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2024/05/16 14:04 |
滅びの巨人-4 君猛涼/雑(乱雑)
登場PC 雑(pl:乱雑)テッツ(pl:月草)ベン(pl:月草)

登場NPC セイル リシーダ ブレオバンズ リア

場所 ポポル外れの森の町





■滅びの巨人-4【異変襲来】


「…参ったな」

ベン、とやらを追って外に出たはいいものの、距離を一瞬で引き離れた。
異様なまでに足が速いな、あいつ。

森の中に入る頃にはベンの姿は見えなくなり、完全に見失う。



だが、相手は追跡を避けて走ってるわけではない。

踏まれて折れた木の枝や足跡なんかは盛大に残ってるし、それを探せば何とか後は追える。

…追えるんだが。


「なぁ、えーっと、ルシーダ、だよな?」

「そうです。どうかしましたか?」

「どうかしたの?じゃなくてだな。腕を離してくれ」

「さっきまで倒れてた人に森を歩かせるなんて出来ません!」


予想外の障害物、その名はルシーダ。


「だぁーっ、心配なら普通に後をついてくるだけでいいー、だぁー、ろぉー、がぁー」

「何この力、引き摺られて、うわわわわ」


片腕にとり付いたルシーダをずりずりと引き摺りながら、少年の後を追う。

一眠りしたのと回復魔法のお陰だろう、少しなら無理も利く。点滴あたりもしてもらったのかもしれねぇ。

この重りが無くなれば少しくらい走っても保つ、と体からのエール。

そろそろちゃんと説明すべきか。


…まぁ、さっきまで飢え死にしかけてた奴が急に何の事情も話さず森の中へ行くんだ、そりゃ止めて当たり前か。

外れてた時恥かしいからあんま言う気も無かったが、流石に言わないと離してくれそうに無いな。


「と、とにかく戻ってください!このまま森の中で動くなんて危ないわ!」

「それなんだがな。危ないのはさっきの坊主かもしれないんだ、嬢ちゃん」

「…え? 坊主って、ベン?ベンが危ないって、どういう事?」


急に見当違いの相手を引き合いに出されて驚いたのだろう、ルシーダの手が離れる。

不意に目に浮かぶ困惑。

ここで走って逃げてもいいが、後で怒られそうだしな。


「とりあえず追うぜ。説明は追いながら、だ」

「…わかりました」


先ほどよりも速度を上げて、追跡を開始する。

土に付いた足跡や踏み折られた木の根は分かる。

だが少年の進んだであろう道には、かなり高い位置の木の枝に乗った形跡があったりと首を捻りたくなる状況も多々。

…俺が追ってるのは人間だよな?猿とかじゃないよな?


「雑さん、ベンが危ないってどういうことですか?」

「―さっき自己紹介した通り、俺は鍛冶屋だ。…そこでクイズ、鍛冶屋が主に作るものは?」

「…えっと、えっと、…武器?」

「正解。俺は移動鍛冶屋っつー特殊な身の上だからな、
 旅してる個人の依頼で武器を手がけることが結構多い。で、だ。その個人達には共通点がある」

「共通点?」

「目だ。そいつ等の目には善悪はどうあれ、戦う意志が、炎が灯る。そういう目を俺は何千と見てきた」

「ふぅん… …え、もしかして、ベンも?」

「気のせいだと思いたいが、あの目の炎は見慣れすぎた。確実」

「で、でも!ベンには戦う相手なんて!」

「みたいだな。あの炎が目に灯ったのも急にだ、だからこそ気になる。行くぞ、嬢ちゃん」

「…はい」


口を閉じ、追跡に専念する。

神経を周りに集中すると、嫌でもこの森の『異質』を感じてしまう。

ルシーダもそうなのか、寒さに耐えるかのようにそっと自らの体を抱きしめた。




…急ごう、嫌な予感がする。




◇■◇■◇■◇時間軸・同軸◇■◇■◇■◇




「はっ…はっ…」

森をひたすらに走る。
「特訓」といってもコーチがいる訳でも無いし、コースを組んで、計画的にやってる訳でもない。
その日思いついた事を、気が済むまで。


『あらあら、大分まいちゃったみたいね。もうちょっと体力つけたほうがいいんじゃないの。あなたもベンを見習ったら?』


「…くそっ」

分かっている、こんなんじゃベンには追いつけない。
追いかけても、追いかけても、あいつはいつも笑顔で先を走っていく。


「…くそっ」


最初から、あいつはそうだった。
始めは驚きと新鮮さだった。途方も無く元気で、明るい。
何時からか、それが憧れになり、嫉妬になり、焦りになった。


『振り向くと、いつの間にかルシーダがベンと距離を詰めているのが見えた』


「…何でだよ。…何で追いつけないんだよ」

いつのまにか訓練が日課になり、俺のほとんどになった。
元々運動神経が良い方でも無い。それでも頑張って、頑張って頑張って今までやってきた。


それでも追いつけない。
元から違いすぎた。
努力では埋められない大きな差。


あいつに皆が惹かれてく。好きな人も、強さも。

あいつはただ笑顔でいるだけ。それだけなのに…追いつけない。

「はぁ…っ、はぁ…っ…はぁ…っ」


いつの間にか、大きな谷へ出た。

ほぼ垂直な崖の遥か下に、渓流が見える。
覗き込むと眩暈を起こすような、壮大な遠近感をかもし出している。
ここの眺めは好きだ、人間とかそういう枠組みを越えた、大きな物の存在を感じれるから。

息を整えながら、暫し崖に佇む。


「いっそこんくらいでかいなら、諦めも付くのにな…」


きっと実際そうなったらなったで、諦めることは無いんだろうけど。

「…ふぅ。この後はここで魔法の練習もしていくかな」

先生の眼を盗んで独学で学んでいる魔法。
まだ原理も何も分からない状態なせいか、炎を出せても放つ事も出来ないお粗末な物でしかない。

「今日は何とか飛ばしてみたいな…炎で狙える的か何か、あるかな」

少し辺りを見回して、丁度いい枝を見つけた。
折れてから時間が経ってる。いい具合に乾燥してるし、ある程度強い火をぶつければきちんと燃えるだろう。

「…よし、今日はこれを燃やすのがノルマだな… …あそこらへんに立てておくか」

今から3m程離れた場所に枝を突き立てて、それを魔法で狙う。
簡単な事に思えるが、実は一回も成功した事が無い、自分にとっては相当難しい特訓。

「…今日こそは」

少し意気込んで、枝を地面に刺そうとした瞬間――


「オオオオオオォォォォォォ―――――」


――え!?

木々の奥から、自分へ真っ直ぐ走ってくる大きな影が目に映った。


「――ぅゎっ!」

あっという間に距離を詰めてきた“それ”の突進を避けようとして、避けきれず横に弾き飛ばされる。
体を起こしながら、明るみに出たその影を視認。

「…熊?」

日中の日差しを受けながら、こちらへ振り返るそれは四足。
黒々とした剛毛、大地を踏みしめる巨大な爪、肉を引裂く牙。

それは確実に熊、と呼べるものだ。

だが―

「オオオオオォォォォォ――――!!」
「―ぇ、ぁ、…ぐっ!」

再びの突進。
起こしたばかりの体は動きがついていかず、また弾き飛ばされた。

「ゲホッ…ゲホッ…何だよ、あの眼…!?」

痛む体を何とか起こす。
振り返るその大熊の眼は、深紅。


「オオオオォォォォ!!!」
「何だってんだよ、何だってんだ!」

三度目の突進は遅く。
代わりにその巨大な腕が振り上げられる。

理性や冷静のかわりに、殺意や衝動を詰め込んだかのような、見る者を凍らせる眼。
その視線の先には、俺。


振り抜かれる爪に咄嗟に手の枝を翳すものの、一瞬でへし折られる。


「うわ!」

バランスを崩し、地面へ倒れる。

「…くそっ!」
背中の痛みを抑えて、精神を翳した片手に集中する。
今出来なきゃ、死ぬのみだ!


「―――、」
目の前には大熊。

長々と精神を鎮めている時間は無い。
荒れた呼吸のまま、神経を片手へと集中する。

魔力は現象へと変換され、この手に火の粉を孕ませる。
それを丹念に練り上げ、鍛え上げ、炎へ。そして果ては渦へ。

熱は感じる。本来なら手など燃える温度だ。
―だが燃えない。火魔は攻めでもあり、守りでもある。

火魔使い特有の感覚が手を包む。
熱のみを感じる手はどこまでも熱く。

―その昂ぶりを、まるで目の前の熊ではなく、あいつにぶつけるかのように

炎の渦を手に抱え、大きく両手を突き出す。



「喰らえ、ファイアボールっ!」

大熊の顔面に向かって放たれた炎は、

「―っ」

10cmも飛ばずに霧散した。

熊は少し驚いた様な素振りを見せたが、動きは止まることは無く。
俺に覆いかぶさるようにもう片方の爪が振り上げられ、俺の首へ振り下ろされる。



―――死ぬ?



それは今まで、感じた事の無い恐怖。


体が動かない。例えるなら筋肉や内臓、この身体を構成する全てが鉄に変わったかのような感覚。

血が体を巡るのを止めたみたいだ。顔から、指から、血という血が消えていく。

そして俺は馬鹿みたいに口をぽかんと開けたまま、俺の首に迫る爪を見つめて―


「オオオァッ!?」


―その爪が巨体ごと横へ吹っ飛んで行くのを見送った。


…!?

混乱する俺の上から、降ってくる声。

「セイル!大丈夫!?」

聞き間違える筈も無い、ずっと追いかけてきた、透き通ったあの声。

「…ベン」

―くそ。どうしてお前はいつもこういう時に現れて、助けてくれるんだよ。

「怪我はない!?」
「…ない。何でこんなところにいるんだよ、ベン」
「え?…なんだろう、予感がしたんだ。セイルが危ないって」


差し出された手を無視して、自力で立ち上がる。
大掃除の時を思い出して腹が立ったが、礼も言えない自分にも腹が立つ。

…ちぇ、面白くない


「…とりあえず、あの熊をどうにかするぞ」
「わかった、逃げきれる…かな?」
「何処にだよ。町に連れてくることになっちまうだろ」

話している間にも大熊は身を起こす。
不意の攻撃にさらに殺気立っているのか、眼の赤みが増した気がした。


「…来るぞっ!」


二人身構える正面で、赤眼の巨熊が咆哮を上げる。



◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇



―どうしよう。

セイルが危ないと思って、感じるままに走った先でセイルに襲いかかる大きな熊を見つけて。

そのままのスピードで飛び蹴りを仕掛けた所まではよかったかな。


「…来るぞっ!」


でも、その後を考えてなかった。

熊の走るスピードは凄く速いらしい。僕でも突き放す事は難しい。セイルなら尚更。
すれすれでいなしながら、何とか町に戻っても、セイルの言ったとおり熊を町に連れていく事になってしまう。


「――…おいっ!」

…どうしよう、さっきの蹴りもあまり効いてないみたいだし…

「何ぼさっとしてんだベンっ!!」

うわっ!?

突然の大声が意識を現実に引き戻す。
正面には、物凄い速度で突進してくる黒い塊。

「―っ!」

咄嗟に横に跳んで、突進を紙一重で避ける。

すぐに体を起こして、方向転換する熊の視界から逃げるように木の上へ跳び、枝につかまる。

「…あ、危なかったぁ」
「…何であれを避けられんだよ。何であんな高い所に跳べんだよ…」

木の陰に隠れたセイルが何かつぶやいている。何だろ?
熊の方は、まだ自分を探してキョロキョロして…

「…あれ?」

熊の眼。
確かに赤くて、怖い。

殺してやるって感情が、色に凝縮されたような。

…でも、微かに。でも、確かに。
怯えや恐怖が、その赤に混じってるって感じた。

真紅じゃない、悲しみも抱擁した…悲しい、深い赤。

「…セイル!」
「何だよベン、今俺が大声出したら場所バレルって!」
「…その熊、怖がってる!」

「…は!?」

ぽかんとしているセイル。僕、何か変なこと言ったかな?

「怖がってるよ、その熊!何かあったのかもしれない!」
「なんだそれ!怯えた熊ってのは突然走ってきてタックルしかけるのか!?」
「…わかんない!でもおかしいんだよこの森!」
「そんなこと知るか!…うわっ!?」

…あ。

大声で話したのが悪かったのかもしれない、
大熊がセイルの隠れていた木に突進し、木ごとなぎ倒す。

「…っ、ファイアボ…うわぁ!」
「セイルっ!」

魔法を使おうとしたのか、片手を翳したセイルを熊が容赦無く払い倒す。

「―てやぁぁぁあ!」
セイルに止めの爪を振り上げる熊の背後に、木から降りる勢いも加えたキックを放つ。
先ほどよりも力を込めて放った。気絶させるくらいは出来る筈。

―けど、それは当たればの話。


「オオオオオォォォォォォ!!!」
「うあっ!」

振り上げた爪がそのまま真後ろに振られる。
空中では咄嗟の裏拳に対応する術も無く、そのまま吹き飛ばされた。

「ベン!」

セイルが叫ぶ声。何とか顔を上げて、声の方向を見て―

「―っ、やめろぉぉぉぉおお!!」

―セイルに覆いかぶさり、今まさに爪を振り下ろさんとする大熊を見た。

セイルは片手を翳して、何かを叫ぶ。
でも生まれた炎は手を離れず、すぐに立ち消えて。



そのまま爪がセイルの喉へ食い込んだ。 




―筈だった。


「―オォ…ァァ…―」
「…え?」


その瞬間。僕とセイルが見たのは、その巨体を炎に包み、横薙ぎに吹き飛ぶ大熊の姿だった。






◇■◇■◇■◇時間軸・直前◇■◇■◇■◇




「…ッ!…見えた!」
「えっ!?」


隣を走る雑さんの叫び声で、私は意識を正面へ戻した。

大きな咆哮が、さっきから何度も聞こえる。
雑さんの予想は当たってた。

後はその場所を早く特定して、助けられれば助けに行くだけなんだけれど…


「…何処に、見えたんですか?」
「そこだ!前!500mくらい前!」
「ごひゃ…って無理ですよ!こんな木の隙間から見えません!」
「なら視認できるまで走るぞ!ついてこい!」


一気に雑さんが加速する。
…うわ、速い。本当にこの人さっきまで餓死しかけてかのかな、と疑問が浮かぶ程。


「…はっ、は、ちょっ、と、はやすぎ…」
「おい嬢ちゃん、視認出来たら魔法であの熊みたいな奴を拘束か吹き飛ばすかしてくれ。できるな?」
「え?」


走りながら、前方へ目を凝らす。
でも、木が邪魔でそれっぽいものは見えない。

もし見えたとしても…


「…あの、その相手の大きさは?」
「2…いや2.5m程度か。相当でけぇな」
「…だと、無理だと思います…私の魔法は攻撃にはあまり適してないし、相手との距離も重量もありすぎて…」
「んぁ?こんな凄い回復魔法持ってんのに攻撃魔法できねぇのか?」


隣で凄く驚いたようなリアクションをする雑さん。
そうか、魔法とあまり身近じゃない人からすれば原理はあまり分からないしね。


「ええ、私は攻撃魔法よりは回復魔法の方が得意なんです。皆さん得意、不得意な分野があるんですよ」
「ほぉう、ってことた俺も普通の魔法使いな可能性があるってことか!」
「…? 本人の潜在魔力か、外界からの魔力吸収能力があれば確かに訓練で魔法使いになる事は出来ますけど…」


雑さん、なんか魔法使いっていうよりは重戦士ですよね。
そう言おうとして、ある事に気がついた。


「―あれ?私が回復魔法使ったってどうして…?」
「おう?体に残ってる感覚があんたの気配と酷似してるからな。魔力痕跡、とでも言うんか?」
「…!?」


…まさか。
その場で使われた魔法の気配から使用者を断定するのすら難しいのに、
体に残った僅かな魔力で使用者断定なんて先生でもできるか分からない。


「…雑さん、もしかして魔法つか」
「やべぇ!」
「え!?」

「オオオオオォォォォォォ!!!」
「ぐぁっ!」


一際大きく聞こえた獣の叫び声と、ベンの声。
声の方向に目を向けて…

「―セイル!」

やっと、見つけた。

森が途切れた、断層が横たわる渓谷。
そこの開けた地。

そこで、セイルとベンと、相手をやっと見つけた。

でも、その状況は絶望的過ぎて。

もうすぐ訪れるであろう惨劇が強制的に頭の中に入り込んでくる。
セイルに馬乗りになった大熊が、その爪を頭に、首に、胸に―

「いや…」

力が入らない。
体を動かさなきゃ、走らなきゃってわかってるのに

怖い。
その恐怖を回避するために、今行動しなきゃいけないのに
その恐怖の想像に、縛られて。


「―っ、やめろぉぉぉぉおお!!」

ベンの叫び声。
それが合図のように、熊の爪が振り下ろされる。

「っ!!」

怖くて怖くて、へたり込んで目を瞑った。




「――灼けろ」

その瞬間、爪が食い込む音の代わりに聞こえてきたのは呪文。


瞼越しで伝わる強烈な光。

火傷しそうになる程の熱量。


…何よりも、信じられない程の魔力。


急激な気温変化による突風が全身を打つ。
共に熱と光が去り―


…眼を開いた先に見えたのは、森に空いた一直線の焦げ跡と、

その先で体を炎に包まれて崩れ落ちる大熊の姿。
直撃の衝撃か、その体は、四分の一も残っていないように見えた。

「…あーぁー。これ、燃費悪いんだよなぁ…当たっただけでも良しとするか」

横を向くと、頭を乱暴に掻く雑さん。
片手は正面に翳されたままで。焦げ跡は、そこから延びていた。

「…雑さん」

それはつまり。この人が。

「んぁ?」
「…もしかして、魔法使いなんですか?」
「…おう?あぁ、言ってなかったな!まぁそれっぽいのは使えるが、お前ら本職からすら俺は低レベルだろ?」

…あんなものを放っておいて、この人は何を言っているんだろう。

「今の火魔法は、凄いレベルが高―」

この自覚無しの一流魔法使いに一言文句でもいってやろうかと思って口をひらいた瞬間、


「はは、ははははははは!」


向こうから笑い声。

「お、俺の魔法すげぇ!見たかベン!」
「え、今のセイルが出した魔法なの!?」
「あったりめぇだろ!ははは、ピンチの俺すげぇ!」

「…」
「うぁははは、威勢のいい少年だな」

…あの馬鹿。
自分の魔法の実力位分かってる筈でしょ!

「とりあえずセイルを殴…じゃない合流しましょう」
「…だな。 …うぉっ、と」

不自然に気の抜けた声。
疑問に思って振り向くと。

「ざ、雑さん!?」

木に背を預けたまま、地面へずり落ちる彼の姿があった。

「…かーっ、調子乗りすぎた…悪い嬢ちゃん、後頼んだわ…」

そう言って彼は崩れ落ちて。

「ちょ、ちょっと!…ベ、ベン!セイル!」

「…あれ!?どうしてルシーダが?」
「ルシーダいたのか!見たか今の魔法!?すげぇだろ俺!…あいたっ! な、何すんだよルシーダ!」
「馬鹿な勘違いしてないで手伝って!休憩所までこの人運ばないと!」

「…ざつ、さんだっけ?どうしてここに?」
「痛てて…なぁ、見ただろルシーダ!?あんな魔法ベンには使えな―」

「うるっさい!いいから脚もって!」

疑問符を浮かべるベンと勘違いしたままのセイルを何とか手伝わせて、彼を連れて森を離れる。


あの熊を見たのは、ほんの一瞬だったけれど。

…すごく、すごく嫌な感じがした。





眼を閉じて祈る。

――幸せな日常が、どうか崩れませんように。



◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇


時刻は夜。

森と街の大掃除も無事終わり。

休憩所として利用された広場の中心には巨大なキャンプファイヤーが開かれ、皆その周りで夕食を摂っている。
わしがいるのはその外れ。

まったく、当初はそんな予定など無かったんじゃがな。


「行くぞぉ!うおらぁ!」
キャンプファイヤー付近からの大声と同時に、ぱぁっと周囲が明るくなる。

上部のみを膨張させた炎柱はまるで血桜。

花火の如く輝き、適度な熱気と共に上へと立ち昇る。


のちに残るは、子供達の喝采と大きな笑い声。

「…ふむ、壮観だな、テッツ」
「全くじゃ。そうそう見れるものでもないのう」
「…なぁ、俺もあっち行っていい?」

隣のブレオバンズに相槌を打った後、

「駄目じゃい!お前はここで反省じゃ、セイル!」

後ろのセイルを睨みつける。

「…何だよー、何で俺だけこんな正座なんかしなきゃいけないんだよー」
「あたりまえじゃ! 危険な場所へ勝手に進入しおって。今日が初めてでもないようじゃしの」

「まぁまぁテッツ。大きな怪我が無かっただけで良しとしよう」
「お主は甘いわい、バンズ。ベンはいい動きしとったというのに、こやつが足
を引っ張りおってからに!」
「…!」
「ぬ?文句でもあるのか、セイル」
「―っ、ベン、ベンってうるせぇんだよ!」

ほう。普段から感情的になりやすい、とは聞いておったがここまでとは。
大した努力もせずに己の無力を棚に上げるなんて百年早いわい。

正座の状態から立ち上がった瞬間、テッツはセイルの足を軽くたたいた。

「―っぐ!」

膝のツボに直撃を受けたセイルは激しい苦痛に見舞われ、いともたやすく膝を崩してし
まった。

「こらテッツ、そう簡単に力を使ってはいけない」
「ふん、カタイこというな。力なんてたいしたもんでない。足が痺れとるだけじゃ」

地面に蹲るセイルを睨む。

「う、お……く、くそっ!」

「おうおう、どうした?近接戦闘の訓練か?」


と、そこにやってきたのは先程まで歓声を受けていた青年。

「どっかで聞いたことある声が聞こえたんでな、ちぃと覗きに来たんだが…うおっと」

ぬっ。
わしが青年に気を取られている隙に、セイルが逃げ出した。
青年にぶつかるのも気にせずそのまま彼が来た方向、広場へ走っていく。

「こわっぱめ、逃がすか!」
「テッツ、そこまでだ。…全く、いつまでたっても体育会系だな、君は」
「…セイル、だっけか。あの坊主」

「うむ、セイル。またの名を根性無しじゃ」
「…テッツ。 雑くん、だったね。キャンプファイヤーの方はもういいのかい?」

「あぁ、さっきので一段落だ。調子のってパフォーマンスしてるとまた倒れちまうからな、うぁははは!」
「お主、この町には倒れた状態でしか入ったことが無いしのぉ」
「二回も倒れて、食事をとっただけで回復とは驚きだよ、全く」
「いやー、あれは死ぬかと思ったぜ、考えなしにあんな魔法使うもんじゃねぇな!」

どっかり胡坐を組んで座りこんだ青年、雑に習うようにわし等も座る。
丘からはまだ燻っているキャンプファイヤー、その少し脇の給仕のテント達が展望できる。

――あの後は大変じゃった。
遠視で確認はしていたものの、短期間に二度も倒れるわ、あんな魔法を一瞬で放つわ、
色々な意味でわし等を雑は騒がせてくれた。

なんとか意識を取り戻した彼の口が最初に発したのは「飯」という簡潔な単語のみで。
三人分程の食事を一瞬で平らげた後、「お礼にキャンプファイヤーをやるぜ!」等と突拍子も無いことを言い出して。

まぁ実際夜も皆で広場で食事を摂る予定だったため、食事に彩りを与えてくれることにはなった。
キャンプファイヤーの炎が打ちあがり、花火のように炸裂するのは子供たちにも盛況のようだったし、わし等にとっても壮観じゃった。


「あの火炎魔法、本当に君は魔術学院の生徒じゃないのかい?」

「ソフィニアのだろ?俺は鍛治修行5年、移動鍛治を5年やってるんだ。
 魔術学院どころか学校にすら通ったことねぇよ」

「ふむ、わしもこやつは見たことも聞いたことも無いわい。
 じゃがあの魔法は学院に通わず習得できるようなものでもないぞ?」

「おう?そりゃ生まれが生まれだから、物心つく前からああいう魔法を使ってきたが…
 あんたらにゃ朝飯前なんじゃないのか?」

「…ふむ、ああいうふうにポンと出せるものでは無いな。
 魔力触媒、魔力の増幅効果を持つ道具のことだがね、があれば話は別だが、あの熱量と加速、規模をもった火球は多少の印と言霊が必要だ」

「そうじゃな。物心つく前から生きていくために、ということでその魔法に最良の世界認識が馴染んだのかもしれん。
 わし等のように魔法の既成理念に捕らわれると認識に手間のかかる領域もあるんでの」

「…んぁ?」

「知識が邪魔するせいで、我々には見えないものを君は見ることが出来て、
 それがその火炎魔法を使うのに一番必要な部分だ、ということさ」

「成程なぁ。学べば学ぶほど、っていうわけでもないのか」

「だからといって学ばなければ、使えない。
 到るところに存在する“1”を、“100”にするのも知識であれば、“0”にするのも知識なんだ」

「例えば物体の運動規則を、原理から学ぶ。
 そのことにより“100”になる“1”もあれば、“0”になる“1”もあるということじゃ」

「ほう、魔法の属性に得手不得手があったりするのはそれか?」

「そうじゃの。液体を見た時に“凍る”イメージ、“蒸発する”イメージ、“帯電する”イメージ等々。
 どれが先に浮かぶかは人それぞれじゃ」

「それがその人物の世界認識になるんだ。液体は簡単に凍るものだと認識している人物は、
 物を凍らせることはたやすくても物を熱することは難しい。イメージに、認識に無理があるからな」

「そもそもわし等は魔力を使って“わし等自身の世界”に呼びかけるんじゃからの、
 そこで起こる奇跡は術者の認識以上には成りえない、というわけじゃ」

「なるほどねぇ」

「まぁ簡単に言えば君の世界認識は非常に燃えやすい、ということだね。
 何か昔、小さな頃に大きな炎を見たりしたのかな?」

「大きな炎ねぇ。あれを“見た”っていうならそうなのかもな。
 ガキの頃にな、そりゃぁでっけぇ花火を見た」

「ほぅ、風流じゃのう。おそらくはそれが理由じゃの。
 …おっと、随分と長く話しておったの。雑よ、引き止めてすまんかったな」

「何言ってんだ、俺から話しかけたんだから長話上等だ、うぁはは!
 さて、ちと気になる奴がいるんで疑問だけ伝えてまた広場に戻るぜ」

くぁー、と伸びをして立ち上がる雑。
背中を向けているせいで、その表情は見えない。

「疑問、かい?」

「あんた等昼間の光景、遠くから見てたんだよな?」

「おぉ、ルシーダの言っておった魔力感知か。それも珍しい。確かに見ていたよ」

「ま、これは生まれつきだけどな。
 でだ。俺が魔法使う直前、あのピアス坊主、ベンだっけか。
 あいつのピアスがな…一瞬、光ったように見えなかったか?」

「ふむ、ベン君のピアスか。
 光っていたかは分からないが…あれは私達には触れない、特殊な代物なんだ」

「特殊…それは“この世のものでは無い”とかか?」

「…いや、そこまでは分からない、ただ彼にしか触れないし、
 壊せない。確かに…“魔力ならざる魔力”めいたものは持っている、かもしない」

「…あれは、よくない」

「…ん?」

「あれはよくない。理由は分かんねぇ。あのピアスのせいじゃないかもしんねぇ。
 だが、“あのピアスがあった世界”はヤバい。…俺にはそれしかわかんねぇ」


「面白いことを言うのう。ぬしはそう感じるか」

「……すまない。私の専門外だ」


「…なんて言えばいいんかな、あいつが、ベンがどうにかなる事、“どうにかならざるをえない状況”がヤバい。
 あの熊といいこの森といい、その状況が近づいて来てるような気がしてならない。
 それだけ、覚えておいてくれ」

「随分と真剣じゃの。…わしにはよく分からんわい」

「うぁはは、俺にもよくわからん!全くやっかいな感覚だぜ!
 まぁ心の隅にでも留めといてくれ!じゃぁな、お二人さん!」



背を向けたまま、雑は手を振って広場のテントへ歩いて行く。


「…不思議な青年じゃの」
「全くだな。…彼の意見なんだが、実は一理ある意見だと思う。
 このことは内密にしていてほしい」
「ほう? わかった、そうしよう」

「まぁ、彼に口止めしない限り意味が無いがね」
「全くじゃ」


うんうんと頷く、わし等の背後には月。
確かな魔力を持って、わし等に降り注ぐ。





◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇




祭りとまではいかない。
だが大半が学生だ、こうして集まった状態で夜を迎えたという事実だけで皆のテンションが上がっているのだろう、テント内の喧騒は激しい。

「…いねぇな、あっちか?」

先程までテッツとブレオバンズ(だっけか)に絞られてた少年を探す。
たぶんあのピアス坊主と回復女と一緒にいると思うんだが――

「あの…」
「ピアス坊主もいねぇな。あいつは結構目立つんだがなぁ。つかこの学校ピアスOKなのか」


「…あの…」
「まさか家に帰ったとかはねぇよなぁ。…うーむ、どうしたもんか」



「…あの!」
「うおぅ!?」


急に背後から声をかけられて、驚いて振り返る。
身長は150程度だろうか。俺の肩までしかない少女がそこに立っていた。

首筋までのショートヘアー。
化粧っ気は無いが顔立ちは非常に整っていて、何というか

「…うん、後輩キャラだな」
「…?」

等と妙に納得してしまった。
まぁいい。

「どうした嬢ちゃん、花火のアンコールか?」
「…いえ、あの…セイル先輩を探してるんです、よね?」

「お、良く分かったな嬢ちゃん」
「セイル先輩なら、そっちの給仕テントの裏に行きました。…ベン先輩と、ルシーダ先輩もそこだと思います」

少女が指差した方向は、外れにある、さっきまでスープを配っていたテントである。
既に給仕は終わり、片付けを待つのみのテントは閑散としている。

「助かったぜ、ありがとうな嬢ちゃん」
「…あの…セイル先輩を、叱るんですか?」

不意に、少女が不安そうに切り出した。
両手は後ろに組まれ、目線は下に落ちている。

「…さっきまで、テッツ先生達に叱られてたみたいなので…セイル先輩、逃げたのかなって…」

なんて言っていいか分からず、とりあえず沈黙。
少女は話を続ける。

「セイル先輩、毎日、がんばってるんです。普通の人なら休むところでも、頑張ってるんです。
 …ただ、不器用なだけで。確かにベン先輩は凄いです。でも…っ」

そこまで勢い良く言って、急に口を紡いだ。
ここから少女の顔は見えないが、耳は真っ赤だった。

「…でも?」
「…でも、セイル先輩、頑張ってるんです。見てて止めたくなるくらいで、でも止めても止まってくれなくて。
 転んでも追いつけなくても、頑張ってるんです。…だから、だからセイル先輩を叱らないであげてください…!」

そう言って、頭を下げる少女。
―なんというか、他人の目が痛い。

「頭なんか下げる必要ねぇよ、俺は叱りに来たんじゃない。むしろ激励さ、あいつとは近いものを感じたんでな」
「本当、ですか…?」

こちらを見上げる少女の顔がぱぁっと明るくなる。
あぁもう、かわいいなこいつ。

「本当本当。じゃぁ俺は行くぜ。ありがとうな…っと、名前を聞いていいか?」
「あ、私はリアです!リア・ラードリットです!」

喜びの余韻か、張り切って答える少女に後ろ手で手を振る。

「分かった。有難うな、セイル大好きリア!」
「…な…っ!?」

背中を向けてても顔を真っ赤にしているのが分かる。
他のテントの奴等が“そうそう”とでも言いたそうに頷いている。

…あれか。
本人には気付かれないが本人以外は皆知ってるってやつか。

あいつの場所も分かったしいい話も聞けた、休憩テントに向かって正解っつーところだな。
リアちゃんに感謝だ。

しかし、あんな一途な子に好かれるなんざ最高じゃねぇか。
うらやましいぜセイル、お兄さんちょっと嫉妬しちゃったぜ。

等と仄かな殺気を抱きながら給仕テントに向かう。
風に乗って、段々と声が聞こえてくる。

「―!」
「―っ、…―!」

語尾が荒い、言い争いっぽいな。
両方共、最近聞いた声。リアちゃん情報は的中か。

テントの裏にゆっくりと移動する。
言い争いを止めるというよりは傍観するための移動速度である。

「何で俺が怒られてベンが怒られないんだよ!」
「本当に分かんないのあんた!?馬鹿じゃないの?」
「何だと!」

「まぁまぁ、セイル、落ち着いて。ルシーダも、ね?」


セイルとルシーダが言い争い、ベンが仲介ってところか。
セイルがこぶしを握り締め、ルシーダが眉間にしわを寄せて難詰する。
ベンは笑顔で、冷や汗をかきながらひたすら場の空気を和めようとつとめていた。


「弱いのよあんた!ベンの足もとにも及ばないくせに同じように目立とうとするからあんな事になるんでしょ!?」
「なっ…」
「ベンだけだったらあんな熊一瞬よ!あんたが邪魔したのよ、セイル!」
「ルシーダ!そういう事は言っちゃ駄目だよ、セイルも気にしないで」

「てめぇ、ルシーダ!俺がどれだけ頑張って毎日」
「毎日何?毎日特訓とやらをやってこの様でしょ!?
 本当に無駄な人生送ってきたのね、あなた!いっそあの時熊に襲われて死んじゃえば良かったのよ!」
「―っ、黙って食われてたまるかよ!ルシーダこそ食われちまえばいいんだ、この金持ちのボン
ボンが!
 ちょっとばかし才能があるからっていい気になるな!」



過熱した思考は後を考えない。
自分の発言の重さに気づいた時は、大抵は後の祭りだ。
お互いがお互いに暴言を吐いた後に残るのは、更なる険悪のみ。


「行こうベン、今度はセイルなんかが邪魔に入らない場所に!」
「あ、ちょっと待って、セイル!」

ルシーダとベンは暗がりの中へと歩いていく。
後姿へ向けて、茶化すようなセイルの言葉が聞こえる。

「ああ、どうぞどうぞ。お好きなように。熱いねぇ~、お二人さん」


俺は未だ傍観。

ルシーダに引っ張られていくベン。そして一人残るセイル。


「よぅ少年、喧嘩両成敗、のつもりだったが相手がいねぇな」
「…うるせぇよ。あんたもどっか行け」

俺を見た途端、こちらに背を向けた状態で胡坐をかく少年。
顔は隠せても涙声は隠せないか。

こちらも少年に背を向けて座る。お互い背中合わせ。

「…」
「…」

こうなったら根性比べだ。
元々俺も何のためにこいつを探したのか忘れかけてるんで、ひたすらに黙る。

向こうの喧騒をしばらく聞いていると、セイルが耐えかねたように呟いた。


「…死んじゃえば良かったのよ、は無いよな…」
「無駄な人生も相当痛快な台詞だぜ。全否定だ全否定、うぁはははは」
「笑い事じゃないっつの」


一気に空気が弛緩する。
何だ、リアちゃんの言うとおり、元はいい奴じゃねぇか。


「あれかセイル、お前はルシーダちゃんが好きなのか」
「なっ…好きじゃねぇよ!何であんな奴好きに!」
「おうおう、好きなやつに死んじゃえなんて言われたらきついよなー」
「…話勝手にすすめんなよ」

「しかも相手は違う相手とラブラブかぁー。くーっ、青春だなぁ!」
「…あんた、良く見てるな」

セイルが呆れた様な返答を返す。
おお、結構適当だったんだが大当たりか。

「若いうちの苦労は買ってでもしろってことさ。大丈夫大丈夫、お前にゃぴったりの相手がいる!」
「痛っ、頭突きすんなよ!」

リアちゃんを思い浮かべて、その羨ましさの赴くままに頭を思いっきり後ろにのけぞらせる。
後頭部にたんこぶを作ったセイルの文句を心地よく聞き流しながら、月を眺める。

「…なぁ、雑…って名前だったよな」
「おう」

「あの魔法…あんたのだったんだな」
「おう」

「凄いな。…俺なんかとは、比べ物にならない」
「…それには同意できねぇな」

「?」
「例えば、だ。蟻が林檎を運ぶ事と、人間が林檎運ぶ事。どっちが凄いと思う?」

「そりゃ蟻だろう」
「そうだ。10の力の奴が20の仕事をするのと、100の力の奴が20の仕事するのを、俺は同じとは思わない。
 簡単に言えば、各々が自分の出来ることをすればそれは“凄い”事だと思うぜ、俺は」

「…それはあくまでその“行動”においてだろ?
 …“結果”から見ればどっちも変わらない」

「うぁはは、そういうことだ!」
「…?」

「結果から見れば、変わらないんだ。過程がどうあれ事実はそこに事実として存在する。
 例えば、蟻が人間10人を酷使して林檎100個運んでもそれは蟻の“結果”になる」
「確かに、な。貴族とかはそんな感じだよな」

「そう。お前は“貴族”になれ」
「は?」

「才能がないなら、ありとあらゆるものを使え。自身が最強じゃなくていい。最強の道具を使え」
「…何だそれ。どこにあるんだよ、そんなもの」
「うぁはは、俺に分かったら苦労しねぇ!後はお前が考えることだ!」
「なっ!話振るだけ振ってそれかよ!」

セイルの突っ込みに対して、一つの答えが浮かんだ。
そう、俺がやろうとしてた事。

「セイル、お前の好きな武器は何だ?」
「武器?」
「あぁ。鉄鎚、刀、諸刃剣、騎士剣、戦槍、フレイル、弓、攻城砲、何でもいい」

「…そうだな、剣かな。でっかいやつ」
「でっかい剣か、また定番だなお前は」
「悪かったな定番で。何でもいいっていったじゃんか」

「うぁはは、そうだな!…そういえばお前、頑張ってるんだってな?」
「頑張ってるって何だよ」
「さぁ、俺にもしらねぇ。“目撃者”からの証言さ。"毎日毎日頑張ってる"としてか知らん」

「…頑張ってどうにかなるわけじゃ無いのかもしれないけどな。
 もう特訓が俺にとって日常になったから。日常をこなすだけなんだから、頑張ってるとは言わない
 …つか、誰かに見られてたのかよ。…見られたくないんだけどな」

「のくせ、その頑張りを認めてほしいってか?」
「なっ」

「そりゃわがままってもんだぜ、兄ちゃん!」
「う、うるせぇ!」

「うぁははは、まぁあれだ!頑張ってる奴にはご褒美がいつか、ってな!
 夢を見るのも大事だぜ!」

何やら後ろで叫んでるセイルを笑いながら無視。
もう一度月を見上げ――


「―…!」


気付いてしまった。

「…雑?どうし」
「伏せろぉぉぉおぉぉおぉぉぉぉっ!!」

感じた恐怖の命ずるままに叫ぶ。

それはまるで月から落ちてきたかのように。
圧倒的な加速をもって、キャンプファイヤーの組み木に衝突した。


舞い上がる木くず、地面の土、火の粉。

生徒が叫ぶ中、俺は気を失いそうな眩暈に耐えるので必死だった。

「おい雑!今の音は、おい、どうしたんだよ!…くそっ、何がどうなってんだ!」

セイルの声がまるで遠くに聞こえる。


―危険―

その二文字だけが、俺の頭の中を占領していた。






月が輝く。
その光はまさに“狂気”


幕はゆっくりと開く。

さてお立会い、ここに語るは世にも奇妙な異星の創造物。

守護の加護を受けし少年と、混血の魔鍛冶が織るのは喜劇か悲劇か。


ご覧あれ、彼方の星より来たりし“破壊者”の圧倒的な暴力―






     ∬―――滅びの巨人―――∬




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2007/10/29 20:21 | Comments(0) | TrackBack() | ○滅びの巨人

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