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2025/11/17 13:28 |
カットスロート・デッドメン 7/タオ(えんや)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
PC:タオ、ライ
NPC:ソム、バラントレイ、バンドレア、レイブン、神父、水兵、海賊等々
場所:シカラグァ・サランガ氏族領近海の船上
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

タオはソムの元に向かいながら、もう一度ライとの会話を振り返っていた。

(…空?)

タオは空を見上げる。空一面も霧で覆われ、星空はおろか月すらも見えない。

(…船長は既に死んでいたか…とすれば…)

タオはふと舷側を覗き込んだ。
そこにはまだカッターボートが括りつけられていた。

(…元より計画の内であれば、小船で大海の中を逃げ出す危険は冒さぬか…)

タオは襲い掛かる海賊を殴り倒しながら先を急ぐ。

(ならば、彼らはどこに?)

タオは足を止めた。その視線の先には、甲板の上に突き出すような海賊船のバウスプリットと美女の胸像が見えた。


 *   *   *


船内へと続く階段の入り口付近では生き残っている傭兵達が肩を並べて防衛ラインを築いていた。タオはその中に赤い髪を見つけて、そこに向かった。

「無事ですか?」
「まだ無事だよ、こんちきしょう!お前どこ行ってたよ!?」

ソムが汗をたらしながら怒鳴る。

「申し訳ない。」
「そう思うんなら、あとはお前がやれ!」

タオは頷くと、防衛ラインの前に歩み出、一人の万鬼の腕を捻った。
その万鬼は捻られるまま隣の万鬼にぶつかり三人ほど巻き込み体勢を崩す。
タオはその横に踏み込んで、そのまま背を万鬼に預け、床を力強く踏み込んだ。
万鬼が数体まとめて吹き飛んだ。タオはというと、万鬼が吹き飛ぶと同時に反対側へと踏み込み、そちら側にいた万鬼も数体まとめて弾き飛ばす。

「…お前のデタラメ見てると、真面目に生きてるのが馬鹿みたく思える…。」

タオは押し寄せる万鬼を片付けながら尋ねた。

「状況は?」
「バラントレイのおっちゃんが全員呼び集めて防衛線築いたとこ。
 あのおっちゃん、元軍人じゃねーかな?」
「なるほど。で、そのバラントレイ殿は?」
「当の本人は何人か連れて、敵の総大将に切り込んでるよ。」

ソムの指し示すほうを見ると、万鬼達の中央で数名の傭兵が戦っていた。
いや、円陣を組むように防衛している。その円の中央で、バラントレイが骸骨の描かれた船長帽を被った万鬼と対峙していた。その万鬼は片手に黒い剣を握っていた。

「"黒剣の"レイブンまでアンデッドになってたとはな。」
「一対一で臨むのは、彼の矜持ですかね。」
「それが"決闘者"のゆえんさ。」

バラントレイのレイピアがうねった。
変幻自在の軌道を持つ高速の突きが放たれる。
レイブンはそれを黒剣で払いながら体を捌き左手を伸ばす。
バラントレイは素早く体を引き、レイブンの左手をかわした。

「あちらのほうが楽しそうですね。」
「そう思えるお前の頭ん中のほうが愉快だよ。」

その時、遠くで誰かが一際高い悲鳴を上げた。

「船倉!?」
「女性の声ですね。」
「なんで女がいるんだよ。」
「さぁ」

ソムは舌打ちした。

「しゃーねぇ。ここは任せたぜ。」
「用心を。」
「何を今さら。」
「今以上の用心を。」
「…何か気になることがあんのか?」
「この船の船長は死んでいました。それも昨日今日ではなく。
 最初から、計画の内かも知れません。」
「…どういうことだ?」

タオが答えようとしたとき、ライが万鬼の隙間を縫って駆けつけてきた。

「悲鳴は?」
「中だ!」

ライはそのまま階段を駆け下りた。

「ちょうどいい。中はヤツに任せよう。」
「そうですね。」
「…で、船長が死んでるっていうのは?」
「腐り果てていました。この船もまた幽霊船だったということです。
 …ですが、幽霊船が積荷を積んだり客を取ったり護衛を雇うことはできない。
 我らの雇い主は確かに生きていたし、大勢の水夫も然りです。
 死せる船長を隠し船を動かすには生ける協力者が必要です。
 万鬼もまた、徒党を組み海賊を働くということは考えにくい。
 やはり生ける者の作為を感じます。
 死人を利用する何者かがいて、その操る死人の船が洋上で出くわす。
 無いとは申しませぬが、何者かは同じと考えるとするなら。
 協力者は今どこにいるのか?
 下手に船に留まれば、流れ弾に当たるかも知れぬし、
 万鬼に襲われない不自然さに気付かれる虞れもある。
 カットボートはどれ一つ欠けてはいなかった。
 ならば…」

タオは万鬼を片付けながら、自らの思考を整理するように言葉を紡ぐ。

「…相手の船か!」
「あるいは。襲撃されてからは船上は混乱していて
 仮に誰かがあちらの船に乗り込もうとしても気付きますまい。」
「ふん、死人より生きてる奴のほうがおぞましいってか。
 …だが、目的は?」
「我々か、客か、荷物かでしょう。」
「それでも、こんな馬鹿騒ぎ起こす必要があるか?」
「それが疑問の残るところ。
 どのみちこれ以上推論を重ねたところで無意味でしょう。
 なんだって起こり得る。私の考えすべて誤っているやもしれません。
 …ですから、ただ、用心を。」

その時、傭兵の一人が叫んだ。

「やった!」

バラントレイのレイピアが、レイブンの心臓を貫いていた。

「いえ。誘われました。」

レイブンは刺し貫かれたままそのレイピアを左手で掴みとると、剣を握った右手を振りかぶった。

バラントレイは剣を離すことに一瞬躊躇した。
その隙を待つ筈もなく、レイブンは右手を振り下ろした。

銃声が響き、レイブンの右手から黒剣が弾き飛ばされた。

「誰だ?」
「バンドレア殿ですね。」

マストの上の見張り台からバンドレアがマスケット銃を突き出していた。
目の前に迫った死を逃れたバラントレイは、レイピアから手を離しレイブンから距離を取る。

「いつの間にあそこに行ったんだ。」
「わりと最初のほうに登って行ったのを見かけましたが。」
「今の今まで、何もせずに隠れていたのかよ!」
「まぁ、ただの銃では万鬼は倒せませんし、弾込めに時間も割けない状況、
 一人で持ち歩く銃の数などたかが知れてるのですから仕方ないでしょう。」

バンドレアの存在に気付いた万鬼達がマストをよじ登り始める。バンドレアは上から短銃を撃っては投げ捨て応戦するが万鬼達は気にせず登っていく。

「一度撃てば、ああなるわけですし。」
「やべっ、タオ何とかしろ!」
「彼はその覚悟を持ってやったのでしょう。
 自らの命と引き換えにでもバラントレイ殿の命を救うことのほうが、
 この戦況では価値があると。」
「覚悟できてるからって、つーか、そんな心意気見せられて見捨てられるか!」

ソムはそう叫ぶと手にした剣を投げた。
剣はマストをよじ登る一番先頭の万鬼をマストに縫い付けた。

「お見事。」

万鬼が武器を無くしたソムに迫る。ソムは地面に転がり落ちていた剣を拾う。

「タオ!お前ならバンドレアを助けられるだろ!」
「やってみましょう。」

タオは防衛陣から数歩踏み出すとマストへ向かった。

万鬼が襲いかかる寸前、懐に飛び込む。

「失礼。」

その万鬼はそのまま宙を舞い、マストによじ登っていた万鬼とぶつかる。
タオは次々と万鬼をマストにぶつけていった。

「"魔弾"を救い出すぞ!」

戻ってきたバラントレイの一団がマストへと切り込んでいく。
タオはその様子を眺めると、踵を返しレイブンのほうへ歩いていった。
迫る万鬼を軽くかわしながら、散歩する足取りでレイブンの前に立つ。

「手合わせを。」

レイブンが言葉にならない叫びをあげる。
タオはふと後ろに身体を流すと、つられて襲い掛かる万鬼をレイブンにむかって投げ飛ばした。
レイブンは一振りでその万鬼を両断する。人間業には出来ない膂力の賜物だ。

「なるほど。ではこれは?」

タオは再び万鬼を誘い、投げ飛ばす。レイブンがその万鬼を切り捨てるそのタイミングを見計らい、もう一体。さらにもう一体投げ飛ばし、掌底で加速させる。
レイブンは振り切った剣を引き戻すと、その勢いのまま飛んできた万鬼を払い、二体目を左手で受け止め、剣を返し切り裂いた。
それらの行動をほぼ一息で行い、両手の動きだけで三体の万鬼砲弾を捌いた。
体の軸は一切ぶれない。恐るべき手技の速さであった。

「良し。この程度で仕留められるような者ではないと。」

タオの言葉はどこか嬉しそうだった。
レイブンが吠えた。万鬼達はタオに襲いかかるのをやめた。
タオが万鬼の間合いに踏み込んでも微動だにしない。それは万鬼を砲弾代わりに使えないことを意味した。
タオ自身の筋力では万鬼を投げ飛ばすことはおろか、持ち上げることも出来ない。万鬼が襲い掛かってくる力の向きを操り、軸をずらし、重心を変化させることで投げ飛ばしているのだ。いわば万鬼自身の力で飛んでいるに過ぎない。万鬼が襲い掛からなければ万鬼を投げ飛ばせないのだ。

「1対1をお望みですか。」

タオはレイブンの周りを緩やかに廻りはじめる。
レイブンは剣を構えたままタオを正面に見据えるように足を入れ替える。

レイブンの剣技はイスクリマと呼ばれるシカラグァのレーグラント氏族領で伝わる剣技が元になっている。「払う」「掴む」「斬る」という動作を両手を用い、ほぼ一挙動で行うその技は、数多くの剣技の中でも優れた剣速を誇るが、万鬼と化したレイブンのそれは、もはや神速と言っても過言ではなかった。

二人の間合いが徐々に近づく。
徐々に二人の間の空気が張り詰めていく様がソムのところからも見て取れた。
しかしタオはその顔に微笑みを浮かべ、緊張を感じさせない。
余裕の表れか、はったりか。
対するレイブンは牙を剥いたまま、死者に闘争本能があるのかは不明だが、凶暴さを隠そうとはせず、それでも待ちの構えを取っていた。
間合いに入れば即斬るといった構えだ。
見つめあったまま、緊迫した静寂が戦場に満ちる。
いつ仕掛けるか、じりじりと時が過ぎてゆく。
数呼吸に過ぎない時間が、永劫に感じられたその時、船が揺れたその瞬間を見計らって、タオは膝の力を抜き、滑り出した。
動作の起こりを見抜けなかったレイブンは反応が一瞬遅れた。
気付いたときにはタオはレイブンの懐深くに潜り込んでいた。
その手はレイブンの腹に添えられている。

レイブンがタオに剣を振るうよりも先に、タオは足を踏み込んだ。
自らにかかる沈下力と、足先から全身を使い生み出す纏絲力を重ね、押し込む。
派手な音と共にレイブンの体が宙を舞った。


 *   *   *


ライは船倉に駆け下りる。
扉をノックしようとして、思い直した。乗客の精神状況でここを開けるとは思えない。説得する自信もなかったし、その時間も惜しい。何より、中がそんな余裕のある状況かどうか怪しかった。
ライは意識的に自らの構成を緩め、壁を透り抜けた。

そこには隅っこに転がる一人の少女と、それを庇うようにする神官。
そして、それと対峙するように手に棒やら思い思いの武器を手にした乗客の姿があった。

「その女がいたから、この船は化け物に襲われたんだ!」
「今すぐ仕留めろ!海に放り出せ!」
「落ち着きなさい。今この者を放り出したところでどうなるというんです?」
「どけよ神父さん。」

「…どうなってるんだ?」

ライが呆然と呟く。

「荷物の影にね、密航者がいたんですよ。それも女性の。
 で、誰かが『死者に襲われたのは女を船に乗せたからだ』って。
 まったく。恐怖に苛まれる人々は、時に面白い思考をするものですね。」

ライの横付近でモスタルグィアのエグバートが他人事のように言った。


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2010/03/12 20:09 | Comments(0) | TrackBack() | ○カットスロートデッドメン
モザットワージュ - 5/マリエル(夏琉)
PC:マリエル、アウフタクト
場所:魔術学院(図書館)
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「わかりました。でも、レポートのお手伝いは必要ありません」

 マリエルは、青年の申し出に固い口調で答えた。

 ベニントン教授の名前なら聞き覚えがあった。講義を受講したことはまだないが、文献
を参照しているときに、見かけた名前だ。
 資料を代わりに借りるというのは抵抗を感じたが、青年の申し出を断れるほどの強い理
由をマリエルは持っていなかった。

 青年の持っている本の中にはマリエルが必要としているものも混ざっていたが、まだレ
ポートの期日までは時間がある。とやかく言うよりは、あとで代替策を考えたほうが面倒
が少ないだろう。

「ありがとうございます。助かります」

 青年が礼を述べ、それにマリエルは少しほっとする。

 自分が困っているときに助けを求めた場合ならともかく、自分の力でなんとかできる課
題に対して、助力を申し出られたことに戸惑いがあったのだ。

「私も、借りにいくところだったので、一緒に持っていきますよ」

「いえ、カウンターまで持っていきます。手続きのときは、お願いしますが」

 マリエルの抱えている本の量をちらっとみて、青年が言う。
 資料を探しているときに見かけた青年の様子からは、よい印象を受けなかったのだが、
基本的には親切な人なのかもしれない、とマリエルは思う。

 マリエルが先が貸出カウンターに向かって歩きだすと、青年が後ろについてくる形になる。

 青年の話を信じるならば、彼はここの卒業生か何かで、現在は部外者ということになる。
だとしたら、内部の人間のマリエルが案内するような形になるのは当然なのかもしれない。
しかし、年長の人間の前を歩くという慣れない立ち位置に、背中がむずむずするような違和感を覚えた。

「え…」

 入口に近づいたところで、マリエルは思わず足をとめた。

 いつもなら、本棚の向こうに貸出カウンターが見えてくる場所なのだが、
 本来ならば、カウンターがあると思っていた場所には、見慣れない本棚が並んでいた。

 場所を勘違いしたのだろうか。
 しかし、概論や解説書が納められているこの図書館は、以前から何回も利用している。
貸出カウンターへの行き方も、ほとんど考えずに移動できるくらいだ。

「すみません…本を借りるのはこっちだと思っていたんですけど、勘違いしていたみたい
です。さっきの場所の反対側に行ってみればいいでしょうか?」

 マリエルは振り返って青年に話しかけた。



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2010/06/13 02:05 | Comments(0) | TrackBack() | ○モザットワージュ
Get up! 14/フェイ(ひろ)
場所 :会議室 暗闇
PC :フェイ コズン
NPC:レベッカ クラッド 男 亜神




 翌日、昼になる前に呼び出された会議室。
 フェイの説明と、適時コズンとレベッカから示される資料、すべてを聞き終え
たクラッドは唸るように嘆息した。

 まず召喚術師に焦点を当てることにした三人はあらかじめ集めていた事件の資
料の中から、現地に生息していないモンスターがかかわった事

件や、フェイの過去のように眷属などが襲われた事件の中からも同様にモンス
ターを目印に選別した。

「なるほど、一見同じ多種族廃絶主義者の過激派の事件に巧くまぎれているが、
こうしてみると別の事件だな」

 前回のような拉致事件と例えば眷属の村襲撃事件などは一定の範囲内で重なる
地域に起きていた。
 今までは其の範囲がそれなりの広さにわたっていたため気に止められることは
なかったが、こうして一見別物の事件が巧く重なるところを見

ればいやおうなく目に付く要素だった。
 
「ふむ、で、これがその召喚術師絡みとして、どうする気だ?」

「エルガー達が出てるのは、またどこかが襲われるという情報が入ったからです
ね?」

 フェイは義父の質問に答得る前に、確認しておくことを聞いた。

「ん? ああ、今回は武器の密輸のほうを追っていた城のほうからの情報でな」

 城とはそのまま王城を指し、それはエドランスの行政機関をあらわしている。
 一度戻ったエルガーが、手助けの必要がないとわかるとすぐさま引き返したの
も、この襲撃の情報が国というかなり精度の高いところから得

られたものだったため、用がないのにゆっくりしていられる時間はないからだった。
 逆に言えば、フェイの手助けをすることは、エルガーをはじめ仲間たちにとっ
ては大事なことの一つだったのだが、クラッドは養い子に其の

説明をあえてせずに、聞かれたことに答えるにとどめた。

「だったら条件はそろってるんじゃない?」

 レベッカがコズンの肩の上からフェイを見上げる。

「なにかするつもりかね?」

「はい、この地図を見てください――」

 フェイは先の資料の中から地図を抜き出して広げると、三人で話し合ってまと
めた考えを説明した。
 抽出した事件が一定範囲でくくれるのは前述のとおりだが、この謎の召喚術師
の事件には細々とした拉致事件と過激派たちの事件にまぎれる

大規模な襲撃事件――いやひょっとすると過激派となんらかの協力関係にあるよう
で、たんなる偽装とは思えないほど同調して起きている。―

ーの特徴から考えると、エルガーたちの仕事が過激派がらみなら、宿場の拉致が
失敗してる分、ここで事を起こす可能性は高い。

「しかし過激派の事件と必ず同期してるわけではないし、大まかには絞れても襲
撃場所が特定できるわけでもない」

「はい、そこでエルガー達だけじゃなく、他のPTにも襲撃されそうなところを警
戒してもらいます」

 国のつかんだ過激派の情報はかなり精度が高いが、当然フェイ達の追う召喚術
師、またはその組織の情報ではない、あくまで過激派に同期す

るようにして事件を起こしている可能性が高い、というだけである。
 そこで三人はまず場所を限定するためにエルガー達の警戒している地区以外の
可能性のあるところをすべて抑え、一つ隙を作りそこにさそう

という、ある意味常道中の常道でいくことにした。

「過去の案件から考えるに過激派と同じどころを襲撃はしないが、必ず同一事件
とおもえる程度の範囲内に限定できる、が――」

 アカデミーには情報分析の研究をする教室もあり、範囲を限定し効率的な配置
をするのは可能だが、相手が行動を起こすかどうかまでは断定

しようもない。
 そもそも、なんらかの手段で向こうも情報を足つめてから行動を起こしてるの
は当たり前で、そうなれば配置関係から、自分たちへの罠の気

配を察知して、予定を変えることもありうるのだ。
 私的の養い親は公的の教師として問題点を指摘した。

「はい、ですから私がえさになります」

 先の宿場でのモンスターによる事件に偽装していた拉致事件、アニスの証言
と、無目的だったりはした金欲しさの誘拐に手を出すとは思えない熟練の術師の
存在、層考えると、普通の人間は偽装か数を稼いでるだけなのか、とにかく本当
の目的は「力を持つ血」であろうと思われることから、それの確保に一度失敗し
てる今、この謎の敵はそれほど待てないのではないかと推測できた。
 もしそこに、完全体ではないとはいえ、あのアニスより強い血をもつ獲物がい
たら……。

「さらに、それが前回邪魔をしたやつなら食いつく可能性は高いと思われます」

「……その召喚師がまたあらわれると?」

「いえ、あの者は雇われの様なことを言っていたので、別のものが来るかもしれ
ませんしそもそも人とも限りませんが、同じ一味のものが来ると思われます」

 クラッドはまたフェイの割る癖が出たのかと注意しかけたが、其の気配を察し
たのかどうか、それまで珍しくおとなしかったコズンが、両手のこぶしを打ち合
わせながら、独り言のように言った。

「今度は足手まといにはならねぇ!」

 言いかけた言葉を呑みこみ、クラッドはコズンの肩の辺りに目を見やる。
 そこでは妖精が、その普段の様子を知るものには意外な大人びた笑顔でこちら
を見返して頷いた。

「餌は、私たち三人です」


▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽


「日にちが決まったようだ」

 獣の気配が充満する暗闇の中に、落ち着いた男の声がする。

「――そうか」
 
 人語では在るが、まるで獣の唸り声を無理やり人語にしたような声が答える。
 その声は闇の中の獣の気配に囲まれた皿に向こうからだったが、不思議とよく
届いた。

「自らを至上と信ずる狂信者度もが、愚かにも神々に連なるモノたちをまた襲うか」

「……あんたの仲間じゃないのか?」

 男はここ最近の付き合いで、そもそもこの国の生まれでもないため、この地に
住まう異形とのモノ達については良くわかってはいなかった。

「同位の神格を持つものならともかく、導き手を失った眷族どもが仲間なものかよ」

 独特の唸り声が感情の読めないまま男の耳に届く。

「導き手……あんたはその導くべき眷族を失ってるわけか」

「それでもあがく我を愚かと思うか?」

「いや……ここにいる俺に嗤う資格はないだろう」

「そうだ、我らは同じ定めを越えんと抗うものだ」

 声の主が始めて勘定をにじませる。
 刺激されたように闇の中の獣たちがざわめくように唸り始める。

「……俺が行くか?」

「いや、愚か者との約定でな、わが子らが行く」

 神聖なる地の盟約に導くものたちではなく、その力によって従える獣のわが子
たち。
 むしろ血を求める今の自分は失った民よりも、この魔獣どものほうが近しいか
もしれない。
 神ごとき力を持ちながら神ならざるもの――亜神とエドランスに伝えられるその
存在は命令を待つ獣たちを見ながら層思った。

「お前は獲物を選んで先導してくれれば良い、情報は愚かもたちがくれるだろう」

「承知した」

 男は再び闇に溶け込み姿をした。

 後は、闇の中に獣の咆哮だけが残されていた



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2010/06/13 02:11 | Comments(0) | TrackBack() | ○Get up!!
鳴らない三味線 3/ストック(さるぞう)
PL   さるぞう
PC   ストック
NPC   (カミヤ オオタニ フルイケ メメコ 婆ちゃん)
場所  今じゃない時と場所

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「こ、ここは?」
遠退いた意識の先、周りを見渡すが目の前にあるのは何も無い無限に広がる空間。

数回頭を左右に振り、現状を理解しようとする。
おそらくは夢なのだと、ストックには思えた。

ほんの数分・・・いや数秒前に存在した祖母の部屋は、自分が知る場所ではなくなっている。
闇も無い、そしておそらく光すらない、自分だけの意識の世界。



「~~♪ ~~ーー♪  ー~♪」



そんな中、ふと耳に流れてくるものがある。

「音楽?!」
ストックは耳を澄ます。



「~ー~♪ ~~ー~~ー♪  ー~ー♪」


目を閉じ、聞こえる音に集中する。
ほんの数時間前・・・いや

いつから聞こえなくなっていたのだろう・・・・・・・・

失われていた音色は、千歳(ちとせ)にも百歳(ももとせ)にも永く・・・



乾き切った心に響くそれは段々と音量を増す。
心を潤し、染み渡るそれに合わせ、周囲が景色を取り戻す。

そして、取り戻した景色と何も無い部屋に残る三味線が一棹(さお)

「これ・・・ばぁちゃんの・・・」

祖母の愛用する銘細棹「百烏(ももがらす)」。

ストックは導かれるように百烏を手にする。
そして、壱の糸、弐の糸、参の糸と、順番に触れる。
そして流れ続ける音色に合わせる様に弦を爪弾く・・・


湧きいずる音色。


もの凄く心地が良い・・・奏でる音色と喜びが体中を駆け巡る。



同時に脳裏に浮かび上がるのはバンドのメンバーとの演奏の日々・・・
弦が震える・・・憑かれた様に撥を振るう・・・

カミヤと今の学校で初めて出会った時の事。
オオタニ君を騙すように誘ったライブ。
住み着いた猫のようにバンドに居ついたメメコ。
底抜けの明るさでメンバー全部を引っ張るフルイケ君。


すぐ隣で演奏してくれてるかのような錯覚に
ストックのテンションは上がり続け、思わず薄く笑みを浮かべる。


カミヤの爽やかな笑顔と地歌三味線の音色が・・・
オオタニ君の迫力のある陣太鼓の撥捌きが・・・ 
メメコのクールで滑る様なキーボードの鍵盤操作が・・・
フルイケ君の骸骨マイクから響くシャウトが・・・ 


忘れかけていた全てが脳裏に蘇る・・・

ずっと忘れていた演奏を取り戻す。


(そうか、僕は忘れちゃっていたんだ・・・)


「はぁ、はぁ、はぁ」
永遠にも思えた演奏を終え、肩で息をするストック。
心地良い疲労感と共に座り込む。

「これが・・・音楽・・・」
失った何かを取り戻しポツリと口に出た言葉・・・

そしてもう一度「百烏」を構え撥を下ろす。


今度はゆっくり・・・音を噛み締めるように。

自ら奏でた音色が包むかのように、ストックを現実への覚醒へと誘う。



(みんなに逢いたいな・・・・・・)


醒め始めた意識の中にメンバーの顔が脳裏に浮かぶ。



(もう、忘れちゃう位逢ってないのに・・・)



自然と涙が溢れるのを感じながらストックは目覚めた・・・



><><><><><><><><><><><><><><><><><>



ゆっくりと、ゆっくりと目が覚める。

(まぶしい・・・)

自分が泣いていた事に気付き目を擦る。

(懐かしかった・・・・・・な・・・)

木に括り付けたハンモックから荷物を下ろすと
ケースに入った「百烏」を見やる。



(夢だったけど・・・・・・)



自らが纏った希薄な存在感を自覚し、ストックは苦笑する。


今の彼自身は、この世界において一言で言えば”無害”な存在と言えよう。

彼に必要なものは”創造”する事だけ。
その唯一の手段が音楽。

この世界で”創造”を続けなければ消えてしまう希薄な存在が彼”ストック・ミュー”

そして彼は今日も三味線を爪弾く。



いつか戻れる元の世界があること事を信じて・・・



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2010/06/13 02:15 | Comments(0) | TrackBack() | ソロ
羽衣の剣 9/イートン(千鳥)
PC:  デコ、ヒュー、イートン
NPC: 
場所:  小街フェンリル→ポッケ海(90-203付近の湖)

――――――――――――――――――――――――

「護衛の代わりが見つかったらしいぞ!」

 積荷の搬入出で忙しい、商船『トコフェロール号』に向かって、一人の男が大声を
上げた。
 
「とは言え、風変わりな格好をした二人連れで、一人はまだ若造らしいがな・・・」

 それでも、こんな田舎に腕の立つものなど滅多に寄り付かない。
 陸に不慣れな自分たちよりはマシだろう。
 集まってきてそんな会話を交わす海の男たちの中に、一人毛色の違う男が割り込ん
で問いかけた。

「明日には出発できますかね?」

 厚手のコートを着込んでいても、その身体は他の船員に比べ、明らかに貧弱だ。
 吐いた息で曇った眼鏡を億劫そうに外して、男は紫の瞳を細めた。

「本当は今日にでも出発したい所だが・・・、おい、荷馬車に樽を積んどけ!」
「はいよ、キャプテン」

 一人の男の号令に従って、皆その場から散っていく。
 残ったのはキャプテンと呼ばれた男と、眼鏡の優男の二人だけだ。

「ホントについていくのかい?センセイ」
「もちろんですよ。その為にこんなに寒い所まで船に乗って来たんですから!エルゴ
さんは行かないんです か?」

 エルゴと呼ばれた船長は、『センセイ』の言葉に軽く笑った。

「俺は船を離れるわけには行かないんでね。まぁ、腕の立つのは何人か行かせる」
「噂では、近づくくらいなら危険はないとの話でしたが・・・」
「水の精霊が暴走してるんだっけか?だからこそ、あそこの水が高く売れるわけだ
が」

 ポッケ海の水を一体何に使うのだろう・・・?
 男は不思議に思って、エルゴに何度か尋ねたことがあるが、企業秘密だと言われ結
局知ることは出来てい ない。
 もっとも、彼の目的は、水の価値を知ることなどでは無かった。

「調査隊も入ってないんだ。メイルーンのヴェルン遺跡のように、アンタがふっ飛ば
さないといいけどな」
「なっ、何でそれを!?」

 他人から過去の汚点を持ち出され驚くが、すぐに思い当たり、彼はため息と共に肩
を落とす。
 エルゴが笑ってその肩を叩いた。
 親愛の行為なのだろうが、かなり痛い。

「俺はアンタの本の読者なんだから、知ってて当然だろ?イートン先生」



++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
+++++++

 旅の終わりはあまりにも突然だった。

 ジュデッカ監獄から解放されたイートンを待っていたのは、紙切れ一枚の別れの言
葉。
 
 置いていかれたのだと、理解することが出来ず、必死でルナシーやオッドアイの少
年魔族の情報を集めた が、彼らにたどり着くことは出来なかった。
 何がいけなかったのか。
 非凡な彼らの中で、ただの人間であるイートンが役立たずであることなど最初から
分かっていたはずだ。
 一年以上共に旅をした中で築いた信頼関係は幻だったのだろうか。
  
 行き場の無い感情をぶつけるように執筆した『ルナシー』が、出版社の目に留ま
り、僅かとはいえ人に読まれるようになると、また新たな情報が入るようになった。

 この『堕ちた神々の社』と呼ばれる遺跡も、作中に出てくるナスビの守護していた
ヴェルン遺跡と状況が似ているという事から、イートンの耳に入ってきたのだった。
 最も、この二つの遺跡は距離にして大きく離れているため、同じ文明のものである
可能性はかなり低い。
 ついでに言えば、ヴェルン湖は、発掘済みとはいえ、怪物退治する際に湖ごと消し
飛ばした為、現在では存在しない。

(僕は、今でもあきらめてませんよ。八重さん)

 八重と初めて会ったとき、イートンは彼を主人公にして物語を書くと宣言した。
 『ルナシー』の物語は未だ完結していない。
 八重とヒエログリフの決着を知るまでは終らせることが出来ないからだ。
 彼らは今も『ヒエログリフ』を追っているのだろう。
 つまり、イートンも『ヒエログリフ』を追えば、彼らに再会することが出来るかも
しれない。
 単純な、しかし切実な願いの元、イートンはこの商船に乗り、ポッケ海へと足を踏
み入れることにした。



 分かれた物語が再び一つになることを祈って、今は新たな物語を紡ぎ続けるより他
はないのだ。
   


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2010/06/15 01:05 | Comments(0) | TrackBack() | ○羽衣の剣

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