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2024/05/21 16:29 |
AAA -06. "A"ll that glitters is not gold./フェドート(小林悠輝)
PartyMember:
フェドート・クライ イヴァン・ルシャヴナ ヴァージニア・ランバート
Stage:
ガルドゼンド王国南部・フォイクテンベルグ
Turn:
フェドート・クライ(03)
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「で、どうするのよ」

 ヴァージニアが苛立たしげに言った。舌打ち混じりのその声には、意図的ともそう
でないとも取れる成熟した女の甘さが含まれていた。純粋な叱咤に他ならないとわか
っていても、フェドートは笑わずにいられなかった。彼女が文句を絶やさぬまま、し
かし焼き魚を二匹、綺麗に坦らげた後であるとなれば尚更に。

 じろり、と睨まれる。どうも視線に刺々しすぎるものが含まれている気がする。
 気性の違いは仕方のないことだ。多少、言動を改めてみたとしても、きっとこの美
女は態度を変えないだろう。いい女とはそういうものだ。

 彼女が作った石の囲いの中で、火はまだ燃えている。

「べっつにー。仕事熱心だなーって」

「違う、あんたたちが不真面目すぎるの」

 ヴァージニアはフェドートとイヴァンを順に指差した。
 微塵も動じないイヴァンの背後で、川は平和に流れている。暢気な気分になるには
格好の日和りに違いない。

 空は高く、冬の初めの空気は、湖に浮かぶ薄氷のように怜悧だ。
 その表面に触れれば割れるかも知れないが、それは人間の役目ではない。

 イヴァンが無言のまま立ち上がった。彼が片付けた魚の数は、彼が獲った量の半分
以上だったが、くちくなった腹のせいで動きがもたつくということはまったくないら
しかった。彼は肩越しに川を一瞥した。未練がましく見えたのは気のせいか。大食漢
だという噂は聞いていたが。

 仕方なく、フェドートも立つ。ぱたぱたと服についた砂を払い、周囲を見渡す。

「お腹いっぱいになると眠くなるよねー、フィルくん」

「生憎あっしは眠らねェもんで。
 でも、わかりますぜぇ? 旦那だってたらふく坦らげたあとは――」

 影は軽く答えた。今を最も楽しんでいるのは彼かも知れない。負けてはいられない。
 笑いながら手近の石を拾い上げ、検分してから放り出す。ツィツィリエに教えられ
た印は見つからなかった。

 不毛な作業を見ていた影が、口を挟んだ。

「呪い師でも連れてきますかい?」

「どこから?」

 ヴァージニアが訊いた。
 影は「さア」と肩を竦めて、質問を流した。

 フェドートはその間に二人を離れて、再び川へと近づいた。
 魔法使いに頼み込み、石に姿を変えて――姿以外も、石になったのだろうか?

「たとえば、このあたり一面に油を撒いて、火を放ったら」

 と、言ってみる。

「石だけは燃え残るだろーね」

 もちろん、怯えた返答はない。
 聞こえていないのか、己も燃えないと信じているのか。

 きららかなせせらぎの音。フェドートは流れの傍らの、湿り気を帯びた丸石の砂利
にしゃがみこんだ。手を伸ばすと、水は冷たい。生身の指先が濡れる。そのせいでは
なく、深みでまた魚が身をくねらせる。

 その行方を目で追って、下流が幾分深くなっていそうだということに気がついた。
倒壊した塔の屋上付近にへし折られた木々や、建築物のまさに骸である大小さまざま
な石片が、年月に傷を磨耗させられながらも、まだ判断がつく程度に残っている。

「あっち、行こうよ」

 無断で離れると怒られるということは学習していたので、指差して、意見を出して
みる。ヴァージニアは形のよい眉をわずかに上げた。フェドートの口から出る言葉の
八割を戯言か妄言の類として受け取ることに決めてでもいるのかも知れない。

 イヴァンはどうでもよさそうだった。蒼い輪郭は、おなじ色をした空に帰るべきか
と思案しているようにも見えた。もちろん、違うだろう。

「なぜ?」

 ヴァージニアは控えめに聞いていた。
 フェドートは、「だって、そのへん飽きたもん」と簡潔に答えた。

 下流から、ぱしゃん、と水音がした。
 三人が視線を向けると、川面から突き出していた大きな岩が、蠢いた。

「恋人が、石に姿を……ねぇ」

 その呟きが聞こえたものとは思えないが、まるで応じるように上体を起こしたのは、
岩そっくりの表皮に覆われ、がばと豪快に開いた口に刃物のような牙を並べた巨大な
生き物だった。

「……どう思う?」

「アリかも知れねえなぁ」

「なら、今までの単純作業は何だったのよ」

 検分のための沈黙のあと、三人は行動を起こした。


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2009/02/22 06:35 | Comments(0) | TrackBack() | ○AAA

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