忍者ブログ
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


2024/05/17 07:44 |
『いくつもの今日と明日と世界と』 1章「出会いと手品と蒼い鳥」/ハンプティ・ダンプティ(Caku)

PC:ハーティー 香織
NPC:少年、マスター、レダ、客など
場所:クーロン 酒場『緑の峡谷(ウェッド・レヒ)』の物置


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・

彼が酒場のカウンターにいつも通りの仕事場の設定を終了した時。

もの凄い大音響が物置き辺りから発表された。
客、店員も皆一様に不審の視線を音の発信源あたりに彷徨わせている。
「何だ?何か落ちたのか・・・?おい、見てきてくれ」
マスターも多少驚いたが、すぐに無表情の鉄仮面に戻り、下働きの少年に指示
を出した。
「やっぱり物置きの大掃除、そろそろしたほうがいいんじゃないですかぁ?」
レダ、三十路である事実とは裏腹な行動と発言で、最近の惨状を指摘する。
「変わった物ばかりマスター集めてくるから、物置きが色んなモノで斜塔作ら
れちゃってますもん」
皮肉だかなんだかを、ちょっぴり混ぜた発言。
ここのマスターは、旅行なども好きで、よく国外に出かけては不思議極まる謎
めいた品物を買い込んで戻ってくるのだ。
「・・・そうだな、しばらく掃除してないな。ボランティアとは助かる」
「やだ!誰もお給料ナシなんかじゃやりませんよー!それならハーティーさん
にお手伝いしてもらえばいいじゃないですかぁ」
ぷうっとふくれて、素早く鉾先を転換するあたりに年齢の重みを感じる。
なぜ自分が槍玉に上げられたのか、さり気なく質問してみることにした。
「ちょっとレダちゃん、なんで僕?」
だって とレダはあどけない瞳を輝かせて語る。
「あたし、いつもハーティーさんの手品感動しますもの!
種も仕掛けもないのに、まるで魔法みたいになんでもやっちゃうんだもん!
ハーティーさんの手品って絶対魔法使ってますでしょ」
「違うよ、きちんと種も仕掛けもあるって。僕だって某4次元ポケットをもつ
何でもロボットじゃないんだから」
困ったように笑う。
褒められるのは嬉しいのだが、レダの表現は誇張し過ぎである。
「嘘です!だって誰もハーティーさんの手品のネタ、解った人いないんです
よ。
用意も下準備もなしにいきなり手品なんてできませんもの!!」
だから とウェイトレスは子供の夢を語るようにおおはしゃぎする。
「ハーティーさんの手品の魔法で、ぱぱぱっと物置きでも酒棚でもあっという
間です!」
困ったな、出来ないこともないけど。
そう思いつつ、マスターに視線で仲介を依頼する。しかし、マスターはむしろ
「構わないぞ、魔法でも」という実に現実的に、救済の手をはね除けた。
少年は、どうしようかと悩むことに悩んでいた。

そんな時。

「マママママ、マスター!!泥棒さんです!!」
さん付けはいらないんじゃないかなぁ とのんびりとした指摘は心の中だけに
しまっておこう。
先ほどの少年がびっくりした顔で戻ってきた。
続いて、慌てたような女性が彼のことを追ってきた。見た事もない服装だ。
「ちょ、ちょっと待って!私泥棒なんかじゃー・・・」
女性の視線が、酒場全体に固定される。

沈黙、さらに沈黙。

皆が皆、一様に女性の出で立ちと不可思議さに疑惑と注目の矢を投げている。
「え・・・ここ・・・」
女性が、強制停止しかけた思考を再開したらしい。
きょろきょろと辺りをせわしなく詮索する。ちょっと怪しい、危ない、おかし
いかも。
「・・・泥棒にして大胆だな。堂々と出てくるとは」
「泥棒じゃありません!!」
マスターの独り言に女性が鋭く突っ込んだ。自分はマスターの発言にそうだよ
ねと同意してたけれど。
「今の子の流行りなのコレ?なんだか・・・へんな、あ、いや変わった服ね」
レダが興味津々で覗き込んでいる。
見知らぬ人間達に囲まれて、さらに視線と注意をあられに浴びせられて、つい
でに泥棒まがいの疑惑もかけられた女性がすこし泣きそうな雰囲気になった。
ちょっとこれは可哀想だな と自分の小指一本ぐらいも残っていた人間の良心
が囁いた。
逃げ場のない女性が、言葉に詰まっておどおどしはじめる。
そんな彼女に、マスターはしごく冷静に一撃を加えようとした。
「とりあえず不法侵入に営業妨害その他という不審人物だ。ギルドの警察に連
行して・・・」
「連行されちゃったら困るよ、これから皆さんの心を盗んでもらうんだから」

皆、ハーティーの方角に注目する。

「え、ちょちょっと・・・わぷっ!?」
女性に問答無用で白い布をかぶせて包む。手品用に持ってきた大きな布だ。
「それでは皆様、この不思議な女性が盗むのは皆様の一時、心の欠片にござい
ます」
浪々と、歌は続く。布の中の女性は何やらもごもご動いているが、今出てきて
もらうとちょっと自分も困るので強制的に布の口を閉める。
「さあ、紳士淑女の皆様方。
今よりこの盗人(ぬすびと)が捕らえる観客の心を奪う技、とくと御覧あれ」
客とマスターとレダと少年が見守る中。そして、

ぶわっ

白い布がはじけたと思ったら、中から色とりどりの蝶が溢れだした。
包んでいた布を少年がはおると、布が崩れた。
そこには女性も少年も居なかった。


「さすがハーティーさん!って何処行ったんですかぁ!?」
お仕事これからですよー と酒場から響くレダの声が、大通りにも響いた。



店の裏側、暗い路地通り。
どすっと、白い塊が空から降ってきた。
結び目をほどいて中から出てきたのは、少年。
「ってけっこうきわどいな今の、ああゴメン”ソクラテス”、もしかしてなく
ても潰してた?」
蒼い梟が自分の腰の下でバタバタもがいているのをゆっくり鑑賞しつつ隣のお
姉さんを見る。
「・・・・・・ってここは何処で、お店の中で、泥棒って私違いますっ!」
「まあまあ、落ち着いて」
女性の返答に生返事を出しつつ、服の汚れを叩く。


「じゃあお姉さん、名前は”カオリ”っていうんだね?」
女性が、びっくりしたように詰め寄る。
「どうして私の名前!?」
「だってそういう名前なんでしょ?」

笑顔で、穏やかに微笑む少年。

「だって貴女がそういう名前だから、貴女の名前なんでしょう?」

蒼い梟が、無感動な夕暮れ色の瞳を、女性に向けていた。
PR

2007/02/11 23:14 | Comments(0) | TrackBack() | ▲いくつもの今日と明日と世界と

トラックバック

トラックバックURL:

コメント

コメントを投稿する






Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字 (絵文字)



<< 『いくつもの今日と明日と世界と』 1章/香織(周防松) | HOME | 『いくつもの今日と明日と世界と』 2章/香織(周防松)>>
忍者ブログ[PR]