忍者ブログ
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


2025/03/10 07:35 |
蒼の皇女に深緑の鵺 11 /セラフィナ(マリムラ)
PC:セラフィナ (ザンクード)
NPC:ジン リン
場所:カフール
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
 セラフィナは躊躇した。ザンクードが追ってこない。

 姉の護衛剣士を拘束した上で治療し、周りに注意を払う。追っ手どころがザンクードの来る様子もない。どうなっているのだろう?
 セラフィナを追っ手から引き離すために場所を変えたか、あるいはまだ戦闘中なのか。いや、追っ手が一人潜り抜けてきたことを考えると、もっと悪い状況も予想される。もし深手を負って動けないのであれば……。治療に引き返すべきか、いや、今引き返すにはリスクが高すぎる。
 セラフィナが逡巡していると、山を駆け上ってくる蹄の音が微かに聞こえた。馬はどうやら一頭、しかも音から察するに相当の速度で近づいてきている。
 追っ手だろうか。山を降りれば二ノ宮はすぐなのに。
 捕虜を引きずらないよう、出来るだけ痕跡の残らないよう気を付けて、近くの廃屋へ身を潜ませる。
「……ィナ様、ご無事ですか!?」
 聞こえてきたのは懐かしい声。もう何年も顔を合わせていない、二ノ宮の統括者。セラフィナの護身術を叩き込んだのも、礼儀作法や皇家の独特の勢力図を教え込んだのも彼だ。その彼が、何故。
「ジン!」
「嬢、お怪我は?」
 声をかけ、馬を寄せる。姿を見せたセラフィナに一瞬安堵の表情を見せるも、再び険しい表情になるジン。拘束された男に見覚えがあったからだろうか、眉間に刻まれた縦皺は当分消えそうにない。
「私は無事です。この人をお願い」
「事情は二ノ宮で伺いましょう。兎に角この場を離れます」
 ジンは手早く男を馬に縛り付けると、セラフィナを馬上に引き上げた。


  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 所変わって二ノ宮である。二ノ宮とは皇家の別邸の一つで、皇王の住む本宮とは違い、簡素な造りになっている。東宮御所とも呼ばれる一ノ宮は首都の東側にあるのだが、こちらは西側に位置し、若干、いやかなり使用人も少ない。
 その管理全般を任されているのがジンである。感覚としては執事という言葉が近いかもしれない。少なくともセラフィナの認識としてはそうだった。

 門の辺りでようやく速度を落としたジンが声をかける。
「お帰りなさいませ、セラフィナ様」
「……ただいま、ジン」
「まったく、便りも寄越さないまま三年になりますか」
「便りは送っていた……わよね?」
「最初はカイ殿に宛てた近況報告書、ここ一年は居場所さえ知らせない。
 便りというのはもっとこう……」
「続きはまた後で聞きます。大事な話があるの」
「まったく嘆かわしい」
 口煩い小言も健在のようだ。セラフィナは小さく苦笑して真剣な目を向けた。
「あの男の素性は分かりますね?」
「もちろんです」
「彼に命を狙われました」
「分かっています。しかし何も語ってはくれないでしょう。どうなさるおつもりですか」
 ジンは表情すら変えない。ただ淡々としている。
「……驚かないのね」
「お嬢様のお命は何年も前から危険に晒されています。もっと自覚して頂かないと」
「そうね……そうだったわね」
 深い溜息が出る。確かに刺客に襲われたのは一度や二度ではない。
「彼は証人です。死なせないで」
「承知しました。自害することのないよう見張りを付けておきましょう」
 自害という言葉が重い。
「仮にも護衛剣士。万が一にも逃げられては困りますから、少々窮屈ですが手縄・足縄・猿轡は付けさせていただきます。よろしいですね?」
「やむを得ないでしょう。後は貴方に任せます」
「ではそのように」
 ここで馬を止め、ジンはセラフィナを馬から下ろした。
「厩に回してきます。先に部屋でお待ちください」
「……ジン、来てくれてありがとう」
「おやおや、見くびられたものですね」
 ジンが目を細めて笑った。



 部屋は以前のまま、綺麗に掃除されていた。部屋に飾ってある花も毎日生けられているようだ。でも、何かが、違う。
「お待たせしました」
 ジンが香炉を手に戻ってきた。ああ、そうだ。香りが違うのだ、とようやく気付く。
「……何か?」
「菊花香ね、懐かしい。最近は焚いていないの?」
「そうですね……半年ほど前から色々目新しい香が出回っていまして、リンは薔薇香が気に入ったようですが、私はやはり菊花香の方が落ち着きます」
 そっと部屋の隅に香炉を置くジン。手でセラフィナに座るよう促し、自分も床に置かれた円形の座布団に腰を下ろす。
「さて、何から伺いましょうか。それとも何かお聞きになりたいですか?」
「先にカフールの現状を簡潔にお願い」
「分かりました」
 ジンは懐から紙と筆を取り出すと、何やら描きながら話を始めた。
「先の皇王様がお亡くなりになってから一年喪に服しまして、現在元老院の審議が続いている状態です。元老院全員の推薦を得た人物が次の皇王として即位するのですが、先王の死に不審な点があることから意見がなかなか纏まらないようですね。

 第一継承権を保有していた皇太子は父親の暗殺容疑をかけられ出家し、第二継承権を保有していた第一皇女が継承意思を表明しているものの、本来婚礼で皇家を離れた者の継承権は剥奪される慣例から国内でも論議を呼んでいます。第三継承権を保有する第二皇女……とはお嬢様のことですが、心労の為静養中として国葬にも出席していなかった上にその後全く姿を見せない事から、継承は疑問視されています。
 現在カフール国内を牛耳っているのは、その他の継承権を持つ者達を失脚させつつ一気に権力者へと駆け上がった宰相ケルヴィン殿なのですが、元近衛隊の隊長で人望も厚く、末席とはいえ継承権を有する最有力候補です。支援者も多く、今なら強引に皇位を継げそうなものなのですが、本人はその意志を否定し続けています。

 国際情勢としてはシカラグァからの物流が盛んですね。先代の頃からカフールを属国にする野望をお持ちのようなので、注意が必要かもしれません。南部の米や菓子類は最近急に大陸西方への需要が増えました。ただ、南部が潤っているのに比べ、北部では貧困のために失踪者が出ているとの報告もあります」
 セラフィナ顔が曇る。以前から貧富の差はあったが、交易路に近い南部と山に囲まれた北部との差は開く一方のようだ。
「ここまではよろしいですか?」
「ええ」
「では表向きには入ってこない情報です。
 お嬢様を狙っているのは姉君の一派だけではありません。宰相殿を推す一派、姉君とは別にシカラグァからの一派からも動きが報告されています」
 自分は生きることを望まれていない。心臓が鷲掴みにされたような息苦しさ。眉根を寄せ、胸元の金のブローチをきつく握り締める。
「……動きというのは?」
「お嬢様の動向を監視していたようですが、ソフィニアからコールベルの近くまでの移動を最後に見失ったようですね。その後カフールから程近い街道はすべて見張られていました。黒髪の女性が何人か追い剥ぎに遭っています」
「そう……」
 自分は帰ってくるべきではなかったのだろうか。
「報告は以上です。他にも気になる事があったらお尋ねください」
「今は……いいわ」
 どっと疲れが押し寄せてくる。まだ、終わってはいないのに。
「では、こちらからも質問を」
 神妙な顔でジンが座り直す。つられてセラフィナも座り直す。
「ソフィニアから同行していた者とはどういうご関係で」
 思わず顔を伏せて噴出すセラフィナに、ジンが真顔で付け足す。
「場合によっては探し出して引きずってまいりますので」
 押し寄せた疲れで潰れてしまいそうだったのに、思い出した彼と目の前のジンの顔とのギャップが面白くて、少し心が軽くなった。
「ふふ、恩人です。相手の方を困らせないように」
「ご恩があるのなら丁重におもてなしをせねばなりませんな」
「やめなさい」
「しかし……」
 ジンが表情を固くして口の前に人差し指を立て、会話を遮断する。
「誰か来ます。お静かに」
 セラフィナがここにいることはジン以外まだ知らないのだ。



「ジン、どなたかお客人でも?」
 引き戸一枚隔てた廊下から声がかかる。女の声だ。
「いいえ、何かご用でしょうか姫」
 ジンはあえてセラフィナが嫌がる呼称で呼んだ。セラフィナの影武者・リンだ。昔は似ていたというが、今はセラフィナに遭ったことのある人なら区別出来てしまう程度のそっくりさん。二ノ宮ではセラフィナとして扱われるため、セラフィナが療養中とのカモフラージュになっているのだが。
「あちらで薔薇香を焚きしめているの。菊花香を消してほしいのだけど」

 セラフィナは、なにか強い引っかかりを覚えた。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――
PR

2008/04/08 20:47 | Comments(0) | TrackBack() | ○蒼の皇女に深緑の鵺
蒼の皇女に深緑の鵺 12/ザンクード(根尾太)
PC:(セラフィナ、ザンクード)
NPC:ムドウ、ベニハガ、ビャクガ、ヴィクゼニア、レゼーラ、アラクネ、???
場所:カフール、ホーネティア、侵略種本拠地
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
―遡る事数日前―

地下内の一室・・・
そこは黒い大理石のように周囲を平らに加工された鉱物の壁に囲まれた巨大な部屋だった、黒光りする
三対の直方型の椅子と巨大なデスクが並べられ、燭台に灯がともされると
その会合は行われた・・・腰掛けているのは二体の蟲族一体は黒色の厳しい外骨格を有する者、もう一体は鎧を纏い、白き外骨格の牙をギチギチと音をたてて苛立っていた。

<落ち着かないかビャクガ>
黒い外骨格の異形が制止の言葉を述べ、ビャクガと呼ばれた白き外骨格の異形がしぶしぶと音を止まらせる。

その数分後、
ようやく最後の一人…ベニハガが現れ、景気のよさそうな挨拶をする。


<は~ロォ~待ったかしらァ~?♪>

そんな言葉を聞いたビャクガは振り向くと、二体の蟲族とは対照的に紅い振袖を着た人間の女の姿の
ベニハガを睨みつけた。

<怖い顔。“先輩”に失礼じゃなぁい?>
<お前の下の座に着いた覚えはない…。さっさと座ってブツを見せろ、その為にワザワザお前の用につき合わされてるんじゃないのか?>
<…全くこれだから群衆行動型の連中って嫌いよ。頭カタイったらありゃしない。嫌だわぁ~…>

<…人間の雌の皮で会合に出る程我々は悪趣味ではない。“ヒト臭く”てかなわん…>

<ただの趣味がいけないの?ケチつけちゃって‥そういうお宅ら拾ったなァ誰だと思ってんだい?おとなしく連中の巣でもよろしくガリガリカジってりゃ良いものを…>
<‥…貴様ァッ!!>

―<やめろ…>

赤い鞘に手をかけるベニハガと、ガントレットから射出した爪を構えるビャクガの双方の動きを停めたのは、双方の首元に突き付けられる黒き外骨格の者の鋏…。

<ムドウ…あんた>
<…貴様もか?‥こんな俗物に肩を‥>

<黙れ…。事が事だぞ?お前ら。
事態はこれからの俺たちの絶望的な命運も…絶対的勝算も握っている。今荒立てて邪魔をするなら、総統の命令を預かる俺が、お前ら両方とも手を下す…>
そう語るムドウと呼ばれた黒い外骨格の者は、背後から生えた鋭い毒針の尾を逆立つように構え、二体はおとなしくお互いの刃を収めた。

そして舌打ちするベニハガは、二冊の束になった書類をデスク出し、二つの書類をムドウとビャクガは眺めた。

<これが、あのアラクネという奴の研究記録か?>

<全部あの野郎のモンさ。全くあいつもとんでもない“情報”残して出てったもんさ。>
<奴の考えなど誰にも読めんよ…その強欲以外はな…>
<とんでもない業つく野郎さ。こんなもんウチらに残された日にゃ、首が繋がらないね>
<確かに…。今回の件で偵察に協力してくれたお前らには感謝しよう…ビャクガ>

―<あんなことでよければいつでも貸してやるが…、実働部隊はいつ派遣させる?この程度の連中なら制止までそう時間はかからないが…>


ムドウはビャクガの言葉を耳にしたが…聞くや否や首を横に振り、ベニハガに向けて言った。

<…この件での潜入は、ベニハガに任せた方が良い。お前達はあくまでも情報収集のみに動け…>

―言葉に引っかかったのか…ビャクガは<…どういう意味だ?>と尋ねるが、
ムドウは声色さえ変えずに言った。

<この代物を狙うためとは言え…今の時点ではお前らを動かすには大きくリスクが伴う。“奴ら”はこれがどれほどの価値があるかに、あまり気づいていない様子だがな>

<いつまでもコソコソやっていれば、連中は直ぐ様気づく‥
この機会がいつまで続くとも知れないのだぞ…!?>
<あくまでも隠密に行動しろ。滅多に突撃など仕掛ければ、隣国まで喚き声が伝わる。お前らの全兵力をかけたとして…奴らの数に追いつくと思うか?>

ギリギリと癇癪的に鋏の牙を擦りあわせるビャクガを見て、ベニハガは言い放つ。
<…‥最悪厄介なのは、あの銭亡者のクソ野郎がこの件に絡んでるって事さ。奴を知らねぇあんたにゃ向かないよ…あいつの相手は。戦争屋はすっこんでな>

椅子から立ち上がるベニハガは満面に微笑み、会合から立ち去ろうとするが、憎悪をこめてビャクガがソレを引き止めた。<待て…この外道めが…>

―<何だい…今度こそ殺ろってのかい>
<…‥“貴様と括るな”…。ただこれは警告と思って聞け。情報収集に偵察していた我らの同胞ら数名が…、“奴”らしき者の動きを捉えた。余程その存在を隠すためか…即座に同胞との“意識”は途絶えたがな…>

<何?>
<“伝達”された姿の像蟷螂血統…並列された刻と地点を考えれば、我らの狙う地を向かっていると見える……>

それを聞いた途端…張り付いた人間の皮の口から、突如鋏状の牙を剥き出し甲高い声で笑い出したベニハガは呟いた。

<あの“クソ餓鬼”が‥‥、まさかこんな日が来るとはねぇ…>



─同刻─




存在する数少ない蟲族の街…城塞都市ホーネティアの中心区に構える琥珀色の巨大な城では、羽軍帝の三皇帝の一人…クイーン・ヴィクゼニアが、城の自室にある窓から城下を眺めある不穏な予感を感じとっていた。

<……入れ>

言葉の後に扉の開閉音が鳴ると、現れたのは皇族直属の特務部隊の司令官の任に着く雀蜂血統の女兵士だった。

<クイーン…話とは…?>と彼女が尋ねた直後だった。
ヴィクゼニアが傍にあった円形のデスクに出したのは、彼らの組織の分析班が発見したある研究資料であり、それが視線に飛び込み彼女は言葉を詰まらせた…。


<それは…>
<この研究を行っていたのはアラクネという者で、間違いはないのだな…?…消息を途絶えた侵略種という…>

<…“第4次凶殻戦争”以来聞く名ですが…、奴の研究が何か?>




<お前は…あの者の研究していた“毒”が、この世界に存在する可能性は…在りうると思うか?>


第4次凶殻戦争とは、かつて侵略種側のあるBC兵器技術者の手によって、ソレが蟲族同士の戦争にも関わらず、蟲であるとあらざるとに問わず多くの命を奪い去った最も忌まわしき蟲の歴史の一つであり、
その悲惨さを身をもって体感していたベテラン兵のレゼーラは、その話を聞いて凍りつかずにいられなかった。

<…私の考える限りは…“在りえてはならない代物”と思いますが…、その危険性は甚大なモノと思われます………>

──危機を黙認する最中、言葉を切り出したヴィクゼニアだった。

<…お前には‥、特級任務として、早急にここに書かれたカフールという極東の地に出向いてもらい、その地の人間とコンタクトを取ってもらう………そして侵略種…あるいはアラクネと呼ばれる者の所在が判明し次第、場合によっては彼らを守護し、“ガーベラV08”の完成を阻止するのだ…>

<…御言葉ですが……、人間を護衛するとなると…“地國連”とも……>

<‥……その際は私も出向くこともやむおえないだろう…。>

<クイーン…!この件は必ず侵略種が絡んで来ます…そうとなれば奴等は…>

<…あぁ…最悪の場合…全兵力をもってこの地の民ごと殲滅戦を仕掛けかねない。
・・・・互いにいがみ合う者が存在するのは我々側とて同じだ・・・・だがあの惨劇は二度も繰り返すわけにはいかない。
例え人間という種を巻き込むことになろうとあらば、寧ろ断じてあってはならない…
どの勢力が動くよりも速く…決着をつけねば悲劇は目前だぞ…、レゼーラ司令>

勢力中最大の物量数を有する地國連がこの情報を知ったとあれば、連中はこの一件に絡んでくる侵略種に対してその手段を選びはしない。
白蟻共の反逆、そして他の種族との因縁の歴史が生み出した溝が、
尚もその理由に“拍車をかける”。


より迅速な行動が…レゼーラに求められた…。


<………“イエス、クイーン”…
では、戦力の召集が整い次第、また後ほど>
敬礼し、やがて部屋をあとにしたレゼーラは、触角の通信波動能力から羽軍帝の幾多の兵士に戦闘体勢の召集をかけるのだった。

───何を笑っているの?─

「今笑わないでどうするよ?俺達のゲームは今始まったばっかだぜ?」

─“ゲーム”?─

「あぁ、“ゲーム”さ。 ヒトか蟲か…それとも俺達か…
どいつの勝算が勝つか…
それとも俺達の賭けが勝つかのな…。小僧が俺ら側に着かなかったのは残念だったが…まぁ策に支障は無ぇ…」

─あの…ザンクードとかいう蟲族の事?─

「使える駒だとは思ったんだがな…まぁ“ボーナス”みてぇなもんさ。自分の立場も見極めることすら
出来ずに、進んで俺に逆らった挙句犬死にしやがったあいつが悪ィのさ…。
あとは侵略種の連中が全部片付けてくれる…。面倒はかけさせねぇぜ?“相棒”よォ・…」





――――――――――――――――――――――――――――――――――

2008/06/04 00:09 | Comments(0) | TrackBack() | ○蒼の皇女に深緑の鵺

<<前のページ | HOME |
忍者ブログ[PR]