


不思議な空間、不思議な場所。

見事な紅檜皮(べにひわだ)色ののテーブルを囲って、4人の人物が座ってい
る。
一人は、異常な微笑みを絶やさない赤い三日月を顔に浮かべる青年。
一人は、艶かしい妖艶な眼差しの人にあらざる美神の女帝。
一人は、老いた羽根と深い知識を垣間見せる途絶えたはずの種の鳥。
一人は、人形のような手で人形を持つ、人形のような少女。

まったく共通項が見当たらない集団。
ただ、そこはこの世界ではない。どこの世界でもない場所である。
そう感じさせるほど、『そこ』はあまりにも不可思議で謎めいた空間だった。

さして少女の激怒の感情にも動じなかった男が、まるで吊り上げられたように
立ち上がった。
人間の動きにして、吐き気がするほどに異様な動作だった。


「そろそろ”脇役”は揃ったかな?これより『不思議の国の茶会』を始めま
しょう」

不思議なお茶会の始まりである。




「さて、今宵の茶会の主旨を拝聴したいのだがね『イカれ帽子屋』よ」
『絶滅老鳥』が、古びたパイプの煙をくゆらせつつ尋ねた。
「『不思議の国の住人』を全員拾集させる事態とは、いかなるものかな?」
「例の”異常眼”を持つという貴方の玩具でも新規採用するのかしら?」
女が、愉快そうに後に続く。
「『不思議の国』には”アリス”の許可と承認がなきゃ駄目」
少女は、無表情に釘を刺した。

友情で結ばれた仲間という単語が、これほど似合わない集団の中。名義だけの
「仲間」に彼はあらたな「仲間」の到来を告げることにした。

「ええ皆様、今宵貴方達を集めたのは推測の通りです。
”アリス”によって舞台設定を意味付けられた”脇役”がまた一人、この世界
に誕生したのです」

皆、無表情に彼を見る。
驚愕、哀愁、期待、疑惑など、様々な色で満たされた沈黙がおりた。

「ですが”異常眼”や”虹追い人”ではありません。
彼等は物語の紡ぎ手であり、決して”脇役”という配置には相応しくないから
です」

『イカれ帽子屋』は、上品と礼儀の模範のような仕種で、背後の闇に手を差し
伸べる。
虚空に浮かんだ白い手が、通常の人間にあり得るはずのない白さを穿つ。

「では御紹介しましょう、こちらにどうぞ『壊れたら元に戻らない者(ハンプ
ティ・ダンプティ)』よ」

丁寧に磨かれた、アンバー色の革靴が、闇から姿を現わした。



「おい、何だコイツは?」
「どーしたんだよ」
ギルド直轄運営のある酒場。
カウンター奥の事務員が、一枚の紙切れを同僚に差し出した。
「このA級ランクの集団、ほら、不思議のナントカというふざけた連中」
「一人増えてるな、えーと・・・『壊れたら元に戻らない者』?何だそ
りゃ?」
男性達は、退屈な書類整理を一時中断して、その紙切れに瞳を向ける。

「あ、こいつもしかしてさ。例の”奇術師”じゃないか?」
仲間の疑問に、ああと相づちを打つ。
「酒場でよく見かける坊っちゃんか、ああ、んな名前だったようなー・・・」
思い出す。
最近、ふらりと酒場に出入りするようになった少年の事を。
「いや、A級って嘘だろ。どーみても十代じゃねぇか」
「でもこの不思議のナントカには、10歳程度の娘もいるって話だぜ」
「”話し”だろ?」
やや誇張が混じってるようなヨタ話に、男性はせせら笑う。

「そう、これはお話、つまりは”物語り”なんです」

男性二人が振り返ると、穏やかな微笑みがあった。
驚愕の表情に、暖かな視線を向けて、少年は喋る。

「昔、もし私がそこにいたら、今私はここにはいません。
もし私が今と昔にいるのであれば、新しい物語と古い物語を両方知っている
か、あるいは昔の物語も知らないかです」

鋭い虹彩の、一本の剣のような髪がさらりと揺れた。
「日雇いから臨時雇用に契約していただいた『壊れたら元に戻らない者(ハン
プティ・ダンプティ)』です。よろしくお願い致します」

礼儀正しく、呆気にとられている男性に頭を下げる。
肩の上の、美しい蒼い梟が、まばたきをせずにこちらを見ていた。


不思議の国からやってきた者が、また一人世界の盤面に配置された。


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2007/02/11 23:12 | Comments(0) | TrackBack() | ▲いくつもの今日と明日と世界と

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