件 名 :
差出人 : マリムラ
送信日時 : 2007/05/23 15:02
PC:セラフィナ ザンクード
NPC:
場所:カフール国境近辺
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
生きてやらねばならない事がある。
理由はそれだけではなかった。
彼に勝手に動いてもらうわけにはいかない。
少なくとも、今は、まだ。
「……森を、北へ進みましょう」
セラフィナは朝日と共に目を覚ますと、なにやら考えながら口にした。
「色々考えましたが、国内を移動するより山道の方が利点があります」
「おい、もう少し東へ向かえば近いんじゃなかったのか」
「国内へは入れますが、あなたの傷が癒えるまでそれは出来ません」
「……昨日の話はなかったことにして別行動をとった方がよさそうだな」
ザンクードはセラフィナに聞こえるように大きく舌打ちをした。
しかし、セラフィナはこの反応を予想していたようだった。
「駄目ですよ。あなたには治療が必要です」
「理由にならんな」
「それに、国内へ入ることよりも首都を目指すべきです」
セラフィナはきっぱりと言い切った。
ザンクードの触覚がぴくんと跳ねる。
「首都は北寄りにあります。敵はおそらく知っていますよ」
「敵に近寄るのは自殺行為じゃないのか」
「目的地が同じなら、近付くのもやむをえないでしょう」
セラフィナのペースで話が進むのは面白くないのだろう。ザンクードは刃物
をちらつかせながらなにやら葛藤している。昨日のように投げつけられること
を覚悟しながらも、セラフィナは話を続けた。
「カフールには霊山と称される結界の張られた山が幾つもあります。彼らの進
軍も、迂回などをせざるを得なくなるのではないでしょうか」
ザンクードは首を左右に倒すようなしぐさをして肩を回す。そして、改めて
刃物をしまった。
「お前はおしゃべりが過ぎる」
そして。
「急ぐぞ。やつらに気付かれる前に少しでも進んでおかないとな」
「はい」
セラフィナは穏やかに微笑んだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
時を遡ること数日前。
カフール国内のある邸宅で、人払いをした女は独り言のように呟いた。
「そう、ギルドもあまり使えないものね」
女の前で跪く男は、何も言わずに黙ったまま彼女の言葉を待っている。
彼から報告を受けるのは初めてではないが、いずれも芳しい情報ではなかっ
たようだ。
「噂は広まっていても、確信を持つものはいない。面白おかしく語りながら
も、まさかそんな、と思っている。なんて平和な国なの」
自分の母国であるにもかかわらず、女は憎らしげにそう口にした。
「護衛剣士が先に国境を越えたのね?」
「はい、そのようで」
「じゃあ、準備が出来次第あの子を呼び戻すつもりなのでしょう」
「あの方は東へ向かっているとの情報もございます」
「西の果てでおとなしく殺されてくれればよかったのに」
「同じ神の血を引く者、貴女様のように強運なのでございましょう」
「あの子と一緒にしないで」
「……申し訳ございません」
「国を放り出したあの子なんかに、絶対に渡すものですか」
女は吐き出すように言葉を投げた。
「私のものになれば、シカラグァの支援も約束されているわ。何故みんな分か
らないの」
愛する夫を思い浮かべ、ウットリと宙を見つめる。
「やっぱりあの方が正しいのだわ」
男は再び押し黙る。
「婚儀を急がず、正式にこの国が私のものになるのを待つべきだった……」
「……」
「でも私待てなかったの。早く彼のものになりたかったのですもの」
どこか酔ったように言葉を並べると、ようやく思い出したという顔で眼前に
跪く男を睨みつけた。
「もう事故や人の手に期待することなどありません。あの子がここへ戻ってく
る前に消し去りなさい」
「はっ」
小さい返事と共に去る男。
女は奥の部屋から現れた男に甘えるようにしなだれかかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
男は鼻と口を布で覆い、眉をしかめながら新しい痕跡を探していた。
「蟲種の残骸……あの方は何をお考えなのだ」
異臭は日を追う毎に強くなる。粘り気のある体液が行く手を阻む。しかし、
まだ二日と経っていない粘性を確かめると、目で合図し、手下のものに人の痕
跡を探らせた。
「あの方には護衛剣士以外にも強力な味方がいるというのか」
手下に聞こえないように呟く。だが、彼女にコレだけの数の無視を相手にす
るだけの能力はないはずだった。命を尊ぶ彼女が、敵と知りつつも残虐な死を
与えるとは考えづらい。
(本当に、これは正しいことなのだろうか……)
神の血筋を守るためだけに育てられ、そう生きてきた彼は、あの方の意見に
は逆らえない。疑問を持ったところで任務を遂行することには変わらないの
だ。
「向こう岸に野営の痕跡らしきものがあります」
「わかった、みなをそこへ集めろ」
神の血筋を守るために生きてきた自分が、神の子を殺すのだ。
一度きつく目を閉じると、何事もなかったかのように男は向こう岸へ向かっ
た。
セラフィナとの距離は、約半日。
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差出人 : マリムラ
送信日時 : 2007/05/23 15:02
PC:セラフィナ ザンクード
NPC:
場所:カフール国境近辺
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
生きてやらねばならない事がある。
理由はそれだけではなかった。
彼に勝手に動いてもらうわけにはいかない。
少なくとも、今は、まだ。
「……森を、北へ進みましょう」
セラフィナは朝日と共に目を覚ますと、なにやら考えながら口にした。
「色々考えましたが、国内を移動するより山道の方が利点があります」
「おい、もう少し東へ向かえば近いんじゃなかったのか」
「国内へは入れますが、あなたの傷が癒えるまでそれは出来ません」
「……昨日の話はなかったことにして別行動をとった方がよさそうだな」
ザンクードはセラフィナに聞こえるように大きく舌打ちをした。
しかし、セラフィナはこの反応を予想していたようだった。
「駄目ですよ。あなたには治療が必要です」
「理由にならんな」
「それに、国内へ入ることよりも首都を目指すべきです」
セラフィナはきっぱりと言い切った。
ザンクードの触覚がぴくんと跳ねる。
「首都は北寄りにあります。敵はおそらく知っていますよ」
「敵に近寄るのは自殺行為じゃないのか」
「目的地が同じなら、近付くのもやむをえないでしょう」
セラフィナのペースで話が進むのは面白くないのだろう。ザンクードは刃物
をちらつかせながらなにやら葛藤している。昨日のように投げつけられること
を覚悟しながらも、セラフィナは話を続けた。
「カフールには霊山と称される結界の張られた山が幾つもあります。彼らの進
軍も、迂回などをせざるを得なくなるのではないでしょうか」
ザンクードは首を左右に倒すようなしぐさをして肩を回す。そして、改めて
刃物をしまった。
「お前はおしゃべりが過ぎる」
そして。
「急ぐぞ。やつらに気付かれる前に少しでも進んでおかないとな」
「はい」
セラフィナは穏やかに微笑んだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
時を遡ること数日前。
カフール国内のある邸宅で、人払いをした女は独り言のように呟いた。
「そう、ギルドもあまり使えないものね」
女の前で跪く男は、何も言わずに黙ったまま彼女の言葉を待っている。
彼から報告を受けるのは初めてではないが、いずれも芳しい情報ではなかっ
たようだ。
「噂は広まっていても、確信を持つものはいない。面白おかしく語りながら
も、まさかそんな、と思っている。なんて平和な国なの」
自分の母国であるにもかかわらず、女は憎らしげにそう口にした。
「護衛剣士が先に国境を越えたのね?」
「はい、そのようで」
「じゃあ、準備が出来次第あの子を呼び戻すつもりなのでしょう」
「あの方は東へ向かっているとの情報もございます」
「西の果てでおとなしく殺されてくれればよかったのに」
「同じ神の血を引く者、貴女様のように強運なのでございましょう」
「あの子と一緒にしないで」
「……申し訳ございません」
「国を放り出したあの子なんかに、絶対に渡すものですか」
女は吐き出すように言葉を投げた。
「私のものになれば、シカラグァの支援も約束されているわ。何故みんな分か
らないの」
愛する夫を思い浮かべ、ウットリと宙を見つめる。
「やっぱりあの方が正しいのだわ」
男は再び押し黙る。
「婚儀を急がず、正式にこの国が私のものになるのを待つべきだった……」
「……」
「でも私待てなかったの。早く彼のものになりたかったのですもの」
どこか酔ったように言葉を並べると、ようやく思い出したという顔で眼前に
跪く男を睨みつけた。
「もう事故や人の手に期待することなどありません。あの子がここへ戻ってく
る前に消し去りなさい」
「はっ」
小さい返事と共に去る男。
女は奥の部屋から現れた男に甘えるようにしなだれかかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
男は鼻と口を布で覆い、眉をしかめながら新しい痕跡を探していた。
「蟲種の残骸……あの方は何をお考えなのだ」
異臭は日を追う毎に強くなる。粘り気のある体液が行く手を阻む。しかし、
まだ二日と経っていない粘性を確かめると、目で合図し、手下のものに人の痕
跡を探らせた。
「あの方には護衛剣士以外にも強力な味方がいるというのか」
手下に聞こえないように呟く。だが、彼女にコレだけの数の無視を相手にす
るだけの能力はないはずだった。命を尊ぶ彼女が、敵と知りつつも残虐な死を
与えるとは考えづらい。
(本当に、これは正しいことなのだろうか……)
神の血筋を守るためだけに育てられ、そう生きてきた彼は、あの方の意見に
は逆らえない。疑問を持ったところで任務を遂行することには変わらないの
だ。
「向こう岸に野営の痕跡らしきものがあります」
「わかった、みなをそこへ集めろ」
神の血筋を守るために生きてきた自分が、神の子を殺すのだ。
一度きつく目を閉じると、何事もなかったかのように男は向こう岸へ向かっ
た。
セラフィナとの距離は、約半日。
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