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2025/03/10 06:35 |
16.君の瞳に感謝を/ラルク(マリムラ)
PC:(マックス) ラルク ジルヴァ
NPC:キヨ
場所:シカラグァ連合王国・直轄領
―――――――――――――――――――――――――――

「どうします? 泊るところとか」

 なんとなくラルクの宿についてくるつもりのジルヴァに声をかける。
 ケチがついたから帰りたくない、という話は食事の時にこぼれ聞いた。
 だったら早めに宿を探して送って行った方がいい。
 表通りはそこそこ灯りがあるが、あまり女性が出歩く時間ではない。

「だからついていくっていったろ!」
「いや、だからねジルヴァさん……」
「いちいちうるさいよ!」

 叩くことに飽きたのか、杖で背中をゴツゴツ突いてくる。これはこれで痛い。
 ひょこひょこ奇妙な足取りで宿へ戻ると、何故か入口で娘が仁王立ちしていた。

「あれ? キヨちゃん厨房は?」
「ギルダーさん遅い! 警邏さんに引きずられて帰ってくるんじゃないかと思って心配したのに!」
「え、でも食事に行くって言ったよね……?」
「さっきまでふらふらだったくせに! 早く帰るのが当然でしょ!」
「ふぇ……あの、ごめっぐほぁ」

 つい癖で謝ろうとして、隣に回ったジルヴァの不意打ちに対応しきれなかった。
 杖でみぞおちに重い一撃をくれたのだ。

「ごほっがほっ……うぇっふ」
「ちょいとあんた、店員だろ。客に向かってなんだいその態度は!」
「おばあちゃん……おばあちゃんの扱いの方が酷いよ……」
「あたしゃいいんだよ! この男も文句言ってないだろ!」

 文句を言うどころか声になりません。

「だいたい相手に謝らせて優位に立とうって姿勢が気に食わないね」
「あら失礼な言い分ですこと! 初めて見るかもしれないけどこの人はいつもこうなの!」
「そうかい、いつも追い込んで勝った気でいるのかい」
「そんなおばあちゃんこそ態度を改めたら!?」
「あたしゃ正直に見たままを言ってるだけだろ」
「だってだって、謝ってだなんて、そんなの一回も言ってないじゃない……」
「いいや、あんたは誘導してた。自覚があるから尻すぼみなんだろうが」

 とりあえず体をくの字に折って呻いている人間がここにいます。
 どうかどうか思い出してください。

「あらあらあら、表で何やってるのキヨちゃん」
「おかみさん!」
「ほら、事情はよくわからないけど、早く中にお入んなさい」
「ぐぉっほぐぉっほ……ごはっ」
「はいはい、あんたも入って! で、おばあちゃんは?」

 しゃらん。
 ジルヴァは杖をつきなおし、おかみに声をかけた。

「部屋は空いてるかい?」



 ひとまずなんとか呼吸も落ち着き、部屋でボロ雑巾のように横たわっていると、声かけもなくふすまが開き、ジルヴァが顔をのぞかせた。いつも自分が使う部屋の隣は何故か大抵空き部屋なので、おそらく部屋が取れたんだろう。

「ほんっとにあんたはだらしがないねえ」
「ははは、お見舞いに来てくれたんですか?」
「あんたのその頭の中はお花畑かい……」

 ジルヴァが呆れるというのも珍しいような気がする。ここで殴打じゃないのはやっぱり見舞いに来てくれたんだと都合よく解釈すし、顔が勝手に笑う。

「気持ちが悪いったらありゃしない」
「へへー。ジルヴァさん実はいい人ですよねー」
「なんじゃそりゃ。実はって全然褒めてるように聞こえやしないよ」
「えー、じゃあかわいいです」

「……はあ!?」

 予想外の素っ頓狂な声に思わず耳を塞ぐ。
 きゃんきゃん騒いでいた時より耳の奥に響いた。

「そういうこと簡単に言うから、さっきみたいな子がつけあがるんだよ!」
「えー、キヨちゃんには言ったことないですってー」
「にはってなんだい! やっぱり他に心当たりがあるんだろ!
 あーやだやだこんな男、バチをあててやりたいねっ」

 そういう意味合いではなかったんだけどごめんなさいを言ってはいけなくて、ええと……

「えーと、あれ? ……そういえば言うの初めてです」
「あーそうかい、歯が浮くようなセリフが言えるとは驚きだねっ」
「そうですねえ、僕もちょっと驚いてます」

 別に特別な言葉を用意した覚えもないんだけど。

「はあ、馬鹿の相手をしに来たのが馬鹿だったよ。暇つぶしにもなりゃしない」
「ははは、すみま……じゃなくて、えーと、ありがとうございましたー」

 謝罪ではなく感謝を。
 育ての親を思い出して、目の前のジルヴァと似ても似つかぬことに苦笑した。

「人を見て笑うとは失礼なやつだね!」
「うわ、ちょっと待って! ジルヴァさん、杖で刺さないで!!」

 結局何箇所か打ち身を作り、飽きたジルヴァが部屋に戻ったころには通りの声もまばらになっていた。

「あれ、コレ……」

 落としたのか忘れたのか、それとも届けてくれたのか。
 見つけたのは紙袋に申し訳程度に入った冷えた焼き栗。
 一つとってぱきんと殻を割る。ころんと転がり出た栗はしわくちゃで茶色くて。
 口に放り込んだラルクの顔が自然と緩んだ。

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2010/02/06 03:31 | Comments(0) | TrackBack() | ○君の瞳

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