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2024/11/01 07:57 |
ファブリーズ 19/アーサー(千鳥)
 「私が魔女退治の騎士です」

 それは破壊の魔法だった。
 今日、このモルフの地で行われた祭――仮装した子供たち、手渡されるクッキー、
モルフ羊の焼けた臭い、人々の熱気――全てが、突如意味をなくし崩れ落ちていくほ
どの、衝撃的な言の葉だった。
 
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PC:ジュリア アーサー
NPC:自称騎士(ヴァン・ジョルジュ・エテツィオ)
  エンプティ  バルメ
場所:モルフ地方東部 ― ダウニーの森

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「別に騎士でなくとも良かったのです」

 エンプティの語りだした、もう一つの『バルメの魔女のお話』。
 
「人々が、悪しき魔女を倒したと信じられる特別な存在であれば」

 子供を使い魔に変え、災いを振りまく魔女。
 そんな魔女を倒すのは大抵剣を持った勇者や、魔法に長けた賢者だ。

「勇者や英雄というのは、案外証明するのが難しいものです。魔法使いもいけませ
ん、相手は魔女ですし、モルフは魔法の馴染まぬ土地ですからね」
「そこで、騎士か」

 ヴァンが唸った。

 いきなり「私は勇者です」と言われても、人々は信用しないだろうが、従者と馬を
連れ立派な甲冑を身に纏った男が「私は騎士です」と名乗れば、信じる者もいるだろ
う。
 モルフには王政というものは無く、人々は騎士を見る機会など無かったに違いな
い。 

「ヴァン殿、あなただってそうです。馬も、お供の従者もいない・・・それでも貴方は
私たちにとって騎士殿だ」
「僕の事を疑っていたのか・・・!?」

 ヴァンはショックを受けたかのように声を上げた。 
 そして縋るようにこちらを見たが、ジュリアも俺も何故か自然に目をそらしてい
た。

「まぁ、そんな事はどうでもいいんです。先を進めましょう」
「よくない!」

 ヴァンが俺にまで噛み付いてきたが、彼を押しのけるようにして俺は話を進めるこ
とにした。
 ジュリアは相変わらずやる気の無い態度で立っている。
 依頼を受けたはずの彼女が積極的に関わろうとしない以上、他の面子に任せていて
は話がちっとも進まない。
 傍観者の予定だった俺だが、エンプティの衝撃の告白の後、多少考えを改めること
にした。何故なら――

「あなた方はこのモルフの地で何をしようとしているのですか?」

 ―― 俺を除けば、ここに居る大人たちは皆モルフの人間では無いからだ。
 
「ご婦人。貴女はそもそもどこから来たのです?貴女はどう見てもモルフの人間では
ない。その貴女が怪獣だか猛獣だかを連れてこの森に居座った。そして、子供たちを
攫って使い魔にしたが、大人たちが騒ぎ出すと、エンプティを使って人々を遠ざけ
た。モルフの人間は貴女の目的に巻き込まれたんだ」
「そうね。その通りよ」

 バルメはあっさりと肯定した。
 素直すぎるほどに。
 故に彼女が俺の言葉のどの部分に肯定したのか分からなかった。
 恐らくは全てだろうが・・・。

「その目的とは・・・?」
「こわぁい猛獣を倒すことよ」
 
 まるで、足元にある花を摘み取るような調子で魔女は答えた。
 そして始まる『魔女の物語』。
 
「私はとある国に仕える魔法使いだったのよ。今は亡きその国には人を食らう獣がい
たの。その猛獣のせいで国は滅茶苦茶、困った王は私にこの猛獣を退治するように命
令してきたの」

 まるで子供に言い聞かせるようにも、娘のようにも聞こえる、不安定な魔女の語り
口調。
 老木と同化して皺皺の顔は言い伝え同様に老人を思わせたが、存外に顔だちは若い
ようにも思えた。
 魔法使いというと老人のイメージが強いが、逆に若いままの外見を保つ者もいると
聞く。

「もっとも猛獣の動きを抑制できる場所として選ばれたのがこのダウニーの森」

 どこかで獣の鳴く声がした。
 狼だろうか、我々は声のした方に目を凝らしたが、バルメも使い魔たちもまったく
それには関心を払おうとはしなかった。

「そこで、私はこの子達に会ったの」

 老木の魔女は擦り寄ってきた使い魔の少年猫を優しく撫でるような仕草をした。

「親に捨てられ、行き場を失った可愛そうな子供たちに」

 ―――それは『魔女の使い魔たち』の物語。
 
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2007/07/17 20:03 | Comments(0) | TrackBack() | ●ファブリーズ

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