PC:アウフタクト ヒュー ジェンソン
NPC:バトン ルイス
Stage: → ヴァルカン周辺
------------------------------------------------------------------------------
柔らかい小春日和の昼下がり。窓の外には緑が生い茂り、草花が太陽を歓迎するかのようにそよ風に揺られている。
そんな窓からの風景を、ジェンソンはベッドから上半身を起こしたなりの祖母と眺めていた。
「綺麗な空ね~」
「寒くないか?ばあちゃん」
開け放たれた窓からは、優しい風が吹いてくる。
「大丈夫よ……。ジェンソン。あなたは優しい子ね。そのままのあなたでいてね。……おじいさんのこと、頼んだわ。寂しがり屋な人だから、時々顔を見せてやって」
病床に伏したまま、シエル・ハイドフェルドは孫の手を握り、弱々しく微笑んだ。
「何言ってんだよ!ばあちゃん。あんな頑固ジジイの面倒なんてご免だぜ?ばあちゃん以外に面倒見れるヤツなんていねーって。だから、早く元気になってくれよ」
ジェンソンは熱くなってきた目頭を必死に堪え、その手を握り返した。
「そうね~……私しかいないわね。なんとか頑張らなくちゃね……。おじいさんがね。空を飛ぶ船を作ってくれるっていうの。私が空を飛びたいって言ったら張り切っちゃって。その船を見るまでは死ねないわね……」
「空飛ぶ船~!?すげぇな!じいちゃんなら絶対作ってくれるって!完成するのが楽しみだな」
それは、シエルを元気付かせるための言葉だった。だが、もしかすると自分自身に言い聞かせていたのかもしれない。いつも優しく見守ってくれた祖母は、必ず元気になると……そう、信じていたかったのかもしれない。
空を飛ぶ船――翔空艇"シエル・ブル号"――を、その目で見ることなく、彼女は永遠の眠りについた……。その寝顔はとても安らかで、春の日差しのように温かなものだった。
++++++++++++++++++++
「ちょっと兄さんっ。あの馬鹿まだ帰ってこないの!?」
「あぁ……また小型艇でどっかを飛び回ってるよ。きっと」
そうなると、当分帰ってこないからなぁ~……。
苦笑しながら、副操縦士は読んでいる本に視線を戻した。
「はぁ??!また?何時だと思ってんのよ??」
「……日付があと2分45秒で変る時刻……」
彼は側に置いてある腕時計を確認し、ぼそっと質問に答えた。
「本船の整備を人任せにして遊びに行ってるなんて……絶対に許さない!!」
えんじ色のつなぎを着て怒りまくっている整備士を見て、女は怖い……と彼は素直に思った。
此処は、ヴァルカンから少し離れた森深くの湖畔である。彼らが乗船、操縦する"シエル・ブル号"はヴァルカン郊外にあるネルソン工房へ向かう途中、定期整備を行うため着陸していた。ついでなので今晩はここで一夜を過ごし、明日向かおうと、彼女が探している馬鹿の一声で決定した。
湖畔に着陸した船体は、今は闇夜に紛れて黒く静かに佇んでいる。明日の朝になれば陽に照らされ、銀色に鈍く光る船体を現してくれることだろう。
先程から食堂に隣接しているリビングでランタンを灯し、読書に耽っているのはバトン・ロズベルグ。26歳の副操縦士である。そのバトンの周りを怒りの表情でウロウロとしているのはルイス・ロズベルグ。整備士兼コックで、こちらは24歳。藤色の目をした2人の短い黒髪の兄と、深緋色のロングヘアーの妹は、それぞれの時間を過ごしながら、ボスの帰りを待っているのだった。
「……もうっ。私シャワー浴びてくる。帰ってきたら一発ぶん殴ってやる!」
「いってらっしゃい」
クスクスと笑いながら妹の後ろ姿をバトンは見送った。
何だかんだ文句を言っているが、心配をしているのである。バトンは彼女の不器用さが我が妹ながら可愛いなぁ~と、考えながら読書に意識を戻した。
翔空の盗賊団"ボヌールの翼"。世界中でその名を知らない者は……幾多数多にものぼる。要は自称と変わらない、彼らのボスが勝手に命名した名前である。
結成当時、"ボヌール"とはどんな意味があるのか聞いたところ、"幸せ"という意味で、どっかの異国の言葉だと教えられた。
楽しいことが大好きな彼らしいネーミングセンスだと、即納得をしたバトンだった。
そもそも、なぜ盗賊団なのか?それも聞いてみた。彼曰く。
『トレジャーハンターってかっこいいし、盗賊団っていう響きが好き。それにさー、せっかくじいちゃんにコレもらったんだ。世界中飛び回らなきゃ損だろ?』
だそうだ。もちろんコレとは空を飛ぶ船のことである。
そんな彼の思い付きとしか思えない行動に付き合っている自分たちも自分たちだが……。
幼い頃から一緒に居るからなのかそれは自然なことで、何より彼ら自身も楽しんでいた。
「それにしても……ちょっと遅すぎるな」
本から目を離し、再び腕時計を確認する。時刻は深夜12時半を過ぎたところだ。シャワーを浴びているルイスはいつもことなので気にしていない。
問題は小型艇に乗ったまま帰ってこない、一番の年長者であり奔放者、ルイスが言うところの馬鹿だ。
「ジェンソン。ルイスが出てくるまでに帰ってこないと後が怖いぞ……」
バトンはひとり溜息をつき、雨が降る窓の外を見たのだった。
一方、その頃。ジェンソン・ハイドフェルドは自分が馬鹿呼ばわりされていることを知る由もなく、森林周辺の上空を自由気ままに小型艇に乗り飛んでいた。
小型艇は自動操縦に設定されており、トロトロと灰色の空を進んでいる。
「雨止まないなー。なぁ、カマラード。そろそろ帰るか」
隣の助手席に座り、丸くなっている白い狼に声をかける。
狼はチラッとジェンソンを一瞥し、勝手にしろと言わんばかりに尻尾をタンタンと2回座席に軽く叩きつけ、再び丸まって寝に入った。
「冷たいなー。もう少し優しくしてよ」
と、狼を相手に本気で拗ねる。
カマラードはそんな主人を気にすることもなく、無視して寝ることに決めたようだ。
くるくるとした天パの金髪に深紅の目。右肩には天使の翼の刺青をしている。この刺青と同じデザインのロゴが"シエル・ブル号"と2機の小型艇の船体に描かれている。
子供っぽい表情が残る顔立ちは祖父のネルソン・ハイドフェルド譲りだろう。その祖父の血を受けつぎ、ジェンソンの父親もくるくるパーマである。今はヴァルカンで、お堅い公務員として働いている。
盗賊団を結成し、こうやって世界を飛び回ることに父親は猛反対した。「真っ当な人生を送れ。お前のじいさんの様になるな」それが父親の口癖だった。
小さい頃から祖父が大好きだったジェンソンは、当然反発し、あと2年で三十路になろうというこの年になっても、ほとんど口を利いていない。会えば喧嘩になるのが目に見えているので、帰る時は父親が働いている時間に帰るようにしている。いつか父親とも決着をつけなければ……ジェンソンも将来のことを考えていないわけではなかった。
「うーん。ヤバい俺も眠くなってた……ふあぁぁ~ぁ」
大きな欠伸をしたその時……。
ガコンッ!!
衝撃音とともに軽く船体が揺れた。
「なんだぁ??」
音がした右船体にある窓に顔を近づけ様子を見る。
「鳥でもぶつかったな~。……あぁ!?」
右船体の鉄板の一部が衝撃でネジがゆるみグラグラとして今にも落ちそうだ。
「って言うか、落ちたっっ!!」
鉄板は真っ逆さまに落下し夜の闇へ消えていく。落ちた先は肉眼では確認できなかった。
「やべ~っっ。逃げよ……」
自動操縦から手動操縦に切り変わった小型艇は猛スピードで、森林の方角へ飛んでいったのだった。
その勢いで、落下した隣の鉄板も同じようにどこかに落下したことに、ジェンソンは気付いていなかった。
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NPC:バトン ルイス
Stage: → ヴァルカン周辺
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柔らかい小春日和の昼下がり。窓の外には緑が生い茂り、草花が太陽を歓迎するかのようにそよ風に揺られている。
そんな窓からの風景を、ジェンソンはベッドから上半身を起こしたなりの祖母と眺めていた。
「綺麗な空ね~」
「寒くないか?ばあちゃん」
開け放たれた窓からは、優しい風が吹いてくる。
「大丈夫よ……。ジェンソン。あなたは優しい子ね。そのままのあなたでいてね。……おじいさんのこと、頼んだわ。寂しがり屋な人だから、時々顔を見せてやって」
病床に伏したまま、シエル・ハイドフェルドは孫の手を握り、弱々しく微笑んだ。
「何言ってんだよ!ばあちゃん。あんな頑固ジジイの面倒なんてご免だぜ?ばあちゃん以外に面倒見れるヤツなんていねーって。だから、早く元気になってくれよ」
ジェンソンは熱くなってきた目頭を必死に堪え、その手を握り返した。
「そうね~……私しかいないわね。なんとか頑張らなくちゃね……。おじいさんがね。空を飛ぶ船を作ってくれるっていうの。私が空を飛びたいって言ったら張り切っちゃって。その船を見るまでは死ねないわね……」
「空飛ぶ船~!?すげぇな!じいちゃんなら絶対作ってくれるって!完成するのが楽しみだな」
それは、シエルを元気付かせるための言葉だった。だが、もしかすると自分自身に言い聞かせていたのかもしれない。いつも優しく見守ってくれた祖母は、必ず元気になると……そう、信じていたかったのかもしれない。
空を飛ぶ船――翔空艇"シエル・ブル号"――を、その目で見ることなく、彼女は永遠の眠りについた……。その寝顔はとても安らかで、春の日差しのように温かなものだった。
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「ちょっと兄さんっ。あの馬鹿まだ帰ってこないの!?」
「あぁ……また小型艇でどっかを飛び回ってるよ。きっと」
そうなると、当分帰ってこないからなぁ~……。
苦笑しながら、副操縦士は読んでいる本に視線を戻した。
「はぁ??!また?何時だと思ってんのよ??」
「……日付があと2分45秒で変る時刻……」
彼は側に置いてある腕時計を確認し、ぼそっと質問に答えた。
「本船の整備を人任せにして遊びに行ってるなんて……絶対に許さない!!」
えんじ色のつなぎを着て怒りまくっている整備士を見て、女は怖い……と彼は素直に思った。
此処は、ヴァルカンから少し離れた森深くの湖畔である。彼らが乗船、操縦する"シエル・ブル号"はヴァルカン郊外にあるネルソン工房へ向かう途中、定期整備を行うため着陸していた。ついでなので今晩はここで一夜を過ごし、明日向かおうと、彼女が探している馬鹿の一声で決定した。
湖畔に着陸した船体は、今は闇夜に紛れて黒く静かに佇んでいる。明日の朝になれば陽に照らされ、銀色に鈍く光る船体を現してくれることだろう。
先程から食堂に隣接しているリビングでランタンを灯し、読書に耽っているのはバトン・ロズベルグ。26歳の副操縦士である。そのバトンの周りを怒りの表情でウロウロとしているのはルイス・ロズベルグ。整備士兼コックで、こちらは24歳。藤色の目をした2人の短い黒髪の兄と、深緋色のロングヘアーの妹は、それぞれの時間を過ごしながら、ボスの帰りを待っているのだった。
「……もうっ。私シャワー浴びてくる。帰ってきたら一発ぶん殴ってやる!」
「いってらっしゃい」
クスクスと笑いながら妹の後ろ姿をバトンは見送った。
何だかんだ文句を言っているが、心配をしているのである。バトンは彼女の不器用さが我が妹ながら可愛いなぁ~と、考えながら読書に意識を戻した。
翔空の盗賊団"ボヌールの翼"。世界中でその名を知らない者は……幾多数多にものぼる。要は自称と変わらない、彼らのボスが勝手に命名した名前である。
結成当時、"ボヌール"とはどんな意味があるのか聞いたところ、"幸せ"という意味で、どっかの異国の言葉だと教えられた。
楽しいことが大好きな彼らしいネーミングセンスだと、即納得をしたバトンだった。
そもそも、なぜ盗賊団なのか?それも聞いてみた。彼曰く。
『トレジャーハンターってかっこいいし、盗賊団っていう響きが好き。それにさー、せっかくじいちゃんにコレもらったんだ。世界中飛び回らなきゃ損だろ?』
だそうだ。もちろんコレとは空を飛ぶ船のことである。
そんな彼の思い付きとしか思えない行動に付き合っている自分たちも自分たちだが……。
幼い頃から一緒に居るからなのかそれは自然なことで、何より彼ら自身も楽しんでいた。
「それにしても……ちょっと遅すぎるな」
本から目を離し、再び腕時計を確認する。時刻は深夜12時半を過ぎたところだ。シャワーを浴びているルイスはいつもことなので気にしていない。
問題は小型艇に乗ったまま帰ってこない、一番の年長者であり奔放者、ルイスが言うところの馬鹿だ。
「ジェンソン。ルイスが出てくるまでに帰ってこないと後が怖いぞ……」
バトンはひとり溜息をつき、雨が降る窓の外を見たのだった。
一方、その頃。ジェンソン・ハイドフェルドは自分が馬鹿呼ばわりされていることを知る由もなく、森林周辺の上空を自由気ままに小型艇に乗り飛んでいた。
小型艇は自動操縦に設定されており、トロトロと灰色の空を進んでいる。
「雨止まないなー。なぁ、カマラード。そろそろ帰るか」
隣の助手席に座り、丸くなっている白い狼に声をかける。
狼はチラッとジェンソンを一瞥し、勝手にしろと言わんばかりに尻尾をタンタンと2回座席に軽く叩きつけ、再び丸まって寝に入った。
「冷たいなー。もう少し優しくしてよ」
と、狼を相手に本気で拗ねる。
カマラードはそんな主人を気にすることもなく、無視して寝ることに決めたようだ。
くるくるとした天パの金髪に深紅の目。右肩には天使の翼の刺青をしている。この刺青と同じデザインのロゴが"シエル・ブル号"と2機の小型艇の船体に描かれている。
子供っぽい表情が残る顔立ちは祖父のネルソン・ハイドフェルド譲りだろう。その祖父の血を受けつぎ、ジェンソンの父親もくるくるパーマである。今はヴァルカンで、お堅い公務員として働いている。
盗賊団を結成し、こうやって世界を飛び回ることに父親は猛反対した。「真っ当な人生を送れ。お前のじいさんの様になるな」それが父親の口癖だった。
小さい頃から祖父が大好きだったジェンソンは、当然反発し、あと2年で三十路になろうというこの年になっても、ほとんど口を利いていない。会えば喧嘩になるのが目に見えているので、帰る時は父親が働いている時間に帰るようにしている。いつか父親とも決着をつけなければ……ジェンソンも将来のことを考えていないわけではなかった。
「うーん。ヤバい俺も眠くなってた……ふあぁぁ~ぁ」
大きな欠伸をしたその時……。
ガコンッ!!
衝撃音とともに軽く船体が揺れた。
「なんだぁ??」
音がした右船体にある窓に顔を近づけ様子を見る。
「鳥でもぶつかったな~。……あぁ!?」
右船体の鉄板の一部が衝撃でネジがゆるみグラグラとして今にも落ちそうだ。
「って言うか、落ちたっっ!!」
鉄板は真っ逆さまに落下し夜の闇へ消えていく。落ちた先は肉眼では確認できなかった。
「やべ~っっ。逃げよ……」
自動操縦から手動操縦に切り変わった小型艇は猛スピードで、森林の方角へ飛んでいったのだった。
その勢いで、落下した隣の鉄板も同じようにどこかに落下したことに、ジェンソンは気付いていなかった。
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キャスト:マシュー リウッツィ
NPC:ジラルド
場所:コールベル/エランド公園
――――――――――――――――
すてきな夕餉
パンにスープ 肉に魚
知らないお酒は赤い色
どんな食べ方だってかまわない
みんなおなじ姿でたいらげた
あぁなんてすてきな夕餉!
少女の縄跳び歌とともに、タンッタンッ!と乾いた縄の音がする。
年は7,8歳くらいだろうか。どこの街でも見かけるひっそりとした裏路地で、少女は俯きながら縄跳びを跳んでいる。その表情は決して明るいと言えるものではなかった。
少女以外に人影はなく、縄跳び歌と縄の音だけが辺りに空しく響いていた。
……どうしてあんなこと言っちゃったんだろ……。
タンッタンッ!
お母さんすごく悲しそうな顔してたな……。
タンッタンッ!
謝らなきゃ……。
タンッタンッ!
『なんで私には魔法が使えないの?どうして?なんで私をこんな風に生んだの!?……全部お母さんのせいよ!!』
……あぁ……どうしてあんなこと……。
「どうしたの?何か悲しいことでもあった?」
「……!?」
当然、前方から声がした。驚いて顔を上げると、そこには自分と同じ年くらいの少女が立っていた。
「ねぇ。私も一緒に縄跳びしたいな」
少女はニコッと笑い、こちらに近づいてくる。
「う、うん。いいよ」
再び、縄跳び歌を歌い出し、縄跳びを跳び始めた。今度は2人で……。
++++++++++++++++++++
あのコの名前なんだっけ?……思い出せない……。
真っ新な空の元、公園の芝生の上で横になり、リウッツィはまどろみの中にいた。
リウッツィ・ピッツォニア。28歳。現在、地味に結婚相手募集中の彼女は、ビクトリア商店街の弁当屋で買ったデラックス弁当を完食し、腰までスリットが入ったチャイナドレス姿のまま、上に何も掛けることもせず、お昼寝を楽しんでいるところだった。
そんな彼女の頭上にある茂みの中で、雑草を食べながらうつらうつらしている猫が一匹。シャム猫の様な容姿をしているが、毛の色はアイボリーとワインレッドという少し変わった配色をしている。
陽だまりの中、体内に入った毛玉処理をするため雑草を食べていたところ、リウッツィと同じく眠くなってしまったらしい。
もう少しで熟睡の深淵に誘われようとしたその時。
「ぎゃん!」
不幸なことに、何かが頭上から落下し直撃したのだった。
「ん?ジュンちゃんも、ぎゃん!って鳴くことがあるんだねー」
「何馬鹿なこと言ってるんですか!?俺じゃありませんよ!明らかにマシューさんの手からすっぽ抜けたやつが何かに当たったんでしょうがっ」
……うるさいわね~……何?
リウッツィの頭上からバタバタと足音が聞こえる。それと同時に、「シャーッ!」とか「フーッ!」と威嚇する声も。
「ほう。どうやら猫ちゃんに当たったみたいよ。ジュンちゃん」
「他人事みたいに言わないでください……。どうすんですか?この猫相当怒ってますよ」
猫は未だに怒りが収まらないのか、威嚇し続けている。
「……ガット!うるさいって言ってるでしょう!?どうしていつも邪魔するのよ!!」
人がせっかく昼寝してるのに!っと勢いよく起き上がり、更に文句を言おうとしたが、茂みの向こうに見知らぬ男2人いるのに気付き、はたっと動きを止める。
眼下で男たちを威嚇している猫の側には縄が転がっていた。
「あら。こんにちは」
立ち上がって、乱れていた服装を簡単に整え、見知らぬ相手にあいさつをする。
「きれいなお姉さんじゃの~」
「ふふっ。ありがとう。あなたも綺麗な顔立ちをしてるじゃない。モテ顔さんね」
アッシュローズっぽい髪色をし、黒い目の眼鏡をかけた男の言葉に笑顔で礼を言った。角度によっては濃い紫色が入ってるように男の目は映る。
「あ。はじめまして。この子あなたの猫ですか?すみません……この人の不注意でこの子にこれを当ててしまって」
そう言って、金髪の青年が縄を拾い、頭を下げた。
「あぁ。そうだったんですか。あまり気にしないで。そんなことで死ぬわけじゃないから。ほら。この通りピンピンしてるでしょ」
尻尾をビンビンに逆立て、未だに興奮している猫を抱きあげリウッツィは言った。
「それに、この子女好きだからあまり男性には懐かないのよ」
「触らせてくれそうにないの~」
「がんばったら触れるかもしれないわね。きっと傷だらけになると思うけど」
「そうか……残念。変わった毛並みをしているから興味があるんじゃが」
男は顎を擦りながら、猫をまじまじと見つめていた。
「そうね。普通の猫じゃあないわね。焔猫(ほむらねこ)って知ってるかしら?年齢不詳の猫又よ」
「焔猫?」
青年がキョトンとした顔でこちらを向いた。
「火属性の魔法が使える猫よ。変わってるでしょう?」
猫を宥めるように頭を撫でてやる。段々落ち着いてきたのか、リウッツィの腕の中で満足そうに目を細めている。
「聞いたことはあるが、見るのは初めてじゃ。……お姉さんはもしかしてこの猫ちゃんの契約者かの?」
男はリウッツィの目の色を見て気付いたのだろう。彼女の右目は猫の目と同じ紅色をしていた。
「よくご存じねー。その通りよ」
ニコッと男に微笑む。
「でも、そんなに簡単に契約者になれないとも聞く。お姉さんは凄い人なんじゃな~」
子供みたいに目をキラキラさせ、男は感心していた。
なんだか、不思議な人ね……。自然と人を惹きつける力がある人みたい。
会ってまだほんの少ししか経っていないが、眼鏡をかけた男にそんな印象を受けた。
「それがね~……話を聞いたらびっくりする……あ!ガットどこ行くの??」
ピンッと耳を立ち上げ、紅色の目をまん丸くした猫は直後、脱兎の如くリウッツィの腕から逃げ出し、公園の噴水へと走って行った。
また、タイプの女の子でも見つけたわね……。
「ちょっとごめんなさいね!」
男性2人に断わりを入れ、リウッツィは溜息交じりで猫を追い、足早にその場を後にする。
「にゃ~~~ん♪♪」
噴水前まで行くと、猫が誰かの足にすり寄って猫撫で声をあげていた。
「こらっ!ガット!何がにゃ~~~んよ!私にはそんな声出したこともないでしょ??」
問題はそこなのだろうか?という疑問はこの際棚に上げる。
「ごめんなさい。びっくりしたでしょう?」
済まなそうな表情をしながら、リウッツィは言ったのだった。
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NPC:ジラルド
場所:コールベル/エランド公園
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すてきな夕餉
パンにスープ 肉に魚
知らないお酒は赤い色
どんな食べ方だってかまわない
みんなおなじ姿でたいらげた
あぁなんてすてきな夕餉!
少女の縄跳び歌とともに、タンッタンッ!と乾いた縄の音がする。
年は7,8歳くらいだろうか。どこの街でも見かけるひっそりとした裏路地で、少女は俯きながら縄跳びを跳んでいる。その表情は決して明るいと言えるものではなかった。
少女以外に人影はなく、縄跳び歌と縄の音だけが辺りに空しく響いていた。
……どうしてあんなこと言っちゃったんだろ……。
タンッタンッ!
お母さんすごく悲しそうな顔してたな……。
タンッタンッ!
謝らなきゃ……。
タンッタンッ!
『なんで私には魔法が使えないの?どうして?なんで私をこんな風に生んだの!?……全部お母さんのせいよ!!』
……あぁ……どうしてあんなこと……。
「どうしたの?何か悲しいことでもあった?」
「……!?」
当然、前方から声がした。驚いて顔を上げると、そこには自分と同じ年くらいの少女が立っていた。
「ねぇ。私も一緒に縄跳びしたいな」
少女はニコッと笑い、こちらに近づいてくる。
「う、うん。いいよ」
再び、縄跳び歌を歌い出し、縄跳びを跳び始めた。今度は2人で……。
++++++++++++++++++++
あのコの名前なんだっけ?……思い出せない……。
真っ新な空の元、公園の芝生の上で横になり、リウッツィはまどろみの中にいた。
リウッツィ・ピッツォニア。28歳。現在、地味に結婚相手募集中の彼女は、ビクトリア商店街の弁当屋で買ったデラックス弁当を完食し、腰までスリットが入ったチャイナドレス姿のまま、上に何も掛けることもせず、お昼寝を楽しんでいるところだった。
そんな彼女の頭上にある茂みの中で、雑草を食べながらうつらうつらしている猫が一匹。シャム猫の様な容姿をしているが、毛の色はアイボリーとワインレッドという少し変わった配色をしている。
陽だまりの中、体内に入った毛玉処理をするため雑草を食べていたところ、リウッツィと同じく眠くなってしまったらしい。
もう少しで熟睡の深淵に誘われようとしたその時。
「ぎゃん!」
不幸なことに、何かが頭上から落下し直撃したのだった。
「ん?ジュンちゃんも、ぎゃん!って鳴くことがあるんだねー」
「何馬鹿なこと言ってるんですか!?俺じゃありませんよ!明らかにマシューさんの手からすっぽ抜けたやつが何かに当たったんでしょうがっ」
……うるさいわね~……何?
リウッツィの頭上からバタバタと足音が聞こえる。それと同時に、「シャーッ!」とか「フーッ!」と威嚇する声も。
「ほう。どうやら猫ちゃんに当たったみたいよ。ジュンちゃん」
「他人事みたいに言わないでください……。どうすんですか?この猫相当怒ってますよ」
猫は未だに怒りが収まらないのか、威嚇し続けている。
「……ガット!うるさいって言ってるでしょう!?どうしていつも邪魔するのよ!!」
人がせっかく昼寝してるのに!っと勢いよく起き上がり、更に文句を言おうとしたが、茂みの向こうに見知らぬ男2人いるのに気付き、はたっと動きを止める。
眼下で男たちを威嚇している猫の側には縄が転がっていた。
「あら。こんにちは」
立ち上がって、乱れていた服装を簡単に整え、見知らぬ相手にあいさつをする。
「きれいなお姉さんじゃの~」
「ふふっ。ありがとう。あなたも綺麗な顔立ちをしてるじゃない。モテ顔さんね」
アッシュローズっぽい髪色をし、黒い目の眼鏡をかけた男の言葉に笑顔で礼を言った。角度によっては濃い紫色が入ってるように男の目は映る。
「あ。はじめまして。この子あなたの猫ですか?すみません……この人の不注意でこの子にこれを当ててしまって」
そう言って、金髪の青年が縄を拾い、頭を下げた。
「あぁ。そうだったんですか。あまり気にしないで。そんなことで死ぬわけじゃないから。ほら。この通りピンピンしてるでしょ」
尻尾をビンビンに逆立て、未だに興奮している猫を抱きあげリウッツィは言った。
「それに、この子女好きだからあまり男性には懐かないのよ」
「触らせてくれそうにないの~」
「がんばったら触れるかもしれないわね。きっと傷だらけになると思うけど」
「そうか……残念。変わった毛並みをしているから興味があるんじゃが」
男は顎を擦りながら、猫をまじまじと見つめていた。
「そうね。普通の猫じゃあないわね。焔猫(ほむらねこ)って知ってるかしら?年齢不詳の猫又よ」
「焔猫?」
青年がキョトンとした顔でこちらを向いた。
「火属性の魔法が使える猫よ。変わってるでしょう?」
猫を宥めるように頭を撫でてやる。段々落ち着いてきたのか、リウッツィの腕の中で満足そうに目を細めている。
「聞いたことはあるが、見るのは初めてじゃ。……お姉さんはもしかしてこの猫ちゃんの契約者かの?」
男はリウッツィの目の色を見て気付いたのだろう。彼女の右目は猫の目と同じ紅色をしていた。
「よくご存じねー。その通りよ」
ニコッと男に微笑む。
「でも、そんなに簡単に契約者になれないとも聞く。お姉さんは凄い人なんじゃな~」
子供みたいに目をキラキラさせ、男は感心していた。
なんだか、不思議な人ね……。自然と人を惹きつける力がある人みたい。
会ってまだほんの少ししか経っていないが、眼鏡をかけた男にそんな印象を受けた。
「それがね~……話を聞いたらびっくりする……あ!ガットどこ行くの??」
ピンッと耳を立ち上げ、紅色の目をまん丸くした猫は直後、脱兎の如くリウッツィの腕から逃げ出し、公園の噴水へと走って行った。
また、タイプの女の子でも見つけたわね……。
「ちょっとごめんなさいね!」
男性2人に断わりを入れ、リウッツィは溜息交じりで猫を追い、足早にその場を後にする。
「にゃ~~~ん♪♪」
噴水前まで行くと、猫が誰かの足にすり寄って猫撫で声をあげていた。
「こらっ!ガット!何がにゃ~~~んよ!私にはそんな声出したこともないでしょ??」
問題はそこなのだろうか?という疑問はこの際棚に上げる。
「ごめんなさい。びっくりしたでしょう?」
済まなそうな表情をしながら、リウッツィは言ったのだった。
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